Digital Marketing Forum 講演記事

オムニチャネル&販売員2.0時代の
データ活用術

株式会社パル プロモーション推進部 堀田覚氏

『CIAOPANIC』や『BARAK』といったアパレルブランドから『russet』『IACUCCI』などのバッグ専業ブランド、300円で買える雑貨で人気の『3COINS』まで、バラエティ豊かな小売事業を展開する株式会社パル。

同社ではブランドそれぞれに店舗とEC を持ち、販売員を前面に打ち出した独自のマーケティング手法で成果をあげている。

今回はプロモーションおよびWeb、EC、CRM、オムニチャネル全般の責任者として活躍中の堀田覚氏より、同社でのオムニチャネル戦略やデータ分析に関する考え方、ならびにカスタマーリングスの活用法について語っていただいた。

データテクノロジーを活用し、
顧客体験価値の最大化を。

オムニチャネルをはじめとするマーケティング戦略の話をする前に、まずパルグループについて簡単にご紹介させていただきます。私は2014年よりパルに入社したのですが、当社の方針・風土として特徴的なのが、自主性・自発性を重んじるボトムアップの経営を行なっていることです。たとえば新しいブランドが立ち上がる時でもトップダウンで意思決定された施策が上から降りてくるようなことはなく、現場発でまずは小さくスタート。利益が見込めるところまで伸びてきたら資本を投下して大きく育てるスタイルです。

そしてもうひとつ特徴的なのが、成果主義が徹底されている会社である、ということ。評価がすべて成果に紐付いており、店舗予算の達成・未達成で賞与にも大きな差がでます。裁量は大きいので任せてもらえますが、結果が良ければインセンティブが手に入れられるし、そうでなければ評価も低いままです。もともと大阪で創業された会社なんですが、日本にありがちな横並びの発想は一切存在しない組織風土で運営されています。

現在、約60のブランドを展開しており、学生さんや20代を狙ったものからアラフォー世代をターゲティングしたものまで幅広い年齢層にリーチしています。また郊外向けの廉価ブランドやバッグ専業、300円均一の雑貨までバラエティに富んだ商品構成で事業を展開。それぞれが独立採算制を敷いています。店舗数は約900店舗。過去にはショップ数と売上が正比例でしたが近年は横ばい、あるいは店舗は減っても売上は右肩上がりとなっているのが特徴的ですね。

ECについては全体の売上の約16%といったところで、今年はもう少し伸びて20%を超える見通しです。全社としてもECは強化の方向で動いていて、特に力をいれているのが自社サイト運営ですね。ショッピングモールでの売上が大きいのは事実なのですが、伸長率でいえば自社サイトの『PALCLOSET』に軍配が上がります。

組織体制の面では私が所属するプロモーション推進部の中にコミュニケーションデザイン室とWeb事業推進室があり、グループ全体を横串で見ています。ブランドごとに店舗とECがあるので、そのすべてに関わる形になります。もともとWeb事業推進室はEC推進のみの担当でWebデザインとECブランド支援のみを手掛けていたのですが、システムやインフラ、マーケティングも含めたオムニチャネルまで統合して取り組まないと良質なアウトプットはできない、という考えから幅広い領域を手掛けるようになりました。

オムニチャネル推進の中にあるデータベースマーケティングというチームがカスタマーリングスをメインで活用しています。データベースマーケティングチームのミッションはデータテクノロジーを活用してCX(カスタマーエクスペリエンス)、つまり顧客体験価値を高めるということにあります。このミッションを分解すると、やることは2つ。ひとつは新規顧客開拓と、もうひとつはLTV(ライフタイムバリュー・顧客生涯価値)向上です。

新規獲得はECや各種テクノロジーを使って顧客を開拓する方法と、店舗スタッフを起用し、SNSをベースに展開していくやり方があります。一方、LTV向上はWebやメール、アプリ、DM、さらにLINEなどをどう組み合わせると一番いい顧客体験になるか、というトライアルですね。大きく捉えると、カスタマージャーニーの創出ということになります。SNSで発信して、店舗やECにつなぎ、体験を循環させながら総合的に長期利用していただく。この一連の流れをシームレスにつくることが、パル流オムニチャネルの完成であると考えています。

資産は“人”…個の発信で販売員2.0時代をリードする。

では、ここからは具体的な取り組みについてお話いたします。私たちが新規獲得で重んじるのは「個の発信」です。個、つまり店舗やスタッフのSNSを活性化させて、発信力を強める。そうすることでお客様をつくっていこうというものです。たとえばインスタにコーディネートをアップするとか、あるいはショップのブログを頻度高めに更新するとかですね。その結果、お客様にショップやECサイトに来ていただく。

なぜこのような取り組みを重視しているか、ということについて説明します。いま、いろいろな企業がデジタルテクノロジーをさまざまな形で活用していますよね。それを大きく三類型に分けると、1番目が業務を効率化してコストを削減すること。これは引き算の使い方といえますが、とても大事ですし、今後も必要だと思います。2番目はデジタル活用によって新たな事業を創造すること。これについては足し算の使い方といえるでしょう。そして3番目が今やっていることにドライブをかけること。いわば掛け算の使い方になります。

このうち1番目は当然やるとして、私は3番目に力を入れるのがいいんじゃないかと思うんです。いきなり新しいデジタルの施策を考える、といっても専門家でなければなかなか難しいはず。だったら掛け算の発想で、今あるものを大きくするほうがやりやすいでしょう。で、当社が有する掛け算のできる資産ってなんだろうかと探ってみると…ブランド、商品、店舗、人がありました。そこで、店舗や人を時代のプラットフォームに乗せて大きくできないかと考えたわけです。

冒頭にお話したとおり、当社はボトムアップで成果主義の風土。そういうこともあってか、非常に強い個性の持ち主が活躍していました。これを資産として使わない手はありません。それに、それまでにも個人のアカウントでフォロワーを増やすといったことを個別でやっている社員が結構いて。これは施策として最大限に伸ばせる、と確信しました。

また店舗も全国に約1000店舗あって、多種多様ですし、日本全国には名所も豊富にある。日帰り旅行でインスタ映えする画像をアップする、といった時流の中、そういうところにスポットライトを当てるのも面白いんじゃないか。いわゆる「刺さる」マニアックでローカルな情報に店舗を紐付けて発信できたら…そんな風にも考えました。

そこで4~5年前から個人のSNS発信を積極的に推奨しはじめました。お客様を見ていてもスマホが完全に浸透したと感じられるタイミングでしたね。まずはフォロワー数で表彰をスタート。ただ、表彰だけだと相対評価になってしまいます。文化として浸透させるには絶対評価にしなければ、という思いから2017年からはフォロワー数によって手当を支給。さらに今年からはコーディネート投稿からECで売れた額を算出し、インセンティブを支給する制度を整備しました。

さらにこれまで販売成績優秀者にのみ権利が与えられていた海外研修に、フォロワー上位者やSNSでのコーディネイト投稿で成果を出したスタッフも行けるようにしました。結果、個人投稿するスタッフは述べ約1000人。インスタとWEARというSNSの合計フォロワー数は330万から340万まで伸びました。個人でもフォロワー10万人なんていうスタッフも出現し、実際に店舗への来店やECでの購入につながっています。

雑多なブランド、商品を複数のシナリオで回すために。

ここで、当社のカスタマーリングス導入以前の状況について説明します。EC化は5%程度。まだまだこれから伸ばしていこう、と考えていましたがCRMの概念が社内に浸透しておらず、実店舗の顧客データがデータベースに入っていない状態でした。メールシステムこそありましたが顧客をセグメントすることもなく、いわゆる全配信ですね。CRM基盤データも存在していません。

そんな状況下でカスタマーリングス導入に向けて動くわけですが、もともとはLTVの向上が目的でした。いまちょうど3年目で全ての顧客データをひとつの箱に入れたところです。もちろん実店舗の顧客データも、です。ようやく統合したデータを見ながら一番最適なコミュニケーションのタッチポイントを試行錯誤できるようになりました。ここから目指していくのは、お客様の使いやすいように実店舗とECを使い分けていただくこと。それこそがLTVの最大化につながると思います。

マーケティングオートメーションツール(以下MAツール)って、いろいろなベンダーから出ていますよね。その中からカスタマーリングスを選んだ理由を3つ紹介しましょう。まず1つはデータの中身をちゃんと見る機能があること。そもそも当社ではデータ基盤そのものが弱かった。なのでデータを貯めてつなげる前に、まずはお客様の姿を正確に掴みたいという要望がありました。

2つ目はローカルで対応力のある会社ということ。MAツールを比較検討するとグローバルカンパニーも俎上に載ってきます。しかし当社には雑多なブランドが存在し、ひとつのシナリオで回すのが大変むずかしいだろうな、と予測できました。で、あれば国内のベンダーできめ細やかに対応していただいたほうが良いのではないかと。

そして3つ目はいろいろなことができる可能性が感じられること。正直な話、最初はややこしい印象がありました。しかしさきほども申しましたが豊富な商品ラインナップをいろいろなシナリオ組んで、ということを考えるとあまり単純化しすぎるのはよくないかも、という結論に達したのです。多少とっつきにくそうでも、あれこれできそうなほうがいい。それでカスタマーリングスを選んだというわけです。

データ分析を通して見えてきた、顧客の本当の姿。

カスタマーリングスのダッシュボードで日々見ているデータは会員数、アプリダウンロード数。そしてECと店舗それぞれの新規・既存購入客数。さらにEC起点での店舗購入者数と店舗起点のEC購入者数です。この3つを日次KPIとして追いかけています。/動きに異常値はないか、新規と既存で増えているのはどちらか、EC起点と店舗起点どちらの顧客が別チャネルでの購入に走りやすいか。細かく打ち手を見ながら、いい取り組みについては汎用化するようにしています。

あと、月次KPIは会員売上シェアとポイントの使用状況。日次でも追っているECと店舗のクロス購入データ推移。半期KPIではECと店舗それぞれの顧客状況およびブランドの買い回りデータですね。各店舗の顧客の年齢層や顧客ランク、RFMを見るようにしています。あとはブランドごとの意外な相関性があったりと、発見には事欠きません。

現時点でわかってきたのは、店舗起点のお客様が非常に多いということ。そしてECと店舗の相互購入層は、それぞれ片方のチャネルでしか購入しない層よりも点数および総額が大きくなることですね。さらにセール時期はECでの購入が増え、ポイント使用もECが多い。これらのデータから、よりお得に、便利に使うのがECで逆に認知や初回購入、LTV寄与の面では実店舗の価値が高いことがわかりました。これ、非常に重要な気づきかなと思います。

ただ、まだはじめて数年といったところですので、これらのデータの中で重要度に応じてさらに分解していけば、まだまだ新たな気づきや発見があるだろうと期待しています。

カスタマーリングスの今後の活用としては外部のSaaSとの連携で、見えてきた顧客に対して最良の体験価値を味わってもらうことですね。アプリはプラスメソッドのものを、Web接客とプライベートDMPはKARTEのものをつなぎます。ECのデータ、アプリのデータ、実店舗の情報をすべて取り込んで、リアルタイム性の強いWeb接客はKARTEで。またカゴ落ち、LINE通知などを通してお客様との小さな接点をつくっていきます。

一方カスタマーリングスは安定性と計画性の仕組みと位置づけ、顧客分析をしっかりと行ないながら次の打ち手を考えるためのツールとして活用します。長い目でお客様を考える上で欠かせない存在です。KARTEとカスタマーリングスはそれぞれやること、やりたいことが違っており、棲み分けの整理もできているので現場での矛盾はありません。

伝え方の手段としてはWeb、メールに加えてアプリ、LINE、さらには手描きDMなども活用し、よりクオリティの高いカスタマージャーニーを提供していきたいと考えています。

店舗やスタッフに武器を与えていきたい。

ここまでがカスタマーリングスの導入から現時点での活用法についてでした。最後になりましたが、今後のさらなる発展活用としてどのような施策を考えているかご紹介します。まずひとつは『店舗での活用』です。

基本的に顧客価値の最大化は店舗で行なわれるもの。SNS発信も店舗起点となっています。その店舗が今の顧客情報を知るためのダッシュボードを開発中です。さらに抽出やプッシュ機能を活用することで、セグメントされた打ち手を投下できるようになります。

ECだとどうしてもスクエアなデータになりますが、売りの現場では温もりや手触りのある情報が手に入ります。それが顧客体験価値向上には重要なんです。店舗にある大量のサンプルから有益な情報や施策が見えてきたら、それを逆にオートメーション化したほうが面白いはず。ショップのスタッフがダッシュボードを見たら、昨日のお客様がわかる。気になったところに接客メモをラベルで貼っていく。いろいろと打ち手につながる繋ぎこみをつくるなど、店舗やスタッフに「武器」を与えていきたいと考えています。

そしてもうひとつが『商品・サービスへの活用』です。ひとことでいえば、顧客を中心にビジネスを再構築する、ということ。今後、人口は減少する一方。と、いうことはマーケットもこれ以上大きくなることは期待できません。そういった社会が到来する前に、顧客と共にどうやってビジネスをつくっていくのか、が大事であると考えています。それにはカスタマーリングスで得られる顧客データをどう活かすか、が鍵を握っている。まさしく発展的な活用が求められています。

加えてアプリのダウンロード数、会員数を増やして新たなビジネスを考えること。内容についてはまだ公開できませんが、顧客データを起点としたビジネスモデルは将来的にも大きな可能性を秘めていると考えています。今後ともパルグループのオムニチャネル戦略、デジタルマーケティング施策にご注目ください。