"お客様相談室"をVOC活動で"情報発信部署"へと進化させ、
社内の意識変容を起こした貝印株式会社

貝印

サマリ:導入初期の課題とその後の成果

導入初期の課題

1.「VOC」を収集・発信・共有するために、プロジェクトの共有を行ったが、閲覧画面が固定化され見るだけのコンテンツとなっていた

2.「VOC」収集チャネルごとに管轄部署が異なり情報の一括管理ができなかったため質の高い分析ができなかった

3. VOC担当者を1名専任にしたが、定着しなかった

運用過程で行なった施策

1. VOC担当者を1名専任制からチーム制に変更し、トレーニングプランを細分化

2. オペレーター業務に『見える化エンジン』業務を取込み社内展開に参加させた

3. 閲覧者が各自の業務に役立てられるように、検索性を高めたコンテンツ作りを行った

施策後の成果

1. コールログに加えSNS収集を行うことで、VOC年齢層の平準化を図れた

2. 情報発信部署として、社員とオペレーターの意識と自覚が向上

3. いくつもの会議や製品関連のスタッフへのVOC発信により製品開発・改善へと繋がった

1. 貝印お客様相談室について

創業100年を超える老舗刃物関連メーカー、貝印株式会社。 包丁、爪切り、剃刀など、どの家庭にもひとつはある生活用品から、医療メスや特殊刃といったものまで多くのアイテムを製造している。 また、製品の海外輸出販売を行ない、積極的に貝印グループは海外でグローバルビジネスを展開している。

その中でお客様相談室では、国内のキッチン・美容用品・カミソリなどの生活用品の問い合わせ対応とそれらのVOC収集・分析を行っている。 室長の岩田氏はネットの普及で企業の戦い方が様変わりしている中、コンタクトセンター機能の使い方が企業の勝敗を左右することを予感。 また営業時代に日本を代表する小売店の直販チーム統括時、バイヤーへ製品提案等に使うデーターソース不足に悩んだ時のことを思い出し、 お客様相談室に寄せられる声が製品開発・改善に非常に役立つ資産であることを認識した。 そして同部門の重要性の捉え方が遅れ、 製品開発・改善に役立つ情報が資産として有効活用されないまま眠っていることに矛盾を感じ、 数年間エクセルを駆使して社内へVOCを商品企画・開発・品質保証部門へ発信し続けた。 コールログデータに眠っている商品開発・改善情報をレポーティングしていた実績をテコに、2016年6月『見える化エンジン』を社内展開、関連部署へコールデーターの共有を開始した。 2017年4月より商品本部に所属し、モノづくりチームの一員となって、よりVOC共有の距離が縮まってきている。

2.『見える化エンジン』の導入理由

『見える化エンジン』導入理由としてウェイトを大きく占めるのが、お客様相談室のミッションを達成するためだ。

2-1. 達成すべきミッション

お客様相談室のミッション

・情報(声)収集・蓄積・分析・発信力の強化

・商品開発・改善提案

・予兆・変化点の把握

「VOC」を情報のひとつとしてとらえ、これらのミッションを達成するためのツールとして導入された。 また会社にとってネガティブな情報も迅速にピックアップする手段としても活用し、 会議では"お客様の声"の実態やそこからくる商品の提案や改善提案を行なっている。

エンドユーザーコンタクトセンターとしてのミッション

・ネットショップ台頭による、企業の情報取得方法の変化

・エンドユーザーとの新たなコミュニケーションツールの出現

・グローバル化

これらの"時代の変化"に対応するためにも『見える化エンジン』を活用。 カスタマーの声というと、営業が販売店等に行って収集してまとめていることが多い。 しかし、ネットショップの台頭により直接カスタマーから届く声が年々増加している。そのため 情報を迅速かつ正確に可視化する役割をお客様相談室内で担わなければならない。 さらにTwitterやInstagramなどの新たなコミュニケーションツールの出現に伴い、 その中の"お客様の声"の傾向把握と同社のグローバル化にも将来的に柔軟に対応していくプロセスを整える必要があると考えた。

2-2. 良質なテキストマイニングのために

もうひとつ導入背景には、会社の重要な資産であり、分散管理している「VOC」を一括管理して良質なテキストマイニングを行ない有効活用しなければいけないという目的がある。 会社には、社員が収集してきた情報のほかに自社出荷データ・販売店POSデータといったさまざまな情報がある。 「VOC」もそれら情報の中のひとつであり、 電話やメールのほか、SNSもエンドユーザーの声としてお客様相談室では「VOC」として位置づけている。 SNSを読み込んでいくうえで、これまでお客様相談室内で培ってきた商品知識や事案への視点等の広範なノウハウがより生きて、有効・無効情報などを見極められ、 良質なテキストマイニングが行なえるようになった。

良質なテキストマイニングのために、もうひとつ新たな取組を行ったことがある。 CRM入力と見える化エンジン分析作業をオペレーターに兼任してもらうことだ。 「VOC」には、コールログなど収集チャネルによっては直接見たり、聞いたりしなければ、細かなニュアンスや背景がわかりにくい情報が存在する。 同社では、お客様相談室で問い合わせを受けている オペレーターが情報をCRMに入力すると同時に、『見える化エンジン』で分析まで行なっている。 こうすることで、テキストマイニングした結果を見て、どのようにCRMに入力すれば、見やすくテキストマイニングできるか等全体像を理解しやすくなる。 「VOC」の機微をつかむことが、情報の関連性を把握するポイントだという。

3. SNS分析への取り組み

「VOC」の中でもSNSは、お客様相談室に集まってくる声とは質の違う情報として注目しているという。 通常、お客様とマンツーマンでやりとりするコールセンターには、悩みやお困りごとなどの声が集まってくる傾向がある。 一方で、SNSには製品に対する賞賛の声やエンドユーザーが手掛けたものをインスタ映えする写真で投稿するなど ポジティブな声が多い。 そしてコールログとSNSでは、声を発信している年齢層も異なっている。コールログでは40代以上がメインユーザーだが、SNSでは20代~30代が主なユーザーだ。 これまで同社のコールログでは20代~30代の若年層の声は取りにくかった。SNS収集・分析に取り組むことで、偏っていた問い合わせ年齢層の平準化を図っていくという。

貝印事例画像

一般的に“物言わぬ客”と称されるサイレントカスタマーは、ユーザー全体数の6割にものぼる可能性がある。 社内でも、サイレントカスタマーの声が知りたいという声もあがっていた。その意見を反映させるには、SNSリスニングを取り入れる必要があった。
さらに、コールログだけではコンテンツが薄いため、SNSを取り入れることで情報量を増やし、 閲覧者の興味を引くという狙いもある。 また、SNSモニタリングを行う事で将来的に同社がSNSを活用していく布石としても、SNSの傾向把握を行うべきだと判断したという。

4.『見える化エンジン』社内展開の軌跡

ここまで同社が『見える化エンジン』を活用できるようになった背景には、社内展開におけるお客様相談室の地道な努力があった。その過程を二期に分けて紹介する。

4-1. 第一期:『見える化エンジン』のトレーニングおよびカスタマイズ

『見える化エンジン』本格稼働前に あらかじめ関連部署へアンケートを取り、VOCニーズを把握。案を絞ってからプロジェクト作成に移った。 同時にVOC専任メンバーを1名抜擢し、『見える化エンジン』のトレーニングを開始。その後、 専任メンバーを中心に閲覧者用のマニュアル本作成や操作勉強会などを実施した。

また、『見える化エンジン』のカスタマイズも行なった。同社の商品はひとつの型で色やパッケージが異なるものが多く、 ひとつひとつにJANコードが付与されている。そのまま『見える化エンジン』へインポートしてしまっては、 グラフやレポートの項目が細かすぎて膨大な数になり見難くなってしまう。そこで 要旨を決めて商品をカテゴライズしたグループマスターを作成。数万点あるアイテムを3500点ほどに絞り込み、『見える化エンジン』の中で見やすいようにした。

4-2. 第二期:『見える化エンジン』の本格稼働および社内展開

その後、『見える化エンジン』を各部署へ展開する過程でVOC専任担当者が退職。 停滞せざるを得なくなってしまった。すぐに次の専任担当者をアサインし、何とか各部署へ『見える化エンジン』を展開したが、再び退職。 そこで1名での専任体制を見直し、前記の通り VOC担当者をオペレーター数名が扱えるように展開。切磋琢磨できるようなチームづくりに変えた。

トレーニングプランも第一期で固まりきれなかった要点を見直し、再作成。 『見える化エンジン』の全体構成を把握し、学習項目を大・中・小と細分化して優先順位を割り振る。 さらに中短期の目標を設定し、ゴールを明確化した。 現在は、お客様相談室のオペレーション空き時間に分析や設定などを行なっている。 今後のことも考慮し、オペレーターの採用活動では『見える化エンジン』の操作を習得することをあらかじめ条件に盛り込むようにした。

貝印事例画像

また、第二期ではSNSのプロジェクト作成に力を入れた。 見せるだけだった画面を閲覧者の業務に合わせて操作・検索できるように変更。SNSの情報量を増やして、検索性の良いプロジェクトを投入していった。 それに伴い、 閲覧者向けのマニュアル作成や勉強会なども実施。 3拠点で開催し、講習時間は約2時間。合計7部署が受講し、参加人数は約90名にものぼった。 マニュアルには各プロジェクトとコンテンツの特徴、絞り込みや設定パネルなどのレイアウトなどの説明を掲載。 業務に合わせた使用頻度の高いコンテンツを使った例題も載せた。

4-3.日々のトライ&エラーでゴールに近づく

これらの『見える化エンジン』を社内展開していく過程には、オペレーターたちも参加。操作や分析だけでなく、実際に教えたり、情報発信をしていった。 その結果、自分のログ入力パターンを意識するようになり、テキストマイニング精度が向上。情報発信部署として内容を充実させようという意識と自覚も高まったという。

最後に社内展開していく中で、見えてきたことがある。それは 一気に頂上を目指すのではなく、日々のトライ&エラーでゴールに近づけていくのが大切だということ。 そして、テキストマイニングツールは完璧な存在ではないということ。 どうしても会議に出すためにつくったエクセル資料とテキストマイニングで出たデータ数には不一致が生じてしまう。 その不一致を踏まえて、数字の見せ方や出し方を工夫していっているという。

5. VOC推進サイクルから製品開発・改善

こうしてお客様相談室で収集・分析された情報は、さまざまなかたちで社内共有されている。まずは会議体への発信。 経営トップの会議等での報告をはじめ、開発会議や品質会議での商品・改善提案などだ。また、 『見える化エンジン』のポータルを使い、マーケティング・企画・開発・品質保証などモノづくりに関わる部署の所属長や担当者にも情報を共有。 今後は既存製品や新製品販売後の市場品質情報(市場レビューやお問い合わせ状況)、 さまざまなキャンペーン結果などのレポーティングなどマーケティング・企画方面への情報発信も行なっていきたいと考えている。

クリックで画像が大きくなります

同社では実際にVOCサイクルから実現した製品改善事例があった。巻き爪用爪切りの製造・販売だ。 それまで爪切りといえば凹型の刃が一般的だったが、「巻き爪を切りにくい」とカスタマーからのお困りの声があった。 さらに問い合わせ内容をたどっていくと、専門医から刃の形状を変えてほしいというお問い合わせも見つかった。 これらのVOCをもとに、爪切りの刃を凸型に変更。専門医からの切り方のアドバイスも参考に、巻き爪用の爪切りを発売した。 まさに自分たちがヒアリングしている内容が生かされているという達成感を感じる場面だろう。

6. VOC普及のためにやっていくこと

社内にVOCを普及させるためには、社内のニーズ調査が欠かせないだろう。 同社には、コールセンターやSNSなどを通じてお客様相談室に入ってきたクレームや意見を、 どういった思いでとらえたのか?全社員が週の出来事等を週報として投稿する掲示板がある。 岩田氏は社内のニーズを探るためにも、関連する単語で検索をかけ掲示板チェックを行なっているという。いわば社内テキストマイニングだ。 今後は、各閲覧部署の業務にあわせたコンテンツづくりも推進していきたいという。 閲覧者側の悩みとして「VOC」や『見える化エンジン』に興味があるのだが、業務に追われて使う時間がないという悩みがある。そこでまずは、 閲覧者に寄り添ったコンテンツやレポートをお客様相談室側から提供していき、『見える化エンジン』には業務に役立つ情報があると再認識させるきっかけをつくっていきたいと考えている。

7. 世界中の声を日本のヘッドクオーターへ

最後に岩田氏が、チャレンジしたい夢・やらなければならないことを語ってくれた。 現在、貝印は全体売上の50%以上がMADE IN JAPANの製品等を海外で販売するビジネスで占められ、今後も拡大していく。
そんな中で 国内外にどのくらいVOCが集まってくるのか?国内のコールデーターやSNS等から読取れる製品の市場品質情報だけでなく、 海外法人に集まるコールデーターや海外のSNS等の市場品質情報を敏感に捉え、スピーディーに日本のヘッドクオーターへフィードバックし経営層の意思決定の一つとする。 そのためにも大量のVOCを正確にテキストマイニングするスキル・腕を磨き続けなければいけないと考えている。 そして『見える化エンジン』は英語に対応している。さらに『見える化エンジン』が中華圏やアジア圏も取り込み、グローバルなテキストマイニングができるようになれば、 貝印お客様相談室が貝印グループのVOCコンタクトセンターとなることも夢ではないだろう。

岩田様