“声なき声”に耳を傾け、沿線価値の最大化を図る

小田急電鉄株式会社

小田急電鉄株式会社

IT推進部 課長

前原一人氏

サマリ:SNS分析からはじまるCRMと社内活性化

導入目的

・お客さまの声が顕在化しやすいSNSを分析し、ニーズを正しく把握かつ幅広くしたい

・週に数十万件を超えるつぶやきの中から「声なき声」をすくい上げたい

主な活用法

・SNS分析のみならずマーケティングリサーチ目的での活用で他部門にも好影響

・“瞬速リサーチ”の活用でお客さまの本音を抽出し、沿線価値の向上にも寄与

今後の展望

・見える化エンジンを起点とした社内コミュニケーションを更に推進したい

・各部門担当者のモチベーションを支える屋台骨へと育てていきたい

つぶやきの中にこそニーズがある

新宿と小田原や箱根、江の島などを結び、1日約200万人もの利用客を数える小田急電鉄。公共交通機関の使命である「安全輸送」「定時運行」を厳格に要求される同社には、当然の如くお客さま窓口が設置されている。あるいは何か問題があれば駅や乗務員などの係員に直接、意見することもできる。本来なら良いことも、そうでないことも満遍なく集まってくるように思える。しかし実際に窓口に寄せられるお客さまの声は意外なほど少なく、しかもその中身はネガティブな内容が多いという。考えてみれば当たり前のことかもしれないが、鉄道の乗客が自らの時間と労力を割いてまで係員に物申すこと自体がレアであり、さらに鉄道員の善行を報告するケースなどはないに等しいのかもしれない。

小田急電鉄株式会社 前原氏

そんな前提のもと、果たして表面化しているお客さまの声だけを拾ってサービス改善や商品企画などを行なって良いものだろうか、と疑問を抱いたのが鉄道部門をITの力でサポートするIT推進部の前原氏だ。

窓口に届くお客さまからの声でご意見やご要望はよく耳にするのですが、良い話となるとほとんどありません。その上、寄せられる件数も週に数百件程度。経営判断するサンプルの母数としては正直、物足りないと言わざるを得ません。そこで着目したのがSNSだったんです。

その中でも特に前原氏が重視しているのがTwitterだという。あくまで個人的な見解ながら、と付け加えつつTwitterの特性についてこう評価する。

SNS全盛と言われる中、Twitter、Facebook、Instagram、ブログとありますが我々が重視しているのはTwitterですね。いちばん信憑性もあり、なにより速報性が高い。たとえば小田急が遅れた、という書き込みをFacebookにするか、あるいはわざわざ写真を撮ってInstagramに投稿するか。たぶんやらないと思うんです。それよりもテキストベースでサクッとつぶやけるTwitterを使うのではないかと。鉄道という業態にはいちばんあっているSNSだと思います。

しかもTwitterの場合、誰かがデマを書けばそれを否定する投稿が重ねられる文化が根付いている。もちろん玉石混交あるが、圧倒的な件数の多さがその誤差を打ち消して余りあるという。

とにかく欲しかったのはお客さまの声なき声。声ではなくて、声なき声というところが大切で。それに耳を傾けることをはじめたかった。駅やCS窓口ではなくて、車内でボソッとつぶやく人は何を考えているのか。1日200万人いらっしゃるわけですから、何かそこにあるはずだと。表の声と裏の声を一緒にすることで、はじめて我々はお客さまの正しい姿やご意見がわかるのではないか。そんな思いからこの取り組みをスタートさせました。

声なき声は自ら取りに行くもの

そもそも前原氏がSNSに着目したのはいまから6年前。当時、某ベンダーのSNS解析ツールを試験的に導入したとのこと。しかしUIの複雑さや玄人向けのアウトプットなどが壁となり、なかなか使いこなせなかったという。

結局、複雑過ぎて自分の手には負えないということで、頓挫してしまいました。ツール自体が悪いわけではないんです。ものすごく緻密に解析できましたし、メーカーやIT系など分析を極めたい企業には最適だったと思います。しかし弊社は鉄道会社ですし、欲しかったのはお客さまの声なき声。そんなニーズとはアンマッチだったんですね。

とはいえSNSから目を逸らすわけにはいかない、と前原氏は精力的に情報収集に努める。
そんなある日、プラスアルファ・コンサルティングが開催する『SNS解析・見える化エンジンセミナー』を知り、ヒアリングを兼ねて足を運ぶことに。実はプラスアルファ・コンサルティングについては同業他社から口コミで聞いていたという。

この業界、意外と横のつながりが友好的なんですよ。同業さんと仲がよくて、見える化エンジン使っているけど、なかなかいいよ、って評判でした。さらに導入企業も多いので、これはひとつセミナーに行ってみるかと。

そんなきっかけから見える化エンジンを知ることになる前原氏だが、導入までの意思決定にはもうひとつ大きな理由があった。それはTwitterの全件データが取れることだ。

そもそも声なき声を拾おうとしているのですから、母数はすごく大事でした。表の声も、裏の声もキャッチするためには全件データはやっぱり必要不可欠なんですよね。窓口と比較したときの件数の違いはそのまま精度の差になるはずですし。表と裏をマージさせたり、比較検討することでお客さまの正しい姿が見えてくるわけですから、少ない母数では偏ったものにしかなりません。見える化エンジンでは他の同種サービスと異なりツイートデータの一定比率取得ではなく、全件取得ができることは大きな魅力でした。

以前のツールの失敗を活かしての再検討だっただけに当然UIのクオリティにもこだわった前原氏。見える化エンジンは使い始めてすぐにマスターできた、と振り返る。

まず、自分が使いたいと思っている機能はすぐに使いこなすことができました。これならいける、と実感しましたね。それ以来、狭く深く使っているので機能面での拡張ができていないのがもったいないのですが、当初掲げていた目標の『声なき声に耳を傾ける』は充分に達成できているかな、と思います。

企業がSNS分析というとついリスクマネジメントが中心なのかと思ってしまうが、同社の場合はそれだけではないという。もちろん見える化エンジンにはグラフ機能もついているので炎上検知にはもってこいだ。公共交通機関だけにしっかりとしたガバナンスがないと最悪の場合、トップが謝罪会見に、というような憂き目も想定される。そうならないような転ばぬ先の杖としての利用もあるとのこと。

ただ、決してそれだけではありませんね。もともとの目的である『声なき声に耳を傾ける』というのはこちら側から取りにいかないと手に入らないものですから、どちらかというとポジティブな使い方のほうに主軸を置いているといえるでしょう。もちろん万が一の際にガバナンスが効くことも企業としては重要ですので、ネガティブとポジティブが表裏一体になっているのはありがたいですね。

ちなみにTwitterのつぶやきをひろっていくことで得られるお客さまの『声なき声』は週に数十万件を超えるという。窓口や駅に寄せられる数百件とは桁違いに多い。それもそのはず、一日200万人の乗降客を運んでいるのだ。しかもその声の中には意外にも、良かったこともかなり含まれていた。いい情報、いい書き込みは『声なき声』に潜んでいたのだ。

つぶやきをPDCAサイクルの起点に

実際、同社における『声なき声』の活用例を聞いてみると、現業職場のモチベーションアップに直結するものであった。実は前原氏も鉄道出身であり、現業職場にいたときに痛感していたある思いが分析結果の展開の原動力となっているという。

鉄道の仕事ってあまり褒められることがないんですよね。定時運行当たり前、安全輸送で当然という世界ですから。逆に1分遅れただけで「小田急なにやってんだ」と。でも自分も鉄道OBなので、最前線で頑張っている人たちに「君たち褒められることもあるんだから」と伝えたい。そこでSNS分析で集めたテキストデータの中からいい話を集めて、現業の各職場に展開するんです。そうするとものすごく彼らのモチベーションアップにつながる。『心のこもったアナウンスでほっこりした、涙が出てきた』なんていう声が実際にあるんですよ。

ふだんめったに目にすることのない、鉄道員への褒め言葉。それを現業最前線で働く従業員たちに展開する。実際に褒められた職員のいる職場ではその職場長がまず喜んで、印刷して張り出すこともあるという。さらには朝礼で発表したり、表彰したり…こういった使い方はまさに鉄道ならでは、ではあるが他業界でも通用するのではないだろうか。

どんな天候でも、どんなお客さまがいても、毎日決められたダイヤを狂いなく動かしていくことってものすごく大変なんです。でも、その大変さをお客さまから直接褒めていただける機会はまずありません。だからこそ感謝していただけることもあるんだよ、と伝えていきたい。そのためには見える化エンジンで明確になったという事実も重要なんです。客観的にツールを使って集めている情報である、というエビデンスになりますからね。

実際に現業職場では、ある係員の取り組みが功を奏して売上が上がったり、満足度が向上したという事例も少なくない。それを起点としてPDCAサイクルを回しているという。まさにリスクモニタリングや単なるリサーチを超えた、マーケティングツールとしての活用法を実践している。

我々は小田急電鉄だけでなく、小田急グループ全体をITの基盤で支えている部署なんですね。当然、百貨店や流通、不動産などの部門とも関わりがあります。だから社内で見える化エンジンの成果を積極的に情報発信していると、弊社以外の担当者の耳にも入るわけです。気がつけばさまざまな部署が相談を持ちかけてくるようになりました。ある日「グループが運営するファッションビルのレストランフロアのリニューアル後の反響を見たい」という話が来たので、じゃ一緒に見ようと。ファッションビルなのでターゲットは若い女性だったのですが、いざ書き込みを見ると…意外にも40代男性からもあって。ありがたく嬉しい反面、販売のフォーカスに入っていない層です。おしゃれ感よりも料理そのものに惹きがあったのか?そもそもターゲット設定が間違っていた?というような疑問を持ち帰りました。これ、マーケティングという点では正解です。リニューアルの際のターゲット絞り込みは必要だったのか、という一つの“気づき”をもらえているわけですからね。

見える化エンジンならデータの分析をフェイス・トゥ・フェイスで行なえるのでブラックボックス化が防げる。思い込みや先入観を排した状態、つまり目の前でそれも解析内容によっては数分で担当者に見せることができる点も気に入っている、と前原氏は語る。さらにこの事例では見える化エンジンに具備されているTwitterの投稿内容のテキストマイニング解析から投稿者の性別や年代、居住地などのユーザプロファイルを推定し、年代別や性別ごとの発言内容を分析できる「ユーザファイル推定機能」が意外な事実をあぶり出すことに貢献。これも見える化エンジンならではのベネフィットだろう。

SNS解析+瞬速リサーチで沿線価値の向上を

さらに見える化エンジンの活用事例は社外にも及ぶ。小田急電鉄はその沿線にいくつものメジャーな観光地を擁している。そのため、それぞれの観光地を管理する団体との関係性維持も大切な仕事。鉄道は観光地へお客さまを運ぶのも大事な役割だからだ。観光団体と小田急電鉄とは定期的な会合や連絡会などを通じて常にお互いの意思疎通を図っているという。

ある団体が、その観光地のステータスは“これ”であり、シンボルでもある、と言ってきたことがありました。しかしその“これ”が弊社側としてはどうもしっくりこない。確かに団体が提唱するステータスは古くからあるもので、伝統という意味では間違いないのかもしれない。だけど、時代の感覚というか空気感からするともはやそれではなく、別のものではないかという疑念が生まれたんです。

そこで、じゃあお客さまに直接聞いてみよう、と前原氏が持ち出したのが見える化エンジンのオプションである『瞬速リサーチ』である。これも前原氏が使いこなしている機能のひとつで、膨大な費用や手間をかけずとも、短期間で不特定多数の人に向けてアンケートが取れるというもの。もともと小田急電鉄でもアンケート機能は保有していたが、対象者があらかじめ限定されていること、回答してくれる人が小田急しか知らない可能性があることなどから精度の部分に不安な要素があったという。それに比べて『瞬速リサーチ』は日本全国津々浦々の老若男女からアンケートを取ることができる。

さっそく瞬速リサーチを使ってお客さまの生の声をひろってみました。その観光地の名前を出して、イメージするキーワードを5択で、みたいなアンケートです。その結果、団体が思い描いていたキーワードはまったく選ばれませんでした。昔から受け継がれてきたステータスは、実は既にナンバーワン、オンリーワンの観光資源ではなかった、ということですよね。そこで弊社としては、こうやってお客さまの「声なき声」として違うものがあがっているわけですから、ひとつシンボルを掲げ直しましょうよ、とご提案したんです。このようにSNS分析だけでなく、イメージ調査などにも活用できる点も見える化エンジンの大きな特徴だと思います。目的に応じた使い分けが効くんですよね。

見える化エンジンというツールを間に介することで思い込みや先入観を排除し、客観的なアウトプットを得ることができた好例といえるだろう。前原氏も、もし感覚だけで団体の意見を否定していたならば単なる言い争いになっていたかもしれない、と振り返る。このケースでは古いものを活かしつつ、発想を切り替えていこうという見解で意見が一致し、その後も良好な関係が続いているという。

やはり鉄道会社ですから、単なる自社事業分野だけでなく地域の活性化も大切な要素なのです。沿線の企業、個人、団体様にご利用いただいてナンボの商売。で、ある以上、沿線価値の向上は命題になるのですが、我々だけでやるには限界があります。だからさまざまな団体や組織とのコラボレーションが必要なんです。

そのためには正しいフィードバックが必要、と前原氏は続ける。コラボする相手が地域のアイデンティティや定性的な感覚に縛られてしまっているようなとき、前述の事例のようにITの切り口で客観的なデータを持っていけば、先方にも新しい気づきを得るきっかけになるはずだ、と力強く語った。

鉄道会社におけるIT部門のホスピタリティ

社内外で見える化エンジンを活用したさまざまなソリューションを提供している前原氏。社内のグループウェアにも頻繁に見える化エンジンからのアウトプットを用いた記事を書いているという。

7000形という古い世代のロマンスカーが引退することになりまして。38年もの間みなさまに愛されたロマンスカーですから、そりゃもう、あちこちでトピックスにもなりました。ということはきっと表の声だけでなく、声なき声もいろいろあるはず、と考えました。案の定、SNSではいろいろなお客さまの想いが投稿されていた。そこで旧式ロマンスカーの引退についてソーシャルではこんな風に書かれていました、と社内のポータルにデータとともに寄稿したんです。もちろん『見える化エンジン』という固有名詞を添えて。社内にこのツールの存在を広めるのも私の仕事ですから(笑)。

まるでエバンジェリストのような活動ぶりだが、こうした投稿には数多くの社員がコメントを寄せてくれるそうだ。内容によっては社長が投稿してくれることも決して珍しくないらしい。やはり経営トップ自らが書き込んでくれると社内のコミュニケーションも自ずと活性化する。そうして知名度の上がる見える化エンジンに興味を持った各部門の担当者が今日もまた、前原氏のもとに相談に訪れるというスパイラルができつつある。

IT部門というのはお客さまに直接接することはないんですね。そんな我々ができるホスピタリティとは各部門の担当者や最前線の現業職場で働く従業員に高品質かつ速報性に富むデータを提供すること。そうすることで、その人たちがポテンシャルをフルに発揮できるようになる。結果、モチベーション高くお客さまに接してもらえる。乗務員がどういうマインドで電車に乗り込むかで、輸送品質って大きく異なるんです。そしてそれは駅係員や他の職場でも一緒。どのような部門であれ、現業職場ではワクワクした気分で仕事に臨んでほしい。それを影で支えるためにも『見える化エンジンでいい結果が出てるでしょ』と背中を押してあげること。多少のネガティブな声に負けずにがんばろうよ、と言い続けていきたいんです。

そう語る前原氏からは現業職場への深い愛を感じずにはいられなかった。今後はさらに見える化エンジンを単なるSNS分析ツールではなく、小田急グループ各部門担当者たちのマインドを支える屋台骨に育てていきたいという。また瞬速リサーチにしてもアンケート集計で終わるのではなく、いかに結果に面白みを付与することができるか。そして各職場のみんながワクワクして働ける裏付けをつくれるかにチャレンジすると意気込む。前原氏と見える化エンジンのタッグが走るレールは、遥か彼方、小田急グループの未来へと続いているようだ。