生成AIで「人事評価のばらつき」解消に挑むオプテージ、3000名の社員1人ひとりに寄り添う人事を目指して

課題:人事評価、生成AI

株式会社オプテージ
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    業種 IT

    従業員数 2,972名

生成AIの普及に伴い、人事領域でもその活用が急速に広がっている。定型業務の自動化にとどまらず、近年は人材育成やマネジメントといった“人の判断”が求められる領域にも応用が進み、株式会社オプテージは、上司・部下の多くが悩む「目標設定」と「評価フィードバック」という人事制度の根幹に生成AIを導入した。同社ではどのように実践的に活用しているのか。その背景と導入のプロセスについて、同社 総務室 人事労務部 HR企画チームの田村氏と市川氏、同プロジェクトに伴走した株式会社プラスアルファ・コンサルティング(以下、PAC)の水取氏に話を聞いた。

目次:

3つの組織が統合 異なる文化からシナジーを生むための評価制度

まずは、オプテージが人事評価制度に生成AIを導入する以前、どのような課題を抱えていたのかを見ていこう。

オプテージは、関西電力グループの通信・IT・インフラを担う中核企業だ。2019年4月、通信事業会社のケイ・オプティコムに、関電システムソリューションズが保有していた情報システム機能、関西電力の電力保安通信機能という、バックグラウンドが異なる3つの組織が統合し、現在の体制が発足した。

 一見グループ内の再編に見えるが、文化も風土もまったく異なる組織が1つの企業として生まれ変わったに等しい。社員数が一気に増加し、約3000人の多様な価値観や働き方が交錯する中で、共通の人事制度をゼロベースで設計する必要に迫られた。新たな組織としての一体感をいかに醸成し、事業シナジーを生み出すか。それが人事戦略における最初のテーマだった。

 当時を知るオプテージのHR企画チーム チームマネージャーの田村氏はこう語る。

 「オプテージが掲げる行動指針を日々の業務の中で実践できるようにすること。そして、それを通じて会社が持続的に成長していくためには、上司と部下のコミュニケーションを深化させることが不可欠だと考えました」(田村氏)

田村氏

その理念を支えるためにゼロから設計されたのが、「役割等級制度」を軸とした評価制度だ。制度は「役割行動評価」と「成果評価」の2つで構成されており、役割行動評価では5つの行動指針を基盤に、「専門性」「課題解決」「共創」の3つの観点を設定。成果評価では単年度の個人の業績を評価する。

 評価制度の根底にある考え方は、社員1人ひとりがプロフェッショナルであるということ。ここでいうプロフェッショナルとは、単に特定の専門性を極めるだけではない。変化の激しい社会の中で価値を提供し続けるために、自らの「ありたい姿」を描き、その実現に向けて必要な専門性を柔軟に身につけていく“しなやかな人材”を指す。この定義は、制度導入時に全社員へ明確に伝えられたという。

現場密着だけでは限界があった“質のばらつき”という壁

理念を反映した新しい評価制度が整い、運用が始まったオプテージ。しかし、実際に制度を動かしてみると、思わぬ課題も浮かび上がってきた。

 「当社は通信・情報・電力など出自の異なる社員が集まっています。元会社の人事制度もまったく異なり、考え方や育った環境の違いから評価に対する意識やアプローチも当然異なっていました。つまり、目標設定の質のばらつき、評価の甘辛、フィードバックコメントの濃淡など、属人的な『質のばらつき』が避けられないということ。画一的な基準を設けただけで、人事評価の運用が完結するわけではないことを痛感しました」(田村氏)

 評価コメントを細かくていねいに書く上司もいれば、必要最低限の記載にとどまる人もいる。結果として、評価の納得感やフィードバックの一貫性にばらつきが生まれたという。

 そこでオプテージでは全社的な評価者研修を実施し、「行動評価の観点」や「フィードバックにおける留意事項」などのマニュアルを制定し、周知を図ってきた。また、同社では2021年から事業本部ごとに人事担当者を配置し、現場と人事の接点を強化している。いわゆるHRBPに近い役割を持ち、各本部に根ざしたサポートを行う体制を整えた。

 「当時、BtoB部門では約900人、BtoC部門では400人ほどの社員が所属していました。技術部門になると1000人を超える。そうした中で、人事部門が本部ごとに入り込み、現場の声を聞きながら評価者の悩みを理解するようにしていました。『この人をなぜ昇格させたいのか』『なぜこの人の評価を上げたいのか』といったリアルな話をする機会も多く、現場の課題がよく見えるようになりました」(田村氏)

 しかし、人事が個別にフォローできる範囲にも限界が見えてきた。

 「当時この役割を担当していた人事メンバーはわずか4人。すべての評価内容を網羅的に確認するのは現実的ではありませんでした。私たちとしては、現場に寄り添いながら評価運用の質の底上げをしていきたかったのですが、どうしても人手だけでは追いつかない現実に直面しました」(田村氏)

 このように、制度そのものは整理されていても、実際の運用段階では“評価の質の均一化”という大きな壁が立ちはだかっていた。

 PACの水取氏も、この課題はオプテージ特有のものではないと指摘する。

 「大企業を中心に、同じような課題を抱えるお客様は非常に多いです。人事制度の運用において、どうしても目標設定や評価コメントの内容にばらつきが出てしまう。人事が説明会などでルールを周知したり、研修を行ったりといった対応をしていますが浸透には時間がかかります」(水取氏)

水取氏

人の判断と感情が深く関わる評価という領域で、いかに制度の質と公平性を保つか。属人的な運用の限界を実感したオプテージは、次なる一手として生成AIの活用に踏み出した。
生成AIを活用することで、評価における“人によって生まれる差”を補い、より広い層に素早く均質な支援を届けられる。その点に大きな期待があると思います」(水取氏)

プロンプトに思想を込めて、社員が“自分ごと”と思えるように

 オプテージはこれまで、各本部への人事機能の設置や評価者研修など、人的なサポートを通じて評価の質を高めてきた。しかし、組織規模の拡大により、従来のアナログ的な支援では全員をカバーしきれない。その解決策として導入されたのが、タレントマネジメントシステム「タレントパレット」に搭載された生成AIアドバイス機能だ。

 「AIアドバイス機能は、社員が目標を立てる際に内容をチェックし、“より具体的で達成しやすい目標”へと導くアドバイスを返す仕組みです。これにより、目標設定の質が高まり、結果的に組織全体の成果向上や公正な評価につながります。」(水取氏)

 オプテージでは、この機能を自社の人事制度に合わせてカスタマイズ。その背景について田村氏は次のように語る。

 「オプテージではすでに社内生成AIツール『オプチャット』を活用していましたので、AIに対する社内の関心や活用度は比較的高いと考えています。タレントパレットでもAIを活用できれば、その機運にも乗っていけるはず。人事制度にはすでに明確な基準と考え方が存在します。だからこそ、その思想をAIにも学習させ、AIからの評価に関する助言を社員1人ひとりが“自分ごと”として受け止められるようにする。そのために、いちからいっしょにプロンプトを設計してもらいました」(田村氏)

 プロンプト設計の過程では、「SMART法則」を活用。社員が入力した目標に対し、これらの観点からAIが具体的な改善アドバイスを返す仕組みとした。

プロンプトに思想を込めて、社員が“自分ごと”と思えるように

「もともと社内でSMART法則をあらためて意識していたわけではなかったのですが、AIが助言を行ううえでの“判断軸”として非常に有効でした。評価基準と合わせて複数の視点で分析することで、アドバイスの一貫性と信頼性が高まりました」(田村氏)

「意味がない」と思われない機能にする

しかし、実際のプロンプトづくりには想像以上の試行錯誤があった。

 「等級別の行動基準を定義していたため、『役割行動評価』は比較的つくりやすかったものの、記載粒度の異なる個人別の目標やそれに対する部下自身の実績記録、上司のフィードバック記録に対してAIが助言する『成果評価』のほうはプロンプト設計が難しかったです。評価シートに記載された内容はバラツキがあることを前提に、どう受け止めて、どんな言葉で返すのか本当に悩みました」(田村氏)

 一方でオプテージのタレントマネジメントを推進する市川氏は、「利用者の体験」を最も重視したという。

 「AIアドバイスは、1回使って“意味がないな”と思われると“繰り返し使用したい”と感じにくいと思います。だからこそ、できるだけ親しみやすく、前向きに行動を促せるよう工夫しました。結果、AIアドバイス生成後の画面に絵文字を入れたほか、“もっと良くするにはこうしましょう”という表現にするなど、否定的な言葉を避ける工夫をしています。評価はどうしてもシビアになりがちですが、利用者が前向きに受け止められるトーンを大切にしました」(市川氏)

市川氏

PACの水取氏も、開発当時を振り返り次のように語る。

 「今回は、役割等級や評価観点に応じてAIの出力内容やトーンを調整しました。単に文章を生成するだけではなく、評価コメントとして自然に読めるよう、段落構成や観点ごとの整理にも工夫しています。利用者がストレスなく理解し、次の行動につなげられるように意識しました」(水取氏)

 そして、細部にわたる調整が続く中で、最終的に「これでリリースしよう」と決めた瞬間について尋ねると、田村氏は笑いながらこう振り返った。

 「納得できるまで、このメンバーで思考して議論し尽くしたので、正直、しゃべり疲れてしまって(笑)。——というのは冗談ですが、さまざまなパターンを試して、ここまで考え抜いたらもうリリースしても大丈夫だろうと。生成AIが日々進化している以上、100%の完成度を待つよりも、まずは使ってみてから改善をしていこうと考えました」(田村氏)

AI×人事の可能性——人事配置・キャリア相談へと広がる構想

 AIアドバイス機能の開発を経て、2025年4月には「役割行動評価」向けの機能を、同年10月には「成果評価」向けの機能をリリースしたオプテージ。リリースから間もないが、利用はすでに広がりを見せている。

 「10月のリリース後、すでにタレントパレット上で約500回の利用があり、人数にすると約300名の社員が実際に使ってくれています。感想などはこれからですが、まずはクリックしてもらうことが大事だと思っていたので、自然に広がっているのはうれしいですね」(市川氏)

 興味深いのは、その浸透の仕方だ。

 「大々的な説明会などは実施していないです。評価の依頼時に“AIアドバイス機能が追加されました”とだけ案内して、あとは自然に使ってもらっています。タレントパレットの機能追加・改善は定期的に行っていますので、各部門のメンバーとの個別の会話の中で積極的に紹介することはありますが、基本的にはそのスタンスとしています。『AI機能を導入しました!』と強く打ち出すよりも、社員が業務の中で“いつの間にか使っていた”というほうが、自然に定着するのではないかと考えています」(市川氏)

 水取氏も、そのアプローチを肯定する。

 「社内への打ち出し方は企業によってさまざまですが、オプテージさんの場合はタレントパレットがすでに浸透していたこともあり、そのような方法が効果的でした。一方で、生成AIを組織全体で推進したい企業では、あえて説明会などでしっかりと打ち出すケースもあります。大切なのは“会社のスタンスに合った導入のしかた”だと思います」(水取氏)

人とAIが寄り添いながら進化していく、新しい人事のかたち

 そんなオプテージに、今後の展望についても尋ねてみた。田村氏は「タレントマネジメントの本質的な活用」に目を向ける。

 「今回のAIアドバイス機能の実装を皮切りに、タレントマネジメントに寄与する機能拡充は進めていきたいです。タレントパレットの中にたくさん人事データがたまっているので、社員の経験やスキル、志向性のデータをAIで分析し、最適な人材配置や社内ジョブマッチングに活かしていきたいと考えています。たとえば、求められる人材要件に対して“社内でどのくらいマッチしているか”とジョブマッチング度をAIが示してくれれば、より戦略的な配置が支援できる。そういう未来を見据えています」(田村氏)

 このためには、単にデータを“ためる”だけでなく、“使える形で蓄積する”ことが不可欠だという。

 「入力データをどう構造化し、どんな粒度で取り込むか。それによって、後から活用できるかどうかが決まります。AI時代の人事は、データの質も考える仕事でもあると思っています」(田村氏)

 市川氏も、今後の方向性を“キャリア支援”の観点から描いている。

 「当社ではすでにキャリアデザインシートを運用していて、社員が自分のキャリア志向を上司と共有する仕組みがあります。将来的には、そのキャリア相談にもAIが寄り添えるようになればよいなと思っています。AIが“パートナー”として、社員1人ひとりの成長を支援できる存在になれたら理想です」(市川氏)

 最後に、人事の役割はどう変わるか。水取氏は次のように語る。

 「生成AIが一部の業務を担うようになる未来は確実に来ると思います。ただ、人事データをどう分析し、どのように経営に生かすかという点では、まだ課題も多い。AIの活用によって“データの読み解き方”が人事部門にも浸透し、今後はよりデータドリブンな人事戦略を推進する立場に変わっていくと思います」(水取氏)

 オプテージが挑む「人事×生成AI」の取り組みは、単なる業務の効率化にとどまらない。人とテクノロジーが寄り添いながら進化していく。今回の施策は、その新たな人事のかたちを示しているといえそうだ。