自律的とは、特定の価値観や理念を軸にし、自分なりのルールを設けて行動することです。自律的な人材は、自分の意思で能動的に業務を進められます。そのため、自律的な人材の育成に取り組む企業が増えてきました。
この記事では、自律的な人材について詳しく解説します。自律的な行動を判断する際のポイントや自律的な人材育成のメリットに触れたうえで、具体的な方法についても解説するため、ぜひ参考にしてください。
自律的とは何か
自律的とは、何を表しているのでしょうか。似た言葉との違いとともに、以下で詳しく解説します。
自律的ってどのような状態なのか
自律的とは、自分の基準を設けたうえで思考し、自ら行動を起こすことです。自分で考えて能動的に行動できる人材は、自律的だといえます。「自主的」と言い換えることも可能です。自律的な人材は自分で自分をコントロールでき、自分が決めたルールに従って行動できます。
自発的との違い
自発的とは、自ら進んで物事に取り組んだりすることです。自分から動くところは自律的と同様ですが、自発的の場合、よく考えたうえで動いているとは限りません。それに対して自律的とは、自分が決めた規範を常に意識し、それに沿って行動を起こすことです。そのため、自律的な行動には一貫性があります。
自立との違い
自立的とは、能力、身体、経済力などに関し、他人の助けやサポートに頼らず1人で動くことです。それに対して自律的とは、自分が決めたルールに従い、自らの行動を制御して動く状態を表しています。
「自律的に動く」という行動の要素
自律的に動くにはさまざまな要素が必要です。目標意図と実行意図に分けられるため、それぞれ解説します。
目標意図
目標意図(goal intention)とは、自分が成し遂げたい内容を特定するためのものです。たとえば「私は○○を実現したい」のように、目標を達成するうえで必要となる具体的な状況を明らかにします。
実行意図
実行意図(implementation intention)とは、目標を達成するうえで必要な行動をいつ、どこで、どのように行うか決めるためのものです。ただし、目標意図があっても実行意図が存在しない場合もあります。
自律的と判断できる4つのポイント
自律的かどうか判断するには、何を基準にすればよいのでしょうか。ここでは、具体的なポイントをあげて解説します。
1.自ら目標を設定し、達成に向けて行動している
自律的な人材は、自らの考えや意思に基づいて行動します。上司や先輩から言われなくても具体的で意義のある目標の設定が可能です。また、自分自身の役割も理解しており、求められている適切な行動をとれます。
2.自己を振り返っている
自己の振り返りができる人材も自律的だといえます。自律的な人材は失敗を恐れず挑戦し、仮に失敗しても振り返りにより改善点を見つけることが可能です。自分の考えややり方を冷静に分析でき、成功するにはどうしたらよいか考えられます。自律的な人材は失敗を糧に成功を目指せるため、より高い成果を生み出しやすいです。
3.課題を見つけ、解決策を見出している
能動的な行動により課題を見つけられる人も、自律的な人材です。問題解決思考ももち合わせており、自ら課題を発見するだけでなく解決策も見出せます。課題を解決するためのプロセスを自力で進め、解決策を実行に移すことが可能です。
4.成長志向がある
自律的な人材は決して現状に満足せず、常に高みを目指しています。成長を目指し、新しい知識やスキルの習得を積極的に目指している人が多いです。成長志向があり、自分を成長させられる機会があれば率先して挑戦しようとします。
自律的な人材を育成するメリット
自律的な人材の育成には複数のメリットがあります。以下で詳しく解説します。
優秀な人材が増える
自律的な人材の育成は、優秀な人材の増加につながります。自律的な人材は上司から指示を出さなくても、成果を出すために自ら行動を起こすことが可能です。そのため、上司の負担を軽減できます。上司の手が空くとさらに多くの人材の育成に力を入れられるようになり、優秀な人材を増やすことが可能です。
生産性が上がる
自律的な人材を育成すれば、業務の生産性も向上します。自律的な人材は自ら目標を決め、その達成に向けて業務を進めることが可能です。目的を意識して最善を尽くせるため、高い生産性を実現できます。自律的な人材が増えると、企業全体の業務効率化にもつながる可能性が高いです。
多くのアイデアが生まれる
多くの人材が自律的に業務に取り組むようになると、新しいアイデアや発想も多く生まれやすくなります。そのため、社内全体でイノベーションを生み出す力も高めることが可能です。自律的な人材の育成は企業の発展にも寄与します。
自律的な人材を育成する7つの方法
自律的な人材を育成するには、どうすればよいのでしょうか。具体的な方法について解説します。
1.自己判断の機会を与える
自律的な人材は、状況に応じて何をすべきかを自ら考え、率先して行動できます。そのような人材を育てるには、社員に自己判断で行動させる機会を作ることが大切です。研修で講義を受けたり、指示を受けながら業務を実践したりする方法ではなく、それぞれの人材が自分で考えて挑戦できる環境を与える必要があります。
2.チャレンジできる環境を整える
自律的な人材に成長するには、何回もチャレンジして失敗を繰り返す必要があります。失敗を悪く捉えず、挑戦したという姿勢を評価することが大切です。失敗しても責められない環境なら、社員は失敗を恐れずのびのびとチャレンジしやすくなります。そのような環境の整備は、自律的な人材育成の成功のために不可欠です。
3.チームを率いる機会を与える
自律的な人材として活躍するには、他者を巻き込んで統括するリーダーシップも大切です。そのような力を育むには、実際にチームを率いる経験をする必要があります。人材育成においても、他のメンバーをサポートしながらチーム全体をけん引する機会を与えましょう。
4.目標設定の機会を与える
自ら目標を設定して行動を起こしたり、課題を明らかにして解決策を見出したりする機会を与えることも重要です。ここで設定する目標は、具体的で測定可能である必要があります。
5.他者を巻き込む経験をさせる
自律的な人材は、他者を巻き込む力ももっています。意義のある関係を築き、積極的な協力を得る力も必要です。そのため、自律的な人材を育成するには、多くの人を巻き込みながら良好な関係を構築する経験もさせなければなりません。
6.行動を調整する力を育てる
ビジネスシーンにおいては、自分の価値観や意思を大切にしつつも、行動を周囲と調整する必要があります。そのため、自ら行動を起こす自律的な人材を育てるなかでは、状況に応じて行動を調整できる力を養うことが重要です。
7.コミュニケーション能力を高める
自律的な人材は周囲とも連携でき、自分の考えや感情などを他者にわかりやすく伝えられます。よって、自己表現力やコミュニケーション能力なども身につけさせなければなりません。
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自律的な行動に欠かせない「目標」の性質
自律的な行動を起こすには目標が重要です。ここでは、どのような性質の目標が必要か解説します。
組織の目標と仕事
組織の目標を自分の仕事の目標として捉えている人は、仕事に対するエンゲージメントが高い傾向があります。また、仕事による疲労もそれほど多くは感じません。自律的な行動を促すには、組織の目標と社員個人の目標をうまくすり合わせる必要があります。
目標レベルの個人差
人材によって目標の内容は異なり、レベルにも差があります。目標の適切な難易度は、結果の期待値や成功率などによって判断すべきです。難易度に見合ったリターンを得られるかどうかも確認する必要があります。
自律型組織とは
自律型組織とは、権力が一部に集中していない組織や権力が分散されている組織のことです。近年、自律型組織が注目を集めており、自律型組織を目指して組織づくりに取り組んでいる企業も増えています。
自律型組織が注目される理由
自律型組織が注目されるようになった背景には、新型コロナウイルスの流行があります。コロナ禍ではリモートワークを導入する企業が急激に増えました。リモートワークにはさまざまなメリットがある反面、企業と社員の心的距離が広がるという問題もあります。リモートワークでもそれぞれの社員が目的意識をもって業務に取り組めるよう、自律型組織を目指す企業が多くなりました。
自律型組織の種類
自律型組織には複数の種類があります。以下で具体的な種類をあげて解説します。
ホラクラシー組織
ホラクラシー組織とは、上下関係がないフラットな組織のことです。役職階層型の真逆の組織だといえます。たとえば、変化の激しい業界で事業を進めたり、短期プロジェクトに取り組んだりする場合に適している組織です。
ティール組織
ティール組織とは、階層構造がない進化型の組織のことです。マネジメントの仕組みもなく、組織の目的の達成に向けてメンバーが個別に意思決定します。ティール組織には進化の過程が5段階あり、具体的には以下のとおりです。
- 衝動的組織
- 順応型組織
- 達成型組織
- 多元的組織
- ティール組織(進化型組織)
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アジャイル型組織
アジャイル型組織とは、全体をフラットな集合体と捉える組織のことです。組織に所属しているそれぞれの社員に権限を分散しています。アジャイル型組織なら、迅速な意思決定や開発サイクルの短縮なども実現可能です。
キャリア自律とは
自律的な人材育成に取り組むうえでは、キャリア自律も意識すべきです。ここでは、キャリア自律の概要を解説します。
個人が自らのキャリア開発を行うこと
キャリア自律とは、社員それぞれが自律的にキャリア開発に取り組むことです。そのためには、社員が自分自身のキャリアに興味をもち、将来的な目標に向かって日々の業務に取り組む必要があります。
キャリア自律が重要視される背景
キャリア自律は、さまざまな理由により重要性が高まっています。具体的には、少子高齢化による労働力不足の社会問題化や、年功序列と終身雇用の終焉などの理由です。このような状況を受け、社員個人の主体的なキャリア形成が重要視されるようになりました。また、副業との兼業という新しい働き方の広がりもキャリア自律に影響しています。
キャリア自律が進まない理由
キャリア自律は重要視されていますが、実際はなかなか進んでいません。キャリア形成を実現する機会と具体的な施策が分断しているケースが多いためです。また、キャリア形成に対する意識はそれぞれ異なり、なかにはキャリア形成に興味を示さない社員もいます。組織でキャリア形成をうまく活用できていない場合も少なくありません。
キャリア自律のメリット
キャリア自律に取り組めば、社員が仕事に対してやりがいを感じやすくなります。優秀な人材を管理するマネージャー層も、緊張感をもって業務に取り組めるようになるでしょう。また、1つの企業に長く所属しながらキャリアを磨く社員が増えるため、人材確保にもつながります。
キャリア自律のデメリット
キャリア自律の取り組みがうまくいかないと、社員のモチベーションをかえって低下させる恐れもあります。進め方によっては、社員が自分のキャリアについて考える過程で転職を意識する可能性もないとはいえません。自社で長く働いてもらうには、社員が求めるキャリア自律を実現できる環境を用意する必要があります。
また、組織としてキャリア自律を推進すると、必ず昇進や昇給ができると勘違いする社員が発生するかもしれません。
キャリア自律に必要な支援は?
キャリア自律を促すには支援が必要です。具体的にどのような支援を行うべきか解説します。
副業制度
組織としてキャリア自律を進めるためには、副業制度を設ける方法もあります。従来、副業は本業の妨げになると認識されていました。しかし、近年は社員が副業に取り組むと、新たな事業展開につながる可能性があると考えられるようになっています。副業に取り組めば本業の業務を超えたスキルアップができるため、副業を推奨する企業も出てきました。
研修制度
研修制度の導入により、社員がキャリア形成を意識するきっかけを作ることも大切です。キャリア研修を実施する場合は、階層を分けて実施しましょう。
新入社員に対しては、主に自分の強みと弱みを改めて認識するための研修を実施するとよいです。中堅社員に対しては、今後のキャリアを意識してスキルや経験の棚卸しができる研修を行う必要があります。ベテランの社員に対しては、業務継承や社会貢献などを意識させる研修を実施すべきです。
相談窓口の設置
キャリア自律を促すには、キャリアについて気軽に相談できる窓口を設置することも大切です。キャリアカウンセリングやキャリア面談を実施したり、メンター制度を導入したりしてもよいでしょう。
年代別の支援
社員の年代によっても、キャリア自律のために必要な支援は異なります。それぞれに合わせた適切な支援を行えば、キャリア自律の効果的な促進が可能です。
20〜30代の若年層には、組織のなかで自分自身のキャリア形成に取り組むための支援を行いしましょう。40代のキャリア層には、今後のキャリアについて改めて見直すためのサポートが必要です。50代以降のシニア層には、管理職としてのモチベーションを維持するための支援をする必要があります。再雇用後に活躍できる場所の提供も重要です。
まとめ
自律的な人材を育成すると、優秀な人材の増加や生産性の向上などを期待できます。自律的な人材を多く育てるには、社員が自ら目標設定やチャレンジができる機会を多く与えることが大切です。自律型組織にも注目が集まっており、自律的な人材育成の重要性はさらに増しています。
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