1on1ミーティングを実施する企業は増えている一方で、「部下と何を話せばよいか分からない」と悩む上司も少なくありません。そこでおすすめの方法が、1on1ミーティングで話すテーマを決める際に役立つ「9ボックス」を活用することです。本記事では、1on1ミーティングにおける9ボックスとは何か、概要や具体的なテーマを紹介します。1on1ミーティングの効果を高めるコツも解説するので、ぜひ参考にしてください。
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1on1ミーティングとは
1on1ミーティングとは、上司と部下が1対1で行うミーティングのことです。1回あたりのミーティング時間は15〜30分程度と短時間のことが多く、週1回や月1回など定期的に行われます。
1on1ミーティングと人事評価面談の違い
1on1ミーティングは、人事評価面談と混同されやすいでしょう。人事評価面談は社員を管理・評価することを目的としており、多くは上司から部下への一方的なコミュニケーションになりがちです。1on1ミーティングと比べて実施頻度が少なく、四半期に1回や年1回のペースで実施されます。
一方、1on1ミーティングは上司から部下に一方的に質問を投げかけるのではなく、部下の話を傾聴し、尊重する対話型のコミュニケーションが特徴です。前述のとおり実施頻度も多く、定期的かつ頻繁に行われます。
1on1ミーティングが注目される背景
なぜ、近年は1on1ミーティングの注目度が高まっているのでしょうか?以下では、その背景について解説します。
変化の激しい「VUCA時代」の到来
VUCAとは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字をとった言葉です。
現代社会は変化の激しい「VUCA時代」にあるとされています。企業が変化の激しい時代に対応するためには、社員の自律性や職場の心理的安全性を高める取り組みが欠かせません。そこで、上司がマンツーマンで部下の話に耳を傾ける1on1ミーティングの必要性が高まっています。
働き方や人材の多様化
リモートワークの浸透により多様な働き方が広まる一方、上司や同僚と対面でコミュニケーションをとる機会が減少していることも事実です。そこで、社内における良好な人間関係を構築するとともに、部下が困りごとや悩みごとを相談できる場を設けるため、1on1ミーティングの導入が進められています。
また、人材の多様化により、社員1人ひとりに柔軟に対応する必要性が高まっていることも理由の1つです。そのコミュニケーション手法として、1on1ミーティングの活用が進められています。
1on1ミーティングのメリット
1on1ミーティングを導入するメリットは、おもに以下の4つです。
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上司と部下の信頼関係が高まる
1on1ミーティングを定期的に実施すると、上司と部下のコミュニケーションの機会が増加します。相手の話を聞くことにより相互理解が深まり、互いに親しみを感じられるようになるでしょう。また、1on1ミーティングを通じて部下の悩みを解消すれば、「上司に対する信頼感」と「職場に対する安心感」を高められます。
部下のモチベーションが高まる
1on1ミーティングを定期的に実施すれば、社員それぞれの課題や改善点を見つけるきっかけにすることが可能です。自身の課題が明確になると、課題の解消や改善に向けて、社員自ら積極的に行動しやすくなります。実際に課題の解消や改善ができれば、そのことが自信になり、モチベーションの向上にもつながるでしょう。
さらに、1on1ミーティングを通じて上司との信頼関係を構築できることも、モチベーションアップに寄与します。
個人と企業の成長を促進できる
1on1ミーティングは、対話を通じた振り返りの機会を設けることにより社員の主体性を育み、成長を促進できる点もメリットです。社員1人ひとりの成長を促進することは、企業としての成長にもつながります。また、組織へのエンゲージメントの向上により人材の定着を促しやすくなり、組織力を強化することも可能です。
離職率の低下につながる
対面でのコミュニケーション機会をこまめに設けると、部下が抱えている悩みや、わずかな変化にも気づきやすくなります。また、相談の場が定期的にあることで、部下自身も悩みを相談しやすくなるでしょう。
社員が抱えている不満を解消する取り組みは、働きやすい環境の整備につながります。エンゲージメントが低下している社員にも迅速に働きかけられるため、急な離職を防ぎやすくなるでしょう。
1on1ミーティングの9ボックスとは
1on1ミーティングにおける9ボックスとは、組織人事コンサルタントの世古詞一氏が提唱する「すり合わせ9ボックス」のことです。1on1ミーティングで話すべきテーマを「組織・個人・業務」という3つのレベルと、「過去・現在・未来」という3つの時間軸で区切り、9つに分類したものを指します。
過去 | 現在 | 未来 | |
---|---|---|---|
組織レベル | 理念・制度カルチャー | 人間関係 | 組織方針 |
個人レベル | パーソナリティ | ライフスタイル | 将来キャリア |
業務レベル | 振り返り | 業務不安 | 業務改善 |
すり合わせ9ボックスの対話における「3つのレベル」
すり合わせ9ボックスにおける対話のレベルは、「組織レベル」「個人レベル」「業務レベル」の3段階です。それぞれのレベルで話すテーマや目的について、以下で詳しく解説します。
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組織レベル
組織レベルのテーマは、企業やチームに関するものです。企業やチームの方向性などを示し、社員から共感を得ることを目的とします。一般の社員の視点からはなかなか見えてこない、上司の視座から見た情報を共有し、部下の理解を促しましょう。
個人レベル
個人レベルのテーマは、社員個人のキャリアやライフスタイルに関するものです。社員1人ひとりの成長にフォーカスし、人材育成・人材開発の土台を作ることを目的とします。個人レベルのテーマを話すと、社員のキャリアの方向性やプライベートなどについて理解を深めることが可能です。
業務レベル
業務レベルのテーマでは、業務に関する事柄を話します。業務の成果にフォーカスし、社員が業務を通じて学んだことを振り返るとともに、今現在不安を感じている事柄を汲みとりましょう。そして、業務効率化に向けた話し合いをします。部下が抱えている不安を把握・解消し、これまでの業務を振り返り、成長につなげることが目的です。
組織レベルでの対話のテーマ
ここでは、組織レベルにおける過去・現在・未来のテーマについて、さらに詳しく紹介します。
組織×過去
組織レベル×過去のテーマは、企業の理念や制度、カルチャーに関する内容です。企業理念や行動指針、評価制度などについて理解を深めてもらうためのテーマとなっており、企業への愛着心を育むことにもつながります。
【具体的な質問例】
- 企業理念や行動指針について疑問に感じている点はありますか?
- 指針に基づいて行動していることはありますか?
- 人事評価制度について分からないことはありますか?
組織×現在
組織レベル×現在のテーマは、社員を取り巻く人間関係に関する内容です。同僚や上司自身との関係性について深掘りし、人間関係に関する悩みの解消を目指します。また、ほかの社員の状況や言動の背景について話せば、社員同士の相互理解を促進することも可能です。人間関係の悩みを解消できれば、離職の防止にもつながります。
【具体的な質問例】
- 先輩や同僚との人間関係で悩んでいることはありますか?
- チームメンバーの様子を見ていて、何か心配になる人はいますか?
組織×未来
組織レベル×未来のテーマは、組織としての方針に関する内容です。経営層と近い目線にいる上司から情報を共有することで、部下の視座を上げる効果を期待できます。組織の方針に対する理解が深まれば、日々の指示に対する納得感も高められるでしょう。なお、組織×未来のテーマは部下から話を引き出すわけではないので、ほかのテーマのように質問ベースにはなりません。
個人レベルでの対話のテーマ
次は、個人レベルにおける過去・現在・未来のテーマを紹介します。
個人×過去
個人レベル×過去のテーマは、社員のパーソナリティに関する内容です。社員の素質や性格、強みや弱みなどに関するテーマといえます。社員の人生経験や行動などに基づき、個人のパーソナリティを深掘りしましょう。
【具体的な質問例】
- あなたが「モチベーションが高まる」と感じることはなんですか?
- 仕事において「これが自分の強みだ」と感じることはなんですか?
- 一緒に仕事をするうえで、苦手だと感じるタイプはいますか?
個人×現在
個人レベル×現在のテーマは、社員のライフスタイルに関する内容です。具体的には、社員の健康状態や家族、趣味などに関するテーマとなります。健康面における不安要素を把握しておくことで、離職の前兆を察知しやすくなるでしょう。
【具体的な質問例】
- 睡眠時間は十分にとれていますか?
- 最近、私生活でうれしかったこと(悲しかったこと)はありますか?
- 休日はどのように過ごしていますか?
個人×未来
個人レベル×未来のテーマは、社員のキャリアに関する内容です。本人が望んでいるキャリアを聞き出し、企業としての支援について話し合います。対話を通じて目指すべき方向性が明確になり、その実現への期待感が高まることで、不安の解消につながるでしょう。
【具体的な質問例】
- 将来はどのようなキャリアを歩みたいと思っていますか?
- 今後、自分の強みをどのように伸ばしていきたいですか?
- 社内にロールモデルとなる人はいますか?
業務レベルでの対話のテーマ
続いては、業務レベルにおける過去・現在・未来のテーマについて解説します。
業務×過去
業務レベル×過去のテーマは、業務の振り返りに関する内容です。業務での経験を振り返り、学んだことを明らかにすることで経験学習サイクルを回しやすくなります。経験学習サイクルとは、「経験」「内省」「概念化」「実践」のサイクルを繰り返し、学習・成長するサイクルのことです。
【具体的な質問例】
- 「◯◯」という目標を達成できた理由はなんだと思いますか?
- 「◯◯」のときと同じミスを繰り返さないために、どう予防すべきだと考えますか?
業務×現在
業務レベル×現在のテーマは、業務に関する不安点に関する内容です。社員が抱えている悩みを聞き出し、解決に向けてサポートすることで、社員がストレスを溜め込むことを防ぎます。
【具体的な質問例】
- 現在の業務内容について、何か困っていることはありますか?
- 現在の業務内容について、懸念材料はありますか?
- 業務をスムーズに進めるために、必要なサポートがあれば教えてください。
業務×未来
業務レベル×未来のテーマは、業務効率化や改善点に関する内容です。社員が日々の業務のなかで感じている改善点について聞き出すことを目的とします。実際の作業者である部下の意見を聞くことで、上司の立場からでは見えない改善点を発見できる可能性があるでしょう。
【具体的な質問例】
- 組織をよくするために、改善すべきだと思う点はありますか?
- 日々の業務のなかで、非効率だと感じる部分はありますか?
1on1ミーティングの実施手順
1on1ミーティングの基本的な実施手順は、次のとおりです。
- 実施目的を共有する
- 日程を決定する
- 対話のテーマを決定する
- ミーティングを実施する
- ミーティングの内容を振り返る
それぞれのステップについて、以下で詳しく解説します。
実施目的を共有する
まずは、1on1ミーティングの実施目的を決定し、上司から部下に共有しましょう。実施目的は「不安点の解消のため」「成長支援のため」など、部下の状況によって異なります。目的を共有すると部下の積極性を引き出しやすくなり、1on1ミーティングの効果を高めることが可能です。
日程を決定する
次に、1on1ミーティングを実施する日時を決定します。一方的に予定を告げるのではなく、必ず部下の都合も聞いたうえで決めましょう。1on1ミーティングは定期的に実施することが大切なので、「毎週○曜日の○時から」など一定のスケジュールを決めることもおすすめです。
対話のテーマを決定する
対話のテーマはあらかじめ決定し、部下にも共有しておきましょう。話す内容を決めておくことで、1on1ミーティングをよりよい時間にできます。また、部下の方から話したいことがあれば、テーマリストに追加してもらいましょう。
ミーティングを実施する
セッティングした日時になったら、事前に部下へ共有したテーマリストに沿って1on1ミーティングを実施します。ミーティングの内容は記録し、あとから振り返れるようにしておくとよいでしょう。
ミーティングの内容を振り返る
1on1ミーティングは1回1回を点として捉えるのではなく、線として捉えることが大切です。ミーティングの記録を見返し、過去のミーティング内容と比較することで、部下の成長を確認できます。成長が見られた場合は、本人も実感できるように部下にも成長したポイントを伝えてあげましょう。
1on1ミーティングの効果を高めるポイント
ここからは、1on1ミーティングの効果を高める3つのポイントを紹介します。
部下のタイプに合わせてコミュニケーションをとる
上司にもさまざまなタイプがいるように、部下にもさまざまなタイプがいるものです。1on1ミーティングでは、それぞれの性格や価値観などに合わせて、適切なコミュニケーションをとるようにしましょう。
たとえば、物事を合理的に考えるタイプの部下には、雑談は控えめにして、課題解決や目標達成を軸にして話を進めることがおすすめです。相手に合わせてコミュニケーションのとり方を変えるためにも、上司は部下の日々の様子を観察して、それぞれのタイプを把握しておく必要があります。
ティーチングよりもコーチングを優先する
ティーチングとは、おもに知識やノウハウなどを教えることです。一方、コーチングとは、相手の自律的な行動を促して、目標達成をサポートすることを指します。1on1ミーティングで優先すべきは、ティーチングよりもコーチングです。上司には部下の自律的な成長を支援するため、高いコーチングスキルが求められます。
適切にフィードバックする
部下の成長を促すためには、適切なフィードバックが欠かせません。特に、行動指針に紐付けたフィードバックは、企業が求める人物像を明示し、企業理念の浸透を加速させます。また、ときには部下のためを思って、厳しい指摘をする必要もあるでしょう。単なる指摘や否定にならないよう、適切なフィードバックスキルを身につけることが大切です。
1on1ミーティングにおける注意点
1on1ミーティングを実施する際は、以下の3点に注意しましょう。
傾聴の姿勢を心がける
部下の話を引き出すためには、傾聴スキルが欠かせません。1on1ミーティングでは、普段の業務連絡や人事評価面談のように、上司が一方的に話す形にならないよう注意が必要です。部下に対して言いたいことがある場合も、別の機会に伝えましょう。
普段から信頼関係を築けるよう努める
1on1ミーティングの実施は上司への信頼感を高めますが、その時間だけで信頼関係を築くことは困難です。部下に本音を話してもらうためにも、普段の関わりを通じて、部下との信頼関係を築けるように努める必要があります。
日常業務が圧迫されないよう注意する
1on1ミーティングは定期的に実施することが大切ですが、上司も部下も業務の合間に時間を作る必要があるため、双方にとって負担にならないよう注意しましょう。
特に、多くの部下を抱える上司は、1on1の実施により多くの工数をとられてしまいます。ミーティングを実施する対象を絞り込む、1on1ミーティングの支援ツールを活用するなど、日常業務が圧迫されないような対策を講じましょう。
1on1ミーティングに関するよくある疑問・悩み
最後は、1on1ミーティングに関するよくある疑問や悩みに答えます。
ミーティング開始後は何から話し始めればよい?
最初は「最近忙しそうだけど、体調は大丈夫?」など、相手の状態を気遣う声かけから始めるとよいでしょう。気軽な内容から話し始めることにより、部下の緊張を解きやすくなります。ちょっとした雑談をして場が和んだら、前回のミーティングのおさらいをしてから当日のテーマに移りましょう。
部下が本音を話してくれていない気がする
信頼関係が構築されていないと、せっかく1on1ミーティングを実施しても会話の内容が表面的なものになりがちです。日頃から部下との信頼関係を築くとともに、「この人なら話しても大丈夫」と思ってもらえるよう、心理的安全性の確保に努めましょう。声のトーンや実施場所などに気を配り、部下が話しやすい雰囲気を作ることが大切です。
まとめ
すり合わせ9ボックスは、1on1ミーティングで話すべき9つのテーマです。「組織・個人・業務」の3つのレベルと、「過去・現在・未来」の3つの時間軸のテーマについて対話することにより、1on1ミーティングの時間をより実りのあるものにできます。
1on1ミーティングの効果を高めて、部下の成長支援や離職防止などの目的を達成し、組織力の強化につなげましょう。
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