アファーマティブアクションとは、格差是正に対する取り組みです。国際的にも注目度が増しており、企業のイメージアップやグローバル化、人材確保などを目的に取り組む企業が増えています。この記事では、経営層・人事担当者に向けて、アファーマティブアクションの概要について解説します。また、日本の現状や取り組み、政府による施策に加え、問題点や企業事例なども解説していますのでぜひ参考にしてください。
アファーマティブアクションとは
アファーマティブアクション(Affirmative Action)とは、社会的・構造的な差別によって、不利益を受けている人たちに対する格差是正の取り組みです。ポジティブアクションとも呼ばれ、日本語では「積極的格差是正措置」や「肯定的措置」と訳されます。
対象は、主に「黒人(有色人種)」「女性」「障害者」など、性別や人種などにより差別を受けている人たちです。アファーマティブアクションは、これらの集団に対して平等な機会を提供することを目的としています。
アファーマティブアクションの始まり
アファーマティブアクションという言葉は、1961年に発行されたアメリカのジョン・F・ケネディ大統領による大統領令によって広まりました。その後、1965年発行のジョンソン大統領による大統領令で具体的に規定されています。
人種や肌の色、宗教、性別、国籍などによる雇用差別を禁じ、連邦政府の公共事業においてマイノリティの優遇的な雇用が推進されました。また、1972年に制定された「雇用機会均等法」では、性別による差別の禁止や教育機会の重要性を示しています。これにより、大学の入学者選抜でも優遇措置が適用されるようになりました。
日本におけるアファーマティブアクション
日本におけるアファーマティブアクションは、女性労働者に対する改善措置を示すケースが多く見られます。女性が能力を発揮できる環境づくりが求められており、取り組みとして「男女雇用均等法」や「男女共同参画基本計画」が挙げられるでしょう。
具体的には、求人募集や採用、昇給において、性別で差別することのない均等な機会・待遇が得られること、さらに企業における男女の雇用比率、職務内容、昇進などの格差解消が求められています。
日本におけるアファーマティブアクションをとりまく現状
スイスの非営利財団「世界経済フォーラム」は、毎年ジェンダー・ギャップ指数(男性に対する女性の割合)を算出しており、2024年のデータによると日本は146か国中118位でした。
教育と健康は世界トップクラスですが、政治・経済においては平均よりも低い数値です。この項目では、日本における男女格差の現状について解説します。
※参考:男女共同参画に関する国際的な指数 | 内閣府男女共同参画局
議員数の男女格差
男女共同参画局によると、日本における女性国会議員の比率は衆議院が10.4%、参議院が26.7%、衆参合わせて16.1%となっています。諸外国の国会議員に占める女性割合が、この30年で大幅に上昇しているなか、日本は未だ低く、OECD諸国では最下位です。
これを受けて、2018年に「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」が施行されました。基本原則として、男女の候補者数をできる限り均等にすることとし、政党などによる自主的な取り組みを推奨しています。
※参考:政治分野における男女共同参画の状況|令和6年3月26日内閣府男女共同参画局
※参考:諸外国における政治分野の男女共同参画のための取組|内閣府男女共同参画局
国家公務員管理職数の男女格差
国家公務員の各役職段階に占める女性の割合を見ると、係長相当職が27.7%、係長相当職(本省)のうち新たに昇任した職員が25.5%、地方機関課長・本省課長補佐相当職が13.3%など、いずれの役職も上昇傾向にあるといえます。(2021年7月時点)
しかし、第5次男女共同参画基本計画では、女性の登用・採用に関して2025年度末までに係長相当職は30%、係長相当職(本省)のうち新たに昇任した職員は35%を成果目標としていますが、達成には至っていません。
※参考:1-9図 国家公務員の各役職段階に占める女性の割合の推移 | 内閣府男女共同参画局
上場企業の役員数の男女格差
全上場企業における女性の役員数については、2023年時点で4,302人となっており、2012年以降の約10年間で約6.8倍に増加しています。女性役員の割合は増加しているものの10.6%にとどまっており、G7諸国やOECD諸国の平均と比べると低い水準です。
また、全上場企業(3,915社)のうち約3割、プライム市場上場企業(1,834社)では、約1割で女性役員が1人もおらず、20%未満の企業が全体の約8割となっています。女性役員・女性取締役が不在の場合、国内外投資家の反対率が高まる傾向にあり、女性活躍の推進が企業経営に影響を与える可能性も考えられるでしょう。
※参考:上場企業の女性役員数の推移
日本政府によるアファーマティブアクションの取り組み
ここからは、日本政府による3つのアファーマティブアクションに関する取り組みについて解説します。
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男女共同参画基本計画
男女共同参画基本計画は2000年に定められ、5年ごとに見直されている施策です。男女が意欲に応じて、あらゆる分野で活躍できる社会を実現すべく、5つの基本理念を掲げています。
2010年の「第3次男女共同参画基本計画」では、「あらゆる分野における女性の参画拡大」を基本的方向として示しました。具体的には、「2020年までに指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する」といったゴールアンドタイムテーブル方式による目標です。
ゴールアンドタイムテーブル方式とは
ゴールアンドタイムテーブル方式とは、強制ではなく目標として数値や期間を掲げ、実質的な機会均等の実現を目指すアファーマティブアクションのひとつです。割合を決めるだけでなく、目標達成までの期間も定め、より積極的に差別の是正を推し進めることを目的としています。
2020年に改定された「第5次男女共同参画基本計画」では、「2020年代の可能な限り早期に、指導的地位に占める女性の割合を30%程度にする」という新たな目標が掲げられました。
男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法とは、1985年に制定された性別を理由とした差別を禁止する法律です。1997年の改正では、セクシャルハラスメントや「女性労働者に係る措置に関する特例」として、アファーマティブアクションに関する規定も盛り込まれました。
男女の違いによる差別的な募集・採用・昇給・昇進・解雇などをなくし、女性が出産・育児などで不当な扱いを受けることなく、仕事ができる環境の整備などが求められています。
障害者雇用促進法
障害者雇用促進法とは、就労機会を提供し、障害者の職業安定を図ることを目的とした法律です。事業主には、法定雇用率に基づく障害者の雇用や差別の禁止、障害者の雇用状況の届け出など4つの義務が定められています。
すでに述べたように、日本のアファーマティブアクションは、男女格差にフォーカスされていますが、障害者に関しての取り組みも、重要視されているアファーマティブアクションのひとつです。
海外におけるアファーマティブアクションの取り組み
海外におけるアファーマティブアクションの主な取り組み手法、「クオータ制」について解説します。
クオータ制とは
「クオータ制(割当制)」とは、格差是正のために一定の割合をマイノリティに割り当てる、アファーマティブアクションのひとつです。たとえば、採用試験や入学試験において、マイノリティの採用枠を定めます。
マイノリティが、合格者のなかに一定の割合以上含まれるようにすることで、組織の多様性や女性の社会進出を推進できる点がメリットです。一方で、運用コストや環境整備の負担、逆差別の可能性が懸念されており、合憲性が議論されています。
クオータ制が導入されている国
ノルウェーはクオータ制の発祥国であり、世界で初めて女性向けのクオータ制を導入した国です。国営企業や上場企業における取締役の女性比率を、2007年末までに40%にすることを義務付けました。
また、政治分野においても男女の割合を40%にするクオータ制を導入し、2020年時点で女性議員の割合は41.4%となっています。世界を見てみると、政治分野においてクオータ制を導入している国と地域は、196か国のうち118か国です。
地域別では、ヨーロッパが49か国中36か国と7割以上にのぼり、主に「政党による自発的クオータ制」が多く採用されています。
※参考:諸外国における政治分野の男女共同参画のための取組|内閣府男女共同参画局
アファーマティブアクションの問題点
アファーマティブアクションの概要や取り組みについて解説しましたが、ここでは問題点についてお伝えします。
「逆差別」になる可能性がある
アファーマティブアクションの問題点のひとつとして、「逆差別」という意見が挙げられます。逆差別とは、「多数派(白人や男性)に対する差別になるのではないか」ということです。
たとえばアメリカでは、クオータ制の導入によりマイノリティである黒人や女性に比べて、マジョリティの進学・就職が難しくなるという問題が起こりました。クオータ制の導入初期から合憲か違憲かの議論があり、裁判も起こされています。
個人の能力が軽視される可能性がある
マイノリティであるという理由で合格や昇進が決まり、個人の能力が軽視される可能性も懸念されています。たとえば、クオータ制により、あらかじめマイノリティの採用枠が決められていた場合、合格ラインを下回っていても枠を埋めるために合格となるケースがあるかもしれません。
合格に必要なスキルより、マイノリティかどうかで合否が判断されるのは、個人の能力の軽視につながると考えられています。
企業におけるアファーマティブアクションの施策
企業では、どのようにアファーマティブアクションを実施しているのでしょうか。詳しく解説します。
女性が就労継続できるよう制度を改善する
現状において、女性は結婚・出産・育児といったライフスタイルの変化で、就労継続が難しくなるケースが多く見られます。柔軟な働き方ができる環境や制度を整備することで、女性の就労継続を促すこともアファーマティブアクションのひとつです。
たとえば、次のような取り組みが挙げられます。
- 産前産後休暇・育児休暇の取得促進および期間延長
- フレックスタイム制度やテレワークの導入
- キャリア支援の拡充
- 企業内託児所の設置
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人事評価を明確化する
女性比率や女性管理職を増やすことは、アファーマティブアクションの代表的な取り組みです。
- 社員における女性比率の向上
- 管理職における女性の割合の向上
- 女性の職域の拡大
企業における施策では、これらの目標を実現するために昇進・昇格規定の見直しや、昇進・昇格試験の受験の奨励、性別問わず作業しやすい環境作りなどの取り組みが求められます。特に人事評価の明確化・客観的な評価制度の導入は重要といえるでしょう。
人事評価制度とは?評価の具体的な構成や目的、評価内容を知ろう
社員の意識改革を進める
アファーマティブアクションの推進には、環境整備が大切です。日本ではあまり「アファーマティブアクション」という言葉が知られておらず、概念の認知度も低いといえます。しかし、社員のなかに差別意識が残っていては、アファーマティブアクションの取り組みも進みません。
特に経営層や管理職に古い価値観が定着している場合、組織風土や差別意識の改革・改善が必要です。まずは、研修やセミナーなどを実施し、アファーマティブアクションの必要性・メリットなどを伝え、差別意識の解消やアファーマティブアクションへの理解を促しましょう。
企業におけるアファーマティブアクションの進め方
ここでは、企業でアファーマティブアクションを進める際のプロセスを解説します。
1.現状を分析する
まずは、現状を分析し、問題点を発見します。各部署における男女比や女性の採用数、女性管理職の比率、出産・育児などに伴う女性の離職率など客観的データを比較するとよいでしょう。加えて、ヒアリングやアンケートを実施するのも効果的です。女性社員の現状について分析し、改善すべき点を明確にします。
2.具体的な計画を作成する
次に、アファーマティブアクションの目標と施策の検討です。たとえば「女性比率を◯%高める」「女性管理職を◯人増やす」など、数値目標を設定します。「テレワークを導入する」「キャリア支援・教育プログラムの実施」といった、環境整備に関する目標の場合もあるでしょう。そのうえで、目標達成に向けた具体的な計画を作成します。
3.取り組みを実施する
計画をもとに、アファーマティブアクションの取り組みを実施します。開始後は、定期的に進捗を確認し、現状を把握することが大切です。進捗具合や成果、未達成部分を確認することで、課題や改善点を発見できます。明らかになった課題や改善点を柔軟に見直し・修正することにより、目標の実現に近づくでしょう。
日本企業におけるアファーマティブアクションの取り組み事例
ここからは、日本企業2社における、アファーマティブアクションの取り組みについて解説します。
株式会社アイシンの事例
株式会社アイシンは、1965年創業の総合自動車部品メーカーです。「女性活躍推進プロジェクト きらり」を発足し、早くから女性活躍推進に取り組んでいます。
1990年には女性総合職の採用や、両立支援制度(短時間勤務・在宅勤務など)を導入しました。加えて、意識改革や職場環境の改善などにも取り組み、ワークライフバランスの向上、働きがいを感じられる職場環境の実現も目指しています。
さまざまな施策を同時進行することで改革を加速させ、女性の育休取得率100%、育休後の復帰率は99%を達成しました。また、女性の昇級意欲は29%から61%と大幅に向上しています。
※参考:女性活躍・両立支援に積極的に取り組む企業の事例集|アイシン精機株式会社 |厚生労働省
ダイハツ工業株式会社の事例
ダイハツ工業株式会社は、1907年創業の自動車メーカーです。20年以上前から女性活躍支援の取り組みを実施しています。特に育児休業や時間外労働の免除、短時間勤務など両立支援制度が充実しており、女性が活躍できる職場環境を整えている点がポイントです。
また、企業内保育所や女性管理職の育成・登用、在宅勤務制度の導入などを実施し、長年の取り組みにより女性の育休後復帰は100%、女性の平均継続勤務年数は16年と男性に迫る勢いとなっています。
※参考:女性活躍・両立支援に積極的に取り組む企業の事例集|ダイハツ工業株式会社 |厚生労働省
まとめ
アファーマティブアクションは、性別や人種などを理由に差別を受けている人たちに対して、格差是正を促す取り組みです。日本においては、主に女性労働者に対する機会均等や格差解消が求められています。多様性の実現やグローバル社会への対応などを考えると、より推進すべき取り組みであるといえるでしょう。
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