OKRは、組織の目標を達成するためのマネジメント手法です。近年では、OKRは多くの企業に取り入れられています。しかし、OKRと人事評価の連動について、悩みを抱えている担当者も多いのではないでしょうか。
本記事では、OKRの基本概念から、人事評価との効果的な連動方法、連動させるポイントまで解説します。導入事例も紹介するので参考にしてください。
OKRとは
多くの企業で注目されているOKRというマネジメント手法について、詳細を解説します。
OKRの意味
OKR(Objectives and Key Results)は、組織が目標を円滑に達成するためのマネジメント手法です。OKRは、海外の大手企業が積極的に採用していることで知られています。
OKRの特徴は、「なぜ取り組むのか」「何を達成するのか」という目的意識を示す「Objectives」と、明確な数値指標を意味する「Key Results」を組み合わせている点です。目的意識と数値指標を一体化させることで、メンバー全員が同じ方向を向いて業務に取り組む基盤が形成されます。
O(目標)
OKRにおける「O(Objectives:目標)」は、組織やチームが達成すべき定性的な方向性です。
Oは「顧客満足度を向上させる」「市場シェアを拡大する」といった内容で表現され、具体的な数値指標を含みません。達成すべき定量的な指標は、KRにて設定されます。
事業の成長につながり、メンバーがイメージしやすく納得できる目標を設定しましょう。
KR(主要となる結果)
設定されたOに対して、「KR(Key Results:主要となる結果)」は、達成度を客観的に測定できる定量的な指標となります。たとえば、「Webサイトのコンバージョン率を現在の3%から5%に向上させる」「新規顧客獲得数を月間50件から80件に増加させる」といった、具体的な数値指標を策定しましょう。
なお、KRの難易度については、「個々がベストを尽くせば組織として達成できる」レベルが理想的です。
OKRを設定するメリット
OKRを活用すると、組織のパフォーマンスを高められる可能性があります。OKRを設定するメリットを見ていきましょう。
企業の目標を社員に伝えられる
OKRを設定するメリットは、組織が掲げる大きな目標と、部門や部署、個々の社員の目標が結びつくことです。日々の業務がどのように組織のビジョン実現に影響するかを理解した社員は、目的意識を持って熱心に働き、結果として組織全体のパフォーマンスを向上させるでしょう。
社内でのコミュニケーションを促せる
組織内で共通の目標や数値指標を共有すると、部門や役職を超えた一体感が形成されます。仲間意識が芽生えれば、部門や部署の壁を越えた対話が自然と増えるでしょう。また、全員が同じ前提条件や課題認識を持っていれば、スムーズな情報交換や協力体制の構築が可能です。
タスクの優先順位が明確化される
OKRによって「何を達成すべきか」が明確になると、日々の業務の優先度判断が容易になります。OKRに含まれていない業務は重要度が低いと判断できるため、社員は限られた時間や資源を効果的に利用可能です。
本当に重要な業務に集中する時間が増えると、組織全体の生産性が向上するとともに、社員の心身的負担も軽減されるでしょう。
チャレンジ精神を高められる
OKRはマネジメント手法の1つであり、人事評価ではありません。人事評価への影響を気にしなければ、社員は大胆な目標でも挑戦しやすくなります。
また、目標達成に至らなかった場合でも、過度に落ち込む必要はありません。OKRを通じて、次のチャレンジへの貴重な学びとして、課題を前向きに捉える組織文化を醸成させましょう。
OKR・人事評価は連動させてもよい?
そもそもOKRと人事評価は、連動させられるのでしょうか。OKRと人事評価の連動の可否について、連動する際の注意点も含めて解説します。
OKR・人事評価を連動させないケース
OKRと人事評価を分離すべきと考える企業は多い傾向です。
本来であればOKRを設定すると、意欲的に取り組めば達成できそうな高い目標に向かって、社員は業務に打ち込むでしょう。しかし、両者を紐づけると、評価を意識しすぎた社員は、達成見込みの高い控えめな目標を設定してしまうかもしれません。
人事評価と紐づけることで、社員にリスクを回避したい気持ちが生まれる結果、本来のOKRの目的から離れてしまう可能性があります。
OKR・人事評価を連動させるケース
OKRと人事評価を連動させている企業も見られるのが現状です。ただし、Key Resultsの達成が目的化しないように注意してください。OKRを設定する本来の狙いは組織としての目標達成ですが、人事評価と連動すると数値指標が注目されやすくなるためです。一般的には、OKRと他の目標管理制度とを併用する方法が採用されています。
OKRと他の人事評価を連動させる手段
組織が重視したいものによって、OKRと人事評価の適切な連動方法が異なる点も、注目したいポイントの1つです。連動のポイントを、2つのケースに分けて解説します。
カルチャーづくりを優先するケース
OKRを「挑戦と成長を促す文化づくりのツール」と位置づける場合は、人事評価との直接的な連動を避けた方がよいでしょう。
人事評価については、MBO(目標管理制度)などを採用し、達成可能な現実的な目標を別途設定してください。人事評価基準を別に設けることで、OKRが本来持つ挑戦を促す効果を損なわずに済みます。
貢献に応じた報酬を分配するケース
企業目標への貢献度と報酬を連動させたい場合も、工夫が必要です。Key Resultsの達成率をそのまま評価指標とすると、前述の通りOKRの本質が損なわれるリスクがあります。
「目標達成に向けたプロセス」「チームへの貢献度」など別の評価軸を設けると、OKRのメリットを生かしつつも、社員の取り組みを適正に評価可能です。
OKRと他の人事評価を連動させるポイント
社員の挑戦により組織の成長を促すOKRを人事評価と連動させるポイントを解説します。
目的・意図を共有・周知する
OKRと人事評価を併用する際、制度の目的や意図を社員に明確に伝えましょう。「OKRはチャレンジを後押しするための仕組み」といった意図が社内に浸透しなければ、社員は混乱し、消極的な目標を設定するリスクがあります。
特にOKRが直接的な人事評価に結びつかない場合は、OKRを設定する意義を丁寧に説明し理解を得ることが重要です。
目標を定期的に見直す
OKRと一般的な人事評価は、目標の見直し頻度が異なる点に注意しましょう。人事評価は半年または年単位のサイクルで見直しがなされますが、OKRの場合は四半期ごとの見直しが推奨されています。
細かくOKRの軌道修正を行うと、変化の激しいビジネス環境においても、効果的な目標管理が可能です。
フィードバックを強化する
OKRの効果を高め、人事評価と適切に連動させるには、定期的かつ質の高いフィードバックが欠かせません。人事評価関連の面談とは別に、OKRの進捗状況を定期的に確認し、目標達成に向けた具体的なアドバイスを提供する面談を設けましょう。
OKRの導入・運用の手順
OKRを効果的に機能させるために、導入から運用までの手順を段階的に解説します。
OKRの目標設定の特徴と進め方!企業・部門・個人別の手順と注意点
期首に実施する項目
期首に実施する項目は、各部門、部署、チーム、個人の順番で行うOKRの目標設定です。OKRを設定する際は、トップダウンではなくメンバー全員で議論しながら決定しましょう。全員が目標設定プロセスに参加すると、当事者意識が生まれるとともに、目標に対する納得感が生まれるためです。
期中に実施する項目
各社員は自身とチームのOKR進捗状況を常に把握し、目標達成に向けた行動を取る必要があります。週のはじめには今週の取り組み内容や、向こう1か月程度の予定を確認し、週末には成果の振り返りを行うミーティングを定期的に実施しましょう。
短いサイクルでの確認により、迅速な軌道修正が可能になり、成果を認め合うことでメンバーのモチベーションを向上させられます。
期末に実施する項目
期末には、期首に設定した目標に対する達成状況を確認し、次期のOKRに生かすために結果を社内に公表しましょう。ただし、全社的にOKRの進捗管理や評価を行うのは大変です。
進捗管理や評価の手間を削減するためには、タレントマネジメントシステムなどのツールの導入も検討してください。
OKR導入のポイント
OKRの効果的な運用のために、導入時に押さえるべきポイントを解説します。
OKRの数を絞る
セクションごとのOKRの数を、意図的に制限しましょう。目標が多すぎると焦点が分散し、何が本当に重要なのかが曖昧になるためです。限られた目標に社員の目を向けさせると、人材やリソースを有効活用できます。また、厳選したOKRを短いスパンで定期的に見直すことで、環境変化への迅速な対応が可能です。
ボトムアップで運用する
OKRの目標は、企業のトップが設定してはいけません。全社的に、ボトムアップでOKRを運用する習慣を定着させましょう。社員自身が主体的に目標を設定する仕組みは、社員の能力・意思を尊重する文化を醸成し、当事者意識を育み、業務へのモチベーションを高めるでしょう。
個人・組織の整合性を重視する
個人のOKRと、チームや部門などのOKRの方向性は、一致させる必要があります。個々の目標が組織の目指す方向と乖離していれば、1人ひとりの頑張りが組織の成果に結びつかないためです。
整合性を確保するためには、OKRを設定するプロセスにおいて、メンバー同士の活発なコミュニケーションが欠かせません。対話を通じて、各レベルのOKR間の関連性が明確になり、必要に応じて調整が可能になります。
OKRを用いた人事評価の手順
OKRを踏まえた人事評価の手順は、以下の通りです。
- Oを全員で共有する
- KRを具体的に設定する
- OKRとは別に人事評価基準を統一する
- 定期的にOKRの進捗を確認する
- 必要に応じてOKRを修正する
個々のOKRの方向性と、チームや部門などのOKRの方向性が合っていれば、一貫性のある人事評価をサポートできます。ただし、繰り返しになりますが、OKRは本来チャレンジを促す仕組みであるため、直接的な評価基準としての使用は慎重に検討しましょう。
OKRの導入事例
OKRの導入成功例を紹介します。Googleとメルカリではどのように導入しているのでしょうか。
Google LLCのOKR導入事例
Google LLCでは、四半期ごとにOKRの公開・評価を実施しています。同社のOKRは、1on1ミーティングを通じて上司が部下のOKRを詳細に把握し、密な会話を重ねる点が特徴的です。継続的なコミュニケーションにより、社員1人ひとりが企業の戦略や目標を深く理解し、自分の役割を明確に認識できます。
また、チームによっては、四半期の中間地点でOKRの再検討を行っていることも報告されました。検討の頻度を増やした目的は、メンバーの目標に対する認識を統一させ続けるためです。
株式会社メルカリのOKR導入事例
株式会社メルカリは、OKRとMBOを併用しています。同社は3か月ごとのOKR見直しと面談を実施し、短いスパンでの目標調整と進捗確認を続けている点が特徴的です。
半年ごとに開催される「OKR合宿」では、部署を超えたコミュニケーションを促進するため、アイスブレイクなどの工夫が取り入れられています。ボトムアップ型のイベントは、OKRへの理解と共感を全社に浸透させました。
※引用:半年に一度のコーポレート合宿にきたよ #メルカリな日々|mercan(メルカン)
OKRと似たワード
目標設定に関連するキーワードを正しく使い分けましょう。OKRと似たワードである、MBO・KPI・KGIとの違いを解説します。
MBO・OKRの違い
MBOとOKRは、どちらも目標設定に関係する組織におけるマネジメント手法です。ただし、MBOはトップダウン型の目標設定が特徴で、「売上高20%アップ」など、経営層が決定した目標を階層的に社員に割り当てる形式を取ります。
一方、OKRの場合は、全社で大きな方向性を共有しつつも、各チームや個人が自発的に目標を設定する形式です。OKRでは「顧客満足度を飛躍的に高める」といった、チャレンジを推進する社員目線での目標設定が採用されます。
KPI・OKRの違い
KPIとOKRの違いは、定性的な目標を決めるかどうかです。KPIは定量的な目標値で、「製品の月間販売数」「月間の顧客獲得数」などが該当します。KPIが「何を測るか」に焦点を当てるのに対し、OKRは「なぜそれを目指すのか」という目的意識を、組織全体で共有する役割を担っています。
KGI・OKRの違い
KGIとOKRの違いも、定量的な目標を決めるかどうかにあるといえるでしょう。KGIは、売上高や利益率の達成といった、組織が最終的に到達すべき定量的な成果です。なお、前述のKPIは、KGIを達成するための「中間指標」として機能します。
まとめ
OKRは、組織が目標を円滑に達成するためのマネジメント手法です。OKRと人事評価を連動させる際は、慎重な設計が必要となります。本来、OKRは挑戦的な目標設定を通じて社員の成長意欲を引き出すものであり、評価と直結させることでこの効果が損なわれる恐れがあるためです。
適切なレベルの目標を設定して、定期的なミーティングで進捗の確認や成果の振り返りを行うと、OKRを効果的に運用できるでしょう。
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