近年、欧米の企業では、これまで主流だったジョブ型の人材管理から、スキルベース組織への移行が進められているところです。この記事では、スキルベース組織の概要やジョブ型雇用との違いについて解説します。さらに、スキルベース組織のメリット・デメリット、実践のポイントについても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
スキルベース組織とは
まずは、スキルの意味やスキルベース組織の概要について解説します。
そもそもスキルとは
スキルベース組織における「スキル」は広義で捉えられており、「できる」「できない」といった能力に加え、個人の特性や適性も含まれます。スキルとは、個人の保有する能力(コンピテンシー)全般のことです。一般的には、以下のようなものを指します。
- 専門的な知識や技術
- 課題解決能力
- 時間管理スキル
- マネジメント能力
- リーダーシップ
- コミュニケーション能力
- 論理的思考力(ロジカルシンキング)
- 柔軟性
スキルベース組織の概要
スキルベース組織は英語で「skills-based-organization」と表記するため、SBOと呼ばれることもあります。スキルベース組織は、社員の持つスキルを中心に組織を構築・運営する組織モデルです。
個人のスキルデータを参考に、人材の採用、配置、育成、評価などの人材マネジメントを行います。仕事を役割や職務記述書のみで固定しません。社員それぞれのスキルやプロジェクトに応じて柔軟に変化させていきます。
スキルベース組織とジョブ型雇用との違い
ここでは、スキルベース組織と特定の職務内容である「ジョブ」に基づいて、社員を雇用する「ジョブ型雇用」との違いについて解説します。
基準
スキルベース組織においては「個人のスキル」を基準とし、ジョブ型雇用においては「職務(ジョブ)」を基準としています。スキルベース組織は人に仕事をつけており、ジョブ型雇用では仕事に人をつけているのが大きな違いです。
スキルベース組織では、職務(ジョブ)を作業(タスク)レベルまで細分化することで、社員のスキルや能力とマッチングさせます。一方、ジョブ型雇用は、特定の職務に求められるスキルや経験を重視し、その職務や役割に最も適した人材を採用することが特徴です。
人材配置
スキルベース組織では、人材配置が柔軟であるのに対して、ジョブ型雇用は固定的であることが大きな違いです。スキルベース組織は、業務やプロジェクトに合わせて人材を配置することができるため、柔軟性が高いといえるでしょう。
一方、ジョブ型雇用は、特定の職務に対して人材を固定的に配置する傾向があります。配置変更が比較的少なく、役割や責任も固定されるケースが少なくありません。
組織の柔軟性
スキルベースの組織は、環境の変化に対して柔軟に対応できる点も特徴です。一方、職務が明確に定義されているジョブ型は、組織変更に時間がかかることがあります。新しいプロジェクトや業務を開始する場合、迅速に人材を配置したい場合などは、適切なスキルや能力を持った社員を配置できるスキルベース組織が有効です。
キャリア形成
スキルベース組織は、社員がさまざまな経験を積んでいくことでキャリアが形成され、多くの業務やプロジェクトを通じて幅広いスキルを習得できるのが特徴です。
一方、ジョブ型雇用では、一般的に特定の職務において専門性を深めていきます。社員は専門家としての地位は確立しやすいものの、キャリアの幅が限定される傾向です。また、ジョブ型雇用では、職務の変化やスキルの転換がしづらいという面もあります。
スキルベース組織への注目が高まっている理由
ここでは、スキルベース組織への注目が高まっている理由について、3つの観点から解説します。
ジョブ型雇用が限界を迎えているから
職務に適した人材を配置するジョブ型雇用は、現代のビジネス環境に対応しにくいことがデメリットです。固定的な職務定義では、環境の変化にスピード感を持って対応することが難しいため、ジョブ型雇用は限界を迎えています。さらに、社員の能力や潜在的なスキルを十分に活かせないという点も、ジョブ型雇用の課題といえるでしょう。
市場の変化に対応する必要があるから
新型コロナウイルスの流行や台風や地震災害など、近年、組織は変化する環境に対して迅速に対応することが求められています。また、職務の一部をAIに担わせるなど、職務に求められる役割やスキルも時代とともに変化している状況です。
行うべきタスクを再編成するなど、組織には柔軟性が求められます。スキルベース組織は、新たな事業のチャンスに素早く対応でき、イノベーションを促進することも可能です。
働き方が多様化しているから
近年は、社員それぞれのキャリアに対する考え方や、働き方に対するニーズが多様化しています。自分のスキルを武器にし、プロジェクトベースやフリーランスなどの働き方をしている人も増加中です。スキルベース組織では、社員の多様なキャリアパスを支援できます。社員は自分に合った業務で能力を十分に発揮できるようになるでしょう。
スキルベース組織のメリット
スキルベース組織を導入すれば、以下のように企業に多くのメリットをもたらします。
業務効率や生産性が向上する
社員は自分のスキルに合った業務に就けるため、スキルを活かして仕事に取り組めるでしょう。適材適所の人材を配置することで即戦力となり、組織全体の生産性向上をもたらします。社員のスキルを活かせるため、教育や研修などのコストを抑えることも可能です。
スキル開発が促進される
スキルベース組織では、社員のスキルが可視化されます。社員は、自分のスキルレベルを客観視できるようになるでしょう。強みのスキルと足りないスキルを把握したうえで、自発的にスキル開発に取り組むことが期待できます。
人手不足が解消される
多くのスキルが必要とされる職種においては、十分なスキルを保有する人材を見つけるのが困難です。スキルベース組織では、仕事に対してさまざまなスキルを持つ複数のメンバーで対応するため、人手不足に悩まされるケースが少ないでしょう。既存社員のスキルを最大限に活用することも可能なので、外部からの採用に頼らなくても対応できるケースもあります。
キャリアの多様性に対応できる
スキルベース組織の特徴として、縦方向のキャリアアップに加えて、部門を越えた横のキャリアチェンジも可能である点です。異なる業務やプロジェクトを経験することで、キャリアの多様性が生まれます。特定の職種に留まることなく、多方面でのキャリアを築くことができ、社員の多様なキャリア志向に対応できる点がメリットです。
市場環境の変化に対応できる
近年は、市場環境の変化が大きいだけではなく、速度も加速しています。日々新しい業務が生まれ、現在の業務が古いものとなってしまうこともあるでしょう。スキルベース組織なら、市場の変化に柔軟に対応できます。
従業員エンゲージメントが向上する
社員は自分のスキルを活かせる業務に就くことができ、仕事への満足度が高まります。スキル開発の機会が多いほど、自己成長を実感できる環境が整うでしょう。結果的に社員のエンゲージメントが高まり、定着率向上や離職率低下にもつながります。
スキルベース組織の課題
スキルベース組織は企業に多くのメリットをもたらす一方で、課題となる要素もあります。特に注意しておきたいポイントについて見ていきましょう。
スキル評価が難しい
スキルの定義や測定基準が曖昧になりやすいことに注意しましょう。評価者の主観や経験で評価にばらつきが生じるケースがあり、特に以下のような個人の特性に関わるソフトスキルについて、測定が難しい傾向にあります。
- チームワーク
- リーダーシップ
- コミュニケーション力
- 発想力
- 適応力
- 誠実さ
- 信頼性
成長性を見逃す可能性がある
現時点のスキルが不足していても、学習能力が高い社員は将来的に大きく成長する可能性があります。しかし、スキルベース組織では、現在のスキルに基づいて評価や配置を行うため、潜在能力や成長の可能性を見逃すケースもあるでしょう。将来的な可能性を見極めるためには、社員がどのように成長し、組織に貢献していくかという要素も考慮しなければなりません。
人材がミスマッチしてしまう可能性がある
個人のスキルを重視すると、人間関係や企業文化への適合性を見落とすケースがあります。スキルが高い人材でも、企業の価値観に適合しない人材を採用するなどのケースも珍しくありません。ミスマッチを防ぐためには、社員の過去の経験や行動について、企業の文化や価値観と一致しているかどうかを分析する必要があります。
スキル測定を誤ってしまった場合はリスクが高い
スキルや能力の評価は、客観的な基準を設定することが難しい面があります。スキル測定を誤ってしまった場合は、業務が遅れる、品質が低下するなど生産性が下がるリスクがあることを認識しておきましょう。
社員本人も、能力が発揮できないことでモチベーションを維持できず、離職する可能性があります。社員のスキルのみに頼らず、さまざまな側面にも着目し、個人に基づいたマネジメントを行うことも重要です。
社員に不満が残るケースがある
社員のスキルデータを活用する場合は、収集方法、活用方法、効果、メリットが不明瞭になってしまい、社員に不満が残るケースがあります。AIなどで測定する際は、偏りがないかを監視することも重要です。
社員には事前にどのようなデータを収集し、活用していくのか、効果やメリットはあるのかを説明しておく必要があります。スキルベースで採用した場合は、社員が活躍できる環境の整備も忘れないようにしましょう。
テクノロジーを活用できていない
社員のスキル管理は、人事管理全般に影響を及ぼします。スキルベースの組織づくりに向けてスキルを可視化するには、タレントマネジメントシステムやAIの活用がおすすめです。ツールを上手に活用できれば、客観性や公平性を担保しやすくなります。ただし、テクノロジーを効果的に活用し、社員のスキルを正確に把握できている企業は少ないのが現状です。
スキルベース組織を実践するポイント
スキルベース組織を実践する際には、以下のようなポイントを押さえておく必要があります。
スキルベースの人材を採用する
即戦力となり得る優秀な人材を獲得するためには、スキルベース採用が有効です。スキルを備えた人材は、高いパフォーマンスを発揮できるため、業務を円滑に進める即戦力になります。組織が必要とするスキルを明確にし、採用基準を策定することが重要です。スキルテストや適性検査を通じて、候補者のスキル・能力を客観的に評価しましょう。
スキルと業績をリンクさせた人材配置をする
各ポジションやプロジェクトに必要なスキルを定義し、社員のスキルデータベースと照合して人材を配置することも欠かせません。スキルと業績の向上を結びつけるには、高いスキルや能力を持つ社員に対し、適切な報酬を支払う仕組みを作るのが有効です。
継続的にフィードバックを行い、スキル向上が組織にどのように貢献できるかを明確にすると、社員のモチベーションも維持・向上しやすいでしょう。
スキル開発の支援をする
社員のスキル開発を支援するためにも、企業は支援の方法や制度を整備する必要があります。急速に変化するビジネス環境では、スキルの学び直しである「リスキリング」も重要です。組織がリスキリングの機会を支援するのもよいでしょう。
社員のスキル開発を支援する施策
社員のスキル開発を支援する施策には、以下のようなものがあります。
- 社内研修やオンライン研修の実施
- eラーニングの導入
- 外部セミナーの参加支援
- 専門書籍や資料の購入支援
社員のスキル開発を支援する制度
社員のスキル開発を支援する制度には、以下のようなものがあります。
- 学習活動に参加できるような制度の整備
- 継続的な評価とフィードバック
- キャリア面談の実施
- キャリアパスの提示
- 自己申告制、社内公募制、社内FA制などの導入
- 副業や兼業の推進
スキルをデータベース化する方法
社員のスキルや資格を可視化・管理するには、スキルをデータベース化する必要があります。データベース化する主な方法は、以下のとおりです。
スキル管理システム
スキル管理システムとは、社員の資格・技術・能力などのスキルを可視化し、社内で共有できるシステムです。スキルデータという定量情報をベースとし、スキル管理業務の効率化、アサインや人材配置の最適化、人材情報の活用機会の増加、社員の育成促進などが期待できます。
スキルマップ
スキルマップとは、社員が持っているスキルを一覧表にしたものです。足りないスキルを可視化でき、必要な教育施策を実施して社員を育成することができます。スキルマップを作成することで、スキルやレベルが明確になるため、客観的で公正な配置や育成が可能になるでしょう。
タレントマネジメントシステム
タレントマネジメントシステムとは、人材情報を一元管理することで戦略的な人材活用を支援するツールです。タレントマネジメントシステムを利用すれば、社員のスキル、経験、評価情報などを体系的に管理できます。適材適所の人材配置や効果的な育成計画の立案も可能です。タレントマネジメントシステムのスキル管理の機能には、以下のようなものがあります。
- 業務に必要なスキルを定義してスキルレベルを可視化する
- 組織全体のスキルマップを作成する
- スキルギャップを特定する
まとめ
近年、欧米企業の人材管理において、職務(ジョブ)を基準とした「ジョブ型」から、個人のスキルを基準とする「スキルベース組織」への移行が進められています。社員のスキルや資格を可視化・管理するには、スキルをデータベース化することがおすすめです。
タレントパレットは、組織の状態を正しく可視化できるタレントマネジメントシステムです。社内に散在していた人事情報やスキルなどさまざまな情報を集約し、分析・見える化します。詳しくは以下の資料をご覧ください。