社員に活気がなく、組織の勢いが失われている場合は、大企業病にかかっている恐れがあります。大企業は安定したイメージがありますが、組織風土の醸成に悩んでいるケースは少なくありません。本記事では、大企業病の症状や発生する原因、リスクを解説します。大企業病への有効な対策についてもまとめているため、ぜひ参考にしてください。
大企業病とは?
まずは、大企業病の定義や中小企業との関係性について解説します。
大企業病の定義
大企業病とは「保守的でネガティブな組織風土が蔓延し、社員が新しいことにチャレンジしなくなる状態」を指します。ただし、企業によって捉え方は異なり、明確な定義もありません。病のように社員間で伝染し、組織全体に悪影響を及ぼすため「大企業病」と呼ばれています。大企業病は企業の成長を阻害し、競争力を低下させる要因となるため、早急な対処が必要です。
中小企業における大企業病
大企業病は、大企業特有の問題ではありません。企業の規模にかかわらず発生する可能性があるため、中小企業やベンチャー企業などでも対策を講じることが大切です。事業の拡大に伴い、大企業のような制度・構造を取り入れると「大企業病」に似た問題が生じやすくなります。
大企業病の症状
大企業病には、いくつかの段階があります。大企業病を悪化させないためには、初期症状を早期に発見し、適切に対処しなければなりません。ここでは、大企業病の疑いがある症状について解説します。
細かいルールが設定される
大企業病の初期症状として、ルールが厳しくなる現象が挙げられます。組織を運営するためにはルールを定め、マニュアル化することが欠かせません。マニュアル化により、作業が効率化でき、製品やサービスの品質を一定に保ちやすくなるでしょう。しかし、ルールの遵守が優先されすぎると、自由な発想や柔軟性が失われてしまい、市場の変化に対応しづらくなります。
意思決定のスピードが遅くなる
細かいルールが設定され、手続きが複雑になると、意思決定のスピードも遅くなります。組織の規模が大きくなるほど決裁にかかわる人が増え、承認までに時間がかかる傾向です。現場からの提案が課長、部長、事業部長、経営陣と上がっていくうちに、ビジネスチャンスを逃してしまい、事業の成長にブレーキをかけてしまいます。
チャレンジ精神が失われる
チャレンジ精神が失われる状態も、大企業病の初期症状のひとつです。安定している企業ほど現状維持を望む社員が多く、新しい取り組みにチャレンジしようとしても、前例がないことを理由に前向きな反応が得られません。チャレンジする姿勢が評価されない環境では、イノベーションが生まれにくくなり、企業としての成長も鈍化します。
部門間の連携が悪くなる
大企業病が進行すると、全体最適ではなく部門最適の思考が強まり、部門間の連携が取りづらくなります。部門やチームの利益を優先すると社内での対立が増え、互いの足を引っ張るという深刻なケースに陥ってしまうかもしれません。大企業病を放置してしまうと、部門間の関係がさらに悪化し、クライアントにも悪影響を及ぼすリスクがあります。
社員のモチベーションが低下する
ルールやマニュアルに縛られ、挑戦する場を奪われると社員のモチベーションは低下します。組織全体の活力が失われ、業務効率も低下した状態は、大企業病の末期だといえるでしょう。末期の状態から立て直すのは容易ではないため、社員のモチベーションを定期的に測定し、変化をいち早く察知しなければなりません。
評価制度に対する不満が高まる
大企業病が蔓延している組織では、チャレンジする姿勢が評価されづらい傾向です。変革に対して前向きな評価がされないと、評価制度に対する不満も高まります。「挑戦しないが失敗しない人」「挑戦した結果、失敗した人」がいた場合、前者だけを評価している組織は、大企業病が深刻化しているため早急に対策を講じなければなりません。
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離職率が悪化する
大企業病が末期になると、優秀な社員が辞めていくようになります。減点主義的な発想が強まった結果、業務に対する熱意が失われ、自社に対する信頼や愛着も薄れてしまうでしょう。優秀な人材が退職し、離職率が悪化すると、現状維持すら難しくなる恐れがあります。労働人口の減少に伴い、人材確保に悩む企業が増加しているなかで、優秀な人材の流出は企業の成長を阻害する大きな要因となるでしょう。
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大企業病が発生する原因
大企業病は、すべての企業で発生する問題ではありません。では、大企業病が発生する企業には、どのような共通点があるのでしょうか。ここでは、大企業病が発生する主な原因を解説します。
業績が安定している
業績が安定していることは、企業にとってさまざまなメリットがあります。たとえば、広く名前が知られていたり、製品やサービスに根強いファンがいたりする企業は、優秀な人材を確保しやすい傾向です。一方で「挑戦を避ける」「危機感が欠如している」「新しい技術への投資を怠る」といったリスクもあるため、よい影響ばかりだとは限りません。
組織が拡大している
組織の急速な拡大も大企業病が発生する原因のひとつです。組織が拡大すると、業務も細分化され、スムーズに意思疎通が図れないケースが発生します。大企業病を防ぐためには、部門間で定期的にコミュニケーションの場を設けることが大切です。
ビジョンが浸透していない
経営理念やビジョンが浸透していないと、企業としての方向性が定まらず、社員も目的意識を持って働くことができません。共通した目標を「ビジョン」として示したうえで、経営層と現場の意識のズレをなくし、組織としての一体感が醸成できます。
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ルールの見直しを行っていない
ルールやマニュアルは作るだけでなく、定期的な見直しが大切です。既存のものに追記していくだけでは、現状から乖離していく可能性もあるため、必要に応じて大幅な見直しも検討しなければなりません。ルールの見直しができていない企業は、大企業病への対処が遅れ、症状が悪化する恐れがあります。
評価制度が適切ではない
新しい取り組みを評価する制度がないと、現状維持を優先する気持ちが高まり、チャレンジ精神が育まれません。挑戦を促したいなら、新しい取り組みへのチャレンジを奨励する制度やルールが必要です。「リスクをとってでも挑戦する価値がある」と思える社員が増えれば、大企業病は徐々に改善していきます。
大企業病がもたらすリスク
大企業病は、企業にどのような影響を与えるのでしょうか。ここでは、大企業病がもたらす代表的なリスクを解説します。
生産性が低下する
大企業病がもたらすリスクとして、生産性の低下が挙げられます。たとえば、細かいルールが設定されると事務作業の負担が増え、本来の業務にかかわる時間が減ってしまう場合もあるでしょう。また、意思決定のスピードが遅くなると「承認されるまで仕事が進められない」という事態に陥り、業務効率の低下も招きます。
競争力を失う
変化や挑戦を恐れる企業風土が定着してしまうと、市場の変化に臨機応変に対応できなくなります。現状維持を続けると、競合との差が開き、市場での競争力も失われてしまう可能性があるでしょう。「業績が安定している」という現状に満足し、積極的な行動に移せなければ、将来的に競争優位性が失われるかもしれません。
優秀な人材が定着しない
大企業病が蔓延している組織では、人材流出のリスクが高まります。チャレンジする姿勢を評価する仕組みがない企業の場合、最終的に主体性に欠けた社員だけが残る可能性も考えられるでしょう。現状維持を優先する人だけでは、イノベーションは生まれず、飛躍的な成長も期待できません。
大企業病が原因のトラブル事例
ここでは、大企業病が原因のトラブル事例を紹介します。似たようなトラブルが増加している場合、大企業病にかかっていないかを早急に確認しましょう。
品質の低下
部門やチームの利益を優先し、業務に対する視野が狭くなると、商品やサービスの品質が低下する恐れがあります。また「相対的な品質低下」も大企業病がもたらす弊害です。現状維持を続けた場合でも、競合の品質が向上すると市場における自社の評価が落ちてしまいます。
クレームの増加
クレームの増加も、大企業病が原因のトラブル事例です。部門間の連携不足によりクレームが増えることはもちろん、クレーム対応でも責任の押し付け合いがはじまってしまい、解決までに時間がかかります。
データの不正改ざん
大企業病にかかった組織では「いつもと同じであること」が重視されます。たとえば、測定したデータの数値がこれまでと違っていた場合、通常は「何が問題なのか」を洗い出し、解決に向けて行動するでしょう。
しかし、大企業病が蔓延していると、都合よく解釈して数値を改ざんする不祥事が発生するケースがあります。現状維持を優先し「これまでと違う結果が出るはずがない」と身勝手な判断をすると企業の信頼が大きく損なわれてしまうでしょう。
大企業病にかかっているか確認する方法
大企業病の初期症状が見られたら、組織の現状を調査したうえでの判断が大切です。ここでは、大企業病にかかっているかを確認するための方法を解説します。
アンケートを実施する
社内アンケートにより、社員のモチベーションの高さや組織の問題点が把握できます。たとえば「部門間の連携がとりづらい」「ルールが複雑すぎる」といった回答が多い場合、大企業病の兆候があると判断することが可能です。アンケートでは、幅広い回答が寄せられるため、優先順位をつけて重要度・緊急度の高いものから取り組んでいきましょう。
KPIを分析する
KPI(Key Performance Indicator)とは、業績管理をするための指標です。KPI分析により、組織のパフォーマンスを客観的に評価することができます。「トラブル発生率」「納品までの期間」「顧客満足度」などの指標が悪化している場合、大企業病の発生を疑いましょう。
外部の専門家に依頼する
外部の専門家への依頼も検討しましょう。第三者の視点から組織の問題点を客観的に評価できるため、内部では気づきにくい問題点も明らかにできます。
外部の専門家を活用する場合は、現状の把握だけでなく、改善策まで提案してもらえるか、事前に確認しましょう。似たような組織構造を持つ企業の対応策を自社に生かすことができれば、大企業病の解決に向けて円滑に進められます。
大企業病への有効的な対策
最後に、大企業病への有効な対策を紹介します。自社の課題に合ったアプローチを行い、大企業病からの脱却を目指しましょう。
ビジョンを共有する
ビジョンを共有し、組織としての一体感を醸成できれば、大企業病の進行を防げます。ビジョンに基づいた行動を評価する仕組みを導入できれば、さらに効果が高まるでしょう。社員がビジョンを理解し、組織風土として定着するには時間がかかるため、中長期的な視点で進めることが大切です。
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評価制度を見直す
評価制度を見直し、挑戦しやすい土台形成も効果的です。具体的な対策としては「成果だけでなくプロセスを評価する仕組みづくり」などが挙げられます。成功する・しないにかかわらず、新しい取り組みに挑戦した社員に対して報奨を用意するのもおすすめです。
結果だけではなくチャレンジする姿勢が評価される環境は、イノベーションが生まれやすくなり、事業のさらなる発展も期待できます。
現場に権限を委譲する
意思決定のスピードが遅くなっている場合、権限の委譲も検討しましょう。現場に権限を委譲できれば、意思決定のスピードが上がり、状況に合わせて臨機応変に対応しやすくなります。権限の現場分散により、社員の主体的な行動を促せ、責任の所在を明確にすることも可能です。
ルール・マニュアルをアップデートする
大企業病を未然に防ぐためには、ルール・マニュアルのアップデートが不可欠です。「ルールが多すぎる」「手続きに時間がかかる」という声が増えてきた場合は、見直しのタイミングかもしれません。
さらに、意思決定のスピードを早くするには、承認プロセスの簡素化も検討が必要です。承認する人の数を減らしたり、プロセス管理ツールを導入したりすることで、現場の負担を軽減しやすくなるでしょう。
コミュニケーションを活性化させる
社内コミュニケーションの促進により、大企業病のリスクを軽減できます。コミュニケーションが不足している組織では、社員同士の問題として捉えるのではなく、企業が活性化に向けた施策を考えなければなりません。
たとえば、社内SNSやチャットツールなど、オンラインシステムの導入により、コミュニケーションが活性化し、情報の伝達もスムーズになります。
継続的に現状を分析する
大企業病は、知らず知らずのうちに進行していくものです。対策を行い一度は改善した場合でも、そこで取り組みを終えてしまうと、再発のリスクは高まります。大企業病の悪化を防ぐには、継続的に現状を分析し、初期症状の素早いキャッチが重要です。課題に合った対策を実施しながら、市場の変化に対応できる組織の維持を目指しましょう。
まとめ
大企業病が蔓延している組織は、チャレンジ精神が失われ、仕事に対するモチベーションも低下している状態です。この状態のまま放置してしまうと、優秀な人材が定着しなくなり、企業としての競争力も急激に落ちていきます。大企業病からの回復には時間がかかるため、兆候が見られた場合は、早急に対処しましょう。
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