人事評価と人事考課は混同しやすい言葉ですが、目的や使い方に違いがあります。両者の違いを知ると、人事担当者は効果的な制度の設計や改善を図れるでしょう。
本記事では人事評価と人事考課の定義や評価基準、評価方法などを解説します。また、人事評価や人事考課の成果を高めるための注意点や対策、企業の成功事例なども紹介しますので、ぜひお役立てください。
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人事評価および人事考課の定義とは
人事評価と人事考課は、混同しやすい用語です。はじめに用語の定義を確認しておきましょう。
人事評価
人事評価は、社員の働きぶりや成果に基づいて行われる、組織の判断プロセスです。評価結果は、給与や賞与、昇進・昇格などの処遇決定に活用されるだけでなく、人材育成や配置転換の参考材料としても用いられます。人事評価は、企業の持続的な発展を支える重要なプロセスといえるでしょう。
人事考課
人事考課は、スキルや業績、勤務態度などを基準として、社員の貢献度を評価するプロセスを指します。人事考課の目的は、昇給や昇進、異動などの人事決定を行う際の判断材料を提供することです。適切な人事考課の運用は、社員の成長促進やモチベーションの向上にもつながります。
人事評価と人事考課の違いとは
人事評価と人事考課の違いは、以下のとおりです。
比較項目 | 人事評価 | 人事考課 |
---|---|---|
目的 | 社員の成長促進、配置転換、キャリア開発の指針とする | 昇給・昇格・賞与などの処遇決定の根拠とする |
評価対象 | 行動、業績、スキル、成長性など広範囲を評価 | 成績、能力、勤務態度、貢献度など具体的な指標を評価 |
評価結果の活用 | 人材育成計画、異動・配置転換、キャリア形成の支援 | 昇給・昇進、賞与、異動の決定基準として活用 |
評価タイミング | 年1回または通年で実施 | 半期ごと(年2回)が一般的 |
人事評価は長期的視点での育成や配置転換のための評価ですが、そのうち短期的な処遇決定に関わる評価部分を指すのが人事考課です。そのため、人事考課は人事評価の一部と考えられます。
人事評価と人事考課が混同されやすい理由
人事評価と人事考課は、評価対象や目的が異なるにもかかわらず、共通する要素が多いため混同されやすい傾向があります。さらに、「人事評価」「人事考課」という用語自体が企業ごとに異なる解釈で用いられることも混同の要因の1つです。
特に、制度設計の段階で評価目的(育成か処遇か)や評価範囲(行動全体か成果に限定か)が明確に区別されていないと、評価基準が曖昧になり、社員や評価者の間で誤解が生じやすくなります。
人事評価の活用シーン
人事評価と人事考課を混同しないためには、活用される場面に注目すると区別しやすく、実践的な知識として理解しやすいでしょう。まずは人事評価について解説します。
社員の育成方針を立てるとき
人事評価は、社員1人ひとりの強みや成長の可能性を明確にし、適切な育成方針を立てるための重要な参考材料です。評価結果を通じて社員のスキルや達成度が可視化されることで、効果的な指導計画を策定しやすくなります。
例えば、評価結果に基づいて「顧客対応スキルの強化」や「プロジェクト管理能力の向上」といった具体的な成長目標を設定することで、社員は自身の課題や強みをより明確に把握できるようになるでしょう。
配置転換やキャリア開発の判断材料とするとき
人事評価の結果から、各社員の能力や強みが明確になるため、適材適所の配置がしやすくなります。例えば、分析力が高い社員をデータ活用が求められるマーケティング部に異動するといった判断が可能です。
さらに、キャリアプランを策定する際にも、評価結果は有効な判断材料になります。評価を通じて社員の成長可能性やスキルの習得状況が可視化されると、目標設定や研修計画の最適化が可能です。
次世代のリーダーを選定・育成するとき
次世代リーダーを選定・育成する際にも、人事評価が重要です。評価制度を通じて、社員の能力・行動・成果を多面的に把握することで、将来のリーダー候補を客観的かつ適切に選定しやすくなります。
さらに、リーダー育成においては、企業の理念やビジョンを評価基準に組み込むことが、組織に合ったリーダーを育成するうえで有効です。例えば、革新性を重視している場合、創造的な発想や積極的な提案活動を高く評価することで、自社の価値観に沿ったリーダーの育成につながります。
人事考課の活用シーン
続いて、人事考課の活用シーンについて、具体例を交えながら解説します。
昇進や昇給を決定するとき
人事考課は、社員の昇進や昇給を公平に決定する際の重要な基準です。評価結果は、給与やボーナスの額に直接反映されるため、社員の貢献に対して適正な報酬を与えることができ、処遇に対する納得感の向上にもつながります。
近年では、年功序列型から成果主義型へのシフトが進みました。このため、業績や行動に基づいた、より客観的な評価基準の導入が求められています。
業績に対する報酬反映の根拠として示すとき
人事考課は、業績に対する報酬を適切に反映させるための重要な仕組みとして活用されます。評価内容が会社の方向性と一致している場合、報酬制度と経営方針が連動し、組織運営の一貫性と一体感を高められるでしょう。
特に、成果主義を重視する企業では、業績評価がそのまま給与や昇格に直結するため、社員のモチベーションを向上させる「外的動機付け」の役割を果たします。
人事評価の評価基準
人事評価の評価基準は、業績評価、能力評価、行動評価の3つに分けられます。人事評価は中長期的な人材育成の目的もあるため、評価においては、将来的な成長可能性(ポテンシャル)も評価の対象となる点が特徴です。この点を十分に理解していないと、特に若手社員に対しては正しい評価ができない可能性があります。
業績評価
業績評価は、社員の目標達成度を数値で測定し、その成果を評価するものです。例えば、営業部門では売上目標、生産部門では生産量が指標となります。これにより、評価の公平性と客観性が確保されやすくなります。
また、業績評価の結果は次の行動計画の策定にも活用されます。達成度が低ければ目標の再設定や改善策が検討され、一方で高い成果を上げた場合には昇給や昇格が検討されます。
能力評価
能力評価は、業務を遂行するために必要なスキルや知識、技術を評価するものです。具体的には、課題解決能力やリーダーシップ、保有資格などが評価項目に含まれます。
これにより、社員は会社から求められているスキルセットを明確に把握し、自身の課題を発見できるようになるでしょう。また、企業にとっては、育成方針や教育プログラムの策定に活用できる評価です。
行動評価
行動評価は、社員の仕事への姿勢や取り組み方、努力の過程を評価するものです。具体的には、業務に対する意欲や責任感、協調性などが評価項目に含まれます。
この評価は数値化が難しいため、部下に対する日々の行動観察と理解が欠かせません。行動評価の結果は、社員へのフィードバックやプロセス重視の育成支援に活用されます。
人事評価でよく使われる評価手法
人事評価では、公平性や信頼性を高めるため、MBO(目標管理制度)や360度評価、コンピテンシー評価といった手法が用いられます。
MBO(目標管理制度)
MBO(目標管理制度)は、社員が自分で目標を設定し、その達成度を評価する人事考課手法です。達成度の評価は通常期末に行われ、その結果が評価や報酬に反映されます。
MBOのメリットは、社員の主体性とモチベーションを高められる点です。自ら設定した目標に向けて行動するため、責任感が生まれやすくなります。また、目標設定のプロセスで上司とコミュニケーションを取ることで、企業目標と個人目標の整合性を図りやすい点もメリットです。
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360度評価
360度評価とは、上司、同僚、部下など複数の立場から被評価者の職務行動を多面的に評価する手法です。従来の一方向の評価と異なり、さまざまな視点を取り入れることで、より公平で客観的な評価が可能となります。
360度評価は、1人の評価者の主観に左右されにくい点がメリットです。例えば、経営層やマネジメント層のリーダーシップスキルを多面的に評価する際や、さまざまなステークホルダー(取引先、顧客、同僚など)と接する機会が多い職種に適しています。
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コンピテンシー評価
コンピテンシー評価とは、企業内で高い成果を上げている社員の行動特性や能力を基準として、全社員の職務行動を評価する手法です。評価の基準となるコンピテンシー(理想の行動像)は、高業績者の行動パターンを詳細に分析し、企業の求める理想的な人物像として明確に定義されます。
コンピテンシー評価は、企業が求める行動特性を明確にし、社員の成長指針が具体化しやすい点がメリットです。評価基準が具体的な行動に基づいて設定されるため、評価者の主観を排除しやすい、公平で客観的な評価が実現できます。
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人事考課の評価基準
続いて、人事考課の評価基準を解説します。人事考課では、現時点の成果や行動に対する客観的で公平な評価が重視される点が特徴です。
業績考課
業績考課は、社員が一定期間内に達成した成果や業績を基準に評価します。評価項目は、売上目標の達成率、コスト削減効果、新規プロジェクトの完遂状況など、数値で測定可能な成果が中心です。業績考課の結果は、ボーナスや昇給などの報酬決定に直接反映される指標として重視されます。
能力考課
能力考課では、社員が持つスキルや知識、職務遂行力を評価の基準とします。具体的には、現時点で発揮している「保有能力」、将来的に発揮される可能性がある「潜在能力」、そして現在の業務で活用されている「発揮能力」が評価の対象です。
能力考課の結果は、昇進や昇給の判断材料として活用されます。また、社員のスキルマップの作成やキャリア開発計画の策定に役立つデータです。
情意考課
情意考課では、社員の勤務態度や仕事への姿勢が評価の対象です。代表的な項目としては、「積極性」「協調性」「規律性」などが挙げられます。
情意考課は、数値で測りにくい仕事への貢献や人間関係の適応力などの評価に有効です。また、組織全体の情意考課を分析することで、チームワークの強化や組織文化の改善などの施策立案にも役立てられます。
人事考課でよく使われる評価方法
人事考課でよく使われる評価方法としては、職能資格制度、自己評価シート、行動基準尺度法(BARS)が挙げられます。
職能資格制度に基づく評価
職能資格制度とは、社員が職務を遂行するために求められる能力(職能)を基準にして評価し、その能力に応じた等級を定める制度です。等級は職能要件書に基づいて策定され、各等級に応じた賃金テーブルが設定されます。
職能資格制度では、能力が高いほどより高い報酬を得られますが、役職の昇進とは必ずしも連動しないのが特徴です。また、能力の定義が曖昧だと、業務の成果よりも在籍年数や経験が重視される傾向があり、結果的に年功序列的な評価となる場合があります。
そのため、MBO(目標管理制度)などの業績評価制度と併用して、成果を公平に反映させる運用が効果的です。
自己評価シート
自己評価シートとは、社員が自身の業務状況や達成度を振り返り、現在の状況や課題、改善策などを記入するためのツールです。これにより、自分の強みや弱みを整理し、自己の成長計画を立てられます。また、自己評価シートは上司との面談時にも活用され、双方の認識のずれを減らし、公平な評価を促進するためにも有効です。
ただし、社員が自分の成果を過大評価したり、過小評価したりするリスクがあります。また、成長意欲の乏しい社員に対しては、自己評価シートの意義が薄れることもあるでしょう。
行動基準尺度法(BARS)
行動基準尺度法(BARS)は、具体的な行動例を基準に点数を付けて評価する手法です。例えば、「報告・連絡・相談(報連相)」の評価項目では、5点(非常に良い)は「課題を共有し改善策を提案する」、3点(普通)は「指示通り報告・連絡は行うが自主性は低い」、1点(不十分)は「報告が不十分」といった形で設定します。
行動基準尺度法の利点は、評価基準が具体的な行動に基づいているため、評価者の主観が入りにくく客観性が高まる点です。しかし、適切な評価基準の作成が難しいうえ、特定の行動に焦点を当てるため、網羅性に欠ける側面があります。
人事考課・人事評価を行う際の注意点
人が人を評価する人事考課、人事評価では、客観性や公平性が保たれない課題に直面することもあるでしょう。実施する際の重要な注意点を3つ解説します。
制度の目的や使い分け方が理解されていない
評価制度の目的や仕組みが社員に伝わっていないと、不満や混乱が生じやすくなります。評価基準が不明確だと、社員の納得感が得られず、モチベーションの低下につながりかねません。
特に、上司と部下の認識にずれが生じると、不公平感が生まれ、人間関係の悪化を招くおそれがあります。まずは、人事評価と人事考課の違いと使い分けが明確に理解されているかを、人事部が確認することが重要です。
企業と社員の評価基準にギャップが生じる
企業が設定する目標と社員が理解する目標にずれがあると、やる気の低下や不満の原因になりやすいです。例えば、「売り上げを3倍にする」といった非現実的な目標は、社員の達成意欲をそぎ、逆効果になります。
対策としては、目標設定にSMARTの法則(具体的、測定可能、達成可能、関連性、期限)を取り入れることが有効です。これにより、実現可能な目標が明確になり、社員の納得感を高められます。
評価者の評価が偏っている
評価者のバイアスが評価結果に影響を与え、主観的な評価に偏ると、社員の不満が高まります。「ハロー効果(特定の印象が全体の評価に影響を与える)」や、「直近効果(評価期間の最後の行動が強く印象に残る)」など、無意識に働くバイアスは少なくありません。まずは、評価者がバイアスに陥るリスクを知る必要があります。
人事評価・人事考課の効果を高めるための対策
先ほどの注意点を踏まえて、ここでは人事評価・人事考課の効果を高めるための対策をさらに具体的に解説します。
人事評価・人事考課の情報発信や説明会を実施する
評価制度の目的や評価基準を全社員に理解してもらうためには、積極的な情報発信や説明会の実施が有効です。例えば、制度の位置付けや評価プロセスをガイドラインや評価マニュアルで明文化し、丁寧に説明することが求められます。
また、会社の目指す方向性と評価の重点を一致させることも重要です。例えば、「対応の迅速さよりも顧客第一の姿勢を評価する」という方針を伝えておくと、評価基準に対する納得感を高められます。
評価結果を伝えるフィードバック面談を丁寧に行う
評価結果は一方的に伝えるのではなく、背景や基準を説明しながら進めることが大切です。これにより、社員の納得感が高まり、不満の発生を防ぐ効果があります。
また、強みや改善点を具体的に示し、前向きな言葉でフィードバックを行うことで、社員は成長のモチベーションを持ちやすくなります。評価を伝えるだけではなく、今後の成長計画を共に話し合うことが重要です。
評価者に対する研修・サポート体制を整える
評価のばらつきを防ぐには、評価者のスキル向上と評価の視点の統一が欠かせません。経験不足や感情的な評価を防ぐため、評価者向けの研修を定期的に実施し、行動観察やアンコンシャス・バイアス(無意識の偏り)への気づきを促します。また、評価基準の詳細を説明する資料やケーススタディを活用し、評価者全体の視点を合わせていくことが重要です。
人事評価・人事考課を改善できた成功事例
ここでは、実際の取り組みとして、タレントマネジメントシステム「タレントパレット」を活用して人事評価・人事考課を改善できた事例を2社紹介します。
大阪ガス株式会社|人事評価を経営戦略に連動
大阪ガス株式会社が抱えていた課題は、事業の拡大に伴い、新たなスキルを持つ人材の確保です。しかし、人事データが各部門に分散しており、適切な人材配置や育成の判断が難しい状況にありました。
そこで、同社はタレントパレットを導入し、人事情報を一元管理する仕組みを整備しました。タレントパレットにより、各社員の経験領域やスキルが可視化され、異動や人材育成の際に、データに基づく的確な判断が可能になったと報告されています。
現在は、若手社員がキャリア意識を持つようになり、人材の活性化が進むと同時に、経営戦略に沿った人材配置が実現できるようになりました。
青山商事株式会社|人事考課の認識のズレを解消
青山商事株式会社では、上司と部下の間で評価に対する認識のずれが課題となっていました。これにより、評価に対する不満や納得感の低さが目立っていたといいます。問題解決のため、同社はタレントパレットのシステム上に面談記録を残し、上司と部下双方で実績や現在のスキルを客観的に見直せる仕組みを導入しました。
これにより、評価に至るプロセスが明確になり、上司と部下の相互理解が進み、人事考課の納得感が高まったと報告されています。
参考:青山商事が目指す採用から育成、配置、定着、活躍まで一気通貫した人材マネジメント
まとめ
人事評価は社員の成長やキャリア開発に焦点を当てたものであり、人事考課は処遇決定のための評価基準としての役割を担います。これらの制度を効果的に活用するには、評価の透明性と適切なフィードバックを通じて社員の納得感を醸成することが重要です。
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