人事評価は民間企業だけでなく、公務員も対象となります。しかし、利益を追求することを目的としない公務員の業務においては、評価方法の基準が統一化できないことや、目標設定がしにくいことなどの課題があるのが現状です。
本記事では、公務員の評価制度の概要や目的、制度の変更点などを解説します。あわせて人事評価のための目標設定のポイントを解説するので、ぜひ参考にしてください。
公務員の人事評価における概要
公務員の人事評価とは、職員が業務を行う上で発揮した能力や業績を勤務成績に反映し、評価を行うことです。職員をどの官職につけるのか、また給与額をどのくらいにするのかの指標とする、人事管理の基礎といった役割を持っています。また、公務員の人事評価を行うことで、組織内の意識共有や業務改善につながることも特徴です。
※参考:内閣人事局|内閣官房
公務員の人事評価における基準
公務員の人事評価には、「能力評価」と「業績評価」の2つの基準が設けられています。
能力評価
能力評価とは、公務員の能力がどの程度業務内で発揮されているかを査定するものです。あらかじめ業務に必要な能力の項目を設定し、職員がどの程度達成できているかをランク付けします。職員の保有能力や潜在能力は評価に含まれず、あくまで業務内で発揮した能力と、求められる能力が一致しているかどうかが判断基準です。能力評価は、年に1回実施されます。
業績評価
業績評価とは、職員が定めた定量的な目標がどの程度達成されたかを査定するものです。公務員が対応する業務は利益を追求しないことから、民間企業のように目標を数値化するのが難しい傾向にあります。業績評価を行う際は、あらかじめ評価基準を明確にし、適切な評価となるよう心がけなくてはなりません。業績評価は、年に2回実施されます。
能力評価・業績評価の違い
能力評価と業績評価とでは、評価の対象が異なることが大きな違いです。能力評価では業務の過程が評価されることに対し、業績評価では業務の結果を評価します。能力と業績は、どちらか一方のみを達成していても、国民や住民から求められる行政サービスを、十分に提供できているとはいえません。能力評価と業績評価を分けることで、適切な評価となるでしょう。
公務員の人事評価制度の背景・目的
公務員における人事評価制度が導入された背景と目的について、それぞれ解説します。
公務員の人事評価制度が導入された背景
近年では、良質な行政サービスを国民や住民から求められることが多くなりました。また、業務内容が年々複雑化・多様化していることに伴い、職員のレベルを上げていくことも求められています。一方で、職員数の減少も問題となっており、職場環境を改善する手段のひとつとしても、人事評価制度が導入されました。
公務員の人事評価制度が導入された目的
公務員の人事評価制度の目的は、おもに2つあります。1つ目は、任用や給与など人事管理の基礎にするためです。2つ目は、人材育成や組織全体のパフォーマンスを向上させることを目的としています。人事評価制度の具体的な目的は、以下の内閣人事局・人事院「人事評価マニュアル」の通りです。
※参考:人事評価|内閣官房
公務員の人事評価について根拠となる法律
公務員の人事評価制度は2007年に導入され、2021年10月に変更されています。人事評価制度を制定した法律について、順を追って見ていきましょう。
公務員の人事評価を制定した法律
公務員の人事評価制度が導入されたのは、2007年の国家公務員法等の一部が改正されたことが始まりです。2008年6月には、国家公務員制度改革基本法が公布・施行され、人事評価制度は、「能力および実績に基づく適正な人事評価を行うこと」と規定されました。
その後、2009年4月に国家公務員法等の一部改正を経て、2021年10月には国家公務員の人事評価制度が変更されています。具体的な変更点について、次項で詳しく見ていきましょう。
※参考:人事評価|内閣官房
国家公務員の人事評価における変更
2021年10月、国家公務員の人事評価制度が5段階評価から、6段階評価に変更されました。従来は評価がS・A・B・C・Dの5段階であったことに対し、変更後は従来のBを「優良」と「良好」の2つに分けることで、6段階としています。国家公務員の人事評価における変更は、人事評価の評価項目が不明確であった従来の方法を改善するために行われました。
変更前における評価の傾向
内閣官房内閣人事局の2020年の評語分布調査によると、変更前の国家公務員の一般職員評価は、S・A・Bの3つの評価が約9割を占めていたようです。理由としては、C以下の評価になった職員は昇給や昇任の面で大きく不利になることから、評価者がC以下の評価を付けづらい風習があったことが挙げられます。
また、職員のモチベーション低下を避けるため、あえてC以下の評価を付けない評価者もいたでしょう。このような従来の評価制度の実態を改善するため、評価制度の見直しが行われました。Bを2段階に分けてC評価に該当しそうな職員の新たな受け皿を作ることで、より正確な人事評価の運営につながっています。
※参考:評語分布調査(平成30年10月~令和2年3月)|内閣官房内閣人事局
公務員の人事評価制度によるメリット
公務員の人事評価制度を設けるメリットはさまざまです。例えば、職員のモチベーションを向上させ、目標達成とスキル獲得を連動させられます。また、職員の評価を人事配置に役立てることで、適材適所かつ効率的な行政サービスを行うことも可能となるでしょう。
また、人事評価をする上で、評価者と被評価者がコミュニケーションを取る機会が増えます。職員のエンゲージメントを可視化できることはもちろん、職員同士でビジョンを共有することで組織の活性化にもつながるでしょう。
公務員の人事評価制度における課題
公務員の人事評価制度はメリットが大きい一方で、現場では課題や問題点も散見されます。例えば、以下に解説するような点です。
人事評価による給与・ボーナスの差が小さい
公務員は民間企業と比較して給与やボーナスの差が小さい傾向にあります。理由は、国家公務員の給与は俸給表に応じて決まるためです。人事評価では評価ごとに2号俸の差が生まれ、例えばA評価の職員とB評価の職員では2号俸の給与の差があります。
しかし、A評価とB評価の給与の差は年間15万円程度とそれほど大きくなく、人事評価では差別化しにくいのが現状です。
公務員は目標設定が難しい
公務員の業務は利益を追求することではなく、公益の増進が目的となっています。民間企業とは異なり、売上目標や営業成績といった定量的な目標設定が難しいことも、課題のひとつといえるでしょう。また、目標にこだわりすぎると、人事評価に関係のない仕事をおろそかにする職員が出てくるリスクもあるため、慎重な目標設定が必要です。
人事評価の基準が統一されていない
人事評価には明確な基準がなく、評価者の主観に頼りがちになってしまうことも課題として挙げられます。特に、評価者が1人の場合や、被評価者と面識のない職員が評価を行う場合は注意が必要です。
また、公務員の業務は部局によって業務や難易度が異なるため、そもそも基準を設けることが難しい一面もあります。自治体による風土や文化の違いも考慮した上で、評価手法を工夫することが大切です。
公務員の人事評価を運用するポイント
課題の多い公務員の人事評価において、適切な運用を行うためのポイントを3つ挙げて解説します。
総務省のサンプルを目標設定の参考にする
公務員の目標設定については、総務省が公表している、目標管理シートのサンプルを参考にする方法があります。目標管理シートでは20の部署の事例が紹介されているため、自身が所属する部署で参考になるものがあるはずです。目標を設定する際は、期限・達成水準・取り組みの具体例・難易度などを記載するとよいでしょう。
面談を通して目標設定する
目標を設定する際は、評価者と被評価者による面談で決定する方法もあります。公務員は職員によって業務が異なるため、上司などの評価者からのアドバイスを受けることで、適切な目標設定ができる場合があるためです。目標設定の際は、組織目標と個別の職員の目標が連動しているか、達成度を評価する基準が明確化しているか、などの点も考慮しましょう。
地方自治体では制度を独自に設計
地方自治体の場合、独自の評価制度の設定が認められています。地方自治体の評価制度においても、能力評価と業績評価を軸として設計されるケースが多いようです。評価結果をどのように活用するかについても自治体によって異なりますが、多くは人材育成や人材配置、昇任・降任などの参考にされます。
公務員が人事評価の目標設定をする際のポイント
次に、公務員が人事評価を行うための目標設定をする際のポイントを3つ挙げて解説します。
目標を具体的なものにする
人事評価の目標は、できるだけ具体的に設定することが大切です。具体的な取り組み内容を記載するとともに、目標を数値化しましょう。ただし、目標は必ずしも数値化できるものばかりではないため、プロセスも評価対象にするなどの工夫も必要です。チームの目標を立てる際は、個別の職員の役割も設定するとよいでしょう。
求められる職員像を押さえておく
目標設定をする前に、そもそも公務員において、求められる職員像を把握しておくことも大切です。例えば、職務を誠実に遂行する能力や、住民に公平・公正な態度で接することができる能力などが挙げられます。また、与えられた仕事だけではなく、創意工夫して柔軟に行動できる能力なども求められるでしょう。
SMARTの法則を取り入れる
SMARTの法則とは、プロジェクト成功に導くために不可欠な5つの要素の頭文字を取ったものです。目標設定に取り入れることで、組織のパフォーマンス向上に役立つといわれています。SMART の法則の5つの要素は、以下の通りです。
- S:Specific(具体的)
- M:Measurable(計測可能)
- A:Achievable(達成可能)
- R:Relevant(関連がある)
- T:Time-bound(期限がある)
SMARTの法則を採用すると、評価基準が明確になり人事評価の査定がしやすくなります。また、業務効率化や職員のエンゲージメント向上につながることもメリットです。
公務員(全般)の目標一覧・記入例
公務員全般における目標設定の記入例を一覧にして紹介します。
KPIを個人目標に設定する具体的な方法や運用手順、注意点を解説
公務員(全般)の目標一覧
公務員全般において設定するべき目標は、以下の通りです。
- 制度再検討に関する目標
- 業務効率に関する目標
- 企画に関する目標
- 税務に関する目標
- 総務に関する目標
- 個人のキャリアに関する目標
それぞれの目標の具体例を以下の項目で解説します。
制度の再検討に関する目標の例
- 〇〇制度の再検討にあたって、住民の声を反映したうえで必要性の低い条文を廃止し、〇月までに制度の改訂版を示す
- 〇〇制度を法改正に合わせて改訂し、期末までに完成させる
業務効率に関する目標の例
- 事業を効率化させる取り組みを推進し、事業全体にかかるコストを10%削減する
- 職員のワークライフバランスに基づき、テレワークの推進や業務分担の見直しを行う
- 行政事業レビューを行ったうえで、行政ニーズを把握し、事業スキームを改善する
企画に関する目標の例
- 期内に〇〇交流会における運営基本方針を策定し、公表する
- 年内に制度設計を完成させ、審議会で試行の了承を得る
- 〇月中に重点事業の総合計画を立案し、市長の了承を得る
税務に関する目標の例
- 土地家屋の現地調査を行ったうえで、資産税へ反映させる仕組みを作成する
- 市民税の修正・更正件数を15%削減する
- 税金対象者への電話通知や訪問などを週10件以上行う
総務に関する目標の例
- 市民からの問い合わせ内容や件数を整理し、マニュアルを作成する
- 来庁者を対象としたアンケートを参考に、クレーム対応や業務改善に関する資料を作成する
個人のキャリアに関する目標の例
- 定例会で発生した連絡事項のクラウド共有フォルダの管理を徹底し、連携ミスをなくす
- 消耗品の減少率を部署ごとに毎月チェックし、消耗品費を年間5%削減する
公務員の人事評価を効率化する方法
公務員の人事評価は、効率的に行うことも大切です。業務効率化のためにできる方法を2つ解説します。
人事評価システムの導入がおすすめ
現状では、公務員の人事評価をExcelでのデータ管理や紙で行っている自治体も多くあります。しかし、Excelや紙は手動で人事評価を管理する必要があり、手間がかかる上に確認しづらい点がデメリットです。近年では人事評価システムを採用する自治体が増えているため、業務効率化を図りたいと考えている場合は、人事評価システム導入を検討するとよいでしょう。
公務員向け人事評価システムとは?
人事評価システムのなかには、公務員に特化したものも存在します。公務員向けの人事評価システムは自治体の人事評価を対象としているため、公務員関連法を踏まえて設計されていることが特徴です。効率的かつ適正な人事評価を運用したい自治体は、公務員向けの人事評価システムが役立つでしょう。
まとめ
公務員の人事評価は、具体的かつ数値化可能な目標を掲げるなど、評価基準を明確にすることが大切です。適切な目標設定を行うことは、人事評価に役立つだけでなく、業務効率化や職員のモチベーションアップにもつながります。目標設定を具体的に掲げた上で、人事評価システムを導入するとよいでしょう。
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