評価制度に悩んでいる人事担当者も多いでしょう。効果的な方法としては、たとえば相対評価や絶対評価などがあります。適切な評価制度を構築するには、方法についてよく理解することが大切です。本記事では、相対評価と絶対評価をクローズアップし、それぞれのメリット・デメリットや運用における注意点などを解説します。企業が実際に行っている評価制度の事例も紹介するため、ぜひ参考にしてください。
相対評価とは?
相対評価とは、どのような評価方法でしょうか。ここでは、相対評価の概要と企業で行われている例について解説します。
他者との比較によって評価を決める方法
相対評価とは、本人と他の社員を比較し、それぞれの差に応じて成績を決める評価方法です。組織や集団のなかで個人の能力や成績を評価し、相対的な順位を明らかにします。そのため、本人の実力だけでなく、他の社員の実力も評価に影響を与える可能性が高いです。相対評価は、従来の日本でよく行われていました。
相対評価を行う場合、たとえば「ランクSは10名、ランクAは20名」のようにそれぞれの評価を与える人数を事前に決めておき、実際の評価に応じてランクを当てはめます。
企業で行われている例
企業で行われている相対評価は、主に2つに分類できます。1つ目は、チーム単位で社員の成績を比較して順位をつける方法です。2つ目は、成績の平均を基準にし、グループに対する貢献度を評価する方法となっています。
全員が高い成績でも、相対評価は順位づけにより明確な優劣をつけることが可能です。そのため、必ず予算内に人件費を収められます。評価の分布のバランスも取りやすく、1990年代以降によく活用されるようになりました。
絶対評価とは?
絶対評価は個人の実績を重視する評価方法です。ここでは、絶対評価の概要と企業で行われている例について解説します。
基準に沿って成果や能力を評価する方法
絶対評価とは、個人のノルマや目標の数値の達成度合いに応じて成績を決める方法です。基準をあらかじめ定めておき、それに照らし合わせて社員ごとに評価を下します。他者と比較せず、個人の実績やスキルに基づいて客観的に評価することが可能です。
目標に対する成果がそのまま成績に反映されるため、評価される社員の納得も得やすくなっています。近年は多くの企業で導入されており、一般的になりつつある方法です。
企業で行われている例
絶対評価は、個人の目標達成度やスキルレベルを基準に評価する制度です。他者との比較ではなく、個人の成長に焦点を当てているため、社員のモチベーション向上につながりやすいという特徴があり、導入する企業も増えました。
しかし、評価基準の設定が難しく、評価者の主観が入り込む可能性もあるため、注意が必要です。絶対評価のみでは偏った判断になる可能性もあるため、相対評価と絶対評価の組み合わせも検討しましょう。
相対評価と絶対評価の違い
相対評価と絶対評価には、どのような違いがあるのでしょうか。ここでは、それぞれの違いを詳しく解説します。
定義・基準
相対評価と絶対評価は、それぞれ評価の基準や方法が異なります。相対評価は、特定のグループ内で他の人と比較する形で個人を評価する方法です。一方、絶対評価では、あらかじめ定められた基準に基づき、個人を他者と比較することなく評価します。
また、評価基準にも違いがあります。相対評価では、集団内での順位や相対的な位置づけが基準です。一方で絶対評価では、事前に設定された目標や基準に対する達成状況が評価の根拠となります。
具体例
相対評価は「ランクSは10名、ランクAは20名、ランクBは30名」のように評価の枠組みをあらかじめ決めておき、成績が高い順にランク分けを行います。各ランクの人数があらかじめ決まっている点が特徴です。
それに対して絶対評価は「目標の達成率が120%以上ならS評価、100%以上ならA評価、80%以上ならB評価」のように、目標の達成率に応じて評価が決まります。絶対評価では各ランクの人数は決まっておらず、ランクごとの人数に偏りが生じる場合も少なくありません。
近年は絶対評価が注目されている
以前の日本では、多くの企業が相対評価を取り入れていました。相対評価は基準を事前に定めておくとスムーズに評価でき、全体のバランスも取りやすいためです。しかし、所属するグループによっては正当な評価を受けにくくなります。また、近年は個人のスキルや成長を重視する傾向が強まっており、絶対評価が注目されるようになりました。
後述するとおり、絶対評価にもデメリットは存在します。そのため、実際には絶対評価のみでは評価せず、相対評価と絶対評価を組み合わせて活用している企業が多いです。それぞれの評価方法を組み合わせれば、メリットを生かして適切な評価を実現しやすくなります。
相対評価のメリット
相対評価にはメリットが豊富です。ここでは、相対評価にどのようなメリットがあるか詳しく解説します。
順位をつけるため評価しやすい
相対評価は、社員間での比較によって順位を明確にすることができるため、評価の手間が少なく簡単に導入できるという特徴があります。他者との比較をもとに優劣を判断し、はっきりとした差をつけることが可能です。また、個々の特性や個性を考慮しないため、評価者にとって負担も軽減できます。
一方、絶対評価では事前に基準を定め、各社員の特性や目標達成度を細かく確認しなければなりません。その結果、評価者の準備や判断に時間や労力がかかり、相対評価と比べて負担が大きくなる場合があります。
評価者の主観が入りにくい
相対評価では各ランクの人数があらかじめ決まっており、社員同士を比較して決定した順位づけに基づいて当てはめていきます。そのため、評価者の主観が入りにくく、公平な評価が可能です。
好き嫌いといった感情的な判断が入り込む余地がなく、評価者の個人的な判断が反映される心配がありません。評価のバラつきの発生も防げます。個人の判断によらないため、評価者が交代しても評価が変化しにくい点も特徴です。社内の体制が変わっても、常に同様の判断ができます。
組織内の競争意識が活発化しやすい
相対評価では組織内における順位が決まるため、社員の競争意識を高められます。競争意識の芽生えにより、各社員がより高い成果を出そうと努力する可能性が高いです。評価を上げるには他の社員より高い成果を出さなければならず、工夫やスキルアップが必要となります。仕事に対するモチベーションの向上にもつながるでしょう。
相対評価を取り入れると社員のやる気を引き出しやすく、社員同士が切磋琢磨する雰囲気が生まれます。そのような意識が職場に浸透すれば、全社的に高い成果を上げられる可能性が高いです。
相対評価のデメリット
相対評価にはデメリットも存在します。特に、評価の公平性や、社員のモチベーションへの影響について、注意深く検討しましょう。
グループによって評価が異なりやすい
相対評価は社員が所属する団体やグループごとに順位をつけるため、全体のレベルが高いと評価されにくい方法です。個人のスキルが高く、それなりに実績を出していても、評価が低くなる恐れがあります。反対に、所属する団体やグループのレベルが低い場合は、個人のスキルが低く、あまり実績を出せていなくても、高い評価を受ける場合もあるでしょう。
相対評価は、このように所属する団体やグループによって評価が変わる可能性があります。そのため、必ずしも適切に評価できるとは限りません。場合によっては不適切な評価になるリスクもあります。
個人の成長・取り組みに注視しづらい
相対評価は全体のなかの順位に基づいて本人の評価を決めるため、個人の成長や取り組みは加味しにくい方法です。たとえば、それまでと比べて飛躍的に成長し、高いスキルを身につけた社員がいれば、特に高く評価する必要があります。
しかし、相対評価では、あくまでも全体における相対的な判断しかできません。グループ全体の成績やスキルも向上していれば、むしろ評価が下がる可能性もあります。相対評価は成果にフォーカスして判断するため、目標達成に向けて社員が努力したプロセスを評価できません。個人の努力を評価しにくく、社員のモチベーションを低下させる恐れもあります。
足の引っ張り合いが生じる可能性がある
すでに述べたとおり、相対評価は競争意識を活性化できるものの、場合によっては集団内で足の引っ張り合いが生じる可能性もあります。自分の評価を上げるため、他の社員の邪魔をしようとする社員が発生しないとも限りません。
評価のために一部で足の引っ張り合いが発生すると、組織全体にも悪影響を及ぼします。また、相対評価によって社内の競争意識を刺激しすぎれば、社員同士の協力を妨げる原因にもなるでしょう。一体感が損なわれ、企業が求めているような成果を出せなくなる恐れもあります。
絶対評価のメリット
絶対評価は、社員1人ひとりの成長を促し、組織全体の活性化につながる、画期的な評価制度です。絶対評価が社員と組織にもたらす具体的なメリットを解説します。
1人ひとりにフォーカスした評価ができる
絶対評価では社員1人ひとりが個別の目標を設定し、その達成度合いをもとに最終的な評価を下します。相対評価とは異なり、周囲とは比較しません。そのため、個人の成績、スキル、目標達成までのプロセスなどにフォーカスし、それぞれを適切に評価できます。
また、他の社員との競争が発生しないため、それぞれのペースによる着実な成長を促すことが可能です。社員それぞれの状況をチェックするため手間はかかるものの、個人の特性や成長のスピードなどを正確に把握できます。
評価についてフィードバックしやすい
絶対評価は個人にフォーカスしているため、評価が行われた理由を明確にフィードバックできます。具体的にどのような点が評価され、今後は何に重点を置いて取り組めばよいかを正確に伝えることが可能です。評価の透明性が高く、社員も評価の結果に納得しやすくなります。
評価が低い場合も結果を受け止めやすく、建設的な振り返りが可能です。評価を次の活動に生かせるため、より高いパフォーマンスを発揮できるよう前向きに努力できます。
人事評価制度とは?評価の具体的な構成や目的、評価内容を知ろう
課題がわかりやすく、今後の育成につなげられる
絶対評価は社員1人ひとりの成果を見て判断を下すため、周囲との比較や順位づけは必要ありません。評価基準が明確であり、社員個人が抱える課題を把握できます。それぞれがクリアすべき課題が分かりやすいため、解決に向けた段階的な目標設定が可能です。
課題が明確になると、社員に対するアドバイスも適切に行えます。状況に即した意義あるサポートを実現できるため、社員の成長速度を飛躍的に向上させられる可能性の高さも魅力です。
絶対評価のデメリット
絶対評価は、個人の努力を評価する画期的な制度ですが、導入にあたっては慎重な検討が必要です。ここでは、絶対評価のデメリットを解説します。
評価にバラつきが発生してしまう
絶対評価では他者の成果を考慮せず個別に評価するため、評価者によって評価にバラつきが生じる恐れがあります。絶対評価の場合、成約数や売上などの数値だけでなく、目標達成に向けたプロセスも評価の対象です。数値化できない要素も評価の対象に含まれており、評価者の価値観に応じて評価が変わる可能性もあります。
そのため、評価者が交代すれば、社員が以前と同じように仕事に取り組んでいても、評価が大きく変化するかもしれません。評価者の判断によっては、社員が評価に不満を抱く恐れもあります。
評価基準を定めづらい
絶対評価は、個人が設定した目標をどの程度達成したかをもとに評価を行うため、基準の設定が重要です。基準が社員にとって難易度が高すぎたり低すぎたりすると、正確な評価が難しくなります。そのため、評価基準を決める際には、過去の実績データを参考にしたり、社員の能力や状況を考慮したりしながら、最適な基準を慎重に検討しなければなりません。
評価基準を適切に運用するには、人事部門と現場の各部署の管理職が連携して取り組むことが重要です。一部の企業では、公平で正確な評価を行うため、評価者や目標管理者に向けた研修を実施しています。絶対評価を効果的に導入するためには、評価基準の設定や運用に関してさまざまな工夫と準備が欠かせません。
評価格差をつけにくく、バランスを取りづらい
相対評価は評価の各ランクの人数があらかじめ決まっていますが、絶対評価にはそのような枠組みがありません。あくまでも目標の達成度合いが基準となるため、社員同士の評価の差をつけにくいという課題もあります。
たとえば、Sランクの該当者がおらず、B~Cランクの分布が多くなるケースも多いでしょう。この場合、昇給する社員や特に高いインセンティブを受ける社員を決められません。また、SランクやAランクの分布が多くなりすぎた場合は、人件費が高騰する恐れもあります。相対評価を導入するなら、評価とそれに対する報酬の与え方についてもよく検討するべきです。
人事評価は社員の納得感を高めることが重要
組織運営における人事評価では、社員の納得感が特に重要です。実際には企業の経済状況に応じて評価基準が左右されるケースも多く、全員が完全に納得できる評価制度の構築は簡単ではありません。可能な限り納得を得られる評価制度を実現するには、評価基準、達成すべき課題、目標などの明確化が必要です。また、上司や第三者による監視とマネジメントにも力を入れなければなりません。
さらに、経営層から積極的にアドバイスしたり、社員同士がフィードバックし合ったりできる環境を作ることも大切です。客観的に自分の仕事ぶりに目を向けられるようになり、評価に対しても納得しやすくなります。
相対評価と絶対評価はどう使い分けるべき?
相対評価と絶対評価は考え方が異なる評価方法であり、使い分けが大切です。ここでは、それぞれの使い分けのポイントを解説します。
評価者が少ない・負担を減らしたいなら「相対評価」
相対評価は集団で比較して順位をつけるだけで評価が決まるため、評価者にとってそれほど負担がありません。よって、評価者が少ない場合や評価者の負担を減らしたい場合は、相対評価が向いています。評価について明確な基準を設ける必要はなく、導入のハードルも低めです。
ただし、評価に対して社員から納得を得るには、積極的なコミュニケーションが求められます。一方的に評価を下すのではなく、社員との関係の強化により評価に対する信頼度を高めましょう。
社員のモチベーション向上を目指すなら「絶対評価」
社員のモチベーションを高めたいなら、絶対評価がおすすめです。相対評価は他の社員と比較した結果に基づいて評価が決まり、目標達成に向けたプロセスにはあまりフォーカスしません。しかし、絶対評価なら1人ひとりの取り組みに焦点を当て、総合的に判断を下せます。
また、評価が他の社員の評価に左右されないため、成果に応じた適切な評価を実現することが可能です。評価を受けた社員のモチベーションを向上させやすく、さらなる活躍も期待できます。
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「相対評価」と「絶対評価」を組み合わせる手段も
すでに触れたとおり、相対評価と絶対評価を組み合わせている企業も少なくありません。たとえば、1次評価を絶対評価、2次評価を相対評価で行い、それぞれの視点を加味して最終的な評価を下す方法があります。
それぞれの考え方を取り入れてバランスよく評価できるため、企業と社員の両方にとって適切な評価を実現しやすい手法です。社員の納得感も得やすく、評価を受け止めて次の目標達成に向けて努力しやすくなります。
運用する際の注意点
相対評価や絶対評価を運用する際は気をつけたいこともあるため、具体的な注意点を挙げて解説します。
相対評価を運用する際のポイント
相対評価では集団における順位を決めるため「なぜあの人より評価が低いのか」と不満を持つ社員が発生する可能性もあります。社員の納得を得るには、詳しい評価方法を決めて社員に示すと効果的です。
また、社員が必要以上に評価を気にしないよう、評価の伝え方を工夫する必要があります。フィードバックの際にはポジティブな言い回しを心がけ、プレッシャーを与えすぎないようにしましょう。
絶対評価を運用する際のポイント
絶対評価の評価基準は、事前に設定した目標の達成度合いです。ただし、社員が努力していても、なかなか成果が出ない場合もあります。そのような社員も公平に評価するには、そもそも適切な目標を設定できているか確認しなければなりません。
さらに、目標達成までのプロセスも評価対象にすることが大切です。単なる成果だけでなく、個人の努力や成長過程を評価することで、より公平で、社員のモチベーションにつながる評価を実現できます。
実際の企業で行われている評価事例
各企業ではどのような評価を行っているのでしょうか。ここでは、実際の企業で行われている評価事例を紹介します。
ピジョンホームプロダクツ株式会社
育児用品を製造販売しているピジョンホームプロダクツ株式会社は、タレントパレットを活用して社員のスキルや成果をデータ化し、評価基準を可視化しています。成果を比較するだけでなく、社員個人の成長も考慮しているため、バランスの取れた評価が可能です。また、評価基準を統一し、透明性を強化して評価の公平性を保っています。
単に評価を下すだけでなく、それぞれのパフォーマンスに基づいた適切なフィードバックも取り入れました。これらの取り組みにより、組織の成長とエンゲージメントの向上にもつながっています。
株式会社PILLAR
電子機器や産業機器に関連する事業を展開している株式会社PILLAR(旧日本ピラー工業株式会社)では、タレントパレットにより社員のスキルや業績を一元管理しています。そして、明確な基準を設け、絶対評価を採用しました。情報の一元管理により社員の取り組みや努力も適切に認識できており、公正な評価を行っています。
また、個別のフィードバックも行い、キャリア支援に力を入れている点も大きな特徴です。社員の希望や意欲なども確認できるため、それぞれに応じた適切な対応が可能になっています。これにより、組織の成長とエンゲージメントの向上を実現できました。
まとめ
評価制度において従来は相対評価が一般的でしたが、近年は絶対評価を取り入れる企業も増えています。それぞれにメリット・デメリットがあるため、両方を組み合わせている企業も少なくありません。適切な評価制度を構築するには評価方法の特徴を考慮し、社員が納得できるようにする必要があります。
タレントパレットは、社員に関する幅広いデータをまとめて管理しつつ、有効活用できるタレントマネジメントシステムです。具体的には、採用、育成、配置、離職防止、経営の意思決定などに対応しています。生成AIによる分析により、科学的な人事を実現可能です。評価制度のスムーズな運用にも役立つため、ぜひ導入をご検討ください。