近年は、戦争・災害・感染症など、予測不能な出来事が次々と起こっている状況です。このように予測不能な出来事が起こる時代を「VUCA(ブーカ)時代」といいます。この記事では、VUCAの意味や背景、VUCA時代に企業が備えること、VUCA時代に求められる人材などを詳しく解説するため、ぜひ参考にしてください。
VUCA(ブーカ)・VUCAの時代とは?
VUCAの意味は「先行きが見えず未来の予測が難しくなる」状況や時代です。ビジネス用語としては、「想定外のこと」「予測不能なこと」を表す場合もあります。
VUCAを構成する4つの要素
VUCAという用語は、以下の4つの要素の頭文字を取ったものです。それぞれの要素について詳しく解説します。
- 変動性(Volatility)
- 不確実性(Uncertainty)
- 複雑性(Complexity)
- 曖昧性(Ambiguity)
変動性(Volatility)
変動性は、人々の考え方の変化や多様化、テクノロジーの進化・発展などにより、社会の仕組み・価値観・ニーズが変わることを指します。スマートフォンやAIの普及、テレワークの普及などは、変動性の代表的な例です。
先の見通しが立たず、さまざまなことが目まぐるしく変化する状況が不安要素になります。変動性に迅速かつ適切に対応することが重要です。
不確実性(Uncertainty)
不確実性は、自然環境・政治・制度などの予測が困難で、将来の見通しが不透明な状況を指します。地球温暖化による気候変動、未知の疾病、終身雇用制度などの従来の雇用制度の崩壊などは、不確実性の代表的な例です。
将来を予測することが難しく、正確な情報を集められないことが不安要素になります。仮説に基づいた製品開発、市場のニーズや状況の変化に柔軟に対応するなどの対応が必要です。
複雑性(Complexity)
複雑性は、自然環境、国の法律・文化、海外の習慣・常識などが複雑に絡み合っている状況を指します。多様化する人材、SNSの普及による情報の正誤、ビジネスのグローバル展開などは複雑性の代表的な例です。
従来のやり方が通用しないことが不安要素になります。たとえば、国内のビジネスが成功していても、海外では法律や常識が違うため通用しないケースは、複雑性が一因といえるでしょう。複雑な問題を柔軟に受け入れながらも、適切に判断していくことが求められます。
曖昧性(Ambiguity)
曖昧性は、先に挙げた変動性、不確実性、複雑性などのさまざまな要因が重なって前例のない出来事が増えることを指します。これまでの経験や方法が通用しないことが不安要素です。
広告が新聞・雑誌・TVからSNSや動画サイトが主流になったことなども曖昧性が一因となっています。車の分野において、自動車メーカー以外のテクノロジー系の企業が進出したことなども曖昧性の代表的な例です。過去の実績や成功例に頼り過ぎない姿勢が求められます。
VUCAの語源・背景
VUCAは、1985年に経済学者の著書で使われた言葉です。もともとは、冷戦後に比べて戦略が不透明で複雑になった状況を表す言葉として1990年前後から軍事用語として使われていました。頻繁に使われるようになったきっかけは、2001年に起きたアメリカ同時多発テロです。2010年代からは、変化が激しい世界情勢を表すビジネス用語としても使われるようになっています。
VUCAが注目される理由
VUCAが注目されるようになったのは、2016年に開催された「世界経済フォーラム(ダボス会議)」です。「VUCA World」という表現が使われたことから、世界で認知されるようになりました。経済産業省が2019年に発表した「人材競争力強化のための9つの提言」で、VUCAという表現を使ったことが、日本で急速に認知が高まった要因です。
VUCA時代に合わせた対応や新しいサービスやテクノロジー導入が求められているので、日本のビジネス界においても注目されるようになりました。
※参考:人材競争力強化のための9つの提言(案)~日本企業の経営競争力強化に向けて~|経済産業省
VUCAの時代に起こり得ること
VUCAの時代には、以下のようにさまざまな変化や出来事が起こり得ます。
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常識の変化
これまで常識とされていたことが常識でなくなるという変化が起こりやすいことが、VUCA時代の特徴です。たとえば、テクノロジーの進化によって、これまで想像しなかったような新たな製品・システムが生まれています。
これまではオフィスに出勤することが当たり前とされていましたが、リモートワークが推奨されるようになったことも大きな常識の変化といえるでしょう。十数年前の常識は、過去のものとなり、今後も変化が激しい社会では新しい常識が続々と生まれることが予測されます。
想定外の出来事
人類が日々想定外の出来事に見舞われることもVUCA時代の特徴です。近年も気候変動、自然災害、感染症、戦争、貧困など、予測不能な出来事が次々と起こっています。今後も不可逆的な出来事や常識の崩壊などが起こる可能性は否めません。
新しい商品・サービスの出現
VUCA時代は悪いことばかりではありません。数十年前にはなかったような新たな商品やサービスが生まれることもあります。たとえば、現在普及している「Uber」や「Airbnb」などは、数十年前にはなかった新しいサービスです。これまでは同業の競合を意識すればよかった状況でも、これからは業界という枠組みがなくなり、競合予測がしづらくなっています。
VUCA時代における日本の動き
日本では、先に解説した経済産業省の「人材競争力強化のための9つの提言」をきっかけにVUCAの概念が広まりました。文部科学省では、STEM教育やキャリア教育の充実など教育改革に取り組んでいます。さらに、SDGsの目標4である「質の高い教育をみんなに」を実現するために2030年を目途に、今後もさまざまな取り組みを行っていくでしょう。
※参考:JAPAN SDGs Action Platform|外務省
VUCA時代に企業が備えること
先行きが見えず未来の予測が困難なVUCA時代こそ、企業は以下のような備えが必要になります。
ビジョンを明確にする
VUCA時代は、将来を予測することが困難です。しかし、企業は変化に対応していかなければなりません。変化する社会に対応していくためには、ビジョンを明確にすることが重要です。ビジョンが明確でないと一貫した対応ができなくなります。
ビジョンが曖昧な場合は、自社が何を行うべきかわからなくなり、その場しのぎになったり時代に流されたりするので注意が必要です。
チャレンジできる環境をつくる
これまでの常識が通用しなくなり、経験や価値観の変化が求められます。新たな常識や生活に上手く対応できるように、チャレンジする姿勢も必要です。先行きが予測できないからこそ、これまででは考えられなかった商品やサービスがヒットする可能性もあるでしょう。企業は、社員が新たなことにチャレンジできるような環境づくりを整備することも重要です。
情報収集・分析力を強化する
急激な社会や業界の変化、最新トレンドなどを素早く察知するためには、企業の情報収集・分析力を強化することが欠かせません。国内外の情報や情勢、最新の技術や流行、市場動向、消費者ニーズなどを把握して、予測を柔軟に変化させていくことが必要になってきます。
ただし、VUCA時代は情報の移り変わりが早いので、情報収集の際には正誤に注意しなければなりません。加えて、情報のソースをうまく見極め、信頼できる情報源を見つけることも重要です。
VUCAに対応できる人材を育成する
社員それぞれがVUCA時代に対応できるように育成することも企業の役割です。マネジメント層のリーダーシップ強化を図り、社員がビジョンに向けて行動できるように導く必要があります。VUCA時代に対応できるような人材については、後述するので参考にしてください。
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VUCA時代に求められる人材とは?
VUCA時代に対応できる社員を育成することは企業の重要な役割です。VUCA時代には、以下のような人材が求められます。
課題を発見し解決できる人
変化が激しいVUCA時代では、課題がこれまでの前例と異なる場合があります。VUCA時代においては、顕在化していない課題を見つけて、解決策を素早く実行できる能力が必要です。成功パターンだけにとらわれず、本質を見抜く力を育成する必要があります。
リーダーシップがある人
VUCA時代は先を見通すことが難しいため、組織やチームにおいても目標設定が困難になります。率先して行動し、組織の方向性を示してメンバーの行動や意思決定を促進するリーダーシップが必要です。リーダー層は、メンバーのモチベーションの維持や向上させる力、能力が発揮できるようにサポートする力などが求められます。
テクノロジーの理解と情報収集力がある人
テクノロジーは変化の起点になることが多いため、テクノロジーの理解は必須です。新たなテクノロジーが自社の業界や自分にどのように影響するかを考えることで、正確な判断や新たなアイデアを生み出せるようになります。ただし、テクノロジーに詳しいだけではなく、情報を収集し、常に新しい情報を更新していくことも大切です。
臨機応変に対応できる人
VUCA時代は、想定外の出来事が多発するため、計画通りに物事が進まないことも多いでしょう。臨機応変に対処しなければならないことも多く、対応力が求められます。想定し得る最悪のパターンなど、リスクを常に把握して対応策を考えておくことも必要です。企業側も社員に頼り過ぎることなく、不測の事態に合わせて危機管理を行うことが求められます。
柔軟性がある人
VUCA時代は、異なる価値観や多様性のある人材を受け入れることも必要になります。特定の価値観に固執すると、新たな考えに至ることが困難になるでしょう。コミュニケーションを通じて、多様な意見に耳を傾けられる柔軟性が必要です。
迅速な判断力と行動力がある人
VUCA時代は、環境や状況が目まぐるしく変化していくため、迅速な判断力とそれに伴う行動力が必要です。トレンドや顧客ニーズは変化が激しいため、なかなか判断できない、迅速に行動できないなどの場合は、ビジネスチャンスを逃し、機会損失を生む可能性があります。
ただし、決断力と無謀さを履き違えると損失になることもあるので、速やかに最適な判断を下すことが重要です。冷静な判断を下すためにも、世界情勢や市場動向に注目し、日頃からシミュレーションを行うことなどが求められます。
自分で考えられる人
AIの技術が進化し、職業の多くがAIやロボットに代替されることが予測されています。ただし、AIやロボットは万能ではありません。人間のような創造性に欠けることがあります。AIと共存していくには、自分で考えられるように、広い視野を持ち、物事を学び続ける意欲が必要です。
ポータブルスキルがある人
ポータブルスキルとは、業種や職種、時代背景などが変わっても持ち運びができる汎用性の高いスキルです。ポータブルスキルが高い人は、どの企業でも必要とされる市場価値の高い人材であるといえるでしょう。厚生労働省では、ポータブルスキルを見える化するツールを公開しています。ツールを参考にして、人材育成に役立てるのもよいでしょう。
※参考:ポータブルスキル見える化ツール(職業能力診断ツール)|厚生労働省
VUCA時代に注目されるOODA(ウーダ)ループとは?
VUCA時代に対応する手法として、OODA(ウーダ)ループが注目されています。特徴や注目される理由は以下のとおりです。
OODAループの特徴
OODAループとは、迅速な判断力や行動力を高める手法です。OODAとは、以下の4つの頭文字を取っています。
- Observe(観察):計画に固執せず、今後の行動に関わる状況を観察・把握する
- Orient(状況判断):収集した情報を分析し、今後の動きを判断する
- Decide(決定):具体的な方針を決める
- Act(行動):プランをもとに実行する
OODAループの「ループ」とは、Actの後も結果を観察し、最初のObserveに戻ることを指します。
OODAループが注目される理由
OODAループを考案した人は、アメリカのパイロットです。OODAループも軍事用語として発生しました。OODAループは混沌とした戦地下でも、迅速に意思決定を下して行動に移すために考えられた用語です。
VUCA時代も刻一刻と状況が変わるため、混沌としているという点では戦時下と共通しています。全てを計画通りに行うことは難しいため、状況に応じて的確に判断し、柔軟に行動していくという点では、ビジネスにおける考え方や取り組み方のヒントになるでしょう。
OODAループとPDCAサイクルの違い
ビジネスの有名なフレームワークとしてPDCAサイクルがあります。PDCAサイクルは「計画と改善」を基本とする手法で、OODAループは「状況に応じて対応」する手法です。
時間にゆとりがあり、仮説が立てやすい状況ではPDCAサイクルが機能しますが、状況が変わりやすく予測不可能な状況ではOODAループが有効といえるでしょう。OODAループは組織、チーム、部署レベルでも必要ですが、個人にとっても欠かせない手法です。
まとめ
数年の世界情勢を見ても、戦争・災害・感染症など、予測不能な出来事が次々と起こっています。そのようなVUCA時代においては、十分な備えが必要です。企業がVUCA時代に備えるには、予測不能なことに柔軟に対応できる人材が求められます。そのためにも、人事データを整理しておくことが重要です。
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