人事評価に不服申し立てされる原因とは?対処法や防止策を解説


人事評価に不服申し立てされる原因とは?対処法や防止策を解説

企業は人事評価を通して社員の待遇や報酬を決定します。しかし、社員がその評価に納得できず、不服申し立てを行うケースも少なくありません。人事評価に対する不満が溜まったままだと、職場全体の士気が下がるおそれもあるため、適切に対処しましょう。


本記事では、人事評価に不服申し立てが起こる原因や企業側の対応方法、さらに未然に防ぐ方法について解説します。


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人事評価の不服申し立てとは

まずは、企業の人事評価や不服申し立ての概要から解説します。


そもそも人事評価とは何か

人事評価とは、社員の業務遂行状況や成果、職務態度などを評価し、処遇に反映させる仕組みです。おもに給与や賞与の金額、人事考課の決定に活用される他、社員の成長支援や組織改善に役立てられることもあるでしょう。


一般的に、人事評価の基準は「能力評価」「業績評価」「情意評価」の3つであり、それぞれの観点を総合して評価が判断されます。


人事評価の不服申し立てとは

社員は人事評価に不満があった場合に、不服申し立てが可能です。例えば、評価に不透明さがある、降格や言及に対しての説明に納得がいかないといった事情がある場合、不服申し立てが起こりやすくなるでしょう。


人事担当者は不服申し立てに対して真摯に対応する必要があり、適切に対処されなかった場合、訴訟に発展するリスクもあります。


人事評価の不服申し立てによる企業のリスク

社員から人事評価に対して不服申し立てがあった場合、企業側に発生するリスクはさまざまです。


まず、不服申し立てへの対応には長い時間と人的・金銭的コストがかかります。調査や面談、社内調整などの工数も無視できません。


さらに一歩誤れば訴訟や労働紛争のおそれがあるため、丁寧な対応が求められます。不服申し立てを行った社員だけでなく、組織全体のモチベーション低下につながる場合もあるでしょう。


また、企業の社会的評価が低下するおそれもあります。今まで築き上げてきたブランドイメージに傷がつき、採用活動や顧客との関係性に悪影響を及ぼす場合も少なくありません。


社員が人事評価に不満を感じる原因

社員が人事評価に不満を抱く背景に、評価制度の運用方法や評価者の姿勢が影響している場合があります。


人事評価の基準が具体的ではない

人事評価の基準があいまいだと、評価の妥当性が理解されにくくなり、社員の不満につながるでしょう


例えば、評価の観点や重みづけが明示されていない場合、どのような行動や成果が評価されるのかわからなくなってしまいます。評価者個人の裁量が大きくなり、一貫性が失われかねません。


公正な評価の根拠が示せなくなり、不服申し立てが起こるリスクが高まるでしょう。


主観的な人事評価で納得できない

評価者の主観に基づく評価は、不満の原因になりやすい要素です。特定の社員に対する好意的または否定的な感情が評価に影響している場合、不服申し立てが起こりやすくなるでしょう。


適切な人事評価をするには、評価者のスキルや訓練が必要です。無自覚に評価者の主観が影響している場合もあるため、客観的なデータや事実に基づいた評価が行われるよう、評価者の研修制度や全社的な評価基準の整備が求められます。


人事評価について説明・フィードバックがない

人事評価についての十分な説明やフィードバックがない場合、社員は不満を抱きやすくなりがちです。特に評価が低かった場合、その理由や改善点を提示しなければ、社員が納得できず、大きな不満につながるでしょう。


低い評価についての説明がないと、社員が今後どのように行動を変えるべきかわかりません。成長や改善につながらず、企業全体の成長にも悪影響が出るでしょう。


人事評価が昇進につながらない

一般的に、人事評価がよい場合は昇進や昇給など待遇のアップにつながります。せっかく成果を出したのに給与やポジションが変わらない場合も、不満の原因となるでしょう。


人事評価が昇進・昇給に直結していないと、社員が仕事に打ち込むモチベーションが下がってしまいます。最終的には離職につながり、組織全体の損失になることもあるでしょう。


説明なく降格・降給を受けた

社員が納得のいく理由の説明なく降格・降給を受けると、評価に納得できず大きな不満につながります。


社員にとって、降格・降給は非常に大きな問題です。そのため、降格・降給は明確な理由が説明できる場合のみ実施しましょう。


降格・降給を行う場合は評価の理由を丁寧かつ論理的に説明し、どのように改善すれば次回の評価が上がるのか提示することが重要です。


人事評価の不服申し立てにつながるケース

ここでは、人事評価に対する不満が不服申し立てにつながるケースの例を見ていきましょう。


人事評価が法令違反しているケース

人事評価が労働基準法や男女雇用機会均等法などの法令に違反している場合、不服申し立てにつながりやすくなります。


例えば、業務と無関係なプライベートの事情や、個人の思想・信条が評価に反映されている場合が当てはまるでしょう。ポジションや成果が同程度なのに男性の方が女性より高い評価を得ているなど、性別による差別があると考えられる場合も法令違反となります。


人事評価が成果主義に反映されていないケース

成果主義とは、年齢や学歴、勤続年数などにかかわらず、成果に応じて処遇を決定する制度です。


成果主義が評価に反映されていない場合も、不服申し立てにつながりやすくなります。例えば、年上の社員よりも大きな成果を上げたのに、自分の方が低い評価だった場合、評価制度に疑問を抱かれてしまうでしょう。


人事評価の結果については開示や説明の義務があるため、企業側が客観的な理由を評価の根拠とする必要があります。


人事評価・給与が連動していないケース

人事評価と給与が連動していないことも、社員の不満の原因のひとつです。


評価者の独断による昇給・降格がされたケースや、業績と関係ない事情でマイナス評価を受けたケースが当てはまるでしょう。このようなケースは人事考課権の乱用とみなされる可能性があり、訴訟に発展した際も企業側に不利に働きます。


人事評価の目標管理が不適切なケース

目標の管理が不適切だった場合も、不服申し立てにつながるでしょう。例えば、達成が現実的に難しい目標を企業側が設定したケースが該当し、目標管理制度の運用が不適切だとみなされる場合もあります。


今の実力では実現が難しい目標設定を求めるなら、能力向上のための機会をつくるなど、適切なサポートが必要です。


人事評価の不服申し立てにおける事例

ここでは、人事評価における不服申し立ての事例を2つ紹介します。


ダイエー事件

上司が部下の私生活上の問題に過度に介入した事例です。


部下に対する優越的な立場を利用し、人事評価への不利益をほのめかして私的な問題の解決を強要した行為が、「上司として許された説得の範囲を越えた違法な行為」と判断されました。このような行為は部下の自己決定の自由を侵害する不法行為とみなされ、損害賠償責任が発生します。


※引用:【第42回】 「部下の私的な生活範囲に対する会社上司の関与が不法行為にあたると判断された事案」 ― ダイエー事件|厚生労働省


コナミデジタルエンタテインメント事件

産休・育休後に短時間勤務での現職復帰を希望した社員に対し、企業側がこれを認めず、部署異動とともに年俸を減給した事例です。


東京地裁は、部署異動と役割グレードの引き下げは、人事権の濫用に当たらないとしています。しかし、育休取得年度の成果報酬がゼロとされたことに対しては、「裁量権濫用行為によるもの」として慰謝料の請求が認められました。


※引用:労政時報/労働判例集 全情報|全国労働組合総連合(全労連)


人事評価の不服申し立てへの対処法

人事評価に対する不服申し立てが提起された場合、冷静かつ適切に対応しましょう。


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評価者・社員への聞き取りを実施する

まずは、不服申し立てを行った社員から不満の内容を丁寧に聞き取ります。次に評価者から評価の根拠について聞き取り、双方の意見の正当性を比較することも重要です。


不服申し立てに正当性があり、評価を変更する場合は、誠実に謝罪を行った上で修正後の評価について説明しましょう。


「個別労働紛争のあっせん」を利用する

社内での解決が難しい場合、厚生労働省が提供する「個別労働紛争のあっせん」を活用してみてください


個別労働紛争のあっせんとは、労働問題に関する専門知識を持つ委員が第三者として企業と社員の間に入り、トラブル解決の支援をする制度です。労働問題の専門家で構成される各都道府県の労働委員会が、企業と社員双方から事情を聞き取った上であっせん案を作成してくれるため、温和な解決につながります。


申請手続きは簡単で、基本的に金銭的な負担も発生しません。ただし、資料郵送の切手代などがかかる場合もあります。


※参考:個別労働関係紛争のあっせん|厚生労働省


弁護士に相談する

個別労働紛争のあっせんでも解決しない場合は、民事訴訟になることを想定しましょう。特に「評価が差別的だと申し立てられている」「不法行為に当たる可能性がある」など、法的な問題を含むケースでは、適切な対処を取るため、早めに弁護士に相談することが重要です。


弁護士のアドバイスを受ければ、訴訟に発展した際の見通しや、今後の対応方針を立てやすくなるでしょう。


人事評価の不服申し立てを防止する方法

ここでは、人事評価の不服申し立てを未然に防ぐための方法を5つ紹介します。


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人事評価の基準を明確化する

人事評価の納得性を高めるためには、評価対象となる成果や行動といった評価基準の明確化が必要です。評価者と社員の間で評価基準の認識にズレがあると、不満が生じやすくなるため、評価基準を社員に周知してください。


文面だけでなく、説明会の機会を設けて直接説明すると納得感が高まるでしょう。


丁寧なフィードバックを実施する

人事評価の理由に納得できないと、不服申し立てが起こりやすくなります。評価を一方的に通知するだけではなく、社員一人ひとりに対して丁寧なフィードバックを行いましょう。


フィードバックでは評価の結果だけでなく、理由や経緯を共有することが重要です。評価が低い場合は、次回の目標達成に向けた改善点などのアドバイスを交えるとよいでしょう。


人事評価エラーを防止する

人事評価エラーとは、評価者の無意識なバイアスによって評価の公正さが損なわれる現象です。代表的な評価エラーには、以下のような種類があります。


  • ハロー効果:突出してよいポイントがあるために、その社員の行動すべてがプラスに見える
  • 寛大化傾向:全体的に甘めの評価をつける
  • 厳格化傾向:必要以上に厳しく評価する
  • 対比誤差:客観的な評価基準ではなく、自分と比較して評価する
  • 中心化傾向:評価を平均値に寄せてしまう。逆に極端すぎる場合は、極端化傾向と呼ばれる


このようなエラーがあると、評価の信頼性が下がってしまいます。評価者にエラーの存在を理解してもらい、事前研修や定期的なチェックを行うことが大切です。


評価者の評価スキルを向上させる

人事評価の質は、評価者のスキルに大きく左右されます。適切な評価を行うためには、評価者の育成も重要です。


社内研修や外部研修も活用して、評価の観点、フィードバックの方法などを伝え、評価者のスキルを底上げしましょう。評価者のスキルが向上すれば、主観的な人事評価の防止にも役立ちます。


人事担当者が人事評価をチェックする

人事評価を評価者任せにせず、適切に運用されているか人事担当者がチェックすることも重要です。評価後のフォローアップ面談を実施しているかどうか、評価観点が適切かといった確認を行いましょう。


人事担当者が評価制度の運用に積極的に関与することで、不当な評価が行われるリスクを抑えることが可能です。


人事評価における人事担当者の役割

ここでは、人事評価において人事担当者が担うべき2つの役割について解説します。


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不満を持つ社員をサポートする

人事評価に不満を持つ社員がいる場合、人事担当者がサポートする必要があります。社員が人事評価に対して疑問を感じても、丁寧に対応すれば不服申し立てへの発展を防げるケースも少なくありません。


社員の話を丁寧に聞き取って不満を解消するだけでなく、再発を防ぐために、聞き取り内容を踏まえて人事評価制度を改善することも検討しましょう。


社員との信頼関係を築く

不服申し立てを未然に防ぐためには、社員との信頼関係構築も必要です。人事担当者が普段から社員とコミュニケーションを取り、信頼されていれば、評価に対する不満が不服申し立てに直結することを防げるでしょう。


現場から生の意見を集め、人事評価に反映させることも重要な役割のひとつです。


不服申し立てされないための評価フレームワーク

社員の不満が生じにくい人事評価制度をつくるため、フレームワークを活用しましょう。ここでは、4つの評価手法を紹介します。


360度評価

360度評価は、上司だけでなく複数の関係者から評価を受ける人事評価制度です。上司からの一方的な評価だけでなく、同僚や部下からのフィードバックを得ることで、評価の公正さが高まります。


マイナスの評価を受けるとしても、複数の人からの評価なら妥当であると納得できる場合もあるでしょう。


360度評価(多面評価)とは? メリット・デメリットや、運用方法などわかりやすく解説


コンピテンシー評価

コンピテンシー評価とは、成果を上げる人材に共通する行動特性を一般化して評価基準とする方法です。数値化できない目標は評価が主観的になりがちですが、コンピテンシーを活用すれば基準が具体的となり、社員から見てもわかりやすくなります。


評価に主観が入りにくくなるため、公平性も増すでしょう。


コンピテンシー評価とは?導入方法やメリット・デメリット、評価シートの書き方解説|活用事例付き


MBO(目標管理制度)

MBOは「Management by Objectives」の略で、社員と上司が協議の上で目標を設定し、その進捗によって評価を行う制度です。社員自身が目標設定に関与するため納得感が高まり、主体的に取り組むモチベーションが湧きやすくなります。


期中に目標の進捗を振り返り、今やるべきことを把握しやすくなることもメリットといえるでしょう。


MBOとは?意味やメリット・デメリットについて解説


ノーレイティング

ノーレイティングは、社員をランク付けしない評価方法です。日ごと・週ごとなど、短期間で目標の進捗を振り返り、1on1ミーティングで継続的にフィードバックします。


ノーレイティングのメリットは、業務の取り組み方についてこまめに軌道修正できることです。さまざまな背景を持つ社員に対して実態に即した評価をしやすくなりますが、上司の裁量が大きくなるためマネジメント力が問われます。


ノーレイティングとは?意味や従来の制度との違い、メリット・デメリットを解説


まとめ

人事評価は社員の処遇やモチベーションに直結する重要な制度です。基準が不明確だったり評価が主観的だったりすると、社員から不服申し立てをされる可能性があります。


不服申し立てを未然に防ぐため、評価基準の明確化や評価者のスキル向上、人事担当者と社員の信頼関係構築といった取り組みを行いましょう。


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