効果的に人材を活用する手法として、スキルマップの活用が注目を集めています。国内大手企業のトヨタ自動車株式会社が取り入れたことをきっかけに、多くの企業へと導入が広がりつつある状態です。この記事では、トヨタ自動車での活用事例をはじめ、スキルマップの目的や得られるメリットなどについて詳しく解説します。
トヨタも取り入れているスキルマップとは
スキルマップとは、社員1人ひとりが持つスキルや知識を「見える化」するためのツールです。各業務に求められるスキルと、それに対する社員の習熟度を一覧で整理できるため、現状の把握や課題の発見が可能となります。
企業がスキルマップを取り入れると、効率的な人材育成を図ることが可能です。さらに、チーム全体の組織力を高める効果も期待できます。実際にトヨタ自動車株式会社では、この仕組みをいち早く導入し、現場での活用を進めているので、これから導入しようとしている企業の参考になるでしょう。
トヨタが実践したスキルマップの活用例
前述したとおり、参考にしたいスキルマップの活用事例として挙げられるのが、トヨタ自動車の取り組みです。トヨタ自動車では、スキルマップによって各作業者の技能レベルを一覧化し、現場全体のスキル状況を一目で把握できるようになっています。
これにより、誰がどの作業にどの程度対応できるのかが明確になり、現場の運営がスムーズになりました。また、教育の進捗や習得状況も可視化されるため、個々に応じた効率的な人材育成が可能となっています。
さらに、スキルマップは定期的に見直されており、社員の成長を後押しし、モチベーションの維持にもつながりました。トヨタ自動車の例を見ても、スキルマップは、多能工化を目指した人員配置や教育計画に活用できる、変化に強い柔軟な現場づくりを支える重要なツールといえるでしょう。
スキルマップ導入の目的は?
ここからは、企業がスキルマップを導入するおもな目的について解説します。
人材育成の効率化を目指す
スキルマップは、スキルごとの習熟段階を一覧で確認できるため、社員それぞれがどの能力を重点的に強化すべきかが明らかになります。教育の優先順位もつけやすくなり、効率的な学びの場を設計することが可能です。その結果、現場全体の育成スピードが向上し、人材の成長をより早く促せるようになるでしょう。
最適配置で業務効率化を目指す
スキルマップは、スキルの一覧化によって、誰がどの作業に強いかを把握しやすくなります。保有しているスキルによって適切な役割を見つけやすくなるため、無理・無駄のない現場運営を実現しやすくなるでしょう。また、社員1人ひとりのスキルを把握できるため、急な欠員や工程の変更があった場合でも、柔軟に対応することが可能です。
人事評価の公平性を目指す
スキルマップを活用すると、スキルの到達度を基準に、社員の実力を公平に評価できます。主観を排した評価ができるため、納得感のある説明が可能です。加えて、成長の証が記録として残るため、自分の努力や成果を実感でき、本人のやる気向上にもつながります。これによって、さらなるスキルアップを促せるでしょう。
属人化を抑制する
スキルマップによって、現場で実施されている作業とそれに必要な能力が明文化できるようになるため、特定の人にしかできない作業がある、いわゆる属人化の解消が期待できます。属人化が解消できると、業務の引き継ぎや多能工の育成がしやすくなり、急な人員の変動にも強いチーム作りが進むでしょう。
さまざまなスキルマップの活用例
スキルマップは、企業のさまざまな場面で活用が可能です。ここでは、おもな活用例を紹介します。
人材育成計画の作成に活用
スキルマップを活用すると、現場で求められるスキルと各自の現状を比較できるため、1人ひとりに適した育成目標を明確に設定することが可能です。段階的な成長を促す計画も立案しやすくなり、無理のない研修スケジュールの作成にも役立つでしょう。その結果、効果的かつ継続的な人材育成が実現しやすくなります。
評価基準の明確化に活用
スキルマップは、身につけるべき能力や習得レベルの可視化に役立ちます。そのため、何を基準に評価するのかを明確化できるようになり、社員に分かりやすく提示することが可能です。評価基準が明確になれば、納得感のある評価や適切なフィードバックも行いやすくなります。評価制度の見直しは、社員のモチベーションアップにもつながるでしょう。
企業でスキルマップの導入が注目されている理由
トヨタ自動車をはじめ、多くの企業でスキルマップを導入する動きが増えているのはなぜでしょうか。ここでは、スキルマップの導入に注目が集まっている理由を解説します。
専門的なスキルが重要とされる場面が増えた
昨今、IT化などの影響により多くの企業で業務の複雑化が進んでおり、特定の知識や技術を持つ人材へのニーズが高まっています。専門性の高い人材を育成するには、専門分野ごとの強みや課題の把握が必要不可欠です。
スキルマップによって専門スキルを可視化できれば、社員ごとに適した育成計画や最適配置がしやすくなります。専門性のある人材の確保だけでなく、組織全体のパフォーマンス向上も期待できるでしょう。
新規事業立ち上げにも役立つ
新しい事業に取り組む際は、既存のスキルだけでは対応が難しい場面が多く見られます。こうした場面においても、スキルマップの活用が役立つでしょう。スキルマップによって社内のリソースを見直すことで、新規事業に最適な人材の選出が可能です。
さらに、不足しているスキルも明確になるため、外部からの採用や社内教育などの判断がしやすくなり、的確な人材戦略を立てる助けにもなります。スムーズに新規事業を立ち上げるには、欠かせないツールといえるでしょう。
スキルマップを企業が取り入れるメリット
企業がスキルマップを導入すると、おもに4つのメリットが期待できます。ここでは、それぞれのメリットを詳しく見てみましょう。
社員のスキル把握に役立つ
スキルマップを活用することで、1人ひとりの得意分野やスキルの内容を一覧で把握できます。社員のスキル把握ができると、業務ごとに即戦力となる社員の選出や、支援が必要な人材の把握もしやすくなるため、現場の効率的な運用に役立つでしょう。また、組織全体のスキル状況を俯瞰でき、適切な配置や教育の判断にも役立ちます。
効果的な人材育成に役立つ
スキルマップでは、社員ごとの育成状況の確認もできるため、それぞれに合った教育の実施が可能です。さらに、どのスキルをどの順序で習得すべきなのか整理しやすくなり、計画的に育成を進められます。
また、成長の段階を記録しておけるのもスキルマップのメリットです。継続的な人材育成の流れを構築しやすくなるほか、対象者本人のやる気にもつなげやすくなるでしょう。
社員のモチベーションアップが期待できる
スキルマップによって自分のスキルや成長を確認できるようになるため、達成感が得られやすくなり、モチベーションアップが期待できます。さらに、評価の内容に納得しやすく、企業側の期待が伝わりやすくなるのもメリットです。また、目標設定もしやすくなるため、社員の自主性や意欲を向上させ、前向きに取り組む姿勢を維持しやすくなるでしょう。
業務効率化につながる
スキルマップを活用して、業務に合った人材を適切に配置できるようになれば、無駄な工数を減らせます。さらに、複数の業務に対応できる人材の育成にも役立つため、業務の連携や変化への対応も柔軟にできるようになるでしょう。また、必要なスキル基準に達している人材でチーム構成を最適化すれば、作業の停滞を防ぎ、より効率的な現場運営につながります。
知っておきたいスキルマップのデメリット
スキルマップの導入を検討しているなら、メリットだけでなく、デメリットも知っておくべきです。ここでは、スキルマップのデメリットについて解説します。
管理が煩雑になりがち
スキルマップは、管理するスキルの項目数が多くなると、情報の整理や更新に手間がかかりやすくなるデメリットがあります。さらに、管理が煩雑だからといって、内容の見直しや再構成を怠ると、形骸化してしまい、あまり効果が期待できません。
また、担当者ごとに記入や管理のルールが異なると、統一性や公平性が損なわれ、運用の効率も低下します。
正確なスキル把握が難しい
スキルマップへの記録は正確さが重要です。しかし、正確に社員ごとのスキルを記録するのは難しく、課題となっています。特に評価基準が曖昧なままだと、客観性が失われやすい点に注意が必要です。
たとえば、部署ごとにスキルレベルに差が生じてしまったり、実際のスキルとズレが生じてしまったりする恐れがあるので、明確な評価基準を用意する必要があるでしょう。
効果を実感するまでに時間がかかる
スキルマップの作成にはある程度時間が必要です。加えて、運用初期はデータの蓄積が少ないため、短期間では成果を実感しにくい可能性があります。人材育成や配置の改善に反映されるまでには、さらに一定の期間を要するでしょう。スキルマップは、現場での実践と組み合わせながら導入を進めていかなければ、変化が見えにくくなるので注意が必要です。
スキルマップを活用する際の注意点
スキルマップを導入する場合、メリット・デメリットの把握と同時に、複数の注意点があります。ここでは、特に気をつけるべきポイントについて解説します。
情報収集方法の確立が必要
現場で得られるスキル情報を正確に把握するには、それを吸い上げる仕組みが求められます。自己申告や上司の主観に頼りすぎず、客観的に記録する方法を取り入れることが重要です。また、誰が見ても同じように評価できるよう、入力ルールや基準を統一しておく必要があります。
人事評価体制の整備が必要
スキルを正確に可視化するだけでなく、人事評価と連動させる仕組みを整えておくのも重要です。スキルレベルに対して、公平性や透明性のある基準を設けておけば、現場で納得感のある運用が可能になります。さらに、スキルの習得度や活用度を人事評価に反映できるよう、スキルマップ作成と同時に評価体系の構築が求められます。
スキルマップの定期的な見直しが必要
業務内容の変化や、それに伴う必要なスキルの変化に応じて、スキル項目を定期的に更新する必要があります。スキルマップの運用が固定化されると実態とのズレが生じ、有効性が下がる恐れがあるので、注意しましょう。スキルマップは作成して終わりではなく、その都度現場の声を反映させながら、継続的にアップデートしていける仕組みの構築が必要です。
スキルマップの導入がおすすめの業界
スキルマップは多くの企業で役に立つツールですが、導入が特におすすめの業回は、以下のとおりです。
IT系の業界
IT業界は、技術の移り変わりが早いため、社員の習得状況をタイムリーに把握する必要があります。プロジェクトごとに求められるスキルも異なるケースが多く、スキルマップを活用したスキル管理が役に立つでしょう。
スキルマップによって社員の細かなスキルが把握できれば、プロジェクトごとに柔軟な人材配置が可能です。さらに、各メンバーの専門性や習熟度を可視化でき、開発効率の向上にもつながります。
製造業界
製造業は、作業ごとに必要なスキルが明確なケースが多く、スキルの棚卸しが比較的行いやすいでしょう。そのため、スキルマップに落とし込みやすく、多能工の育成や交代要員の準備にもつながり、現場の安定した運営に貢献できます。さらに、安全や品質に関わるスキルを定量的に管理することで、リスクの低減も図れるようになる点もメリットです。
スキルマップ作成の手順
むやみにスキルマップを作成しても、効果的な活用はできません。ここからは、自社に合わせて最適なスキルマップを作成するために、スキルマップの作成手順を6ステップに分けて解説します。
スキルマップの活用目的をはっきりさせる
スキルマップを作成する前に、なぜ自社に取り入れたいのか目的をはっきりさせておきましょう。教育の強化や人員配置の改善など、具体的に目的を明確化しておき、最終的なゴールを見極めます。
また、スキルマップは、部署や立場によって使い方が異なるため、社内で目的の共通認識を持っておくのも大事です。目的に応じて、スキルの分類や評価の方向性も柔軟に調整する必要があります。
対象業務と必要なスキルの棚卸しを行う
効果的なスキルマップを作成するには、日々の作業や工程を細かく分解し、それぞれに必要なスキルを正確に洗い出す必要があります。それぞれの現場で担当者への聞き取りを実施し、現場に即したスキルを抽出する作業も欠かせません。業務ごとの専門スキルに加え、汎用的な能力や対人スキルも視野に入れると効果的です。
スキルマップで可視化する項目をまとめる
業務ごとのスキルが把握できたら、可視化しやすいようスキルを業務ごとの項目に分けて、数値化しやすい形にまとめる必要があります。ただし、細かく項目を分けすぎると管理が煩雑になり、かえって工数が増えてしまうので注意が必要です。一方で、項目が少なく抽象的すぎると、評価への反映が曖昧になってしまうため、バランスを意識した設計が求められます。
スキルレベルの基準をつくる
スキルマップでは、スキルごとの成熟度を段階的に示す評価尺度を設けるのが一般的です。また、誰が見ても同じように判断できるよう、行動や成果に基づいたスキルレベルの評価基準を明記する必要があります。数字や記号を活用し、評価の客観性を高めながら、運用のしやすさにも配慮して作成しましょう。
小規模で試しながらスキルマップを整える
スキルマップが完成しても、いきなり全社導入はせず、まずは一部の部署で試験的に運用する方法がおすすめです。実際に現場での使用感を確認しながら、不便な点や違和感を洗い出し、改善していきましょう。その際に集まったフィードバックをもとに、スキルマップの構成や運用ルールの改善につなげると、さらに効果的な運用が可能になります。
スキルマップを運用しながら見直しを重ねる
多くの企業では、必要なスキルや業務内容が常に変化していくため、スキルマップの項目や評価基準も定期的に見直す必要があります。スキルマップの更新を怠ると、効果が薄れるだけでなく、形骸化して使われなくなる恐れもあるので注意しましょう。日々の運用状況や現場からの声を反映させながら、常に情報の鮮度を保つことが大切です。
厚生労働省が公開しているスキルマップのテンプレート
スキルマップを初めて作成する際に、ゼロベースで進めるのは不安という場合は、厚生労働省が公開しているデータの活用がおすすめです。厚生労働省では、16業種に関するキャリアマップ、職業能力評価シートおよび導入・活用マニュアルを公開しています。自社に合わせて編集すれば、スキルマップとして活用できるでしょう。
※参考:キャリアマップ、職業能力評価シート及び導入・活用マニュアルのダウンロード|厚生労働省
まとめ
スキルマップは、社員の能力を可視化し、人材育成や業務効率化に大きく貢献するツールです。トヨタの実践例に学びながら、自社に合った形で導入・運用することで、組織力の強化が期待できます。スキルマップの作成に不安がある場合は、社員のスキル把握に役立つシステムの導入もおすすめです。
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