人材獲得情報とは、自社が求める人材を採用するために企業が行う競争のことです。働き方の多様化が進む現状では、優秀な人材を得るのは簡単ではありません。この記事では、人材獲得競争に関する対策が必要だと考えている人事担当者に向け、人材獲得競争とは何か、人材獲得競争が起こる要因や効果的な施策なども含めて詳しく解説します。
人材獲得競争とは
企業は自社にマッチした優秀な人材を採用するために、さまざまな採用手法を用います。人材獲得競争は、その人材採用にかかわる「競争」を指す言葉です。人材獲得競争が激しくなっている背景には、少子化などの社会問題やIT技術の進化など、さまざまな要因があります。
自社が求める資質を備えた人材を獲得したいところですが、現在では思ったような結果が得られなくなってきました。そのため、企業は人材獲得競争を勝ち抜くための対策を迫られています。
人材不足による経営へのダメージは深刻化
帝国データバンクが公表している「人手不足倒産の動向調査(2024年度上半期)」によると、2024年度上半期(4~9月)の人手不足倒産の件数は163件にものぼっています。「人手不足倒産」とは、法的整理(倒産)となった企業のうち、離職者採用難などで人材を確保できなかったことが要因の倒産です。
1年前の2023年度は年度として過去最多を更新していましたが、2024年度の上半期は、それをさらに上回るペースで急増しています。それだけ人材不足による経営へのダメージは、深刻化しているといえるでしょう。
※参考:人手不足倒産の動向調査(2024年度上半期)|株式会社 帝国データバンク[TDB]
人材獲得競争が激化している4つの要因
人材獲得競争が激化している具体的な要因は主に以下の4つです。それぞれ掘り下げて解説します。
- 労働人口が減少している
- 求人倍率が上昇している
- 人材需要が変化している
- 多様な働き方のニーズが高まっている
労働人口が減少している
人材獲得競争が激化する大きな要因のひとつが、労働人口の減少です。ベビーブーム世代が前期高齢者に到達した2015年から10年が経ち、高齢者人口が約3,500万人に達する超高齢化社会の「2025年問題」が懸念されています。
出生率低下も相まって少子高齢化が急速に進むことで、ますます労働人口は減少し続けるでしょう。業界や職種を問わず、労働力の不足が問題になり、人材獲得競争の大きな要因になります。
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求人倍率が上昇している
企業の求人数は増加の一途を辿っています。求人情報・転職サイトの「doda」が発表している「転職求人倍率レポート(2024年11月)」によると、転職求人倍率は前月差+0.07pt、前年同月差+0.06ptの2.82倍でした。
求人数は前月より少し下がってはいるものの、前年同月比が109.1%と、前年に比べて増加しています。一方で転職希望者は前月比・前年同月比ともに減少したため、転職求人倍率は上昇しました。
また、リクルートワークス研究所の「第41回ワークス大卒求人倍率調査(2025年卒)」でも、2025年3月卒業予定の大学生・大学院生対象の大卒求人倍率は1.75倍で、前年度より上昇しています。両結果から民間企業就職希望者数に対して求人総数が34.2万人の超過需要となっている傾向が分かり、労働人口の減少でさらなる求人倍率上昇が見込まれています。
※参考: 転職求人倍率レポート(2024年11月)|転職ならdoda(デューダ)
※参考:第41回 ワークス大卒求人倍率調査(2025年卒)|リクルートワークス研究所
人材需要が変化している
人工知能(AI)やIoT関連などのIT技術は急速に進化し、ビジネスを取り巻く環境は大きく変わっています。現代では生産や販売から、給与などの管理業務まで、あらゆる業務にIT技術が活用されるようになりました。
従来はIT技術を持つ人材が必要とされた企業は、いわゆる「IT企業」のイメージでした。しかし、現在では、どの業界でもIT人材が必要とされています。また、企業に必要とされているIT技術はスキルが細分化されているうえ、IT人材そのものも不足気味です。そのため、自社に必要なスキルとマッチする人材獲得の難易度が高まっています。
多様な働き方のニーズが高まっている
個々の価値観を尊重する多様化の時代といわれるようになって久しく、ビジネスの場でも働き方への価値観が一昔前とは違っています。そのため、人材が企業に求めるものが従来のような待遇や給与だけではなくなり、プライベートの充実や仕事へのやりがいを求める人も増えました。
多様な働き方へのニーズが高まっている状況は、人材獲得競争が激化する要因のひとつとなっています。獲得したい優秀な人材に自社のよさを知ってもらい、働きたいと思ってもらうためには、企業側も人材に対して企業の風土や事業内容などを多角的にアピールする必要があるでしょう。
人材獲得競争で考えられるリスク
対策が必要だとはいえ、人材獲得競争には問題点もあります。以下で挙げる2つのリスクをしっかり踏まえておいてください。
業績悪化の原因となる可能性がある
企業にとって、今後の経営目標や事業目標を達成するためにも、先を見据えた新たな人材の採用は必要不可欠です。しかし、人材獲得競争に敗れて自社に必要な人材が確保できなければ、目標を達成することが難しくなるかもしれません。
事業活動が停滞したり、事業を停止しなければならなくなったりするリスクもあります。最悪の場合は「人手不足倒産」にまで至る可能性もあるため、自社にマイナスになるような状況を招かないように注意する必要があるでしょう。
採用コストが増加する
人材獲得競争に力を入れようとすると、企業にとっては採用コストが大きな負担となります。具体的にリクルート社が調査した「就職白書2020」の結果をみてみると、採用にかかるコストは新卒採用で1人あたり93.6万円、中途採用で103.3万円です。
人材獲得競争が激化している状況を受け、有料サービスを含めてさまざまな採用手法が実施されるようになりました。有料サービスの利用も含めると、今後はさらに採用コストが増加する可能性があります。
人材獲得競争を勝ち抜くための7つの施策
では、人材獲得競争を勝ち抜くためにはどうすればいいのか、具体的に7つの施策を挙げ、以下の段落で詳しく解説します。
自社のブランディングを強化する
人材獲得競争では自社に強みがあれば有利になるため、ブランディングに力を入れることは強みを創出することになります。優秀な人材に選んでもらうためには、自社が魅力ある企業であることを知ってもらわなければなりません。
自社の存在意義や将来のビジョンなどを明確にし、一貫性をもって発信する必要があります。特に若い世代では企業を選ぶ際に、企業の社会的責任や文化、価値観に共感できるかどうかを重視する傾向です。人材を惹きつけるためには、「この企業で働きたい」と思われるメッセージの発信が重要になるでしょう。
社員の福利厚生を充実させる
多様化するニーズに対応できるように、自社の福利厚生を充実させることも有効的な施策のひとつです。家族手当や住宅手当などを充実させるなど、他社との差別化が図れる部分を探してみてください。たとえば、社内カフェやフィットネス施設の提供など、社内を魅力ある環境に整えることも有効です。
子育て費用の補助や社内託児所の整備なども、現在子育て中の社員にとどまらず、出産や子育てをしながら働くことを考えている社員にとっても、安心できる職場環境の提供になります。福利厚生の充実を考える際は、他社との差別化を意識して整備してください。
柔軟な労働環境を整える
福利厚生の充実とともに、働き方が多様化している現状に沿う労働環境を整えることでもニーズに対応できます。業種にもよりますが、リモートワークやフレックスタイム制、時短勤務などの導入を検討してみてください。また、育児・介護休業制度を充実させ、ライフステージに合わせて働き方を柔軟に変更できるよう、労働環境を整えましょう。
特にリモートワークを前提とした採用活動をすることで地理的な制約がなくなり、世界中から優秀な人材を採用することが可能になります。柔軟に働ける労働環境は、人材流出防止のためにも重要な施策です。
キャリア開発を強化する
優秀な人材はキャリアアップを考えていることも多く、人材獲得競争ではキャリア開発の強化も欠かせないポイントです。キャリアパスの明確化および、成長機会の提供は、採用後の定着率を高めます。
社内公募など、本人の希望を尊重できる制度を整備しておくとよいでしょう。ただし、社員がどのようなキャリアの形成を考えているのか知っておかなければ、的外れな制度になりかねません。制度導入前には社員の満足度調査を実施し、ニーズを把握しておくことが重要です。
スキルアップのための研修プログラムなどを提供することで、社員が企業内で成長し続ける意欲を持てるようにしてください。
多様性への理解を深める
現代の人材獲得競争を勝ち抜くためには、多様なバックグラウンドを持つ人材を受け入れる姿勢が必須になっています。多様性への理解がない企業には、優秀な人材が目を向けてくれない可能性もあるため、さまざまな人材の能力を最大限に発揮できる環境を整えることが重要です。
多様性を尊重する企業文化を醸成する必要があるとともに、ジェンダーバランスの取れた管理職の育成にも取り組んでください。多様性に関する知識がない、理解が足りない状態では、無意識にハラスメントをしてしまうリスクもあります。ハラスメント対策研修なども実施し、知識と理解を深めましょう。
社員の意見を取り入れ職場環境の改善を進める
自社を働きやすい、魅力のある企業にするためには、社員からのフィードバックを定期的に収集することも重要です。社員の意見や要望は自社の職場環境を見直す糸口になるため、フィードバックをもとに改善を進めていくようにしてください。
社員側としても、自分の意見を聞き入れてもらえる、尊重してもらえると感じることで、企業に対する信頼感も高まるでしょう。結果的に社員エンゲージメントが高まり、定着率向上の要因にもなります。
タレントマネジメントシステムを導入する
タレントマネジメントは社員が持つスキルなどの人材情報を、経営資源として活用する人事戦略を指します。タレントマネジメントシステムとは、社員に関する情報データを一元管理することで、スムーズな人事戦略に役立てられるシステムのことです。
システムを導入すれば人材育成はもちろん、人材配置やテレワークでの人材活用など、人材活用のさまざまな課題に対応でき、人事業務を効率化できるメリットがあります。最適な人材配置で社員の満足度が向上し、離職率低下を望めるのも人材獲得競争においては有効な手段でしょう。データの活用で離職予兆の発見・検知も可能になるため、離職率の改善に役立ちます。
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人材獲得競争激化により注目されている採用手法
人材獲得競争が激化している状況のなか、注目を集める採用手段があります。以下でそれぞれ解説します。
ダイレクトリクルーティング
求人を出したあと、応募者からのアクションを待つ手法とは違い、ダイレクトリクルーティングは企業から人材にアプローチして採用につなげる手法です。従来の手法では、人材紹介会社などでしか人材の情報が共有されていませんでした。
しかし、人材データベースを可視化するサービスを展開するところも増え、企業と人材が直接つながれるようになっています。転職活動に入る前の転職予備軍にもアプローチが可能になったことで、採用のチャンスは広がりました。
リファラル採用
リファラル(referral)とは、「委託・紹介・推薦」という意味です。つまり、リファラル採用は社員から友人や元同僚などの人材を紹介・推薦してもらう手法を指します。自社のことをよく知る社員に、経歴や性格、指向性などを理解している候補者を紹介・推薦してもらうため、ミスマッチが起こりにくく、定着率も高いことがメリットです。
専門的なスキルを持った人や即戦力になる人を紹介してもらえる可能性も高いため、育成に時間をかけずに優秀な人材を獲得できる効果的な採用手法でしょう。採用にかかるコストを削減できるメリットもあります。ただし、リファラル採用では、紹介してくれた社員に対して報酬を設けるなど、インセンティブの設定が不可欠です。
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ソーシャルリクルーティング
ソーシャルリクルーティングとは、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用する採用方法です。「SNS採用」とも呼ばれ、FacebookやX(旧Twitter)、LINE、Instagramなど、SNSのサービスを活用して求人の告知などの採用活動を行います。
特に若い世代では、SNSを日常的に利用している人が多く、コストをかけずに認知度をアップさせるには効果的です。カジュアルなコミュニケーションが取れることもメリットでしょう。ただし、SNSは拡散しやすい一方で、炎上するリスクもあるため、自社のSNSアカウントの投稿内容は慎重に精査する必要があります。
採用マーケティング
人材獲得競争が激化している状況で注目されている手法のひとつが、採用マーケティングです。採用マーケティングではマーケティング戦略を駆使し、まずは自社で働く価値を提案して人材を惹きつけることから取り組みます。
ポイントは、転職活動をしている人材だけではなく、今すぐ転職しようとは考えていない潜在層もアプローチの対象とすることです。一般的な消費者マーケティングと同様に、「認知→興味→検討→行動→ファン化」のプロセスに沿って人材の意向を醸成します。
就職や転職の意向が固まった時点で働きかけて採用し、採用後のエンゲージメントまで含めて維持するところが従来の採用活動とは異なる点です。優秀な人材を確保する手法として海外ではすでに広まり、日本でも近年取り入れる企業が増加しています。
タレントプール採用
タレントプールとは、将来的に採用の可能性がある優秀な人材との関係を中長期的に維持するため、その人材のデータを集約しておくことを指します。たとえば、過去に採用まで至らなかった人や自社が開催するセミナーなどに参加してくれた人、自社に興味を持ってくれた人などが、タレントプールの対象者です。
タレントプールに入れた人材の転職に関わる情報を蓄積しておくことで、優秀な人材に適切なタイミングでアプローチできます。本人の転職意向が高まったタイミングで採用活動ができるため、他社との競合が起きにくいところがメリットです。
アルムナイ採用
アルムナイ採用とは、自社を退職した人材を再雇用する採用手法です。何らかの理由があって一度は退職したとはいえ、再雇用すれば即戦力としての活躍が期待できることは大きなメリットでしょう。すでに自社の理念や事業内容を理解してくれていることも強みであり、人材採用に失敗するリスクが少ない手法です。
再雇用というと、従来は結婚や育児、介護、配偶者の転勤などのやむを得ない理由で退職した社員の再雇用を目指すカムバック採用が一般的でした。アルムナイ採用は転職や独立など、社員自身の選択の結果として退職した人材を含んでいる点に違いがあります。
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採用オウンドメディア
オウンドメディアはSNSも含む、自社が運営するメディアを指します。そのなかでも採用オウンドメディアは、自社の職場文化や福利厚生、成長環境など、自社の魅力を人材に認知してもらうため、積極的かつ戦略的に情報を発信するメディアです。
一般的な採用サイトのように、求人情報や募集要項といった求職者が知りたい情報を中心に掲載するのではありません。転職潜在層も含んだ対象者に向けて企業の魅力を発信し、採用ブランディングの土台形成や採用ブランド戦略に対して重要な役割を担います。情報を発信することで応募意欲を醸成し、求人への応募につなげることが目的です。
まとめ
人材獲得競争は労働人口の減少や人材需要の変化、働き方の多様化などが要因となり、自社にマッチした優秀な人材を採用するための競争です。その競争を勝ち抜くためには、ブランディングの強化や福利厚生の充実、柔軟な働き方ができる環境など、さまざまな施策を実行していかなければなりません。
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