企業における人材育成の重要性と具体例10選|課題と実践ポイントも解説


企業における人材育成の重要性と具体例10選|課題と実践ポイントも解説

多くの企業が自社の働き方や風土を考慮して、独自の人材育成施策を実践しています。しかし、実際にどのような手法で人材育成に着手すればよいのか、悩んでいる担当者も少なくありません。本記事では、各企業で成果を上げている人材育成の実践例を紹介します。


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企業における人材育成とは

企業における人材育成とは、組織の目標達成に必要なスキルや知識を、社員に習得させるプロセスのことです。混同されがちですが、人材育成と人材開発は異なる取り組みである点に注意しましょう。


人材育成は、各社員の階層や役職、担当職務などに応じて明確な育成目標が設定されており、組織の求める人材像に近づけることがおもな目的となります。一方、人材開発の場合は、社員1人ひとりの資質や強みを考慮し、個々のパフォーマンスを最大化することが目的です。


企業が人材育成について悩んでいること

労働政策研究・研修機構が実施した調査では、多くの企業が共通して抱えている人材育成の課題が、以下のように浮き彫りになりました。


  • 育成担当者が不足している
  • 育成に充てる時間が不足している
  • 育てがいのある人材を採用できていない


上記の課題は相互に関連しています。社内に適切な育成環境が整備されていなければ、人材が十分に成長しません。結果として、企業の競争力が低下し優秀な人材の獲得も困難になる、という悪循環に陥っている状況が推察されます。


※参考:人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)|労働政策研究・研修機構


人材育成の3つの基本型

企業が効果的に人材育成計画を立案して実行に移すには、主要となる基本型を理解し、自社の働き方や風土に適合するようカスタマイズすることが重要です。以下では、人材育成の3つの基本型を解説します。


1.OJT(実務を通じて行う)

OJTは、上司と部下、または経験豊富な先輩社員と新入社員がペアを組み、実際の業務を通じてなされる育成手法です。


実践的なスキルを習得できる点は、OJTの大きなメリットといえます。また、指導する側とされる側の日常的な交流により、組織内のコミュニケーションが活性化されるでしょう。さらに、OJTは、外部講師や研修施設の確保などを必要としないため、比較的コストを抑えられます。


一方で、育成担当者の教育スキルや意欲によって育成効果に差が生じやすい点は、OJTのデメリットです。日常業務と並行して指導を行うと、育成担当者側の業務負担が増大し、本来の業務に支障をきたすケースも考えられます。


2.OFF-JT(実務外で行う)

OFF-JTは、日常の業務から離れた環境でなされる育成手法で、集合研修やセミナーなどの形式をとります。


OFF-JTのメリットは、体系的に知識やスキルを習得させられることです。また、1人の講師が大勢を指導するため、OJTで問題となる担当者による育成効果のばらつきを抑えられます。同じ階層や職種の社員が集合する過程で、コミュニケーションの促進も期待できるでしょう。


一方で、OFF-JTは、外部講師の確保などにコストがかかりがちです。参加者が通常業務から完全に離れるため、一時的に人員不足となる可能性もあります。


3.自己啓発(社員が自主的に取り組む)

自己啓発は、社員が自主的に外部のセミナーや勉強会に参加したり、資格取得に挑戦したりする活動です。社員に自己啓発を促すには、セミナー参加費用の一部負担や、自己研鑽の成果を評価する仕組みづくりが欠かせません。


自己啓発を通じて、社員は自身のキャリアを主体的に考えるようになります。企業から与えられるプログラムではなく、自身の興味関心に基づいた学習であれば、高いモチベーションを維持しながらやり遂げられるでしょう。ただし、自己啓発を推進する際は、内容を企業の期待する方向性と一致させるための工夫が必要です。


企業が人材育成を重視すべき理由

企業が戦略的に人材育成に取り組むべき理由について、以下の観点から解説します。


社会全体で人材不足が深刻化しているため

近年、業界を問わず多くの企業が人材不足という課題に直面しています。新たな人材確保が困難な状況下では、既存の社員1人ひとりの生産性と能力を引き上げなければ、企業の競争力を維持できません。人材育成は、限られた人材を活用するための経営戦略として位置づけられています。


社員に日常業務では得られない気づきを与えるため

外部のセミナーや勉強会などのプログラムに参加した経験は、業務では接することのない新しい気づきを得る機会となります。


異なる部門や部署の同僚や外部の人との交流は、社員のモチベーションを高め、創造的なアイデアを生み出す基盤となるでしょう。また、モチベーションの高まりから社員の組織への愛着や帰属意識が強まると、離職率の低下も期待できます。


人材の力によって他社との差別化を図るため

他社との差別化を図るためにも人材育成は重要です。テクノロジーの急速な発展により、類似した製品やサービスを、比較的低コストで提供できるようになりました。ただし、商品自体による差別化が困難な状況では、顧客体験が重視されます。他社との差別化のためには、より優れた接客スキルを獲得させるなど、人材の質の向上が不可欠です。


【階層・役職別】企業における人材育成プログラムのポイント

企業がパフォーマンスを発揮し続けるために、社員の階層や役職に応じた適切な人材育成のポイントを解説します。


新入社員向け人材育成プログラム

新入社員向けの人材育成プログラムは、社会人としての第一歩を上手く踏み出せるように、以下の内容を習得させることを目的としています。


  • 基本的なビジネスマナーやスキル
  • 職種ごとに必要な知識やスキル


さらに、企業理念やビジョンを伝えて自社への理解を深めさせるのも、新入社員向け人材育成プログラムのポイントです。新入社員を対象とした育成では、心理的安全性を確保した環境づくりを重視しましょう。世代による価値観や考え方の違いを理解し、相手を尊重するコミュニケーションを心がけると、育成の効果を高められます。


また、座学中心のOFF-JTで体系的知識を提供しつつ、実務経験を通じた学びを促すOJTを組み合わせると、バランスのとれた育成が可能です。


若手社員向け人材育成プログラム

若手社員向け人材育成プログラムの目的は、より生産性を高め、主体的に働ける人材を育成することです。論理的思考力を鍛えるロジカルシンキング研修、プロジェクトを率いるためのリーダーシップ研修、効率的な業務のためのタイムマネジメント研修などが、プログラムとして推奨されます。


人材育成プログラムを通じて成長を実感できた若手社員は、モチベーションが向上する傾向です。意欲的に自信を持って業務に取り組める社員が増えることで、結果として離職率の低下にも寄与するでしょう。


中堅社員向け人材育成プログラム

中堅社員向け人材育成プログラムでは、個人としての成果だけではなく、チーム全体の生産性向上を意識できる人材の育成が求められます。組織の中核を担う中堅社員は、企業のパフォーマンスを左右する重要な階層です。


リーダーをサポートするフォロワーシップ研修や、適切な育成担当者になるためのメンター研修などを実施しましょう。中堅社員は、社員間のスキルや経験にばらつきが生じやすい段階です。個々のスキルの習熟度を可視化するスキルマップを作成すると、効率的な育成が可能になります。


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管理職・役員向け人材育成プログラム

管理職や役員は、企業の舵取りを担う立場です。育成プログラムでは、的確な意思決定のもと行動できる人材を育成する必要があります。マネジメント研修や、リーダー育成研修など、組織変革を推進するためのリーダーシップ開発プログラムなどが、管理職・役員向け人材育成プログラムとして効果的です。


また、他の階層とは異なり、管理職・役員向け人材育成プログラムでは、経営者との対話や外部との交流など、自社を深く理解しつつ視野を広げる取り組みも重視されます。


企業における人材育成の成功事例10選

人材育成で成果を上げている企業事例を紹介します。それぞれの企業が独自の視点で展開する内容を見て、参考になるポイントを探りましょう。


1.サントリーホールディングス株式会社

サントリーホールディングス株式会社では「サントリー大学」と銘打った人材育成プログラムが展開されています。サントリー大学の特徴は、創業の精神を全社員が深く理解し、主体的な成長を通じて企業発展に貢献することを目的とする点です。


全世界からアクセス可能な学習プラットフォーム「MySU(My Suntory University)」の導入により、社員1人ひとりが自分のペースで自己啓発に取り組める環境を整えています。


※引用:人財育成と成長機会|サントリーの人本主義 サントリー


2.伊藤忠商事株式会社

伊藤忠商事株式会社は「朝方勤務」を推進しています。朝方勤務の習慣はなかなか定着しませんでしたが、人事部門の粘り強い働きかけにより、近年は全社に朝方勤務の習慣が浸透しています。


朝方勤務の一環として誕生した朝活セミナーは、始業前の早朝時間を活用した人材育成プログラムです。ビジネスや健康に関するテーマで開催されるセミナーは、社員から好意的に受け止められています。


※引用:朝型勤務|伊藤忠商事株式会社

※引用:人材育成|伊藤忠商事株式会社


3.株式会社インターネットイニシアティブ

株式会社インターネットイニシアティブは、スキルマップとタレントマネジメントシステムを連携させ、人材育成の仕組みを構築しています。同社はスキルマップを時代に合ったものに刷新し、スキルの定義内容と評価結果について、タレントマネジメントシステムに反映させました。


その結果、各社員の現在の能力レベルと目標とするレベルの差が可視化され、個々の社員に最適な育成目標が設定されています。


※引用:株式会社インターネットイニシアティブ|導入事例|タレントパレット|大手No.1タレントマネジメントシステム


4.トヨタ自動車株式会社

トヨタ自動車株式会社の人材育成は、OJTに重きを置く点が特徴です。同社の人材育成プログラムでは、まず日常業務を通じた実践的な指導により、各社員の弱みを明確に把握します。明らかになった弱みを、入社後3~6年目の社員を対象とした集合研修で補強するイメージです。


この段階的な育成プログラムには、事前にOJTで自身の弱みを把握しておくことで、より主体的に集合研修に取り組んでもらう狙いがあります。


※引用:Sustainability Data Book 2018|トヨタ自動車株式会社


5.スターバックスコーヒージャパン株式会社

スターバックスコーヒージャパン株式会社は、スタッフの自主性を引き出す人材育成プログラムで知られています。


同社はレシピに関するルールが厳格な一方で、詳細な接客マニュアルを用意していません。スタッフは状況を見て臨機応変に判断し、行動するよう求められています。スタッフの主体性を育む育成手法によって、顧客満足度は大いに高まりました。


※引用:日本上陸25周年を機におさらい。スターバックスにまつわるABC - Starbucks Stories Japan


6.株式会社サイバーエージェント

株式会社サイバーエージェントが実施する「プロジェクトレポート(プロレポ)」は、チーム全体で組織目標を考え共有する活動です。同社は、目標達成に向けた社員の自発的な努力が、真の人材育成につながると考えています。


プロレポの狙いは、トップダウンの目標を与えるのではなく、チームメンバー全員が目標設定に参画することで、主体性と当事者意識を引き出すことです。


※引用:人材育成|株式会社サイバーエージェント


7.三菱重工業株式会社

三菱重工業株式会社は、次世代経営人材の育成にタレントマネジメントシステムを活用しています。同社の取り組みの特徴は、生成AIに膨大な人材データを分析させている点です。AIによる定量的な分析結果と、人事担当者が感じ取った定性的な情報を組み合わせることで、より解像度の高い人材把握を実現できると期待されています。


※引用:三菱重工業株式会社|導入事例|タレントパレット|大手No.1タレントマネジメントシステム


8.綾羽株式会社

綾羽株式会社は、リーダー候補の育成に関して、タレントマネジメントシステムを活用しています。同社は、かつて属人的になりがちであった人材情報を、システムを通じて体系的に可視化しました。


各社員の経歴やスキルレベルなどのデータに基づき、リーダーとしての素質や適性を客観的に評価し、育成計画に反映できています。その結果、感覚に頼りがちだった人材育成を、データに基づき進められるようになりました。


※引用:綾羽株式会社|導入事例|タレントパレット|大手No.1タレントマネジメントシステム


9.株式会社リクルート

株式会社リクルートは「Will-Can-Mustシート」を人材育成に取り入れています。このシートは、個人の意思を尊重した同社独自の目標管理ツールです。社員自身が「将来実現したいこと(Will)」「現在持っている能力や課題(Can)」「組織から求められている役割(Must)」を整理するなかで、自律的なキャリア形成が促されます。


個人のキャリア志向と組織のニーズを調和させることで、社員は高いモチベーションで人材育成に取り組めるようになりました。


※引用:【Will-Can-Mustシート】リクルートの活用事例~メンバーの本当に実現したいことを対話する方法|株式会社リクルート


10.ブリッジインターナショナル株式会社

ブリッジインターナショナル株式会社は、タレントマネジメントシステムとeラーニングを連携させました。同社は、個々の社員のデータに基づいて、最適なeラーニングプログラムを選定しています。


また、学習成果はシステムで測定・評価され、次の学習プログラムが選定される仕組みです。学習成果のアウトプットにより、社員の人材育成へのモチベーションが向上しました。


※引用:ブリッジインターナショナル株式会社|導入事例|タレントパレット|大手No.1タレントマネジメントシステム


企業が人材育成の成果を高めるポイント

企業が人材育成の効果を高めるためのポイントを解説します。育成担当者に任せきりにせず、自社全体で人材育成に注力しましょう。


対象者に合った目標を設定する

人材育成の目標は、対象者に合ったレベルに設定してください。目標が高すぎる場合、社員は何から手をつければよいのか分からず、モチベーションが低下してしまう恐れがあります。


現実的かつ挑戦的な目標を設定できると、現状と目指すべき姿とのギャップを具体的に認識した社員は、主体的に行動することが可能です。また、明確な目標があれば、人事評価の際に達成度を客観的に判断しやすくなります。


人材育成の環境を整える

人材育成を効果的に進めるには、環境整備も欠かせない要素です。まずは育成担当者と、育成に充てる十分な時間、予算を確保しましょう。日常業務に支障をきたさないように、確保したリソースをバランスよく配分してください。


また、育成担当者の上司に対して、人材育成の重要性を十分に理解してもらわなくてはいけません。上司の理解がなければ、育成担当者に過度な負担がかかる可能性があります。


社員同士のコミュニケーションを促進する

活発なコミュニケーションが行われている職場環境では、人材育成の効果が向上します。円滑なコミュニケーションによりモチベーションが向上した社員は、積極的にスキルアップに励むようになるためです。


また、育成担当者と良好な関係性が構築されていれば、社員はフィードバックを建設的に受け止められます。


育成担当者を育てる

人材育成の成功には、育成を担当する側への教育も欠かせません。優秀な社員が、他者を効果的に指導・育成できるとは限らないためです。モチベーションを引き出すコーチングスキルや、適切なフィードバックの方法などを身につけさせてから、育成を担当してもらう必要があります。


人材育成に効果的な人事評価制度を策定する

企業が目指す人材像や育成の方向性に合わせて、人事評価制度を設計しましょう。評価基準や評価結果に納得感を持てるかも、社員が人材育成に前向きに取り組むためのポイントといえます。ただし、人事評価はデータ収集や分析が煩雑になりがちです。人事評価の過程をシステム化すると、効率的で適正な評価により、人材育成の効果を高められる可能性があります。


まとめ

さまざまな企業が独自のプログラムを採用し、人材育成に取り組んでいます。階層や役職別に適したプログラムを検討し、人材育成の成果を高めましょう。人材育成を重視する組織文化の醸成、育成担当者自身の能力開発、適切な人事評価制度の構築も、施策を成功させるポイントといえます。


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