人材管理も行う看護管理者とは？求められる能力や向いている人を解説

2025.06.02

患者さんへよりよいケアを提供するためには、人材管理を含む看護マネジメントが欠かせません。この記事では、看護マネジメントを行う看護管理者の役割や求められる能力、向いている人などを解説します。看護管理者の育成・実習方法についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。

失敗しないタレントマネジメントの始め方ガイド

看護マネジメントと人材管理の関係

まずは、看護マネジメントと人材管理の関係について、くわしく解説していきます。

看護マネジメントとは

看護マネジメントとは、医療現場で必要な看護のあり方を考え、目標の実現や達成に向けて取り組むことです。看護マネジメントを通して、看護師はもちろんのこと、患者さんにとっても快適な環境作りを行うことができます。

看護管理者とは

看護管理者とは、看護マネジメントを行う人物です。看護マネジメントは、主に看護部長・看護師長・看護主任が担うことが多い傾向にあります。

看護における人材管理とは

看護マネジメントには、業務の効率化や多職種との連携などさまざまな役割がありますが、看護師の教育や指導などの人材管理も看護マネジメントに含まれます。看護管理者の業務は、単に業務を振り分ければよいわけではありません。看護師の育成などを視野に入れながら役割を与えることも必要です。

看護マネジメント（人材管理）を行う役職

看護マネジメント（人材管理）を行う役職である「看護主任」「看護師長」「看護部長」の役割や主な業務を解説します。

看護主任

現場の看護師が最初に就く役職です。スタッフと看護師長の調整役でもあり、看護師長の補佐的な役割もあります。看護チームのリーダーとして、マネジメントの視点を持ってスタッフをまとめ、指導を行う役職です。主に以下のような業務を行います。

一般的な看護業務
新人看護師の教育
看護師長のサポート・補佐
病棟運営の状況把握・問題点の改善

看護師長

病棟・外来などの看護部門の責任者です。看護部門と院長・看護部長との調整役でもあり、看護師のマネジメントを行います。主な業務は以下のとおりです。

現場スタッフの支援・育成
業務環境の整備
組織体制の管理
看護師のシフト管理
教育計画の作成
患者さんの受け入れ調整
看護研究の支援・推進

看護部長

看護師長から昇級した立場です。看護部全体の責任者でもあり、看護マネジメント全体を管理します。部署の調整や統括としての役割があり、看護部長と副院長を兼任しているケースも珍しくありません。主に以下のような業務を行います。

看護師の採用・育成
看護体制の構築
看護部門の予算管理
病院長・事務長との交渉や調整
他部署のスタッフとの連携や調整
他病院・地域社会・住民との連携や調整

人材管理も行う看護管理者に求められる能力

人材管理も行う看護管理者には、以下のように多くの能力が求められます。

組織管理能力

組織管理能力とは、組織方針の実現のために看護師をまとめて組織全体をスムーズに運営する能力です。スムーズに運営するためには、以下のような業務を行う必要があります。看護師たちのモチベーションを高めるために、メンバーとの信頼関係を築くことも重要です。

看護方針の策定・浸透
看護チームの目標設定
業務分担
スケジュール管理
情報共有
他部門との交渉・調整

質管理能力

満足度の高いケアを提供する体制を構築し、維持する能力です。看護の質を向上させるために、最新の医療知識やスキルを習得することも必要になります。看護の質を維持するためには、研修や学会への参加、認定看護管理者の取得など自己成長を続けることも大切です。看護の質を維持・向上するためには、以下のような業務を行う必要があります。

看護手順の標準化
看護の手順や基準の整備
看護の標準化・効率化の推進
必要なデータの活用・評価・改善
患者さんの満足度調査
医療安全管理

人材育成能力

看護師の個性や能力を理解し、スキルの向上、育成、サポートを行う能力です。人材を育成するためには、以下のような業務を行う必要があります。

新人看護師の教育
実習・研修受け入れ態勢の整備
キャリアアップの支援
人事評価
人材育成方針の策定
メンタルヘルスケア

危機管理能力

緊急時や危機的状況に陥ったときに予測されるリスクを回避し、影響を最小限に抑える能力です。患者さんや看護師の安全を守るために、多様なリスクに対応できる能力を活かし、以下のような業務も行います。

業務プロセスの見直しや改善
緊急時の対応手順の作成
災害時の避難誘導
感染症発生時の対応
医療事故の未然防止・発生時対応・再発防止

政策立案能力

看護の質を向上することを目指し、制度や政策を活用・立案する能力です。病院経営の計画を立案し、実行する責任があるため、高い政策立案能力が求められます。政策立案のためには、以下のような業務を行うことも必要です。

看護部門の目標設定
予算の編成・管理
人員配置計画
新しい医療機器の導入
医療制度や政策の情報収集
看護の質を向上させるための制度の提案や改正

創造する能力

近年は、看護現場においても患者さんのニーズが多様化しています。現状に満足せず、既存の枠にとらわれない発想力や創造力が必要です。業務効率化のために、新しいITシステムや医療機器などを導入するなど柔軟な発想力も求められます。多様なニーズに応えるために、以下のような業務を行うことも必要です。

ニーズに応じた看護サービスの開発
業務効率化を進めるための立案
多職種との連携強化

失敗しないタレントマネジメントの始め方ガイド

看護管理者に向いている人

先述したとおり、看護管理者にはさまざまな能力が求められます。以下は、看護管理者に向いている人の特徴です。

看護部においてリーダー経験がある人

看護管理者は、人材管理をはじめとする看護マネジメントを行うため、豊富な知識と経験が必要です。チームメンバーの相談に乗る機会も多いため、リーダー経験がある人やリーダーシップがある人が向いています。

コミュニケーションスキルがある人

看護管理者は、橋渡し役の役割もあります。相談しやすい人や話を聞いてくれそうな人などのコミュニケーションスキルがある人が適任です。「報告したら怒られそう」「報告しても結果は変わらないだろう」などと周りの看護師が考えてしまうような人は向いていません。

コミュニケーションを図りつつ、看護師が悩んでいることを引き出せると、離職防止にもつながります。

客観視できる人

人材管理を行ううえでは、印象や感情などの主観ではなく客観視できる人が向いています。トラブルが起きた際は、慌てずに冷静に対処することが求められるため、集中するあまりに周りが見えなくなる人は向いていません。物事を俯瞰して見る能力があると、的確な指示を出したり、冷静に対処したりできます。

豊富な知識・経験がある人

臨機応変な対応が求められる医療現場では、豊富な知識・経験があると的確な指示や状況把握ができます。看護管理者に向いている人は、トラブルが発生した場合に過去の経験から、冷静に解決策を導きだすことができるでしょう。

また、看護師同士や看護師と患者さんなどの意見が食い違う場合は、双方が納得する提案を行う必要があります。知識や経験に基づいて根拠を示せると、双方が納得感を得られるでしょう。

観察力や分析力に長けている人

慢性的な問題がある場合には、問題の本質を見抜く観察力が必要になります。課題を分析し、解決することが、看護管理者の役割です。最善な施策を導き出すだけではなく、新たな提案や話し合いで解決する力があれば、スムーズに問題を解決できるでしょう。

改善案を提案できる人

どのような職場でも課題は必ずあるものです。看護の質を向上させるためにも、課題を見つけ出して改善案を提案できる人は、看護管理者に向いているといえるでしょう。現状に満足せず、看護の質を向上させるような提案を常に考えられる人も向いています。

看護管理者の育成や業務に役立つ手段

看護管理者の育成や看護管理者の業務には、看護マネジメントラダーやマネジメントリフレクションが役に立ちます。

看護マネジメントラダーを使用する

看護マネジメントラダーとは、公益社団法人「日本看護協会」が2018年に作成・提示した病院管理者向けの指標です。病院看護管理者として必要な能力を獲得する段階を、おおよその目安として以下のように分類しています。

Ⅰ：主任
Ⅱ：看護師長
Ⅲ：副看護部長
Ⅳ：看護部長

「人材管理も行う看護管理者に求められる能力」でも先述したように、看護マネジメントラダーでは、主に以下の6つの能力を各役職でどの程度身につけているかの目安を示しています。

組織管理能力
質管理能力
人材管理能力
危機管理能力
政策立案能力
創造する能力

レベル・定義能力・定義	Ⅰ.自部署の看護管理者とともに看護管理を実践できる	Ⅱ.自部署の看護管理を実践できる
組織管理能力組織の方針を実現するために資源を活用し、看護組織をつくる力	●自部署の方針の策定に参画し、自部署全体に浸透させることができる ●経営的な視点をもって自部署の人的資源、物的資源、経済的資源、情報資源を把握することができる ●個々のスタッフの立場や意見を理解し、反応を予測しながら調整・交渉することができる ●自部署の作業環境において、業務上の危険要因を把握し、予防と対策を提案することができる ●自部署のスタッフが倫理的感受性を高められるよう支援することができる	●看護部門の方針を理解した上で、自部署の方針を策定し、自部署全体に浸透させることができる ●経営の視点をもって自部署の人的資源、物的資源、経済的資源、情報資源を評価し、整備することができる ●必要な根拠を客観的に示しながら他部署・他部門と調整・交渉することができる ●自病院が地域の医療資源のひとつであると理解し、施設外の関係者と連携することができる ●自部署における業務上の危険要因への予防と対策を行い、スタッフが自分自身の健康を大切にするための働きかけができる ●スタッフが自部署の倫理的課題を日常的に議論できるような組織文化をつくることができる
質管理能力患者の生命と生活、尊厳を尊重し、看護の質を組織として保証する力	●看護に関するデータの中から自部署の看護実践の改善に必要なデータを選別することができる ●自部署の看護実践の改善に向けてスタッフを主導することができる ●自部署の手順・基準などの見直しを提案することができる	●自部署の看護実践についてデータを活用して可視化し、評価・改善することができる ●自部署の手順・基準などを整備し、標準化・効率化を推進することができる ●個々のスタッフの看護実践能力を考慮した勤務体制をとり、看護の質を保証することができる ●自部署のケアの質保証のためにスペシャリストの活動を推進することができる
人材育成能力将来を見据えて看護人材を組織的に育成、支援する力	●自部署のスタッフを育成する体制を整備することができる ●スタッフの看護実践能力を把握し、個々の目標達成にあわせた支援・動機付けをすることができる ●外部からの実習・研修の受入れに際し、学習環境を教員などとともに調整することができる	●個々のスタッフのキャリア志向を把握し、計画的な指導・助言によりキャリア発達を支援することができる ●個々のスタッフの能力や可能性を見出し、機会や権限を与え、成長を支援することができる ●外部からの実習・研修を受入れるための自部署での指導体制を構築することができる
危機管理能力予測されるリスクを回避し、安全を確保するとともに、危機的状況に陥った際に影響を最小限に抑える力	●未然防止や再発防止の視点をもって業務プロセスを見直し、部署内の改善を徹底することができる ●事故や問題が発生した際、支援を受けながら経過に即した対応策を考え、スタッフが院内の対応策に則り行動するよう指揮することができる ●災害時に行動できるように、自部署の患者とスタッフの安全を確保するための対応策を立案し、災害発生に備えることができる	●自部署に関連する事故や問題のリスクを分析し、予防策を講じることができる ●自部署における安全文化の醸成をはかることができる ●事故や問題が発生した際、自部署の対応策を判断しマネジメントすることができる ●自部署で発生した事故や問題の原因究明を行い、再発防止策を立案し、継続的にモニタリングすることができる ●災害時に行動できるように、自部署の患者とスタッフの安全を確保するための対応策の立案とスタッフへの教育を行い、災害発生に備えることができる
政策立案能力看護の質向上のために制度・政策を活用及び立案する力	●既存の医療制度・政策に関する動向を情報収集することができる ●既存の医療制度・政策について課題意識を持つことができる	●自部署の看護の質向上に既存の制度・政策を活用することができる ●医療の動向を踏まえ、制度改正などへの対応を事前に準備することができる
創造する能力幅広い視野から組織の方向性を見出し、これまでにない新たなものを創り出そうと挑戦する力	●慣習にとらわれず、新たな看護サービスの提供方式・方法を提案することができる	●新たな看護サービスの提供方式・方法を創造し、スタッフとともに実現に向けた行動をとることができる ●地域に共通の保健医療福祉サービスの課題を想定し、課題解決に向け調整することができる ●医療・看護の動向や地域の状況などに関する情報を活用し、自部署および地域の看護ニーズの変化を予測して対応することができる

日本看護協会では「病院看護管理者のマネジメントラダー」をレベルと能力を掛け合わせた一覧表にしているので、活用するのもよいでしょう。

参考：病院看護管理者のマネジメントラダー｜日本看護協会

マネジメントリフレクションをする

リフレクションとは内省を意味し、過去の経験から自分の固定観念に気づきを得るプロセスです。マネジメントリフレクションとは、過去のマネジメントで「うまくいかなかった具体的な経験」を振り返ります。看護実践を振り返り、気づき・学び・本質をとらえ、次に活かせるようになると、看護マネジメント力が向上するでしょう。

看護管理者の育成・実習方法

看護管理者の育成・実習は、以下のようにさまざまな場所や内容で行われます。

育成・実習の場所

看護マネジメントは看護系大学などで、実習が取り入れられており、学生のうちから学ぶことができます。医療現場では、働く看護師に対してマネジメントに関する育成が行われていることが多いようです。

実習内容

看護系大学の看護マネジメントの実習は、医療機関で看護管理者である看護師長などが行うケースが多いようです。大学や医療機関によって実習内容は異なりますが、看護サービスやマネジメントの全体像を把握し、実践を通して理解を深めます。

認定看護管理者制度とは？

優秀な人材であることや組織を発展させる能力が認められる認定看護管理者制度について解説します。

認定看護管理者制度の概要

認定看護管理者とは、医療機関の管理者として優秀な人材であること、組織を発展させる能力があることなどを認める資格です。日本看護協会が認定する資格であり、英語表記では「Certified Nurse Administrator（CNA）」とされています。認定看護管理者には、先述した看護マネジメントラダーの6つの能力が必要です。

認定看護管理者の受験資格

認定看護管理者の試験を受けるには、以下の2つの条件が必要です。

条件1：看護師免許を取得し、合計3年以上の看護管理（看護師長相当）の経験があること
条件2：以下の要件1か2のいずれかを満たすこと

【要件1】認定看護管理者教育課程「サードレベル」を修了している

【要件2】看護管理に関連している学問領域の「修士以上」の学位を取得している

認定看護管理者の更新

認定看護管理者の資格を保持するには、認定後5年ごとに更新が必要です。資格の取得や維持で年収に大きく影響するわけではありませんが、より高いレベルの看護マネジメントを実践できるようになります。

失敗しないタレントマネジメントの始め方ガイド

認定看護管理者の資格を取得するメリット

認定看護管理者の資格を取得するとスキルアップにつながるだけではなく、スキルアップを心がける努力が認められて管理者への昇進・昇給などが期待できます。管理者としての視点が身につけば仕事に対する意識が変わり、自らの成長も感じられるでしょう。

看護管理者の人材管理における課題

人材管理を含む看護マネジメントを行う看護管理者は、医療現場に欠かせない存在です。しかし、看護管理者を育成するには、以下のとおりいくつかの課題があります。

看護師の人手不足

どの業界も人手不足の傾向にありますが、看護師においては需要に対しての供給が追い付いていない状況です。人手不足による仕事のきつさ、賃金の問題、休暇の取りづらさなどで離職する人も多い傾向にあります。看護管理者は看護マネジメントを実施することで、組織全体を円滑に運営することなども求められるでしょう。