EX向上を実践するためには?必要とされる背景や実践法・企業例を解説


EX向上を実践するためには?必要とされる背景や実践法・企業例を解説

Employee Experience(EX)は、社員の満足度やエンゲージメント向上を目指す新しい概念です。EX向上により、社員のエンゲージメントが高まり、顧客満足度(CX)にもよい影響があるとされています。グローバル企業では、EX向上に関する施策を積極的に導入しています。この記事では、EXの重要性や向上させる方法について解説するため、参考にしてください。


従業員エンゲージメントを用いて魅力的な会社の作り方を考えるに関する資料はこちら

EXとは

EXとは、「Employee Experience」を略した言葉です。日本語に訳すと「従業員体験」となり、社員の満足度やエンゲージメント向上を目的とした概念として知られています。EX向上の施策としては、オフィス環境を整えて働きやすい職場環境にする、社員への手当や福利厚生を充実させる、ITツールなどを導入して残業を減らすなどが挙げられます。


EX向上の施策を行うことによって社員の満足度やエンゲージメントが向上し、生産性やサービス向上などが期待できるでしょう。これにより、CX(顧客体験)の向上につながります。実際にEX投資を行っている企業は行っていない企業よりも、4倍の利益を創出するとHarvard Business Reviewで報告されています。


EXの期間は以下の5段階に分けられます。


  • 人材募集
  • オンボーディング
  • 能力開発
  • 定着促進
  • 退職


CXとの関係とは

CXとは、「Customer Experience」の略です。日本語にすると「顧客体験価値」となり、自社の商品やサービスの認知から購入、アフターサービスなどのさまざまな設定において、顧客に対して質の高い体験を提供するための施策を指します。


多くの企業ではCXが重要視されており、CXを統括する経営幹部が設置されるなどしています。しかし、EXの重要性は見逃されがちです。EX向上を図ることはCX向上にも大きく関係するため、EX向上の取り組みは欠かせません。EXを高めるには、社員が業務に対してやりがいや意欲を持つことが重要です。


EX向上とCX向上における相関性とは

EXの指標を持つ企業は、CXをよりよく提供できる傾向があるとされています。EXの向上を図ることで従業員満足度が高まり、より質の高い商品やサービスの提供につながるでしょう。結果として、顧客満足度を向上させることが示唆されています。


EXの指標は、社員の満足度・定着率・指示と評判・エンゲージメントなどに分類されており、これらの項目がCXに影響を与えます。また、CXとEXを統合して顧客中心の戦略を立てる重要性が増しており、CXO(チーフ・エクスペリエンス・オフィサー)という役職も登場しているようです。


EX向上にはCX向上が重要

EX向上を目指すには、CX向上が欠かせません。前述したように、EX向上とCX向上には相関性があります。しかし、CXよりもEXを重視しすぎると、顧客体験向上の意図が理解されにくくなります。善意だけの社員が増えたり成果が出なくなったりするリスクがあるため注意しましょう。


逆に、EXを無視してCXだけを追求してしまうと、社員の満足度が低下するリスクがあります。これにより、離職率や生産性低下による人件費の増加、創造的思考の欠如などにつながる可能性があるでしょう。


EX向上が必要な背景

EX向上の重要性が高まっていますが、どのような理由があるのでしょうか。ここでは、EX向上が必要とされる背景を解説します。


社員を自社に定着させる

EX向上によって、定着率を高める狙いがあります。人生100年時代においては「転職」はひとつの選択肢として広く周知されており、優秀な人材の流動率は高くなります。転職がメジャーな選択肢となった時代では、社員の定着と優秀な人材の引き止めが課題だといえるでしょう。


また、少子高齢化によって労働人口は減少傾向にあり、人材の確保が難しくなっています。人材の確保、社員の定着率向上などのためには、EX向上が必要です。特に、Z世代は転職に対する抵抗感が少なく、これまでの働き方にとらわれない傾向が強いです。人材流動性が高まっているため、社員を定着させる施策が求められます。


社員のパフォーマンスを上げる

労働力の減少によって、多くの企業が人手不足に陥ると予測されています。少ない労働力で業務を効率的に行うには、社員のパフォーマンス向上が欠かせません。社員のパフォーマンスを高めるために、EX向上が求められます。


EX向上の取り組みを行うことで従業員満足度が高まり、生産性の向上やサービスの品質が高まることが期待できるでしょう。EX向上によりサービスプロフィットチェーンという循環が生まれます。これは、社員のスキルや意欲向上、人材流出防止などを行うことが顧客サービス向上につながり、業績向上を促進するというサイクルです。


従業員エンゲージメントを用いて魅力的な会社の作り方を考えるに関する資料はこちら


ワークライフバランスを考える

働き方改革の推進などにより、ワークライフバランスの重要性が高まっており、仕事とプライベートの充実が求められています。長時間労働や有給取得が難しい環境などは、EXにマイナスの影響を与え、ワークライフバランスの悪化につながります。


ワークライフバランスを整えるために、テレワークの導入や時短勤務、福利厚生の充実などを図りましょう。また、社内アンケートなどで社員の声を集めて、職場環境の改善に取り組むことも重要です。


情報開示が進んでいる

インターネットの普及によって、企業のEXに関する情報を簡単に検索できるようになりました。アメリカでは、「Employee Experience + 企業名」で検索することで、社員のレビューを閲覧可能です。


労働環境が悪いとSNSで拡散されやすいため、リスクマネジメントが欠かせません。労働者だけでなく消費者も企業の評価を確認でき、評価が低いと企業成長に影響を与える可能性があるでしょう。EX向上により、ポジティブな情報拡散と企業価値向上につながるため、EX向上の重要性が高まっています。


EXに関する項目

EXは多岐にわたります。EXに関する主な項目と概要は以下のとおりです。


  • 自身の業務:業務内容や業務量、業務に関連して与えられる権限や裁量など
  • 自身の成長:評価や昇進、研修や周囲からのアドバイスなど
  • 周囲との関係:上司や同僚との関係性、顧客との関係など
  • 企業に関する項目:企業成長・業績、企業としてのビジョンに対する共感など
  • 企業文化:情報共有ができているか、柔軟性や革新性があるか、互いに褒め合うなどの評価し合う文化があるかなど
  • 働くうえでの基本:給与や賞与、ワークライフバランス、福利厚生など


これらの項目に関する施策をトータルで行うことにより、EX向上につながります。


EXを向上させる方法

EXを向上させるにはどうすればよいのでしょうか。ここでは、EXを向上させる5つの方法を解説します。


Employee Journeyを用いる

Employee Journey(エンプロイージャーニー)とは、社員が入社してから退職するまでに経験するすべての体験を指します。たとえば、採用からキャリアアップ研修、人間関係、業務内容や働き方などさまざまな要素があります。Employee Journeyの作成手順は以下のとおりです。


  • ペルソナ設定:社員へのヒアリングを行い、社員のモデルを作成する
  • フェーズ分類:入社から退社までの流れをフェーズ分けする
  • 各フェーズでの動き予測:各フェーズにおいて、ペルソナが取る行動や感情などの動きを予測する
  • EX施策を考案:分析結果を基にして、EX施策を検討する


さらに、定期的にアンケートによる効果測定を実施し、施策を改善することが重要です。


1対1のミーティングを行う

上司と部下が1対1で行う、1on1ミーティングを行いましょう。個人面談を定期的に行うことで、育成やモチベーション向上に関する課題などが見つかりやすくなります。グループ面談とは異なり、社員のニーズを正確に把握できる、信頼関係を構築しやすいというメリットがあります。


また、チャットやグループウェアなどを活用して、社内のコミュニケーション活性化を図ることもポイントです。コミュニケーションやミーティング促進のために、オフィスレイアウトを工夫することもよい方法です。


1on1ミーティングとは|注目される背景やメリット・デメリット、話すべきテーマを解説


社員へアンケートを実施する

社員に定期的なアンケートを実施することもEX向上には欠かせません。アンケートを通して、職場環境に関する不満や課題などを把握できるため、改善策の検討がしやすくなります。アンケートは1回きりではなく、数か月に1回から年1回程度は実施しましょう。


アンケートを取ることで、EXに関する施策の優先度を決める材料としても活用できます。ただし、アンケートは適切な質問設計や結果の分析、可視化などが難しいです。そのため、代行サービスやツールなどの活用を検討するとよいでしょう。社員の声をしっかりと聞き、課題や不満などを迅速に発見することで改善につなげられます。


従業員エンゲージメントを用いて魅力的な会社の作り方を考えるに関する資料はこちら


タレントマネジメントを行う

タレントマネジメントとは、社員それぞれのスキルや経験、特性などを最大限に活かすための人事マネジメントのことです。タレントマネジメントを活用することで、社員の特性やスキルを正確に理解することができ、得意分野を伸ばしながら課題を明確にすることが可能です。


また、各社員のスキルや特性に合った適切な育成や人材配置につながるため、社員のエンゲージメント向上に役立つでしょう。結果的に、EX改善につながります。


タレントマネジメントとは?意味と必要性や国内事例、実践ステップを解説


DXを推進する

DXとは「Digital Transformation」の略で、データやデジタルツールを活用してビジネスモデルを変革させるという概念です。EX向上を図るにはアナログだけでは効果が限定的になるため、DXを促進してデジタル化を進めることが求められます。DX推進により、業務効率化が図られるだけでなく、社員の働き方をデータ化して満足度を測定することも可能です。


DX戦略とは何?必要とされている理由や成功させるポイントなどを紹介


EX向上のために必要なこと

EX向上には、業務・感情の視点からEXをつくることが重要です。それぞれ解説します。


業務の視点を取り入れたEXをつくる

業務視点からEX向上を行う場合には、社員が業務を全うすることを目指しましょう。具体的には、業務量や業務のレベル、引き継ぎの手順などが挙げられます。これらの項目を考慮したうえで、マニュアル作成や業務の外注、サポート体制の構築などを行い、社員が円滑に業務を進められる環境をつくることが大切です。これにより社員の責任感や達成感が向上します。


感情の視点を取り入れたEXをつくる

感情の視点からEXをつくる際には、社員同士や上司との関係性が重要です。お互いにサポートし合える関係や困ったときには助けてくれる上司がいるかなど、人間関係から発生する感情に注目しましょう。感情は常に変化するため、組織サーベイや面談などを通して、社員の気持ちを頻繁に確認します。社員の声に真摯に向き合って、EXを作成しましょう。


EX向上に成功している企業

ここでは、EX向上に成功している企業の例を8社紹介します。EX向上のために、参考にしてください。


Starbucks Corporation

Starbucks Corporationでは、社員に対して学びの場を提供することでEX向上を図っています。大学の学費を社員に支給するだけでなく、アリゾナ州立大学と提携してオンラインで80以上のコースを提供しており、社員が学びやすい環境を構築しています。


充実した学びの場を提供することによって、企業に対する満足度やエンゲージメント向上につながっており、社員のスキルアップにも寄与しています。


patagonia, Inc.

patagonia, Inc.では、オフィス内に子どもの保育園を設置しています。これにより、社員が育児と仕事を無理なく行えるようになり、EX向上につながっているようです。


社員が育児と仕事を両立できる「チャイルドケアプログラム」を提供することで、「育児と仕事の両立がしやすい、安心して働ける」という気持ちを抱くことになり、企業に対する信頼や愛着が高まります。結果として、定着率向上に成功しており、離職率の低減につながっています。


Hilton Worldwide Holdings Inc.

Hilton Worldwide Holdings Inc.では、ロッカールームやカフェテリアの改修、従業員専用空間の整備といった、社員に対するホスピタリティの徹底をEX向上施策として行いました。これによって、2019年にFORTUNEの「100 Best Companies to Work For」で1位を獲得しています。


社員に対して快適な空間を提供することで、同社の理念である「世界で最高のホスピタリティの提供」を社員に広く浸透させることにもつながっています。


Airbnb

Airbnbでは、「社員が選ぶ企業ランキング」で2015年に世界1位を獲得しています。同社では、EX向上のために1つのプロジェクトやプログラムに限定せずに、採用からオンボーディング、社員の食事やワークスペースなど、さまざまな体験に焦点を当ててEX向上の施策を行いました。


たとえば、世界中に展開されているオフィスをつなげるために社員イントラネットを活用する、福利厚生の充実、最新テクノロジーの導入による業務効率化などを行い、従業員体験を全面的に改善しています。


Adobe

Adobeでは、「Check-in」制度や産前産後休暇を導入して、社員のキャリア支援とエンゲージメント向上に成功しています。


具体的には10日間の出産有給休暇や産後26週間の有給制度の設立、男性社員を対象とした16週間の有給制度の整備、定期的なマネージャーと社員の1on1ミーティングによるキャリア相談、社員のキャリアアップを支援する制度などを設けています。これにより、社員の成長を支援してEXの向上に成功しているようです。


Netflix

Netflixでは、自由と責任を重視して社員に対して裁量を与えました。たとえば、経費の使い方に関する方針に「Netflixの最善の利益のために使用する」というものがあります。そのため、同社の利益になるような行動をするものは経費として認められるという仕組みです。


また、休暇日数に関するルールがないことも大きな特徴です。リーダーが積極的に休暇を取り、新しいアイデアの創出につなげることが推奨されており、社員個人の裁量に合わせた働き方によって、EX向上を実現しています。


Cisco Systems

Cisco Systemsでは、「Connected Recognition制度」を導入して、社員の表彰とコラボレーション促進に成功しています。「Connected Recognition制度」とは、社員同士がお互いに表彰し合える制度で、5,000円程度までの報奨金ならマネージャーの承認なく付与し合えます。


また、1on1やバディ制度、オンラインイベントなども積極的に行っています。相談しやすい環境や雑談の機会、遊びを通じたイベントなどを確保することで、EX向上につながっているようです。


スープストックトーキョー

スープストックトーキョーでは、複業ができる「ピボットワーク制度」や多様な勤務ニーズの支援として「セレクト勤務制度」などを導入して、柔軟な働き方を実現しました。これにより、社員それぞれが自由な働き方を選択でき、EX向上につながっています。


また、仕事とプライベートのバランスを取るために、年間の休日休暇を120日間と定める、「賞賛カード」の導入、産休・育休後も安心して働ける制度の設立など、働きやすい環境の構築を行っています。


EX向上に対する注意点

ガートナー社では、CXにおいて1つの指標だけを重視すべきではないと提唱しており、これはEXにも当てはまります。EXの指標は、ES(従業員満足度)やエンゲージメント調査だけではなく、関連するすべての指標をまとめて、部門間で共有することが大切です。


また、上位レベルの指標の改善は、下位レベルのさまざまな指標を改善していくことで実現できます。そのため、トップダウンではなく、社員の声をしっかりと聞き、社員のニーズを反映させた施策を行いましょう。施策を強制しないことも大切です。任意参加でも強制感が出ないように配慮し、社員が自発的に参加する環境を構築しましょう。


まとめ

EXとは、社員の満足度やエンゲージメント向上を目指す概念です。EXの向上とCXには密接な関係があり、EX向上を目指すためにはCX向上が欠かせません。どちらか一方だけを重視するのではなく、EX向上とCX向上を並行して行いましょう。EX向上には、1on1や社員アンケート、タレントマネジメントの導入、DX促進などが効果的です。


タレントパレットは、採用から育成、配置、離職防止だけでなく、意思決定支援までワンプラットフォームで実現できるタレントマネジメントシステムです。。人材データ分析やエンゲージメント向上も可能で、大手企業への導入実績も豊富です。EX向上の施策をお考えなら、お気軽にお問い合わせください。


社員エンゲージメントの可視化に役立つシステムの詳しい情報はこちら

従業員エンゲージメントを用いて魅力的な会社の作り方を考えるに関する資料はこちら