ISO30414は資格?認証するには?基本情報や背景・メリットを解説


ISO30414は資格?認証するには?基本情報や背景・メリットを解説

ISO30414は、人的資本に関する情報開示の国際基準についてのガイドラインです。この記事では、ISO30414の11の項目や認証方法などを重点的に解説します。ISO30414の認証が策定された背景や、企業が認証を受けるメリットなども解説するので、認証を検討している人は参考にしてください。


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ISO30414の定義

ISO30414とは、国際取引における規格のことです。以下では、ISO30414の定義を詳しく解説します。


そもそもISOとは?

ISOとは、International Organization for Standardization(国際標準化機構)の頭文字の略称で、国際規格を決める民間の国際機関です。ISOは国際的な規格を定めることで、国際取引をする企業が持続的な経営を行えるように支援しています。ISOがこれまでに定めた規格は、環境マネジメントのISO14001や、品質マネジメントのISO9001などです。


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人的資本開示とは?

人的資本とは、社員を企業や組織の資本とする考え方のことで、具体的には保有資格やスキル、知識など、社員が持つ能力をいいます。人的資本開示とは、人材戦略情報を外部に公開することです。自社がどのように人的資本を活用しているのか、具体的なトレーニング方法や労働条件などを公開します。


人的資本開示を実施すると社内の透明性が高まるうえに、ステークホルダーからの信頼を高めることも可能です。


ISO30414とは?

ISO30414は、人的資本に関する情報開示の国際基準を定めたガイドラインを指します。規格は国や地域、業界、規模が異なる企業によって変わることはありません。ISO30414が策定された目的は、持続可能な企業経営をサポートするためです。具体的には、社員の人数や年代、社内の労災件数を含む全11項目と58の指標が、指針としてまとめられています。


ISO30414の認証を受けるには、ISOによる審査が必要です。審査の詳細は、以下で解説します。


ISO30414は資格?認証されるには?

ISO30414は資格とは違い、認証機関から取得する認証のことです。認証機関からISO30414の認証を受けると、自社の人的資本情報の開示によって、ステークホルダーからの評価が上がりやすくなるといわれています。


取得の手順

ISO30414の認証を取得するには、ISOによる審査をクリアしなければなりません。審査を通過するには、ISO30414の指標に基づいた必要なデータをそろえてから、ISOに審査を依頼します。日本でISO30414の認証を行う機関は、株式会社HCプロデュースのみです(2023年6月時点)。


参考:プラスアルファ・コンサルティング、人的資本開示の国際規格「ISO 30414」の 認証機関であるHCプロデュースの公式パートナー企業に認定|お知らせ|タレントパレット|大手No.1タレントマネジメントシステム


取得にかかる期間・費用

ISO30414の認証を取得するまでにかかる期間は、半年から1年程度とされています。認証審査を受けるには審査費用を払う必要があり、いくらかかるのかは企業の規模によって異なるため注意しましょう。ISO30414の認証の取得は永続的なものではなく、定期的に更新する必要があります。再審査が行われるのは、取得から3年に1回の頻度です。


ISO30414が注目される背景

ISO30414に注目が集まる背景は人的資本の重要性が高まったり、ESG投資が注目されたりすることなどが挙げられます。


1.人的資本の重要性が高まっている

ISO30414が注目される背景の1つは、近年において人的資本の重要性が高まっているためです。多様性を重視した考え方が世界に広まったことで、企業では社員を資本の1つとして捉えるようになり、人的資本に基づいた経営が重要視されました。


人的資本経営を実現するには自社の人的資本の現状を把握し、他社との差別化を図る必要があることから、世界基準となるISO30414が注目されています。


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2.ESG投資に注目が集まっている

ESG投資とは、環境(Environment)・社会(Society)・ガバナンス(Governance)の3つの要素をもとに、投資先を決める投資手法のことです。3つの要素を満たすことで、ステークホルダーから持続的な成長が見込める企業として認識されます。


本来、環境保護や社会課題解決などは国の政策とみなされていましたが、近年は大手企業を筆頭に、企業が社会的な責任を果たすための取り組みとして、認識されるようになりました。そのため、多くの企業がESG投資を意識した取り組みを実施しているようです。


3.日本国内での人的資本開示が強化されている

経済産業省の「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」が発表した報告書の影響によって、人的資本開示を強化する取り組みが行われています。同研究会は2020年9月に、「人材版伊藤レポート」と呼ばれる報告書を発表しました。


「人材版伊藤レポート」では、企業が持続的に企業価値を向上させるために、経営戦略やビジネスモデルだけを重視するのではなく、人材戦略を連動させることも重要なポイントとしています。2022年5月には、改訂版の「人材版伊藤レポート2.0」が発表されました。


4.コーポレートガバナンス・コードの改訂

コーポレートガバナンス・コードとは、上場企業の企業統治のためのガイドラインのことです。東京証券取引所は2021年に、コーポレートガバナンス・コードを改訂しました。


日本では人的資本に関する情報開示は法的に義務付けられていません。しかし、コーポレートガバナンス・コードの改訂によって、情報開示を求めれば、上場企業の人的資本に関する情報が公開されるようになりました。


ISO30414のメリット

ISO30414のおもなメリットは、持続可能な企業経営を支援できる点や、企業の採用力を向上させることが可能な点です。


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ステークホルダーへ効果的な情報開示が可能

企業はISO30414の認証を取得することで、ステークホルダーに人的資本の状況を開示できるようになりました。ステークホルダーのメリットは、企業の人材戦略の取り組みを理解しやすくなることです。一方、情報を開示する側の企業はISO30414の取得によって、自社の人的資本を定量化しやすいというメリットもあります。


持続可能な企業経営をサポートできる

ISO30414の認証を受けるメリットは、自社の人材戦略の測定や分析によって、上場企業の持続可能な企業経営をサポートできることです。「人材版伊藤レポート」にもあるように、企業の人的資本を向上させるには、経営戦略と人材戦略は切り離して考えることはできません。


ISO30414は自社の人的資本を数値化できるため、これまでの人材戦略がどのような成果を出したのか測定できます。人的資本データを分析し、経営戦略との連携を定量化できれば、より効果的な人材戦略を検討できるうえに、企業の成長につなげることも可能です。


採用力の向上につながる

人的資本経営の実現に向けて社員の育成に日々励んでいる企業は、自社の情報を開示することで応募者からの人気を集めやすくなります。特に、スキルアップやキャリアアップを目指す人材から注目されるでしょう。優れた人材の応募が増えれば、自社の採用力の向上につなげることも可能です。


ISO30414の11項目とは?

ISO30414には11項目の基準が設定されており、さらに58の指標が定められています。本章では、11の項目を確認しましょう。


1.コンプライアンスと倫理

コンプライアンスと倫理の項目では、自社への苦情件数や社内の懲戒処分の種類、内部紛争の件数、外部監査の指摘事項など、5つの指標が定められています。


  • 苦情の種類と件数
  • 懲戒処分の種類と件数
  • コンプライアンスと倫理に関する研修を受講した社員の割合
  • 外部に解決を委ねた争いの数
  • 外部との争いから来る外部監査による発見とアクションの数とタイプとソース


2.コスト

コストの項目に設定されているのは、採用活動にかかる費用や人件費などです。人事や採用に関するコストが適正であるかどうかを、数値化できる指標が設定されています。定められている指標は以下の7つです。


  • 総労働力のコスト
  • 外部労働力のコスト
  • 総給与に関する特定職の報酬割合
  • 総雇用コスト
  • 1人あたりの採用コスト
  • 採用のコスト
  • 離職に関するコスト


3.ダイバーシティ(多様性)

ダイバーシティの項目では、多様性の実現度を示す5つの指標が定められています。多様性の実現度は大きく分けて、社員の属性による指標と経営陣による指標の2つです。


  • 年齢
  • 性別
  • 障害
  • その他
  • 経営陣のダイバーシティ


4.リーダーシップ

リーダーシップの項目では、管理職候補の人材開発や、管理職の人材管理の現状を示す3つの指標が定められています。3つの指標は、以下の通りです。


  • リーダーシップに対する信頼度
  • 1人の管理職が管理する社員数
  • リーダーシップの開発


5.組織文化

組織文化は数値化が難しいとされていますが、アンケートを活用することで定量化できます。組織文化の項目で定められている指標は、以下の2つです。


  • エンゲージメント/満足度/コミットメント
  • 社員の定着率


6.組織の健康・安全・福祉

組織の健康・安全・福祉の項目は、社員の健康や福祉、業務上の安全性に関する指標が定められています。おもな指標は、以下の4つです。


  • 労災によって失った時間
  • 労災の件数
  • 労災による死亡者数
  • 健康・安全研修の受講割合


7.生産性

生産性の項目では自社の売上高や収益、社員1人あたりの利益など、2つの指標があります。人的資本ROIとは、人的資本に投資した金額に対し、どのくらいのリターンがあったのかを示す割合のことです。


  • EBIT/収益/売上高/1人あたりの利益
  • 人的資本ROI


8.採用・配置・離職

採用・配置・離職の項目は重要ポストをはじめ、採用力の高さや適正な人材配置が行われているかを示す、15の指標が定められています。


  • 募集したポストあたりの書類選考通過者
  • 採用社員の質
  • 採用にかかる平均日数
  • 重要ポストが埋まるまでの時間
  • 将来必要な人材の能力
  • 内部登用率(空席ポスト)
  • 内部登用率(重要ポスト)
  • 重要ポストの割合
  • 全空席中の重要ポストの空席率
  • 内部移動数
  • 幹部候補の準備度
  • 離職率
  • 自発的離職率
  • 致命的な自発的離職率
  • 離職の理由


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9.スキルと能力

スキルと能力の項目で定められているのは、人材開発に関する5つの指標です。社員のスキルや能力に関する情報を数値化できます


  • 人材開発・研修の費用
  • 研修の参加率
  • 社員1人あたりの研修受講時間
  • カテゴリ別の研修受講率
  • 社員のコンピテンシーシート


10.後継者育成計画

後継者育成計画の項目で定められているのは、4つの指標です。この項目では、次世代のリーダーの育成度を数値化した指標が設定されています。


  • 内部継承率
  • 後継者候補準備率
  • 後継者の継承準備度(即時)
  • 後継者の継承準備度(1~3年、4~5年)


11.労働力

労働力の項目で設定されているのは、企業がどのくらいの労働力を確保できているかを示す7つの指標です。


  • 総社員数
  • 総社員数(フルタイム/パートタイム)
  • 常勤社員数
  • 外部労働力
  • 臨時の労働者(独立事業主)
  • 臨時の労働者(派遣事業者)
  • 欠勤数


ISO30414に基づいた情報開示の手順

自社の人的資本に関する情報を開示するには、ISO30414に基づいた手順を踏む必要があります。


開示する指標を決める

ISO30414には58の指標が定められていますが、全ての情報を開示する必要はありません。開示する指標を決める際は、自社のステークホルダーの有益な指標や明確な意図をもって、指標を定めることが重要です。ステークホルダーが知りたい情報が何かを把握し、効果的な情報開示をしましょう。


データ収集を実施する

情報開示する指標を決めてから行うのは、ISO30414の指標に基づいたデータの収集です。例えば、生産性の項目であれば売上高や収益などのデータを把握しておきます。コストの項目の場合は、採用から退職までにかかるそれぞれのコストのデータを集めておくと、その後の進行がスムーズです。


また、指標によっては人事領域を超えた他部署との連携が必要になるため、事前に部署間でスムーズな連携が取れるようにしておきましょう。


KPIを明確にする

情報開示に必要なデータを全て集めたら、KPIを設定します。KPI(重要業績評価指標)とは、目標達成に至るプロセスの評価や達成度を数値化した指標のことです。KPIは、意図をもって原因と結果を示す指標の関係性を確認したうえで決めましょう。


例えば、離職率の低下という結果指標を選んだ場合は、原因指標にあたる社員の満足度や、エンゲージメントなどをあわせて確認することで、それぞれの指標の因果関係を確認できます。


データにアクセス可能な仕組みを整える

情報開示をするにはステークホルダーが、自社のデータにアクセスできる仕組みを構築しておかなければなりません。ISO30414が策定された目的は、企業が自社の経営やマネジメントに活用するためです。


開示したい情報だけをWebページに公開するのも方法のひとつですが、人的資本経営に活用できる環境を構築しておけば、PDCAサイクルを回しやすく、継続的に改善を図れます。例えば、リアルタイムでデータにアクセスできるツールや、システムを活用するとよいでしょう。


まとめ

ISO30414は、企業の人的資本に関する情報開示の基準をまとめたガイドラインです。自社の情報を公開することで、ステークホルダーに企業価値を明確に示せるようになります。情報を開示することが目的ではなく、実際の経営判断やマネジメントに活用することも重要なため、データの一元管理が可能なツールやシステムを活用しましょう。


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