昇格制度は、社員がモチベーションをもって働くために重要な制度です。企業や人事担当者には適切な昇格制度の運用が求められる一方で、昇格基準の考え方や設定方法に悩むケースも多いのではないでしょうか。
本記事では人事担当者に向けて、昇格の基礎知識を確認するとともに、昇格基準の決め方や種類、公正な人事評価におけるポイントなどを解説します。
タレントマネジメントシステムの導入を検討されている方におすすめの資料
人事評価における昇格基準とは
まずは、人事評価における昇格の基礎知識について見ていきましょう。
そもそも昇格とは
昇格とは、職能資格制度において等級が上がることを指します。職能資格制度は、社員の能力を評価し、能力に合った給与や処遇を決定する制度です。公正な評価を行うためには、企業が求める業務レベルと職務遂行能力による定義付けが必要になります。
社員のスキルや能力に対して、求める業務レベルを段階的に表したものが「職能資格等級」です。職能資格制度では、あらかじめ給与テーブルが定められており、能力が高いと判断されれば等級が上がり、高い給与が支給されます。
同じような言葉に「昇進・昇給」がありますが、昇格とは定義が異なるため、次項で解説しましょう。
※参考:人事評価制度を変えたいと考えており、職能資格制度に興味があります。どのように導入をすればよいでしょうか?|独立行政法人中小企業基盤整備機構
昇格・昇進の違い
昇進は、職位が上がることです。職位は「部長」や「課長」など役職のことであり、昇進は肩書きが上位のものに変わる際に使用されます。業績・能力・勤続年数などで決められ、昇進試験を実施する企業も少なくありません。
昇進することでより責任が伴う業務を任されることが多く、付随して給与も上がる傾向にあります。昇格は等級が上がることですが、給与や権限、責任などの根拠であり、必ずしも役職と結びつかないことを理解しておきましょう。
昇格・昇給の違い
昇給とは、基本給が上がることを指し、ボーナスの増加は含まれません。昇給には、「ベースアップ」と「定期昇給」の2種類があります。
- ベースアップ:基本給を一律増額
- 定期昇給:基準に基づいて基本給を増額
ベースアップは、個人の成績や年齢などに関係なく、社員の基本給を一律で上げる仕組みです。一方の定期昇給は、役職や勤続年数など企業が定めた基準に則って基本給を増額します。ただし、企業の業績に影響される場合があり、必ず昇給するとは限りません。
人事評価における昇格の目的
企業はなぜ人事評価による昇格を行うのでしょうか。3つの目的について解説します。
社員のモチベーションを高める
1つ目の目的は、社員のモチベーションアップです。昇格は社員への評価を視覚的に表す手段となります。自分の成果や努力が適切に評価されるとわかれば、昇格を意識して業務に取り組めるでしょう。
また、基準を明確にすることで、昇格に必要な能力やスキルが把握できます。キャリア設計しやすく給与アップにもつながるため、社員のモチベーション維持に最適といえるでしょう。
企業の成長を促す
2つ目の目的は、企業成長の促進です。社員が昇格を目指し、スキル取得や能力向上に取り組むと個人の成長が期待できます。さらに、モチベーションや生産性が高まることで、業績の向上にもつながるでしょう。
また、昇格によって社員の帰属意識が強化されれば、離職防止に有効です。定められた等級で社員の能力管理ができるため、人材配置にも役立ちます。
次世代の幹部を育成する
3つ目の目的は、次世代の幹部の育成です。昇格は人材開発の一部であり、グローバル化や働き方の多様化が進むなか、幅広い視野で企業を牽引するリーダーが求められています。
人材流出を防ぐためにも、期待値が高い社員には見合うポジションが必要です。昇格によって新たなポジションを任せれば、幹部に必要なスキルや能力が身につくでしょう。
人事評価における昇格基準の決め方
昇格基準はどのように決定するのでしょうか。ここでは、3つの軸から昇格基準について見ていきましょう。
能力軸による昇格基準
能力軸による決定方法は、「職能資格制度」と呼ばれています。職能資格制度とは、社員の能力をもとに等級を決定する制度です。日本では一般的な制度で、能力が高いほど等級および給与が上がります。
判定基準が能力であるため、基本的に等級が下がることはなく、終身雇用が前提です。職務に関係なく社員の能力を基準とすることから、公平な評価や人事異動を柔軟に行いやすい点がメリットといえるでしょう。一方で評価が抽象的になりやすく、社員の不満につながる可能性があります。また、社員が多いほど人件費が高くなる傾向です。
職務軸による昇格基準
職務軸による決定方法は「職務等級制度」といい、「ジョブグレード制度」とも呼ばれています。職務等級制度とは、職務の内容や難易度に対応して等級・給与テーブルを定める制度です。社員の学歴や能力、勤続年数などに関係なく、業務内容を基準として人材を配置します。
欧米を中心に採用されており、役割が変更になると昇格あるいは降格となることから、成果主義的な制度といえるでしょう。なお、職務記述書の作成に手間と時間がかかり、職務が変更されなければ給与は上がらないため、社員のモチベーションへの影響や定着率の低下といった懸念があることがデメリットです。
役割軸による昇格基準
役割軸による決定方法は「役割等級制度」といい、「ミッショングレード制」とも呼ばれています。役割等級制度とは、社員が果たす役割に応じて等級を決定する制度です。例えば、同じ役職(部長や課長)でも、業務内容の重要度や責任の重さによって等級が変化します。
職能資格制度と似ていますが、役割や重要度が低下した際には降格もあり得る点が大きな違いです。役割等級制度は比較的新しい制度で、職能資格制度と職務等級制度両方のメリットがあるとされていますが、明確な定義がないため、導入のハードルは高いといえるでしょう。
人事評価における昇格の要件
昇格するための要件は、企業によってさまざまです。ここでは、一般的な昇格要件について解説します。
勤続年数・年齢
勤続年数や年齢は、年功序列型の企業で多く採用されている要件です。最低必要年数などを設定し、要件を満たすことで昇格します。例えば、「入社◯年以上」「3等級の在位年数が◯年以上」などです。
この要件は、長く勤務することで昇格につながる一方で、成果が人事評価に反映されづらく、社員のモチベーションが低下する可能性があります。
目標管理制度(MBO)
目標管理制度(MBO)は、社員が達成すべき目標を設定し、一定期間ごとの達成度を評価する方法です。成果主義の普及に伴い、導入する企業が増えています。社員自身が目標を設定するため、主体性やモチベーションの向上を図れる点がメリットです。
ただし、評価されやすくするために目標を低く設定するおそれもあります。そのため、上司・部下間ですり合わせやサポートを行うとよいでしょう。
人事考課
人事考課では、一定期間における社員の勤務態度・実績などを評価します。以下の3つの指標から評価するのが一般的です。
- 能力考課:保有するスキルや能力を評価
- 情意考課:仕事に対する意欲や勤務態度を評価
- 成績考課:仕事の成果を評価
その他、360度評価を取り入れている企業もあります。360度評価とは、上司を含め同僚・部下など複数人で評価する方法です。働き方や価値観の多様化により、多面的な評価が求められているといえるでしょう。
360度評価は、複数の視点で行うことで公平な評価ができ、対象者の強み・弱みを把握しやすくなる点がメリットです。
資格取得
昇格要件に資格取得を設定するケースもあります。特定の資格を定めることで、学習への動機づけがしやすくなり、社員のスキルアップにつながる点がメリットです。
例えば、業界ごとに以下のような資格が考えられます。
- 金融業:ファイナンシャル・プランナー(FP)・証券アナリスト
- IT関連:ITパスポート・基本情報技術者
- 不動産関連:宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
社内試験
必要な能力を備えているかどうかを判断するために、社内試験を設置するのもひとつの方法です。実施方法はさまざまですが、一般的に次のような方法で評価されます。
- 適性検査(性格検査・能力検査・指向適性検査)
- 小論文
- 面接
適性検査は、「組織や職務にふさわしい資質・スキルを持ち合わせているか」を判断する検査方法です。
研修受講
等級や職位に応じた研修の受講を昇格要件としています。等級や職位によって求められる能力は異なるため、必要なスキル・マインドを習得させるのが目的です。
「昇格希望者向け」と「昇格者向け」に分かれますが、適切な研修内容を選定します。複数の研修を提示し、社員が選択できるようにすると自主性を促せるでしょう。
上司の推薦
昇格に必要な要件が満たされ、かつ上司の推薦を必要とする場合もあります。推薦状には実績とともに、昇格に必要な能力を備えていることや、部下の強み・優れた点を書くのが一般的です。
部下にとっても上司からの評価を知る機会となり、モチベーションアップにもつながるでしょう。
会議での判断
会議による判断とは、昇格に必要な要件と評価結果をもとに会議を行い、複数人で昇格に値するかどうかを見極める方法です。企業の期末や年度末に実施されることが多く、昇格の偏りを防止できるメリットがあります。
評価は、等級や職位に応じて人事部や役員などが行いますが、客観的かつ公平な判断が必要です。
昇格制度の入学方式・卒業方式
昇格制度には、「入学方式」と「卒業方式」があります。それぞれどのような方式なのか、詳しく解説します。
入学方式・卒業方式とは
昇格制度には、「入学方式」と「卒業方式」の2つの基準があります。意味は以下の通りです。
- 入学方式:上位の等級で求められる能力基準を超えたら昇格
- 卒業方式:現在の等級で求められる要件を満たしたら昇格
入学方式は、上位等級の仕事ができると判断された場合に昇格します。一方、卒業方式は要件をクリアすれば昇格するため、判断基準が分かりやすい方法です。職能資格制度では卒業方式が一般的ですが、一般職能・中間指導職能・管理職能に応じた運用が望ましいといえます。
一般職能層
一般社員や事務職などが含まれる一般職能層は、業務遂行能力や目標達成力などが重視されるため、卒業方式が適切です。定型的な業務が主体であり、勤務を重ねることで実務能力が培われます。
中間指導職能層
部下の指導やマネジメントを担う中間指導職能層は、1人ひとりの実力に見合った評価を重視することが望ましく、卒業方式と入学方式の併用が適切です。能力が伸びやすい段階であり、積極的なチャレンジが求められます。
管理職能層
チームや組織の責任者的存在となる管理職能層は、実績を評価の中心とした入学方式が最適です。組織の運営能力やリーダーシップ、事業戦略の実行などが求められるため、職位における役割への期待値が高くなります。
昇格制度の自動昇格・査定昇格
昇格制度には「自動昇格」と「査定昇格」があります。それぞれどのような制度なのでしょうか。
自動昇格・査定昇格とは
昇格の基準には、「自動昇格」と「査定昇格」があります。
- 自動昇格:一定年数で自動的に昇格する
- 査定昇格:人事評価や昇格試験などの結果に基づいて昇格する
一般職能層は自動昇格、中間指導職能層・管理職能層は査定昇格との併用が望ましいでしょう。また、昇格に必要な在位年数を定めることも重要です。標準年数・最低必要年数・最長自動昇格年数を設定し運用します。
標準年数
標準年数は、昇格に必要とする標準的な年数です。等級ごとに設定しますが、重視すると年功的な制度になります。標準年数に従った運用が必須ではありませんが、給与体系の基礎となる指標です。
最低必要年数
最低必要年数は、昇格に必要な在位年数です。一定期間以上、1つの等級に在籍が必要になることから、無制限の昇格を抑えられるメリットがあります。必ずしも設定が必要なわけではなく、企業の方針次第といえるでしょう。
最長自動昇格年数
最長自動昇格年数は、評価に関係なく標準的な在位年数から一定年数が経つと、自動的に昇格となる年数です。救済措置としての意味合いがあり、対象はおもに中間指導職能層が対象となります。
公正な人事評価・昇格基準のポイント
最後に、人事評価や昇格基準を公正なものにするためのポイントについて見ていきましょう。
タレントマネジメントシステムの導入を検討されている方におすすめの資料
等級・役職の整理
等級・役職の数や役割を整理し明確にします。昇格制度は企業ミッションの実現を目的としているため、経営戦略と連動させることが重要です。
また、等級・役職数の適正な設定も求められます。等級・役職が多いと昇格の機会は増えますが、評価基準などが複雑になるでしょう。反対に少なすぎると昇格の難易度が上がります。
社員データの整備
昇格は社員データを用いて判断するため、データの整備および定期的な検証が必要です。社員データには個人情報をはじめ、勤怠や保有スキル、労務情報、人事評価などが含まれます。
採用活動や人事配置などへの活用はもちろん、昇格の停滞、あるいは過剰な昇格になっていないかといった点を注意することも大切です。
評価基準の制定・公開
昇格制度の評価基準を明確化し、公開することで透明性を高めます。設定する評価基準は、以下の2点です。
- 昇格に関する基準
- 役職・等級における役割
必要な昇格要件とともに、職務内容または求めるスキル・能力などを決定します。評価基準を具体的に設定することで社員に納得感が生まれ、モチベーションやパフォーマンス向上につながるでしょう。
昇格制度における評価者の教育
評価者は、昇格制度についての正しい知識を身につけることが大切です。人事評価は主観や偏りが生じやすく、関係性によっては不当な評価をつける可能性があります。
昇格制度の目的や要件を理解し、公正かつ公平な評価をするために、研修などで知識や技能を伸ばしましょう。また、評価者と評価対象者の人数バランスにも配慮が必要です。
上司・部下のコミュニケーション
コミュニケーションを通したサポートも、昇格制度における大切なポイントといえます。社員が思うように昇格できないケースは少なくありません。
積極的なコミュニケーションにより、上司が部下の業務や悩みなどを把握することで、信頼関係の構築につながります。適切なフィードバックによって目標設定を促し、部下の昇格をサポートしましょう。
まとめ
人事評価における昇格基準にはさまざまな制度があり、必要な要件も企業ごとに異なります。自社の経営戦略に沿った昇格基準の作成が必要ですが、評価者となる上司が正しい知識を習得し、公正かつ公平な評価をすることも重要です。
複雑になりがちな昇格基準の設定にお悩みなら、人材活用に特化したサービスを利用してはいかがでしょうか。
タレントパレットは人材データを分析・活用し、組織の力を最大化させるタレントマネジメントシステムです。大手企業への豊富な導入実績を誇り、採用・育成・配置・離職防止から経営の意思決定支援まで、ワンプラットフォームで実現します。