近年の日本企業、特に中小企業においては、後継者育成が重要な課題です。この記事では、後継者育成の目的や取り組まない場合のリスク、課題について解説します。また、後継者育成に取り組む方法や企業事例もあわせて紹介するので、ぜひ参考にしてください。
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後継者育成とは
後継者育成は企業にとって、将来的な事業や組織運営を担うのに必要な準備です。まずは後継者育成の概要について解説します。
後継者育成の概要
後継者育成とは、将来的に経営者候補の育成を行うことや育成における施策です。人事の専門用語では「サクセッションプラン」とも呼ばれます。
後継者がいない場合の選択肢
中小企業や大企業の一部では、同族経営が行われていることも多い傾向にありますが、大企業のほとんどは親族以外から幹部候補を採用しています。後継者がいない場合は、新しい人材を採用して育成する方法もひとつの手といえるでしょう。後継者が不在で企業の存続が難しい場合は、事業を売却したり、終了したりすることも選択肢として考えておかなければなりません。
後継者を育成する目的
後継者育成の主な目的には、企業が継続性を確保する、将来的な成長戦略を中長期的に継続・実行することなどが挙げられます。将来的なポジションがあれば、社員の企業へのエンゲージメントやモチベーションを高めることもできるでしょう。
経営において公正に判断・運営ができるように、監視・統制する仕組みである「コーポレートガバナンス」の原則4にも、後継者育成が盛り込まれています。
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後継者育成で得られるメリット
社員の中から後継者を育成する場合は、社員にとって「活躍すれば幹部として登用される」というモチベーションになるでしょう。ステークホルダーや新卒・中途採用の候補者に対して、企業の将来性をアピールできる点もメリットです。
後継者育成をしない場合の企業のリスク
後継者育成をせずに事業を継続した場合は、企業にとって以下のようなリスクをもたらします。
人材の流出
経営者の交代は組織に大きな影響を与えるため、後継者が育っていない場合は企業の求心力を失い、人材が流出してしまう可能性があります。実力不足な人材や求心力を欠いた人材が経営者になれば、知識や技術が失われるかもしれません。企業の知識や技術が失われ、業績が低下すると離職する社員が増加するケースもあります。
ノウハウの喪失
企業経営におけるノウハウを継承していなければ、経営者として適切な判断ができないため、経営不振に陥る可能性があります。優秀な社員を失うことで、ノウハウが流出してしまう可能性もあるでしょう。
モチベーションの低下
実力不足な人材や求心力を欠いた人材が経営者になれば、社員のモチベーションは低下するでしょう。また、経営者が交代したことで経営不振を招いてしまえば、仕事に対するモチベーションが低下し、見切りをつける社員が増える可能性もあります。
事業承継の危機
経営者の突然の引退や急死で事業を引き継ぐ人材がいない場合は、事業承継の危機に直面する可能性があります。
帝国データバンクが 全国の全業種約27万社を対象とした「全国「後継者不在率」動向調査(2024年)」によると、全国の後継者不在率は52.1%にものぼりました。2011年から2020年までは65%前後だったため改善の傾向があるものの、不在率解消のペースは鈍化しています。
※参考:全国「後継者不在率」動向調査(2024年)|帝国データバンク
後継者育成における企業の課題
後継者育成に力を入れたいと思っていても、企業には以下のようにさまざまな課題があるため取り組みができないケースもあります。
経営者の意識不足
経営者に後継者育成への意識が不足している場合、社員や関係者が必要性を感じていても課題に取り組めないケースです。また、日々の経営が忙しく、後継者育成に手が回らないこともあります。
社員のモチベーション不足
社員自身が後継者に興味がない、失敗した場合の責任を負いたくないなどの理由で後継者になるモチベーションが不足しているケースもあります。また、社員自身が後継者になるのに必要なスキルや知識を習得に時間をかけられないと思い込んでいることもモチベーション不足の一因です。
後継者候補が見つからない
後継者候補を見つけるには、社員の適性、スキル、能力を把握する必要があります。しかし、現状において把握できていない場合は、後継者候補を絞り込むことが難しいでしょう。また、働き手が不足している状態で、経営者意識の高い人材が見つからない場合もあります。
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後継者候補の離職
後継者の適性やスキルのある人材が、現在の業務に不満を抱いたり、キャリアアップを目指したりするため、転職してしまうケースがあります。そのため、企業は社員のキャリアプランを把握し、職場環境の整備や福利厚生の改善などに取り組んでいくことも必要です。
後継者育成を効果的に行う方法
後継者育成を効果的に行うには、以下のようなポイントを押さえておく必要があります。
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後継者の要件定義を明確にする
能力やスキルを持っているなど、優秀な人材が幹部候補として適任だとは限りません。能力の良し悪しだけではなく、「なぜ自社の後継者に選定するのか」などの人材要件を明確にすることが必要です。まずは、自社の後継者に必要な以下のような条件を明確にして優先順位をつけましょう。
- 能力
- スキル
- マインドセット(固定された考え方や物事の見方)
- コンピテンシー(高いパフォーマンスを発揮する人に共通する行動特性)
早期から後継者育成に取り組む
経営者の突然の引退や急死など経営者交代のタイミングは、いつどのように起こるかわかりません。常に後継者を育てる取り組みが必要なため、見込みのある人材には、早いうちから後継者育成に参加させる必要があります。経営者目線を手に入れるには、さまざまな部門や役職を経験することも必要なため、長期的に取り組むことが重要です。
育成環境を準備する
後継者育成のためには、社内外双方の取り組みが必要になります。複数の部門や職種をうまくローテーションする仕組みづくりが大切です。社内では習得できない知識やスキルを身につけるためにも、社外の取り組みを視野に入れて計画しましょう。
教育プログラムを充実させる
研修、セミナー、トレーニングなど教育プログラムを充実させることも有効です。メンター(指導者)による直接の指導も学習効率が高まります。
キャリアプランを策定する
後継者候補と面談し、企業のビジョンや目標を共有しましょう。キャリアアップにつながるキャリアプランを策定することで、目標に沿ったスキルや知識を習得できるようになります。
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後継者育成を社外で行う方法
後継者育成のためには、社内外双方の取り組みが必要です。後継者育成を社外で行う例として、3つの方法を紹介します。
外部に教育を委託する
後継者育成には、社内での経験と社外での学びが必要です。社外での学びの一環として、後継者育成を目的としたビジネススクールや社外セミナーへの参加、MBAプログラム受講などの方法があります。
コンサルタントを活用する
後継者育成を目的としたコンサルタントに依頼し、コーチングを受けることも有効です。コンサルタントを活用することで、社外の知識を得られるほか、リーダーシップを高めることができたり、市場の動向を知ることができたりします。
関連会社へ出向させる
子会社・グループ会社・関連会社がある場合は、新たな知見やネットワークを得るため、後継者候補を出向させる方法もあります。社外に人脈を築き、自社だけでは得られない多くの経験を積むことができるでしょう。
後継者育成計画の手順
後継者育成を効率よく行うには、以下のように計画が必要です。具体的な手順を解説します。
1.経営方針と経営戦略を明確にする
後継者は、将来の会社経営を担っていく人材です。後継者に求められる役割や能力を明確にするためにも、自社の経営方針と経営戦略を再確認してプランを練っていく必要があります。
2.対象ポジションを選定する
後継者育成の対象になる重要ポジションを選定する必要があります。執行役員・取締役・代表取締役など、必要に応じてポジションを広げましょう。
3.対象ポジションの人材要件を定義する
後継者としてふさわしい人材に必要となる項目をピックアップし、要件を定義します。一般的に求められるのは、以下のような要件です。
- これまでの経歴・経験
- 保有資格・スキル
- 語学力
- コミュニケーション能力
- リーダーシップ
- 性格(協調性やストレス耐性など)
4.候補者を選定する
3の工程で決定した人材要件に沿って、実際に後継者として育成していく候補者を選定します。全ての要件を満たしてなくても、成長性を考慮して柔軟に運用することも大切です。
5.育成計画を策定する
伸ばすべき能力・経験を決定し、後継者候補ごとの育成計画を策定します。スムーズに育成が進むようにするためには、社内・社外の関係各所への調整も必要です。
6.計画を実行し振り返る
施策ごとにスケジュールを区切り、細かい段階で計画を確認していきます。計画を一定期間実行したら、振り返りを行い、必要であれば計画の見直しを行うことも必要です。
後継者育成に取り組む際の注意点
後継者育成に取り組む際には、以下のような点にも注意する必要があります。
長期的に取り組む
後継者育成は、長期的な取り組みです。候補者には最終的なゴールを伝え、ゆっくりと育てていける教育プログラムを設計しましょう。候補者が途中で離職しないように、心身のサポートを忘れないようにすることも大切です。
透明性を高める
後継者候補には、育成プログラムや評価基準について事前に説明しておきましょう。候補者以外の社員に対しても育成に関する透明性を確保しておくと、理解を得られやすくなります。
さまざまな経験をさせる
現在の経営者の補佐役としての役割を与え、経営者の本質とは何かを教えることも有効です。通常の業務では経験できない決断力や強いリーダーシップが求められる業務を任せることで、難しい仕事を乗り越える経験もできます。
周囲がサポートできる範囲でさまざまな経験や失敗をさせれば、問題解決能力やストレス耐性を高めることもできるでしょう。ただし、後継者候補の性格や性質を理解し、過度な負荷を避ける配慮が必要です。
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タレントマネジメントシステムを活用した後継者育成の企業事例
タレントマネジメントシステムを活用し、後継者育成を行った企業事例を紹介します。
大阪ガス株式会社
大阪ガス株式会社では、タレントマネジメントシステムを活用し、各社員の経験領域別に職責等級と年次でサクセッションプランの見える化を実現しました。見える化したことで、⼈材的に薄い部分についての対処ができるようになり、他の領域からの移動、若い年次の昇格、キャリア採⽤の実施などの手が打てるようになっています。
社員と上司で、将来のキャリアプランや異動希望を話し合う機会を設けたことで、適所適材の⼈事ができるようにもなりました。
※参考:タレントマネジメントで目指す経営戦略と人事戦略の連動|タレントパレット
綾羽株式会社
綾羽株式会社では、人事異動の時期に「後継者がいない、少ない」という状況になったことがきっかけで、人事評価効率化や後継者育成を目的としてタレントマネジメントシステムを導入しました。
紙ベースで行っていた評価をタレントマネジメントシステムにすることで、全体の傾向を経営層や経営幹部に共有しやすくなっています。さらに、次世代のリーダー候補の3年間の教育プログラムを立ち上げ、候補者のタイプや得意・不得意、経験を一括で見られるようになりました。
※参考:必要なスキルを明確にし、計画的に後継者育成をする|タレントパレット
そのほかの後継者育成の企業事例3選
タレントマネジメントシステムの活用以外の手段で後継者育成を行った、3つの企業事例を紹介します。
1.大手メーカー
あるメーカーでは、明確な選定基準を定めて公開し、後継者候補の選任システムを構築しています。また、選定・評価の執行者と選任プロセスの監督者を分けることで、客観性を持って候補者の選定が可能になりました。
また、役職ごとに必要な役割・資質・能力を明確に定めています。後継者育成専用プログラムを5年以上かけて複数回行い、最終候補者は選考プロセスとプログラムを経て選出され、取締役会に推薦される仕組みをつくりました。
2.大手精密機器メーカー
大手精密機器メーカーでは、コーポレートガバナンス・コードの導入を受け、指名委員会がサクセッションプランを監督する体制になりました。指名委員会は、取締役に必要な要件を決めます。次期の取締役候補者は、内部評価に加え、外部機関から得た行動・能力に対する評価も重視される仕組みをつくりました。
3.大手化学・日用品メーカー
大手化学・日用品メーカーでは、役職の後任候補を以下のように3段階で区分し、定義づけしました。
- 今すぐに後任となれる
- 1~3年で後任として育成する
- 3~5年で後任として育成する
それぞれのレベルやタイミングに合わせた育成を行い、候補者に対してコーチングを実施して、自己成長を促しています。
まとめ
後継者育成は日本企業、特に中小企業において重要な課題です。後継者が不在であることは、人材の流出やノウハウの喪失、事業承継の停滞など、企業存続に関わる大きなリスクをもたらします。一方で、計画的な後継者育成を行えば、社員のモチベーション向上や経営の安定性向上、企業の魅力向上といったメリットを得られるでしょう。
タレントパレットは、社員のスキルや成長を見える化し、個々に最適な育成を行えるタレントマネジメントシステムです。年次や役職別などの分析軸を掛け合わせることで、社員の育成状況なども把握できます。詳しくは以下をご覧ください。