近年、多くの企業が業務効率化や生産性向上のためにタレントマネジメントシステムを導入している傾向にあります。しかし、中小企業の人事担当者のなかには、タレントマネジメントシステムの導入が必要なのかを悩んでいる方が多いことも現状です。
この記事では、中小企業がタレントマネジメントシステムを導入するメリット・デメリットをはじめ、タレントマネジメントシステムの選び方や注意点を解説します。
タレントマネジメントシステムの導入を検討されている方におすすめの資料
中小企業におけるタレントマネジメントシステムの導入
タレントマネジメントがどのようなことを指すのか、中小企業にとって必要かどうかを解説します。
そもそもタレントマネジメントとは
タレントマネジメントとは、人事データを経営戦略に活かす取り組みです。社員の能力・資質・才能などの「タレント」をはじめ、スキルや経験値などを発掘し、育成・配置すれば最大限の価値を引き出せます。
中小企業にタレントマネジメントシステムは必要か
多くの大企業がタレントマネジメントシステムを導入していますが、生産性向上や社員のモチベーションアップの一環として、近年は中小企業でも導入が相次いでいます。
日本企業のタレントマネジメントの導入状況
以下では、中小企業において、タレントマネジメントを実現させる方法を紹介する前に、まずは日本企業のタレントマネジメントの導入状況について解説します。
タレントマネジメントの関心・導入は高まっている
厚生労働省が発表している「平成30年版 労働経済の分析 -働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について-」によると、タレントマネジメントを「導入済み」と答えた企業は、2012年度は2.0%だったのに対して、2017年度は7.1%と上昇しました。
また、導入済み、試験導入中・導入準備中、検討中の合計も、2012年度は13.5%だったのに対して、2017年度は25.1%まで上昇しています。
参考:コラム2-4図 我が国企業のタレントマネジメントの導入状況|厚生労働省
大企業ほどタレントマネジメントの導入が多い
先に紹介した「平成30年版 労働経済の分析 -働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について-」において、タレントマネジメントの導入状況を売上高別に見ると、1兆円以上の売上高を誇る企業は、2012年度は12.5%だったのに対して、2017年度は28.9%まで上昇しました。
また、導入済み、試験導入中・導入準備中、検討中の合計も1兆円以上の売上高を誇る企業は、2012年度は47.5%だったのに対して、2017年度は60%まで上昇しており、関心が高いことがわかります。
※参考:コラム2-4図 我が国企業のタレントマネジメントの導入状況|厚生労働省
日本企業におけるタレントマネジメントシステム導入の今後
一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が発表した「企業IT動向調査報告書 2021」によると、タレントマネジメントシステムの導入は、以下のように業種によって差があることがわかります。
- 建築・土木10.7%
- 素材製造8.3%
- 機械器具製造14.1%
- 商社・流通10.0%
- 金融20.8%
- 社会インフラ13.8%
- サービス8.7%
タレントマネジメントシステムの導入が最も多い業界は金融業で、機械器具製造業や社会インフラ業が続きます。業界によって、現時点において導入率の差があるものの、全体的な市場規模は拡大傾向にあり、今後も導入は拡大することが予測できるでしょう。
※参考:企業IT動向調査報告書 2021|一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)
中小企業のタレントマネジメントにおける課題
先述したとおり、大企業においてはタレントマネジメントの導入が増加している傾向にありますが、中小企業においては以下のような課題があります。
有能な人材の維持・確保が難しい
近年は、人口の減少、少子高齢化などが原因で労働人口が減少傾向にあります。有能な人材を確保・維持するには、職場環境の整備が不可欠です。ただし、資金に余裕がない中小企業では、タレントマネジメントを実施したとしても魅力的な給与の提示、福利厚生や労働環境の整備が困難であり、有能な人材の維持・確保が難しい傾向にあります。
人材確保や維持にコストをかけられない
中小企業は、採用や育成にかけられる予算やリソースが少ないケースがあります。タレントマネジメントを実施したとしても、人手不足で管理業務まで手が回らず、正当に人事評価をしたり適切な人材を配置したりできないケースもあるのが現状です。
リソースが不足している
専任の人事部門がない、あるいは少人数で運営している中小企業は多いでしょう。人事管理に十分なリソースを割くことが困難な状況では、日々のコア業務に追われているケースも少なくありません。
社員の特性やスキルを把握・共有できていない
中小企業では、リソースが少ないことや日々の業務に追われていることが原因で、社員の特性・スキル・キャリアパスなどが把握・共有できていないケースが多いでしょう。社員の特性などを把握できていたとしても、組織全体で共有や活用できていないケースもあります。
データが一元管理できていない
中小企業では、担当者が個人でデータ管理しているなど、属人化していることもあり、勘やこれまでの経験則で判断しているケースがあります。タレントマネジメントに必要な情報が、紙ベースや異なるシステムで管理されており、データが一元管理できていないケースもあるでしょう。
育成計画の策定や実行が難しい
中小企業では、予算や時間が限られているため、育成計画の策定や実行が困難です。社員の成長が個人に委ねられているケースも多く、タレントマネジメントを導入しても組織としての人材育成ができないこともあります。
人材流出リスクの対策が難しい
優秀な人材の流出は、どのような企業にとっても大きな痛手です。中小企業は人手不足などで定期的に面談したりアンケートを行ったりする余裕がなく、人材流出リスクの対策まで手が回らないことがあります。タレントマネジメントを導入しても、業務に手が回らず結果的に優秀な人材が大企業に流れてしまうこともあるでしょう。
中小企業がタレントマネジメントを実現させる方法
先述したとおり、中小企業がタレントマネジメントを実現させるには、さまざまな課題があります。課題をそのままにしておけば、優秀な人材が確保できなかったり維持できなくなったりするかもしれません。タレントマネジメントシステムを導入すれば、データの一元管理が実現し、業務効率化も期待できます。
中小企業がタレントマネジメントシステムを導入するメリット
中小企業がタレントマネジメントシステムを導入すると、以下のようにさまざまなメリットを得ることができます。
評価業務を効率化できコア業務に集中できる
タレントマネジメントシステムを導入すれば、手間のかかる業務が自動化されます。時間がかかる集計作業や入力作業などの必要がなくなり、コア業務に集中できるようになるでしょう。
人材情報を一元管理できるようになる
タレントマネジメントシステムを導入することにより、社員のさまざまな情報を写真付きで一元管理できるようになります。分散していた人材データを一箇所に集約することも可能です。社員の能力や潜在性も、可視化できるようになるでしょう。さまざまなデータをグラフや表にすれば、年齢構成や評価の偏りなども発見しやすくなります。
人材配置がしやすくなる
社員の情報がタレントマネジメントシステムによって一元管理されているため、プロジェクトや業務に最適な人材を迅速に見つけることも可能になります。社員の潜在能力を正確に把握できるようになるため、能力に見合った業務を割り当てることができるようにもなるでしょう。
公平な評価を行える
中小企業は社員同士の関係を築きやすい一方で、評価の不公平さが出ると社員の不満を引き起こすケースがあります。タレントマネジメントシステムを導入すれば、主観的なバイアスや人間の誤差を排除し、データに基づいて評価を行うことも可能です。
能力開発につながる
タレントマネジメントシステムを導入すれば、社員の能力やポテンシャルが明確になり、育成・活用する機会が得られます。社員の興味・関心に合わせた育成プログラムを構築できれば、エンゲージメントの向上も期待できるでしょう。
従業員満足度の向上につながる
適材適所の人材配置や公平な人事評価は、社員のモチベーションに大きく関わります。社員のモチベーションが維持・向上できれば、従業員エンゲージメントの向上も期待できるでしょう。
生産性向上につながる
社員のスキルや経験を活かした人材配置により、最適なチーム編成が実現し、生産性の向上も期待できます。適材適所の配置によって、リソースに無駄がなくなるため、社員に合った育成計画やキャリアアップ支援も可能です。
タレントマネジメントシステムの導入を検討されている方におすすめの資料
中小企業がタレントマネジメントシステムを導入するデメリット
中小企業でタレントマネジメントシステムを導入すると、多くのメリットが得られる一方で、以下のようなデメリットも発生する可能性があります。
自社の制度に適さないことがある
タレントマネジメントシステムの多くは、組織・ジョブを決めてから人材を雇用・配置する「ジョブ型雇用」に基づいて設計されています。新卒で総合職として社員を採用し、業務内容や勤務地を限定せずに雇用契約を結ぶ「メンバーシップ型雇用」を採用している中小企業の場合は、タレントマネジメントシステムの適用が難しいケースもあるでしょう。
浸透するまでに時間がかかる
タレントマネジメントシステムは、導入して即座に使えるものではありません。人材情報の入力や登録などの作業が発生するため、運用までに時間がかかることもあります。社員がタレントマネジメントシステムを使いこなすまでに、時間がかかることもあるでしょう。
タレントマネジメントシステムを導入したことで企業ルールなどの変更がある場合は、運用開始までに時間がかかることもあります。
社員が不満を抱く可能性がある
タレントマネジメントシステムを導入したことで評価や昇進が透明化されると、人間関係に対立や緊張をもたらし、社員が不満を抱くこともあります。タレントマネジメントシステムの導入でうまく使いこなせない場合は、業務負荷が増えたり情報の収集・共有・活用ができなかったりするため、担当者の不満を引き起こす可能性もあるでしょう。
中小企業がタレントマネジメントシステムを導入する際に意識しておきたいこと
中小企業がタレントマネジメントシステムを導入する際には、以下のようなことを意識しておきましょう。
導入の目的
タレントマネジメントシステムは、ほかのシステムのように売り上げに直接関係するものではないため、効果がわかりづらいでしょう。導入することで課題を解決するというゴール設定が明確でない場合は、導入を見送ることも必要です。
タレントマネジメントシステムを導入することで、現在起きている課題を解決できるのか、どのように改善したいのかを明確にしておきましょう。
意識の統一
タレントマネジメントシステム導入を検討する人と、実際に利用する人が異なることもあります。互いの意識にズレがあると、負担が増えるだけになってしまうことがあるので注意が必要です。業務フローに無理なく組み込めるタレントマネジメントシステムであることが重要になります。
みんなが共通の意識を持って何を実現したいのか、課題を解決できるのかを導入前に落とし込んでおくことも必要です。
中小企業がタレントマネジメントシステムを選ぶときのポイント
中小企業がタレントマネジメントシステムを選ぶときは、以下のようなポイントを押さえておくとよいでしょう。
コストと機能のバランスはよいか
多機能なシステムは便利である一方で、高額になる傾向があります。必要な機能と予算のバランスを取ることが重要です。そのためにも、自社に必要な機能を見極め、機能を絞って選びましょう。項目の変更・追加を行いたいときに追加費用がかかるかどうか、システム維持にどのくらいのコストがかかるかを事前に確認しておくことも重要です。
現在管理している情報を活用できるか
タレントマネジメントシステムには、さまざまなデータ項目があります。基本情報だけではなく、目標や評価など、現在管理している情報がデータ項目にあるか、今後も活用できるかどうかの確認が必要です。また、ほかのシステムと連携させたい場合などは、連携可能かどうかもチェックしておきましょう。
社内のセキュリティ要件を満たしているか
個人情報の保護は重要なため、強固なセキュリティ機能を備えたものを選んで安全性を確保することが重要です。セキュリティシステムがある場合は、整合性も確認しておきましょう。同規模あるいは同業種企業での導入実績があるかどうかは、選定する際の参考になります。
簡単に操作できるか
リソースが不十分な中小企業の場合は、タレントマネジメントシステムを習得する時間や研修に充てる時間が限られています。直感的な操作性があり、項目の変更や追加も柔軟に行えるかなどを事前に確認しておくことも必要です。
カスタマイズは可能か
目的に応じて必要な機能をカスタマイズできるかどうか、データ項目や画面レイアウトなどを変更できるかなどの確認も重要です。カスタマイズできても、高度なスキルが必要であればカスタマイズする人がいないということもあり得ます。簡単にカスタマイズできるかの確認も必要です。
サポートのサービスは充実しているか
導入や運用に関するサポートやトレーニング、専任スタッフによる伴走支援などのサポート体制があるかどうかの確認も必要です。サポート窓口はあるか、どのような連絡方法になっているかもチェックしておきましょう。サポートが有償の場合は、無償・有償の範囲を確認しておくことも重要です。
タレントマネジメントシステムの導入を検討されている方におすすめの資料
中小企業がタレントマネジメントシステムを導入する際の注意点
中小企業がタレントマネジメントシステムを導入する際は、いくつか注意点があります。ここでは、中小企業がタレントマネジメントシステムを導入する際の注意点を解説します。
必要に応じて雇用方法を見直す
先述したとおり、多くのタレントマネジメントシステムはジョブ型雇用に基づいて設計されています。タレントマネジメントシステムの導入をきっかけに、雇用方法の変更などが必要になる場合は、変更にかかる手間や時間、導入スケジュールなどの検討が必要です。
多くの中小企業では、リソースが限られているケースもあります。社員に特定のロール(役割)を割り当てるロール型雇用(役割型雇用)も有効です。ロール型雇用は、メンバーシップ型雇用と同様に、雇用制度の起点が人材であるという共通点があるため、メンバーシップ型雇用から移行しやすいメリットがあります。
必要に応じて評価制度を見直す
年功序列が根付いているなど、企業の制度がタレントマネジメントシステムとうまくマッチしていない場合は、見直しが必要になるケースもあります。制度の見直しによって、社内の混乱を招く可能性があることも考慮しておかなければなりません。
中小企業は無料のタレントマネジメントシステムを活用するのもおすすめ
コストが限られている、どのような機能が必要かわからない、自社にどのようなシステムがマッチするかわからないなどの場合は、無料のタレントマネジメントシステムを活用するのもおすすめです。
無料のタレントマネジメントシステムは、大きく分けて以下の3種類があります。導入する前には、どのようなタイプが自社に適しているかを検討することも必要です。
- 機能に制限がある無料プラン
- 期間に制限のある無料トライアル
- 基本的なサポートがなく専門知識が必要なオープンソース
無料のタレントマネジメントシステムを利用する際の注意点
無料のタレントマネジメントシステムは、利用できる機能・期間・人数に制限があることが多いことが一般的です。無料トライアルの場合は、期間を過ぎると料金の支払が発生する場合があるので注意しましょう。また、高度な機能が必要になったときに、有料プランにスムーズに移行できるかを確認しておくことも重要です。
オープンソースは、ライセンスに準拠しない場合に、利用停止や訴訟に発展する可能性があります。ライセンスを十分に理解できるかを確認しておくことも必要です。
まとめ
大企業での導入が多いタレントマネジメントですが、中小企業にとっても多くのメリットをもたらします。今回は中小企業におけるタレントマネジメントの課題やタレントマネジメントシステムを導入するメリット・デメリットなどを紹介しました。
タレントパレットは、社員に紐づく人材データから分布を作成できるタレントマネジメントシステムです。人材を並び替え、条件ごとの全体像を把握したり、掛け合わせたい条件を自由に設定したりすることもできます。戦略立案などで振り返りが必要なときには、見やすいグラフで把握し、出力することも可能です。詳しくは、下記のリンクを参考にしてください。