人材育成は全社で取り組むべき重要な課題です。しかし「どのような方法で人材育成すればよいのかわからない」と悩んでいる人事担当者も多いのではないでしょうか。本記事では、企業が人材を育成する目的や課題、代表的な人材育成の方法などをわかりやすく解説します。企業の成功事例もまとめているので、自社の人材育成に役立ててください。
そもそも人材育成とは?
人材育成とは「経営目標の達成に向けて企業の経営戦略に適した人材を育てること」を意味します。単に業務を進めるための訓練や学習をするだけでなく「目標を達成するには何が必要か」を考えたうえで育成を行うのがポイントです。
これまで人材育成は人事部や人材開発部が担うという考え方が主流でしたが、現場も含めて全体で取り組むべき課題であると認識が変わりつつあります。
「人材教育」と「人材開発」の違い
人材育成と似た言葉に「人材教育」「人材開発」があります。ここでは、それぞれの意味や違いを見ていきましょう。
人材教育との違い
「人材育成」と「人材教育」は混合されやすいですが、厳密には意味が異なります。人材教育とは、業務上必要な知識や技術を教えることを意味する言葉です。対して、人材育成は企業が望む方向へと人材を成長させることを表します。人材育成は実践的な学びだけでなく、組織人としての心構えをはじめ、身につけるスキルの範囲が広いのも特徴です。つまり、人材教育は人材育成の手段のひとつとして存在していると捉えられます。
人材開発との違い
「人材育成」と「人材開発」は、どちらも社員の能力開発を目的とする言葉ですが、対象者や実施するタイミングなどが異なります。人材育成は「新入社員」「中堅社員」「管理者」など、職種や入社年数でグループ分けし、一律のスキル習得を目指すものです。一方、人材開発は全社員に対して行われる教育を指します。
人材開発においては、1人ひとり目指すゴールが異なり、比較的短いスパンで実施されるケースも少なくありません。社員それぞれが自分の強みや個性を生かせるゴールを設定し、目標達成に向けて取り組んでいきます。
国内企業の人材育成に関する取り組みの変化
1980年以前、日本では「人材教育に関する支出は抑えたい」との考え方が広がっており、現場でのOJTに任せきりとなる傾向が強くありました。しかし、1980年代になるとHRM(ヒューマンリソースマネジメント)の概念が知れ渡り、人材育成に力を入れる企業が増加していくことになります。
その後、1990年代には高水準の業績を上げられる個人の行動特性である「コンピテンシー」を用いた人材育成が注目されるようになりました。さらに、近年では将来的な業務で役立つスキルや知識の習得を目的とする「リスキリング」に注目が集まっています。
リスキングは、社会の変化に対応しやすく、衰退分野から成長分野への人材異動もスムーズにできるため、積極的に取り入れられるようになりました。
企業が人材育成する目的
ここでは、企業が人材育成をする主な目的を解説します。
優秀な人材の確保
優秀な人材の確保は、多くの企業が抱える課題です。日本では終身雇用が一般的でしたが、労働人口の減少や経済情勢の変化に伴い、雇用が流動化しています。優秀な人材の外部流出は企業にとって痛手となるため、働きやすい環境整備が必要です。たとえば、社員が成長を実感しやすい仕組みを作ることで、意欲やモチベーションが向上し、離職防止に役立ちます。
事業拡大
個人の成長ではなく、組織戦略を達成するために、企業として人材育成に力を入れているケースも少なくありません。自社の事業をさらに展開していくためには、既存の考え方にとらわれず柔軟に対応できる人材の育成が不可欠です。人材育成を通じて新たな知識やスキルの習得をサポートできれば、社員の自発的な行動を促すことにもつながります。
生産性の向上
人材育成により、個々のスキルアップが期待できます。労働人口が減少している現代では、社員1人ひとりの能力を底上げし、企業全体の生産性向上が重視される傾向です。効率よく業務を進めていくことで、限られた人員でも成果を上げやすくなり、業績アップにもつながります。
人材育成の現状・課題
国内企業における人材育成では「指導する側の人材不足」「人材育成にかける時間がない」といった課題が挙げられます。このような課題から、人材育成自体が後回しにされてしまうケースも珍しくありません。
また「育成しても社員が辞めてしまう」「最適な人材育成の方法が分からない」といった悩みを抱えている企業も多いようです。人材育成の方法は時代に合わせて見直す必要があります。効果的に人材育成を進めるためにも、ノウハウの蓄積や知識のアップデートを適宜行いましょう。
主な人材育成方法3選
人材育成の主な方法としては、自己啓発、OJT(職場内研修)、Off-JTの3つがあります。人材育成の効果を高めるためには、それぞれのメリット・デメリットを理解し、目的に合わせて使い分けることが大切です。
自己啓発
自己啓発では、社員自身が目標もしくは学習内容を決めて、スキルアップを目指します。自己啓発は学習効果が高いといわれていますが、強制力は弱いため、社員によって成果がバラついてしまう点に注意が必要です。
基本的には社員の自発的な取り組みとはいえ、資格取得のための講座を会社がサポートすることで、自己啓発をより効果的に進められます。また、キャリアアップに必要なプログラムを用意し、学習のための費用を補助するのも効果的です。
OJT(職場内研修)
OJT(職場内研修)とは「On the Job Training」の頭文字をとった言葉で、実際の仕事に携わりながら、実践的なスキルやノウハウを身につけていく手法です。OJTのメリットとしては「即戦力として人材を育成できる」「研修を通じて職場内でコミュニケーションをとれる」などが挙げられます。
ただし、すべての上司や先輩社員が同じ指導方法ではありません。効果に差が生じないよう、企業側が指導担当者をフォローする体制を整えましょう。
人材育成におけるOJT研修とは?メリットや課題、取り組み方などを解説
Off-JT(eラーニングを含む)
Off-JTは「Off the Job Training」の略称で、日常の業務から離れて実施する研修全般を指す言葉です。業務を通して人材を育成するOJTに対し、Off-JTでは職場から離れた場所で研修を行います。集合研修の場合、自社の社員が講師を担当するケースもあるものの、外部から派遣してもらうのが一般的な方法です。
近年では、Web講演会やeラーニングなどのオンライン研修を開く企業も増えています。OJTのように指導担当者のスキルによる差が生じにくいとはいえ、講師を依頼する費用や準備の手間がかかる点はデメリットです。
その他の人材育成方法
前述した内容以外にも、下記のような人材育成の手法もあります。
・メンター制度
・1on1ミーティング
「メンター制度」とは、先輩社員が相談役として若手社員をサポートする仕組みのことです。メンター制度では、異なる部署の先輩社員とペアになるため、組織を横断したつながりも強化されます。
「1on1ミーティング」とは、上司と部下が1対1で行う面談のことです。1on1ミーティングは、現状把握や課題の洗い出しに役立つ一方で、実施頻度が高いと社員の負担が大きくなり、通常業務に影響を及ぼす恐れがあります。人材育成は、目的や対象者に合わせて適した方法を選ぶことが大切です。
人材育成の考え方
人材育成は長期的な視点で考えるべきであり、目指す「人材育成像」を明確にしたうえで「方法」を決めなければなりません。まずは、企業が掲げる経営目標への理解を深め、必要な業務やスキルを洗い出していきましょう。
スキルの洗い出しが完了したら、企業にとってどのような人材を育成しなければならないのかという、人材育成像を設定します。人材育成像は社員の年齢やステージごとにいくつか用意しておくと、具体的な育成方法をイメージしやすくなるでしょう。
目標を立てる際のポイント
人材育成を成功させるためには、目標設定が重要なポイントです。企業やチーム全体の目標を意識しながら決めていきましょう。具体的な数値や数量を設定し、全社で積極的に人材育成に携われるよう状態を作り出すと、当事者意識が育ちます。
また、目標達成の期日を明確に決めておくことも大切です。「いつまでに何を行うか」をあらかじめ決めておくと、優先順位をつけて行動しやすくなります。
人材育成を成功させるためには
人材育成は企業の成長に大きな影響を与えるため、計画的に実施することが重要です。ここでは、人材育成を成功させるために意識したいポイントを解説します。
スキルマップを作る
スキルマップとは、社員それぞれが持つスキルのレベルを一覧にまとめたものです。たとえば、一定の基準を設けて「1~5」の数値で評価する仕組みがあれば、各々のスキルを客観的に把握できます。
スキルマップで社員の持つスキルを視覚化できれば、人材育成を効率的に進めることが可能です。国内企業でも、スキルマップを活用して人材育成に励んでいるケースは増えています。しかし、他社の評価基準を真似るのではなく、自社の方針と関連付けて作成するように心がけましょう。
スキルマップで社員の能力を可視化する|メリットや作成する際の注意点、導入例など
適した育成方法を選ぶ
人材育成には、自己啓発やOJT、外部講師による集合研修などの方法があります。さまざまな種類のなかから、育成対象者や組織の方針に合わせた方法を選ばなければなりません。たとえば、新入社員を対象に、一般的なビジネスマナーやスキルを身につけることを目的とするなら、集合研修が適しています。育成にかかる費用や準備の手間、社員の負担などを比較しながら、最適な育成方法を選んでいきましょう。
全社で取り組む
人材育成は全社で取り組むべき経営課題です。計画を立てる人事部や人材開発部は、人材育成の重要性を広く周知し、企業が達成すべき目標や方針をすべての社員に共有する必要があります。また、OJTや社内研修においても、指導担当者だけでなく、各社員が当事者意識を持って取り組むことが大切です。
人材育成で使える3つのフレームワーク
ここでは、人材育成に使えるフレームワークを3つ紹介します。フレームワークを活用し、現状を正しく分析することで、効果の高い戦略を立案していきましょう。
コルブの経験学習モデル
「コルブの経験学習モデル」は、アメリカの組織行動学者である、デイヴィッド・コルブが提唱した学習理論のことです。経験から学んだ事柄を次に生かすプロセスを明らかにしたもので、人材育成にも使えるフレームワークとして注目を集めています。
コルブの経験学習モデルで述べられている内容は「学んだことを振り返ってノウハウとして定着させる」というプロセスを繰り返す重要性です。企業によっては上司と1on1で業務の振り返りを行い、学んだことを次に生かせるような仕組みを構築しています。
ギャップ分析
「ギャップ分析」とは、目標と現状のギャップや課題を洗い出して、目標達成に向けて解決策を示していくフレームワークです。ギャップ分析では、まず「あるべき姿」と「現実の姿」の差を明確にするところからはじめます。
ギャップが把握できたら、それを埋めるためには何が必要なのかを考え、実際の行動に移しましょう。ギャップ分析は人材育成だけでなく、マーケティングやシステムの効率化などにも活用できる手法です。
7:2:1モデル(ロミンガーの法則)
「7:2:1モデル(ロミンガーの法則)」は、アメリカの人事コンサルタント会社・ロミンガー社が提唱した考え方です。具体的には、人の成長を促すのは「業務経験7割」「人間関係2割」「研修1割」であると示しています。人材育成には適切なバランスが必要で、さまざまな視点からアプローチしなければなりません。
現在、日本企業では「7:2:1モデル」が人材育成における基本的な考え方とされています。よって、経験を重視しつつ、自己啓発やOff-JTを組み合わせる育成方法が採用されている傾向です。
効率的に人材育成を行うため取り入れるべき施策
人材育成を効率的に行うには、目標管理制度や社員データを一元管理できるシステムの導入が効果的です。企業として個々のスキルや経験を把握したうえで目標を設定できれば、社員の強みを伸ばし、成長を促しやすくなります。
また、評価制度の見直しも重要なポイントです。公平公正で納得感のある制度を構築できれば、仕事に対するモチベーションも高まります。
企業の成功事例を紹介
最後に、企業における人材育成の成功事例を紹介します。
青山商事株式会社の事例
紳士服をはじめ幅広い事業を手掛けている青山商事株式会社は、連結の社員数が1万名を超える大手企業です。日本全国に拠点があるため、社員のスキルやキャリア情報の管理が難しく、適材適所の配置や効果的な育成に課題を感じていました。
その課題を解決するために、導入されたのが「タレントパレット」です。タレントパレットにより、全社員のスキルやキャリアデータを一元管理できるようになり、個々の適性に基づいた配置や育成を実現しました。また、スキルを可視化したことで社員の意識が向上し、エンゲージメントにもよい影響をもたらしています。
西部ガスホールディングス株式会社の事例
西部ガスホールディングス株式会社は、1930年に設立した歴史ある企業です。2021年のホールディングス化に伴い、社員が保有する資格やスキルなどを一元的に管理・可視化する必要があり、タレントマネジメントシステムの導入を検討していました。
「グループ会社を横断したデータ管理・活用」というニーズを満たすシステムを探していたところ、タレントパレットの機能が目に止まり、採用を決定しています。「グループ戦略ポータル」機能により、グループ全体の人材情報を一元管理・可視化できただけでなく、各社員のスキルや資格の把握も可能となりました。
株式会社大西の事例
株式会社大西は、衣料品・雑貨の卸売や、店舗什器・備品の販売などの事業を展開している企業です。従来は複数のシステムで人事データを管理しており、社員の情報を一元的に把握することが難しく、業務効率の悪さに悩みを抱えていました。
創業100周年という節目に、人事制度の刷新をはじめとした組織変革のプロジェクトを立ち上げ、新たに導入されたのがタレントパレットです。分散していた人事関連システムをタレントパレットに統合し、社員のスキルやキャリア情報の一元管理・可視化により、戦略的な人事施策の基盤を構築できています。
まとめ
人材育成にはさまざまな手法があるため、自社の課題や目的に合わせて適切な方法を選択しなければなりません。社員の状態を確認しながら計画に進めていくことが、優秀な人材の育成につながります。
事業拡大や生産性の向上につながる人材育成を実現するためには、システムの導入がおすすめです。タレントパレットは、現場で役立つ多彩な機能が搭載されており、人材育成においても高いパフォーマンスを発揮します。人材育成に活用できるスキルマップの作り方の資料も用意しているので、まずはお気軽にお問い合わせください。