社内コミュニケーションの活性化は、社員同士の人間関係を良好に保ち、離職防止にもつながる重要な施策です。しかし、多くの企業ではこれまでコミュニケーションを社員の自主性に任せてきたため、どのように取り組めばよいのか分からず、悩む担当者も少なくありません。
そこで本記事では、離職防止における社内コミュニケーションの重要性や主な種類、具体的な施策、効果を高めるためのポイント、成功事例などを分かりやすく解説します。
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離職原因に多い「人間関係の悪化」
人間関係の悪化は、男女を問わず離職理由の上位を占めています。
厚生労働省の「令和5年雇用動向調査結果の概況」によると、転職入職者のうち「職場の人間関係が好ましくなかった」と答えた男性離職者の割合は全体の9.1%でした。個人的理由や出向などの理由を除けば、「定年・契約期間の満了」(16.9%)に次ぐ割合です。女性では、個人的理由を除くと最も多く13%でした。
人間関係の悪化の背景には、コミュニケーション不足があることが少なくありません。このことから、コミュニケーションの改善が離職率の低下につながる可能性があると考えられます。
離職防止におけるコミュニケーションの重要性
離職防止には、日常的なコミュニケーションの積み重ねが欠かせません。業務連絡だけでなく、雑談や相談といったカジュアルな会話は、社員の心の動きを察知し、問題を早期に発見するきっかけとなります。
例えば、上司と部下の関係では、定期的な声かけや面談により、信頼関係を深められる場合も多いでしょう。一方で、職場内でのコミュニケーションが不足していると、社員が抱える不安や悩みに気づけず、離職の兆しを見逃しかねません。
離職防止を積極的に推進する企業が増えている背景
近年、離職防止に積極的に取り組む企業が増えています。背景にあるのは、少子高齢化による労働人口の減少が続き、人材確保が難しくなっているなかで、企業が現職社員の定着を強化せざるを得ないという厳しい現状です。
さらに、キャリアの選択肢が広がったことで人材の流動化が進み、優秀な人材が他社へ転職するリスクも高まっています。特に、新卒採用者の3年以内の離職率は3割を超えており、企業は新人の早期離職を防ぐため、対策の強化が求められているのです。
※出典:新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)を公表します|厚生労働省
コミュニケーション改善により離職防止が期待できる理由
職場でのコミュニケーションを改善すると、離職防止にどのように役立つのでしょうか。人間関係の質の向上、エンゲージメントの強化、成長機会の提供の3つの観点から解説します。
人間関係の質が高まる
信頼関係を深めるには、気軽に話せる雰囲気づくりが重要です。風通しのよい環境は、創造的な発想や前向きな行動を促し、チーム全体の活性化にもつながります。日常のコミュニケーションを通じて、社員同士が遠慮なく意見を交わせる雰囲気を整えることは、職場の一体感や生産性を高めるうえで効果的です。
エンゲージメントが向上する
日々のコミュニケーションの積み重ねにより、社員のエンゲージメントが向上します。なぜなら、心理的な安全性が確保された職場では、社員は安心して働くことができ、会社や仕事への愛着が深まるためです。その結果、自発的に行動しようとする姿勢が生まれ、業務への意欲が高まり、離職率の低下にもつながります。
目標を持って成長できる
上司との定期的なコミュニケーションがあると、自分の役割や目指す方向が明確になり、不安や迷いが軽減されます。また、上司がフィードバックやコーチングを提供することで、業務の進捗確認だけでなく成長のサポートにもつながるでしょう。
これにより、社員は自身の仕事の成果が適切に評価されていると感じ、やる気や満足感が高まります。結果として、企業への愛着が深まるため、離職率の低下にも寄与するでしょう。
社内コミュニケーションの3つの種類
社内コミュニケーションの種類は、大別すると、結論やルールに縛られない「会話」、結論を導くための「討論」、相互理解を目的とした「対話」の3種類です。違いを理解したうえで対策を行うことが離職防止にもつながります。以下では、それぞれの目的や効果をみていきましょう。
会話|結論やルールに縛られない自由なコミュニケーション
会話(カンバセーション)は、職場において結論やルールに縛られず、気軽な話を交わすことです。例えば、ランチタイムや午後の休憩時間での雑談や、雑談専用のチャットチャンネルでのやり取りなどが挙げられます。会話(カンバセーション)は、信頼関係の基盤を築くうえで有効であり、特に新入社員や初対面の社員が職場に馴染むうえで重要です。
討議|結論を導くためのコミュニケーション
討議(ディスカッション)とは、特定の課題やテーマについて複数の参加者が意見を出し合い、最適な結論を導くことを目的としたコミュニケーションです。一般的に、業務の課題解決や進め方の検討、スキル習得のための教育の場面で活用されます。
討議(ディスカッション)を効果的にするには、自由な意見交換を行いながらも、結論を導き出す目的を全員が忘れないようにすることが重要です。また、一方的な主張の強要を避け、互いの納得感と信頼を確かめながら議論を進める必要があります。
対話|相互理解を目的としたコミュニケーション
対話(ダイアログ)は、相互理解を深めることを目的としたコミュニケーションの形式を指します。相手の考えや感情に耳を傾けることによって、信頼関係を構築し、社員の本音を引き出すことを目的とする点が特徴です。例えば、「どう感じたか?」「他に何か困っていることはあるか?」といったように、相手の内面に焦点を当てたコミュニケーションを行います。
対話を意識すると、上司と部下の面談などにおいて、本音を引き出しやすくなるでしょう。早期の不調や不満を察知できれば、離職防止につなげられます。
離職防止につながるコミュニケーション活性化のアイデア
ここからは、離職防止につながるコミュニケーション活性化のアイデアを8つ紹介します。自社の課題に合わせて取り入れるヒントにしてください。
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メンター制度によるフォロー
近い年代の先輩社員がメンター(指導者、助言者)としてサポートするメンター制度は、上下関係にとらわれず、自然なコミュニケーションが生まれやすい環境を提供する制度です。
直属の上司とは異なり、年齢が近いメンターは新入社員や若手社員にとって心理的なハードルが低く、業務上の悩みや人間関係の不安を相談しやすくなります。例えば、業務の進め方やキャリア形成に関する相談だけでなく、日常の些細な困りごとや職場の雰囲気についても気軽に話しやすい点が特徴です。
1on1ミーティングの実施
1on1ミーティングは、上司と部下が定期的に1対1で対話する場で、業務上の課題やキャリアの方向性について話し合います。
業務にやりがいを見出せていない社員に対しては、キャリアの希望や課題を話し合うことが効果的です。例えば、現在の業務が目指す将来のビジョンと一致しているか確認し、必要なスキルの習得計画を立てます。社員のモチベーションを向上すれば、定着率の向上につながるでしょう。
社内SNSによるコミュニケーション活性化
社内SNSは、外部から切り離された社内専用のプラットフォームであり、業務に関する情報共有や近況報告を安全に行うための仕組みです。部署を超えたコミュニケーションが促進され、社員同士のつながりが生まれやすくなります。
迅速な情報共有やフィードバックの提供に加えて、テレワークが普及した現代においては、社員の孤立感を解消する効果も期待できる手段です。雑談を積極的に奨励し、コミュニケーションを活性化させている企業も増加傾向にあります。
サンクスカードを送る
サンクスカードとは、社員同士が感謝の気持ちを気軽に伝え合うためのカードや仕組みです。業務での貢献や支援に対して感謝を伝えることで、社員同士の信頼関係が強まり、職場全体のコミュニケーションが活性化します。
サンクスカードは目に見えにくい貢献も称え合えるため、接客や裏方の業務などあらゆる社員のモチベーションを高めやすく、離職防止の施策としても効果的です。近年はITツールを使って、デジタルのサンクスカードを贈り合う企業も増えています。
フリーアドレスを導入する
フリーアドレスとは、社員が固定の席を持たず、毎日自由に座席を選べる働き方のことです。この仕組みにより、部署を越えた社員同士の偶発的な会話が生まれやすくなり、社内のコミュニケーション活性化が期待できます。
テレワークが普及し出社の頻度が減少しているなかでも、出社した際の新たな交流の場として機能するのが特徴です。また、スペースの有効活用や業務効率化の観点からも有効であり、オフィスの役割が見直されている現代において、柔軟な働き方を支える取り組みとして注目されています。
休憩スペースや社員食堂などの充実
休憩スペースや社員食堂、カフェなどの共有エリアを整備することで、社員同士が自然に交流できる環境が生まれます。日常的な雑談や軽い相談ができるようになり、コミュニケーションの活性化が期待できるでしょう。
共有エリアを充実させる際は、社員の声を反映させたレイアウトや設備の導入が成功のカギです。例えば、リラックスできるソファや親しみやすいインテリアを導入することで、居心地のよい空間が生まれ、会話が自然と生まれる場になります。アンケートや社内サーベイツールを活用しながら、社員のニーズを把握しましょう。
コミュニケーションワークショップの実施
コミュニケーションワークショップとは、参加者が話す・聞く・伝えるなどのコミュニケーション行動を体験的に学ぶ研修です。座学中心の研修とは異なり、ロールプレイやグループ討議などの実践的なプログラムを通じて、傾聴や対話力を高めます。
組織内に固定的な考えや上下関係が強く根付いてしまうと、多様性の尊重が失われ、円滑な意思疎通が阻害されることになりかねません。ワークショップ内でのフィードバック演習では、自身の伝え方や相手の受け取り方について学び合い、相互理解を深められます。
社内イベントの開催
社内イベントの開催は、部署や役職を越えた社員同士の交流を促進し、組織内の関係性構築に効果的です。例えば、バーベキューやゲーム大会などのカジュアルなイベントを通じて、普段は接点の少ない社員同士でも会話のきっかけが生まれやすくなります。
こうしたイベントは業務に直接関係しないものの、互いの人となりを理解するよい機会です。職場の一体感やチームワークが強化されることで、業務の効率化や離職防止にも寄与します。人材の流動性が高い組織や、テレワークが普及していて人間関係が希薄な組織などは、積極的に取り入れるとよいでしょう。
コミュニケーション活性化によって離職防止を図る際のポイント
離職防止の効果を高めるには、どのように施策を実行すればよいのでしょうか。4つの重要ポイントを解説します。
離職防止対策は人材の定着に有効な施策|原因や放置するリスク、改善策も解説
心理的安全性を確保する
心理的安全性とは、社員が安心して意見や質問を発言できる職場環境のことです。この環境が整うことで、社員はミスを恐れずに発言し、新しいアイデアや意見を共有しやすくなります。
心理的安全性を高めるには、組織文化への影響度が大きく、権限を持つ経営層や上司がオープンな対話姿勢を示し、部下の声に積極的に耳を傾けることが重要です。社員の意見や人格を尊重することで、職場への参画意識や帰属意識が高まり、長期的な定着にもつながると期待されています。
会話と対話を重視する
人間関係の距離を縮め、信頼関係を構築するには、気軽な会話(カンバセーション)や、相手の立場や気持ちを尊重する対話(ダイアログ)が効果的です。
年代や価値観の異なる社員が多い企業ほど、会話や対話が不足しがちで、信頼関係が築きにくい傾向があります。業務上のコミュニケーションに課題がある場合は、まず会話や対話が十分に行われているかを見直してみるとよいでしょう。
暗黙的なコミュニケーション文化の見直し
従来の「背中を見て学ぶ」スタイルは、若手社員には伝わりにくくなっています。現代の若手社員は、納得感のある説明や具体的な指導を求めているため、特に上司やリーダーには行動の意図や意思決定の背景を言語化して伝える能力が欠かせません。必要に応じて、コミュニケーションスキルを磨く研修を受講させるとよいでしょう。
タレントマネジメントツールの活用
タレントマネジメントツールは、社員の情報を一元管理し、離職リスクの早期発見や対応をサポートするシステムです。社員のコンディションを定期的にモニタリングし、異変をキャッチした際には面談や配置転換を行うなどの対応が迅速に行えます。
さらに、適性診断の結果をもとに、社員ごとの接し方や指導方法を見直すことで、誤解やすれ違いを防ぎ、離職リスクの低減につながります。例えば、社員のエンゲージメントをスコア化しておけば、適切なフォローアップを行い、離職率の低下を実現できるでしょう。
このように、タレントマネジメントツールは単なるデータ管理ツールではなく、コミュニケーションの質を高め、組織全体の活性化を促進する手段としても活用できます。
コミュニケーション活性化による離職防止の成功事例
実際の企業の取り組みとして、タレントマネジメントツール「タレントパレット」を用いた成功事例を紹介します。
株式会社プレナス|コンディションが悪い社員を早期にキャッチアップ
株式会社プレナスでは、社員の体調やメンタルの変化に気づきにくいという課題があり、対応が遅れがちになる懸念があったといいます。そこで、タレントパレットを用いた毎月のパルスサーベイ(簡易アンケート)を導入し、社員のコンディションを可視化する取り組みを開始しました。
これにより、体調不良やメンタルの不調を早期にキャッチアップできるようになり、迅速なヒアリングや配置換えといった対応が可能になりました。また、社員の状態を時系列で記録・比較できる仕組みも整備され、継続的なフォロー体制が確立されたのです。
結果として、離職防止にも大きな効果をもたらしています
※参考:全国2,500店舗の社員を対象とした採用強化・エンゲージメント向上・離職防止をワンストップで実現
株式会社オリエントコーポレーション|サンクスポイントで社員エンゲージメントを向上
株式会社オリエントコーポレーションでは、紙のサンクスカードで感謝を伝え合う取り組みを行っていましたが、運用の手間が大きく、継続が困難だったといいます。
そこで導入したのが、「タレントパレット」のサンクスポイント機能です。社員同士が感謝のメッセージとポイントを簡単にデジタルで贈り合えます。
サンクスポイントを通じて、感謝文化が浸透し、社内コミュニケーションが活性化しました。結果として、社員のエンゲージメント向上にもつながっています。
※参考:社員数数千人の適材適所、キャリアプランを見据え、タレントパレットを導入
まとめ
コミュニケーションを活性化させることで、職場に活気が生まれ、人間関係の改善にもつながります。結果として離職率の低下が期待できるため、自社の状況に合わせた施策を行っていきましょう。
株式会社プラスアルファ・コンサルティングでは、本記事で取り上げたタレントマネジメントシステム「タレントパレット」を提供しています。タレントパレットは、採用、育成、配置、離職防止から経営の意思決定支援までをワンプラットフォームで実現できるシステムで、大手企業をはじめとする導入実績が豊富です。
離職防止の施策について、詳しくは以下の資料をご覧ください。