人事考課とは?注意点や評価項目など、制度運用に必要な内容を基礎からていねいに解説!


人事考課とは?注意点や評価項目など、制度運用に必要な内容を基礎からていねいに解説!

人事考課とは、社員の「仕事」を評価に反映させる仕組みのことです。人事考課について、仕組みづくりが重要であることは理解していても、制度の作成や見直しを進められずにいる担当者も多いのではないでしょうか。

この記事では、人事考課の意味や実施する目的、評価基準、運用方法などを解説します。人事考課について正しく理解し、制度の作成や見直しに役立ててください。

人事考課の意味と「人事評価」との違い

制度を導入するうえで、定義を理解することは大切です。ここでは、人事考課の定義と人事評価との違いを解説します。

人事考課の意味とは?

人事考課とは、社員の仕事について総合的に評価し、人事に反映させる仕組みのことです。評価の対象となる「仕事」の内容には、スキルや勤務態度、仕事への意欲なども含みます。これらの評価は、賃金の設定や昇進、異動、人材育成などに活用されます。人事考課は、1年や半年など頻度を決めて定期的に実施するのが望ましいです。

人事評価との違いとは?

人事評価は、社員が行った業務の結果に対して「良い・悪い」を判断することに重点を置いています。基本的には、結果重視の評価制度と考えるとよいでしょう。人事評価の方が広義であることから、人事考課と同義に使われるケースもあります。

人事考課を行う目的とは?

人事考課が重要なのは、実施することで得られる効果があるからです。ここでは、人事考課を行う目的について解説します。

モチベーションの維持・向上

会社からの適正な評価は、社員のモチベーションを維持・向上させます。インセンティブの付与などにより、自分の仕事が評価されたという実感と自信を持つと同時に、自社へさらに貢献したいという意欲にもつながります。

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企業全体の方向性の明確化

社員は「自分がどのように働けばよいのか」という問題への答えを、企業の目標や方向性に見出します。これらを「見える化」して共有することで、社員は自社が求めている人材像を明確に把握することができ、自分の仕事の目標も設定しやすくなります。

スキルアップの促進・能力開発

人事考課を行うことで、社員は「今、自分に不足している能力や知識は何か」を判断できるようになります。人事考課により意味を持たせるには、スキルアップを目的とした社員研修を開催する、適材適所の人員配置とフォローなどが有効です。

公平な評価・適切な人材配置

会社が定めた基準に基づいて社員を公平に評価することで、適切な人材配置も可能です。評価した社員の能力をもとに、配置転換や昇進・昇給・賞与などの待遇を決め、適材適所に人材を配置できます。

人事考課の3つの評価基準・項目

人事考課には、業績考課、能力考課、情意考課の3項目があります。ここでは、それぞれの内容について解説します。

目的達成の過程と実現度を評価する「業績考課」

業績考課は、設定した業務目標に対する達成度と過程を評価します。「売上目標〇円に対して〇%の達成率」というように数値化しやすく、客観的に判断しやすいのが特徴です。目標はMBO(目標管理制度)によって、社員が自ら設定します。MBO(目標管理制度)については、後ほど詳しく解説します。

知識や能力を評価する「能力考課」

仕事の成果は必ずしも数値化できるわけではありません。能力効果は、「影の立て役者」「縁の下の力持ち」に値する仕事に対して評価する項目です。たとえば、トラブルを迅速に解決した、今すぐ利益化されなくても長期的に有益な商談を成功させた、などが対象となります。
知識や能力による成果は、数値化できないからこそ仕事の中身を適正に評価することが大切です。

業務への取組み方や姿勢を評価する「情意考課」

情意考課は、規律性や積極性、責任性、協調性など、業務への向き合い方を評価する項目です。行動考課、執務態度考課とも呼ばれ、真摯に業務に取り組む社員を正当に評価できます。
情意考課は主観的な評価になりやすい項目のため、客観的な観点と社員が納得できる根拠が必要です。考課エラーを防ぐためにも、社員に対して評価基準を明確にすることが求められます。

人事考課に役立つ4つの評価手法

人事考課に役立つ評価方法は、主に4つあります。ここでは、4つの評価手法について解説します。

MBO

MBO(目標管理制度)は、Management By Objectiveの略称で、ピーター・ドラッカーが提唱した組織マネジメントの考え方です。社員が上司と相談したうえで目標を設定し、達成度や進捗状況に応じて、評価が決定されます。

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コンピテンシー評価

コンピテンシー評価は、社員の行動特性をもとに評価する手法です。自社が求める理想的な成果を出す人材の行動特性を基準とし、社員の行動を評価します。行動モデルに基づいた評価基準により、人材育成にも有効です。

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360度評価

360度評価は、上司だけでなく同僚や部下などの複数の観察者が、対象者の日常の職務行動を評価する方法です。360度評価により、対象者が会社に対して標準的な職務遂行能力を持ち、日常的に発揮しているかどうかを確認できます。

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バリュー評価

バリュー評価とは、会社が設定した行動基準や行動規範に従った行動ができているかを定性的に評価する手法です。社員の行動を相対的に評価できるため、情意考課としての役割を果たします。

日本の人事制度の歴史と課題

日本の人事制度は時代とともに変遷を遂げてきました。ここでは、それぞれの制度における特徴と課題を年代順に解説します。

年功序列・終身雇用(1950~1960年代)

第二次世界大戦後の日本は、ほどなく高度経済成長に突入しました。1950年代には勤続年数に比例して昇給、昇格する年功序列制の考え方が誕生します。これには企業から人が離れてしまい人材不足となることを防ぐ効果があったものの、能力のある人材が適切に評価されないといった課題がありました。

職能資格制(1970~1980年代)

日本の経済成長が安定期に入ると「能力のある社員には高い賃金を」という動きが出てきました。そこで誕生したのが職能資格制度です。年功序列をベースに、能力に対する賃金が上乗せされるようになりました。一方で、能力を客観的に評価するシステムが未熟であることが課題でした。

旧成果主義・目標管理制(1990年代~2004年)

バブル崩壊後、企業は右肩上がりに給与が上がる形のこれまでの制度の見直しを迫られました。そこで生まれたのが、アメリカのシリコンバレーで大躍進を遂げたIT業界を手本にした旧成果主義です。この方法では、目標管理制度やコンピテンシー評価の考え方が浸透したものの、成果を上げることに意識が向いて協調性が失われるという課題もありました。

新成果主義(2004年~)

日本経済が長期的なデフレに突入し、少子高齢化、グローバル化が進むと、人事制度も「量より質」という動きが強くなりました。結果に重点を置く旧成果主義から脱却し、複数の評価基準を設けて総合的に評価する新成果主義が浸透しました。

人事考課の効果的な運用方法

人事考課を効果的に運用するためには、時期と使用するシートが重要です。ここでは、人事考課を行う時期と考課シートについて解説します。

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人事考課を行う時期

人事考課は、一般的に賞与の前や昇給検討前の期末に行います。これらの時期に行うのは、賞与の額や昇給を決定するにあたって必要な材料をそろえるためです。賞与を目的とした考課であれば、情意考課と成績考課を実施する。昇給や昇格を目的とした考課であれば、これらに加えて能力考課も行うなど、目的に応じて考課を分けても問題ありません。

人事考課シートを使用する

人事考課シートは、企業や事業部門の人事制度に基づき、主に人事部が作成、管理するのが一般的です。シートは目標達成、協調性、正確性などの評価項目を数値によって示す欄と、評価者のコメントを記す欄で構成されます。
人事考課シートを使用することにより、評価のプロセスが形として残るため、考課の透明性も図れます。

人事考課の具体的な手順

人事考課は、それぞれのプロセスが持つ意味を理解したうえで進めることが大切です。ここでは、人事評価の手順について解説します。

1.社員の目標設定

まずは社員個人が目標を設定します。目標は上司と相談し、両者が納得できる形であることが重要です。「〇月〇日までに△△を達成する」というように、期限と内容を明確にしましょう。目標達成が難しい場合はお互いに報告し合い、修正することも検討します。

2.自己評価

期限を迎えたら、社員が自分の目標に対しての成果を振り返り、目標達成度を評価します。ここで重要なのは、自分自身を客観的かつ正確に評価することです。上司は社員に対して「自分の仕事は他人から見たらどのように評価されるか」という視点を養えるようサポートします。

3.上司・役職者による評価

上司や役職者は、社員の自己評価とこれまでの実績や実力をあわせて評価します。上司や役職者の私的な観点での評価となることを防ぐためには、このプロセスにおける評価基準が必要です。明確な根拠のある評価を行うよう努めなければなりません。

4.面談・評価結果のフィードバック

最後に、上司や役職者による評価の理由と根拠を社員に面談で伝えます。ここで重要なのは、評価の結果よりも考課を次の仕事に活かせるよう、フィードバックに重点を置くことです。フィードバックについては、次で詳しく解説します。

人事考課を行うときのポイント

人事考課を行う際には、押さえておくべきポイントがあります。ここでは、3つのポイントについて解説します。

客観点な視点での評価

人事考課を行う際には、主観で判断するのではなく、客観的な視点で評価するようにしましょう。評価基準が人によって異なると、社員への評価にばらつきが生じ、不公平感を招くことになります。客観的な評価をするためには、あらかじめ評価基準を決めておくことが大切です。

適切なフィードバック

社員が自分に対する評価を受け止め、次に活かすためには、適切なフィードバックが必要不可欠です。社員は、評価に至った理由や根拠を提示されることで、評価に納得し、次への道筋を見出します。
フィードバックでは課題や改善点、改善方法を明確に提示することが大切です。直接アドバイスを行うことで、さらなるモチベーションの向上が期待できます。

定期的に面談を実施

フィードバックは社員と1対1で面談を行う(1on1)が望ましいでしょう。まずは社員から自己評価を聞き、その後に評価者から結果を伝えます。
ここで重要なのは、社員が言いたいことを言えるように考慮し、結果はポジティブな内容の後にネガティブな内容を伝えることです。最後に、社員が課題や解決策を見つけられるようアドバイスしましょう。

人事考課エラーにおける注意点

人事考課は人が人を評価する制度であり、注意を怠ればエラーが起きる可能性もあります。想定される人事考課エラーは意図的、無意識の2パターンであり、いずれもあってはならないことです。ここでは、人事考課エラーについて詳しく解説します。

意図的な人事考課エラー

意図的な人事考課エラーは、評価者の好き嫌いで判断してしまうことで発生します。社員を評価者の好みで評価するため、自社の利益になる仕事をしているにも関わらず、低評価となることも少なくありません。人事考課は客観的な視点で評価することが大前提です。

無意識の思い込みによる人事考課エラー

無意識な人事考課エラーは、評価者の根底にある考え方や癖、先入観などが評価に影響を及ぼすことで発生します。
たとえば、突出して優れている点ばかり注目して他の点の評価が疎かになる「ハロー効果」や、その人の印象で評価を下してしまう「第一印象操作」があります。これは、過大評価を生む原因にもなりかねません。
また、他の部下と比較して相対的な評価をする「対比誤差」といったエラーは、絶対評価という人事考課のルールを崩してしまいます。
他にも、あえて厳しい評価をする「厳格化傾向」や、「がんばっているから」などのあいまいな理由で甘く評価する「寛大化傾向」、5段階評価なら3を選びがちになる「中心化傾向」といったエラーがあります。これは、評価者によって評価が異なるという事態が発生します。
そもそも評価者の考課に対する認識が甘いことで評価が歪む「倫理的誤謬」といったエラーもあります。評価の時期に近い時点での印象を、評価期間全体に反映してしまう「近時点評価」も無意識に起こる人事考課エラーです。先入観、親近感、帰属意識などは、非常に強力なバイアスとなることに留意しましょう。

「人事考課者訓練」を受けて評価者のスキルを上げる

人事考課は評価者の正しい評価あっての制度です。評価者には相応の知識やスキルが求められます。ここでは人事考課者訓練について解説します。

人事考課訓練とは?

人事考課訓練は、評価者の育成を目的としています。自社の人事考課制度に基づき、評価者になり得る人物が、正しい知識や評価スキルを身に着けるための訓練です。人事考課訓練は社内で行われるのが一般的です。

人事考課訓練の必要性とポイント

人事考課は、社員のモチベーションに大きな影響を与えるため、企業の繁栄もしくは衰退に直結します。人事考課の結果が反映される給与や昇進、異動などは、適切に行われることが重要です。
一方、運用の方法や評価基準に問題があれば社員の離脱にもつながりかねません。人事考課訓練で評価者として必要なスキルを身に着けることが大切です。
人事考課訓練のポイントは以下のとおりです。
・人事制度のシステムと目的
・考課ルールの明確化
・考課者相互間での評価基準の統一
・能力開発への活用法
・考課エラーの防止法
・人事考課者の心構え

社員と企業が同じ方向を目指せる人事考課を導入しよう

人事考課は、評価者が適切な評価を行い、結果を賞与や昇進などに反映させることで、社員のモチベーションを向上させる効果が期待できます。一方で、運用の問題や評価方法のエラーは、社員の離脱など企業にとって重大な損失を招くことにもなりかねません。
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