身近にあるナッジ理論の事例を紹介!活用できるビジネスシーンも解説


身近にあるナッジ理論の事例を紹介!活用できるビジネスシーンも解説

ナッジ理論とは、身近な例からビジネスまで幅広く利用されている行動経済学的理論です。非常に有用ですので、本記事では具体的事例を交えて、ナッジ理論の概要や効果などを詳しく解説します。

こんにちは。人事・経営に役立つメディア「タレントマネジメントラボ」を運営する「タレントパレット」事業部編集チームです。


本記事では、ナッジ理論の事例を紹介します。この記事を読めば、ナッジ理論がどんな場面で活用され、どんな効果をあげているのかが理解できるでしょう。また、ナッジ理論の基本概要をわかりやすく解説しますので、ぜひご覧ください。

ナッジ理論とは?


ナッジ理論とは、2008年にアメリカの経済学者リチャード・セイラー教授と法学者キャス・サンスティーン教授が提唱した行動経済学に分類される理論です。この理論には「相手が自発的に合理的な意思決定ができるようになる」効果があります。


街頭にある各種看板を思い浮かべてください。「空き缶はゴミ箱へ」と記載された看板を多く見かけるようになると、自然とポイ捨てはやめようと思うようになるはずです。これも、ナッジ理論の活用例の1つです。


人は強制されるよりも、自然にやってほしいことを伝えられた方が、動きやすい性質を持ちます。ナッジ理論は、この人間が持つ性質を上手く活用し、相手を意図する行動に誘導することを目的とした理論です。


人間は感情に左右される生き物ですから、常に合理的行動をとれるわけではありません。間違った行動を取って、問題を起こすこともあるでしょう。このような問題行動の改善に、ナッジ理論は大きな効果を発揮します。

ナッジ理論の基本は「NUDGES」

ナッジ理論には、以下の6つの原則があります。


  • iNcentives
  • Understanding mappings
  • Defaults
  • Give feedback
  • Expect error
  • Structure complex choices


6つの頭文字を取って「NUDGES」と名付けられました。このNUDGESを理解すれば、有効にナッジ理論を活用できます。


各原則の概要は、以下のとおりです。


iNcentives

行動で得られるメリット、行動せずに被るデメリットを提示

Understanding mappings

行動で得られる結果を予測して提示

Defaults

誘導したい行動を初期設定(デフォルト)にする

Give feedback

行動結果の評価を伝達

Expect error

エラーを予想立ててミスを回避

Structure complex choices

選択肢の簡略化して特定の選択肢に誘導しやすくする


これら基本原則を基に、行動改善のアプローチ方法を決定します。


ナッジ理論のフレームワークは「EAST」

ナッジ理論を誰でも活用できるツールとなる、フレームワークの1つが「EAST」です。ここではこのEASTについてわかりやすく解説します。


EASTはイギリス政府がナッジ理論の活用で、特に効果があった施策を以下の4つの要素にまとめあげたフレームワークです。4つの頭文字を取って「EAST」と名付けられました。


  • Easy
  • Attractive
  • Social
  • Timely


これら各要素の概要は、以下のとおりです。


Easy:簡単

物事の難易度やハードルを下げて行動しやすくする

Attractive:魅力的

魅力的だと感じる選択肢を用意する

Social:社会的

行動が社会規範や周囲と同じだと認識させる

Timely:タイムリー

適切なベストタイミングで必要な情報を提供する


これら4つの要素を活用すれば、相手を意図する行動へと誘導します。活用できる要素が多いほど効果は大きくなるでしょう。どの要素が活用できるか、じっくりと検証してください。

ナッジ理論を活用した事例を紹介


私たちの生活の中でも、ナッジ理論を活用した多くの取り組みが実施されています。そこでナッジ例について詳しくご紹介します。

事例1.放置自転車の対策

ある雑居ビルが、放置自転車対策として実施した取り組みです。ある雑居ビルでは放置自転車が増え続け、居住者の駐車スペースの維持さえ難しくなっていました。


「自転車を放置しないでください」と渓谷の張り紙をしてもなんの効果もありませんでした。そこで、張り紙の文面を「ここは自転車捨て場です。ご自由にお持ちください」に変更したところ、一気に放置自転車問題が解決しました。


これは「放置すれば他人に自転車を取られてしまう」と意識させる、ナッジ理論の「行動しなければデメリットを被る」という意識を上手く活用した事例です。


事例2.健診の受診率向上のための取り組み

とある市の行政は、検診受診後に課せられた「要精密検査」の100%受診を目標に掲げていました。しかし、以下の理由などから、受診率は8割止まりのまま横ばい状態が続いたのです。


  • 検査が大変
  • 時間がない
  • 費用がかさむ


そこで取り組んだのが、医師による受診勧奨と検査日予約の実施です。これにより受診率の引き上げに成功しました。


この事例を成功させたのは、受診者が最も関心の高くなる診断結果の説明時に、精密検査の必要性と内容を説いた点です。


これはまさに「適切なベストタイミングで必要な情報を提供する」という、ナッジ理論を活用した事例と言えるでしょう。


事例3.男性トイレを清潔に保つ取り組み

オランダのとある空港の男性トイレを清潔に保つために実施された取り組みです。そこの男性トイレは使用者のマナーが悪く、空港関係者は以下の問題に悩まされていました。


  • 小便器をそれた小便で床が汚れる
  • 清掃にかかる人件費がかさむ


張り紙等でキレイに使うように促しても、なんの効果もありません。そこで実施したのが、便器内へのハエを模したペインティングです。


ペイント以降は無意識に絵を狙うようになり、床の汚れは減って、清掃費の8割削減に成功しました。


これは「人は的を見ると、そこに狙いを定める」という、ナッジ理論による分析結果を活用した事例です。

事例4.タバコのポイ捨て防止対策

イギリスのNPO団体が、タバコのポイ捨て防止対策として実施した取り組みになります。NPO団体が防止策として実施したのが、「タバコの吸殻を投票券にしたアンケートボックス」の設置です。


アンケートは下記のようにバリエーションが豊富で、イギリス国民の誰もが関心を持ちやすいものが選ばれました、


  • 歴代最高のジェダイマスターはどっち?
  • 世界最高のサッカープレイヤーはどっち?
  • 次のアメリカ大統領はどっちになる?


この施策により、ロンドン市内のポイ捨ては大きく減ったとされています。ナッジ理論の「魅力的だと感じる選択肢を用意する」を上手く活用した事例と言えるでしょう。


事例5.税金の滞納防止対策

納税率の低さを問題視する、イギリス政府が実施した税金の滞納防止対策への取り組みです。


イギリス政府は税金滞納者に対し、以下のような社会規範に関するメッセージを挿入した税金納付通知書を送るようにしました。


  • あなたの住む地域の10人中9人は期限内に納税しています
  • あなたのような税金未納者の大半が既に納税済みです


そうしたところ、滞納者の納税が進み、納税率は68%から83%に増加しました。


これはナッジ理論の「行動が社会規範や周囲と同じだと認識させる」の活用で、社会規範や周囲と同じ行動を取りたがる人間の心理を上手くついた事例です。


事例6.医療施設における健康促進の取り組み

ある医療施設が、職員の健康促進を目的として実施した取り組みです。


職員の利用が多い院内に設置されたコンビニへアプローチし、職員の摂取食品の改善に取り組みました。実施したのは、以下の3つの工夫です。


  • レジ横でへルシーセットを販売
  • 無糖飲料を手に取りやすいところに陳列
  • カップ麺は食塩量が少ない順に陳列


取り組みは職員にも喜ばれ、コンビニの収益増加にもつながりました。


これはナッジ理論の「適切なベストタイミングで必要な情報を提供すること」を活用した事例です。職員の目に付きやすいところに購入してほしい商品を並べることで、接種食品の改善に成功しています。

事例7.省エネのための節電対策

米国で実施された、省エネのための節電対策を模索した社会実験の1つです。


実施内容は省エネを促すメッセージを数種類作成して、それを各家庭のドアノブにかけ、メッセージごとの影響度を評価する方法でした。


その結果、最も効果が得られたのは「ご近所さんは既にやっています」というメッセージで、直接的に節電を促すメッセージはまったく効果がなかったのです。


この結果はナッジ理論の基本原則の1つであるSocial(行動が社会規範や周囲と同じだと認識させる)の証明に役立ちました。周囲と同じ行動を取りたがる人間の性質を活用すれば、意図した行動へ誘導できることを示しています。


事例8.がん検診の受診率向上対策

八王子市のがん検診の受診率は7割程度でした。受診率を上げようと、同市は受診者に以下の2種類の注書きの送付を実施しました。


  • 今年度検診を受ければ、来年度も検査を受けられる
  • 今年度未検診なら、来年度から検査は受けられない


前者は利得、後者は損失を主張したものと文面こそ違いますが、ナッジ理論の基本原則の1つ、iNcentives(行動で得られるメリット、行動せずに被るデメリットを提示)を活用した手法です。この対策により、受診者数の増加は実現できました。


加えて注目してほしいのは、後者の方が好結果となった点です。人は利得の満足感より、損失による不満感の方を嫌がる性質があります。利得よりも損失を説いた方が、効果があると覚えておきましょう。


事例9.高価な製品を販売するための取り組み

多くの消費者が利用している分割購入ですが、上手く販売戦略に活用しているのがデアゴスティーニ・ジャパンです。一括購入では高額になるシリーズ物のDVDやフィギュアなどを、分割販売して好評を得ています。


  • 分割販売により1回の購入価格を下げる ⇒ ハードルを下げて行動しやすくする
  • 購入し続けないとコンプリートできない ⇒ 行動せずに被るデメリット


上記2つの効果を活用することで、高価な製品を販売する仕組みを作り上げています。


事例10.販売金額を上げるための取り組み

アマゾンでは2,000円以上の買い物すると、送料350円が無料になるサービスを展開しています。送料無料となるシステムは、多くのネットショップで採用されている、今や一般的なサービスです。しかし、少しでも販売金額を上げようとしている企業の販売システムであることに気づいている人は少ないでしょう。実はこれも、ナッジ理論を活用した販売金額を上げるための仕組みです。


  • 少額の買い物で送料が無料になる ⇒ ハードルを下げて行動しやすくする
  • 2,000円未満だと送料がかかる ⇒ 行動せずに被るデメリット


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ナッジ理論が活用できるビジネスシーン

ナッジ理論が活用できるビジネスシーンを、具体的にご紹介しましょう。


ここまでのナッジ例は日常生活に関わるものばかりでしたが、ナッジ理論はビジネスシーンでも人材力・企業力アップに効果を発揮します。

社内コミュニケーションでの活用方法

社内コミュニケーションはチームワークを高め、業務効率を向上させるために欠かせません。


また、円滑な社内コミュニケーションは個人能力の向上や企業業績アップに直結します。課題を抱えているなら、早急に解決すべき課題でしょう。社内コミュニケーションの円滑化を図ってナッジ理論を活用する際は、以下の2点に注意してください。


  • フィードバックの徹底 ⇒ 評価の伝達で業務意欲の向上
  • 達成目標の細分化 ⇒ 目標を小さくしてハードルを低くする
  • リマインドの心がけ ⇒ うっかり忘れの防止


業務の効率化が図れればコミュニケーションが多くなり、同じ目標の達成に向かうことで協調性が向上するでしょう。


営業での活用方法

営業で最も苦労するのが、取引先との価格交渉です。希望価格が通らなかった残念な経験をした営業マンは多いでしょう。


しかし希望価格での販売でも、ナッジ理論が活用できます。希望価格で販売する際、重要になるのが見積書の出し方です。


見積書は下記の3点を厳守して提出しましょう。


  • 3パターンの見積を用意 ⇒ 選択肢を狭めて結論を出しやすくする
  • 1つは極端に高額な価格にする ⇒ 不必要なものを高額購入して損したくない
  • 選んでほしい見積を中間価格にする ⇒ 安すぎるものを買って後悔したくない


選択肢を特定すれば、希望価格の見積へと誘導できる可能性が高まります。


マーケティングでの活用方法

ナッジ理論はマーケティングで多く活用されています。以下の例は、マーケティングとの相性が良い証拠でしょう。


理論

効果

具体例

Easy

購入しやすい

分割購入や値引きセール

Attractive

購入したくなる

ポイント付与や特典等のプレゼント

iNcentives

付加価値を付ける

購入時の満足感(シリーズ完遂による達成感)

Defaults

選択肢をなくす

メルマガ配信への自動加入で販売アップ


ナッジ理論は消費者を取ってほしい行動に誘導するために役立つ理論です。理解を深めれば、活用できるビジネスシーンはさらに広がっていくでしょう。


まとめ

ナッジ理論の「相手を意図する行動へと誘導する効果」は期待を裏切りません。ナッジ例を見ても、その効果は疑いようがないでしょう。特に企業の人事部や採用部門の担当者には、注目してもらいたい理論です。


また、併せて注目してほしいのがタレントパレットです。分析結果から経営や人事課題の解決のための根拠のある施策が打てるので、さらに満足いく結果が期待できます。同時活用を検討して、企業力アップに役立ててみませんか。


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