過重労働とは?長時間労働との違い、リスクや企業が実施すべき対策を解説


過重労働とは?長時間労働との違い、リスクや企業が実施すべき対策を解説

こんにちは。人事・経営に役立つメディア「タレントマネジメントラボ」を運営する「タレントパレット」事業部編集チームです。

2019年に働き方改革関連法が施行され、企業には労働環境の見直しが求められています。なかでも、さまざまな健康被害を引き起こす可能性がある過重労働の解消は、大きな課題といえるでしょう。

この記事では、過重労働の現状やリスク、企業が取り組むべき防止策について解説します。企業の具体的な対策事例も紹介するため、ぜひ参考にしてください。

過重労働とは

過重労働とは、長時間の残業や休日出勤などが原因で、労働者の心と身体に大きな負荷がかかっている働き方のことです。過重労働に法的な基準はありません。しかし、時間外・休日労働が月100時間を超えると健康障害のリスクが高まります。長時間労働以外にも、以下のようなケースは過重労働とみなされる可能性がある点は知っておきましょう。

  • 休日のない連続勤務
  • 不規則な勤務
  • 精神的な緊張を伴う作業


労働時間の長さだけでなく、業務形態や作業環境など、あらゆる負荷要因を総合的に判断することが重要です。

長時間労働との違い

過重労働と似た言葉に、「長時間労働」があります。長時間労働は働く時間が長いことを意味する言葉です。ただし、労働者の心身に負荷がかかるかどうかは、また別の話です。一般的に、過重労働の原因の1つとして捉えられることが多いでしょう。

長時間労働にも明確な基準はありません。しかし法定労働時間である「1日8時間・週40時間」を大幅に超える場合は、長時間労働と判断できます。

過重労働の基準

過重労働に明確な基準は定められていません。そのため、国が定める過労死ラインや法的な残業時間の上限を目安にすることが大切です。

過労死ライン

過労死ラインとは、労働災害の認定において「労働と過労死との因果関係」を判定するために用いられる基準です。仮にラインを超えて働かせると従業員の過労死リスクが高まるだけでなく、訴訟や企業イメージの悪化につながるため、企業が最低限守るべき基準だと理解しておきましょう。時間外・休日労働が以下のいずれかを超えるものを過労死ラインと呼びます。

  • 月100時間
  • 2〜6か月間の月平均80時間


過労死ラインを超えると、脳血管・心臓疾患を発症する可能性が高まるといえるでしょう。うつ病などの精神障害を引き起こす恐れもあるため、十分に注意が必要です。

36協定における時間外労働の上限規制

労働基準法によって労働時間の上限は「1日8時間、週40時間」と定められており、これを法定労働時間といいます。ただし、36協定を締結すれば、法定労働時間を超えた残業が可能です。

2019年4月に労働基準法が改定されるまでは、36協定に特別条項を設けることで上限なく残業させることが可能でした。しかし、改定後は残業時間の上限が罰則付きで次のように規定されています。

  • 時間外労働(休日労働は含まず)の上限は月45時間・年360時間が原則
  • 臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合は、時間外労働を年720時間以内、時間外労働+休日労働を月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内にすること
  • 原則である月45時間を超えることができるのは年6か月まで


引用:時間外労働の上限規制 わかりやすい解説|厚生労働省

時間外労働が月45時間より長くなるほど、労働と過労死との関連性が強まることがわかっています。過重労働の基準のひとつとして、残業時間の上限を知っておきましょう。

厚生労働省の調査に基づく過重労働の現状

ここでは、厚生労働省「令和4年版過労死等防止対策白書」に基づいて、日本の過重労働の現状を解説します。

年間総労働時間の推移


引用:令和4年版過労死等防止対策白書|厚生労働省

厚生労働省の調査によると、直近の総実労働時間は減少傾向で推移しています。2019年4月から順次施行された「働き方改革関連法」の影響です。法定労働時間は週40時間と定められているため、1年を52週として計算すると、年間の法定労働時間の上限はおよそ2,080時間となっています。

一般労働者の年間総実労働時間は3年連続で2,000時間を下回っているため、多くの企業で適切な労働時間が守られていると考えられるでしょう。

長時間労働者の現状


※括弧内の数字は雇用者数を表しており、単位は万人
引用:令和4年版過労死等防止対策白書|厚生労働省

総実労働時間が減少している一方で、一部では長時間労働が是正されていない現状もあります。長時間労働者に着目すると、月末1週間の就業時間が60時間以上の労働者は290万人です。全体から見ると割合は5%まで減少しているものの、将来的に過労死ゼロの社会を目指すためには、長時間労働者の割合をさらに減らす必要があるといえます。

過重労働のリスク



過重労働をさせた場合、従業員と企業の双方にリスクがあります。詳しくみていきましょう。

従業員の健康障害・過労死

従業員にとって最大のリスクは、健康障害や過労死につながる可能性があることです。長時間労働によって睡眠時間やプライベートの時間が不足すると、疲労がたまりやすくなります。そこに業務上の肉体的・精神的な負荷がかかることで、重大な病気やケガにつながるといえるでしょう。

また、厚生労働省「令和4年労働安全衛生調査」によると、調査対象のうち82.2%の従業員が仕事や職業生活にストレスを感じています。ストレスの原因として最も多いのは「仕事の量」でした。そのため、過重労働がメンタルヘルスにも影響を及ぼす可能性は高いといえるでしょう。

企業の社会的信用の失墜

従業員に違法な長時間労働を強いた場合、企業には罰則が科される可能性があります。また、健康障害や過労死の発生によって過重労働の問題が浮き彫りになれば、社会的信用が失墜する可能性も想定されるでしょう。

過重労働が原因で休職者や離職者が増加すると、優秀な人材を確保することが難しくなります。企業イメージが悪くなれば採用活動にも悪い影響を及ぼしかねません。

企業が存続し、持続的に成長するためには、従業員の健康を守ることが大切です。

企業が実施すべき過重労働の防止策

ここでは、過重労働を防止するための具体的な方法について解説します。

従業員の労働時間管理

過重労働を防ぐためには、従業員の労働時間を正確に把握しなければなりません。労働時間数だけでなく、始業・終業時間も必ず記録しておきましょう。

従業員の自己申告は管理が曖昧になる可能性があるため、原則として禁止されています。タイムカードやICカードを活用する、PCのログを取るなど勤怠管理は客観的なデータに基づいて行いましょう。

効率的に管理を行うためには、勤怠管理システムを導入することをおすすめします。

適切な人員配置と業務効率化

人員不足や業務量過多といった問題を解消するためには、各従業員の労働時間を正しく把握し、適正化する必要があります。たとえば、残業の多い部署に配属人数を増やすなど、適切な人員配置を行いましょう。ただし、人数を増やすだけでは根本的な解決につながらないケースもあります。

電話応対や事務作業の外注化やシステムの導入による業務の自動化なども検討しながら、業務内容を根本的に見直すことが重要です。

管理職の教育

過重労働の原因には、管理職の意識・マネジメント不足も挙げられます。管理職は、部下の勤務時間や業務量を把握して、うまくマネジメントしなければなりません。しかし、以下のようなマネジメント不足が原因で、過重労働を引き起こすケースが多いといえます。

  • 一部の従業員に業務が偏っている
  • 残業を前提として仕事を割り振るなど、計画性がない


企業は管理職の課題を洗い出し、研修などを通じて必要なマネジメントスキルを習得させなければなりません。

医師による面接指導

労働安全衛生法により、疲労が蓄積した労働者に対して、企業は医師による面接指導を行わなければなりません。月80時間を超える時間外・休日労働を行った従業員のうち、面接を希望した場合に対象となります。

面接の主な目的は、勤務状況や疲労の蓄積状態を把握して、脳血管・心臓疾患を予防することです。適切な指導を受けるためには、会社の状況を理解している産業医に依頼しましょう。

企業は面接指導を行った医師から意見を聴取して、業務内容の見直しや労働時間の短縮、勤務地の変更といった事後措置を行わなければなりません。

出典:長時間労働者への 医師による面接指導制度について|厚生労働省

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働き方改革で導入された過重労働対策



ここでは、過重労働を防止するための対策についてみていきましょう。また、守らなければならない義務もあるため、企業としても内容を明確に知ったうえで周知するなど工夫が必要です。

年次有給休暇の確実な取得

働き方改革では、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年5日は有給を取得させることが義務化されました。

この「年5日」については、従業員が自主的に有給を取得しなかった場合に限り、本人の希望を聞いたうえで時季を指定する必要があります。時季を指定するとは、「◯月◯日に休んでください」と具体的な指示を出すことです。

厚生労働省の調査によると、令和3年の年次有給休暇の平均取得率は58.3%と過去最高を記録しました。制度を導入するだけでなく、休みやすい雰囲気づくりも重要です。

出典:働き方改革関連法に関するハンドブック|厚生労働省

中小企業の残業代引き上げ

従業員に時間外労働をさせた場合は、残業時間に応じて割増賃金を支給しなければなりません。労働基準法の改正によって、2010年から「月60時間」を超える残業に対する割増賃金率が25%から50%へ引き上げられています。

ただし、割増率引き上げの対象は大企業のみに限定され、中小企業には猶予期間が設けられていました。支給すべき残業代が増えることで、経営に大きな影響を及ぼす可能性があるためです。

「働き方改革関連法」の施行によって、2023年4月から中小企業についても割増賃金率が50%へ引き上げられました。そのため、中小企業においても長時間労働のさらなる削減効果が期待できるでしょう。

出典:月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます|厚生労働省

勤務間インターバル制度の導入


勤務間インターバル制度とは、終業から次の始業の間に、一定時間以上の休息時間(インターバル時間)を設ける制度です。労働時間等設定改善法の改正により、制度導入が企業の努力義務になりました。

「深夜まで残業をして、翌日の早朝から出勤する」という働き方では、十分な休息が取れず、従業員に大きな負荷がかかります。勤務間インターバル制度を導入した場合、残業時間に応じて始業時間を後ろ倒しにしなければなりません。制度の導入によって、従業員のプライベート時間や睡眠時間を確保できます。

適切に休息を取ることで過労死リスクが軽減するだけでなく、生産性の向上にもつながるでしょう。

出典:勤務間インターバル制度をご活用ください|厚生労働省

働き方改革の取り組み事例

ここでは、働き方改革関連法の施策について、企業の取り組み事例を紹介します。

従業員の意識改革による残業時間削減

京葉銀行では、一斉退社日を設定する、早帰りを推奨するといった取り組みを行うことで、残業時間の削減に成功しました。

「退行時間申告ツール」を導入し、退行予定時間を見える化しています。さらに、業務量や繁忙度を従業員が共有することで、互いに協力しながら働くという意識を高めました。

その結果、2年間で残業時間(月平均)を17.5時間から16.7時間へ削減しています。

出典:働き方・休み方改善ポータルサイト|京葉銀行

休みやすい環境づくりで有給取得率向上

株式会社日立ソリューションズの事例では、「カエルキャンペーン もっと!」という独自の施策を実施した結果、年次有給休暇の取得率が75%程度まで向上しました。

有給取得を呼びかけるだけでなく、バディ制度を導入することで休んでいる従業員のフォロー体制を整えました。

キャンペーンを通じて、従業員の働き方に関する意識も変化しています。有給取得率向上に伴って、月80時間以上の残業発生率も大幅に下がり、メンタル疾患の発症率も改善ています。

出典:働き方・休み方改善ポータルサイト|株式会社日立ソリューションズ

勤務間インターバル制度の効果的な運用

都市ガスを主に扱う株式会社ガスパルの事例について解説します。これまでのガス設備の点検は深夜・早朝時間に対応するケースがあり、時間外労働が多く発生している状況でした。

そこで、従業員が休憩時間を十分確保できるように勤務間インターバル制度を導入しています。結果として、インターバル時間を取れない場合は午後の休暇取得を推奨する、パソコンを強制シャットダウンするなど、確実に休息時間を確保できるようなサポートを行う体制を整えました。

出典:働き方・休み方改善ポータルサイト|株式会社ガスパル

まとめ

2019年に施行された「働き方改革関連法」を受けて、日本の労働時間は減少傾向で推移しています。しかし、過重労働が是正されていない現状があるの点は事実です。

過重労働は従業員に健康被害をもたらすだけでなく、企業の社会的信用を落とすといえるでしょう。過重労働を防止するためには、企業が適切な対策を講じることが重要です。

従業員の勤務状況を把握し、勤務時間や業務量に偏りが生まれないように、適切な人員配置を行いましょう。タレントパレットであれば、勤怠管理をシステム化し、あらゆる情報を人材マネジメントに活かすことができます。従業員の勤務状況の把握に頭を悩ませている場合は、導入を検討してみましょう。

タレントパレットのHPはこちら