何気ない失敗をいつまでも引きずってしまった経験は、誰しもあるでしょう。この記事では、ネガティブな状態が続く「反芻思考(読み方:はんすうしこう)」について解説します。反芻思考になりやすい人の特徴や治療法・対処法についても紹介するので、社員のパフォーマンスを維持向上させるための参考にしてください。
反芻思考とは?
そもそも反芻思考とは、どのようなことを指すのでしょうか。以下で詳しく解説します。
反芻思考の意味
反芻とは、牛などの動物が一度食べた食物を口の中に戻して再び飲み込むことを表します。ネガティブなことを何度も繰り返して思い返す行動が似ているため「反芻思考」という言葉が生まれました。
反芻思考は一見、後悔や反省のように過去の失敗に取り組んでいるように思えます。しかし、問題の解決よりもネガティブな考えに没頭して不安を増大させるため、問題解決にはなっていません。
「ぐるぐる思考」「ひとり反省会」とも呼ばれる
心理学的には反芻思考といいますが、医学的には「抑うつ的反芻」という症状です。患者に分かりやすいように、以下のように呼ばれることもあります。
・ぐるぐる思考:失敗した場面や後悔した場面のことを何度も思い出す
・ひとり反省会:家に帰ってから寝るまでずっと反省し続ける
反芻思考の具体例
人によってさまざまですが、反芻思考に陥ると以下のようなことを考え続けてしまいます。
- なぜあのようなミスをしたのだろう
- どうしてあんなことを言ったのだろう
- あのようにしておけば良かった
- 相手を傷つけたかもしれない
- 上司に嫌われていないかな
- なぜ気分を切り替えられないのだろう
- 自分は目標を達成できないダメ人間だ
反芻思考の原因
反芻思考の原因のひとつに「デフォルトモードネットワーク」が影響しているといわれています。デフォルトモードネットワークとは、人間が進化する過程で獲得した脳の機能です。ぼんやりしていても、いろいろと考えてしまう脳の仕組みを指します。
デフォルトモードネットワークの主な役割は、脳が完全に休むと突然の危機に反応しづらくなるための「待機状態」や、入力した情報を取捨選択する「情報の整理」などです。その他にも、反芻思考の原因として性格的特徴、病気、トラウマ体験などがあります。
反芻思考の種類
反芻思考は種類があり、すべてが悪いわけではありません。以下のように、反芻思考にはポジティブなものとネガティブなものがあります。
Reflection(リフレクション)
リフレクションは、過去の経験から学び、成長するためのプロセスです。「なぜうまくいかなかったのか」と原因を客観的に分析することで、同じ失敗を繰り返さず、よりよい未来へつなげられます。
リフレクションを定期的に行うと、自己肯定感を高めやすく、精神的な健康にもポジティブな影響を与えやすいでしょう。なお、リフレクションはうつ病との関連性が低いといわれています。
Brooding(ブルーディング)
ブルーディングは、悲観的な思考や状況に陥った際に、自分を取り巻く環境のせいにしようとする思考です。「運が悪かった」「周りが理解してくれればよかった」などの不満を募らせるため、ネガティブな反芻思考といえます。ブルーディングは、うつ病や不安障害などの精神疾患に関係するといわれているため、注意が必要です。
ここからは、反芻思考のBrooding(ブルーディング)による影響、対策方法を解説していきます。
反芻思考がもたらす影響
人によって状態はさまざまですが、反芻思考は以下のように生活に大きな影響を及ぼします。
時間を使い過ぎてしまう
反芻思考は、答えの出ない問題を永遠に悩み続ける傾向にあります。落ち込んだ原因だけでなく、過去の経験も思い出しやすくなるので、きりがありません。思考のループに入ってしまうと抜け出しにくく、時間がいくらあっても足りないように感じてしまうこともあります。
ネガティブ思考になる
反芻思考は、自分の言動に対してネガティブになります。「あのようにすればよかった」「また失敗してしまった」など、ネガティブな面ばかりに注目し、より深く落ち込んでしまうこともあるでしょう。過去の失敗も際限なく思い出すため、ネガティブ思考に歯止めが掛かりません。
悪循環になる
反芻思考を続けていると落ち込みや不安感が増大していきます。自分の言動や他者の反応に敏感になり過ぎてしまい、悪循環に陥ると自分で抜け出せなくなることもあるので注意が必要です。悪化すると精神疾患を患う可能性もあります。
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反芻思考になりやすい人の特徴
反芻思考になりやすい人には、以下のような特徴があります。
優しくて思いやりがある人
優しい人や思いやりがある人は、相手を気遣うあまり反応を気にしすぎる傾向にあります。たとえば「自分の言動が相手のためになったか」「相手を傷つけなかったか」などです。相手の反応を気にしすぎる結果、反芻思考に陥りやすくなります。
繊細で周囲に敏感な人
相手の表情や変化など、周囲の人に対して敏感な人は、繊細な気質がゆえに不安を抱えやすいでしょう。物事をデリケートに捉えやすく、相手の些細な変化に対してもマイナス思考になってしまいます。
真面目・完璧主義な人
真面目な人や完璧主義な人は、少しのミスや誤りを認められず、すべてが整った状態でないと気が済みません。高い目標を設定して頑張ろうとしたり、自分の言動に責任を取ろうとしたりすることもあるでしょう。自分の言動が正しかったかどうかを振り返り、反芻思考に陥りやすくなります。
発達障害がある人
発達障害の「ADHD(注意欠陥多動性障害)」「ASD(自閉症スプレクトラム症・アスペルガー症候群)」がある人は、反芻思考に悩まされることが多いといわれています。ADHDは、不注意・多動性・衝動性が見られるため、集中して取り組むことができないこともあるでしょう。できないことや物忘れしたときに失敗を責められたりすると、反芻思考に陥りやすくなります。
ASDはこだわりが強く完璧主義な傾向にあるため、過去の失敗をなかなか忘れられません。失敗を思い出すことで、反芻思考から抜け出せなくなってしまうことがあります。
反芻思考が見られる病気
反芻思考は、うつ病や社交不安障害など、心の病気と密接な関連性があると考えられています。以下で詳しく見ていきましょう。
うつ病
うつ病とは、日常生活に強い影響が出るほどの落ち込みや、何事にも意欲や喜びを持てなくなる状態が長く続き、日常生活に支障をきたす病気です。日本国内において、生涯でうつ病になるのは約15人に1人といわれています。病気であることに気づかない人もいるでしょう。
うつ病の発症メカニズムは解明されていません。精神症状だけでなく、食欲不振、不眠、頭痛などの身体症状もあり、人によって症状はさまざまです。うつ病になるとネガティブに捉えることが多くなり、反芻思考で悪循環に陥りやすくなります。
社交不安障害(社会不安障害)
社交不安障害とは、社会不安障害とも呼ばれ、社会や人前で嫌な思いをすることや辱められたりすることに不安を抱いて、日常生活に障害を及ぼす病気です。明確な対象を持たない恐怖で、動悸、震え、発汗などの身体症状が現れる場合もあります。
社交不安障害の人は、苦手な場面に遭遇した後に反芻思考に陥りやすいことが特徴です。次もまた同じことが起こるのではないかという不安が増し、悪循環が生まれます。
反芻思考の治療法
精神科・心療内科などで行われる反芻思考の一般的な治療法は以下の通りです。
認知行動療法
認知行動療法とは、日常生活の困りごとを整理して問題解決を目指す心理療法です。思考の癖を見つけ出して、考え方を変えて改善を目指します。個人差はあるものの治療効果は高いといわれている治療法です。認知行動療法には、さまざまな種類があるため、自分に合った方法を医師などの専門家に選んでもらう必要があります。
マインドフルネス
マインドフルネスとは心の筋トレとも呼ばれ、手法として瞑想が用いられます。今起きている出来事や感覚に意識を向け、デフォルトモードネットワークを止める効果が期待できる方法です。いつでもどこでもできるという特徴があるものの、習得までに一定の時間が必要になるため、はじめは専門家に教えてもらう必要があります。
TMS治療(反復経頭蓋磁気刺激療法)
TMS治療(反復経頭蓋磁気刺激療法)とは、脳の機能異常に対して磁気刺激で正常化を図る治療法です。精神疾患に対する新しい治療法として、注目されるようになりました。治療期間が短いうえにほとんど副作用がなく、再発率も低い治療法です。精神疾患全般に治療効果があり、特にうつ病に対する治療法として効果を得ています。
反芻思考の対策方法
反芻思考は、以下のような方法で対策することも可能です。反芻思考に陥っていると思ったときに試してみるのもよいでしょう。
反芻思考をしやすいタイミングを見つける
人は、ある特定の状況や時間帯に、過去の出来事を何度も考えてしまう傾向にあります。まずは、自分がネガティブな思考に陥りやすいシチュエーションや、時間帯を具体的に把握してみましょう。日記などに記録することで、自分のパターンが見えやすくなります。
メモを取る
反芻思考は、同じことを何度も繰り返して反省する傾向にあるため、思うようにいかなかった事柄をメモして、一旦整理することが大切です。書き出すことで頭の中が整理できます。どのような行動を取ればよかったのか、対応策を書いておくのもよいでしょう。メモを取っておくと、同じようなパターンで反芻思考に陥ったときに役立ちます。
別の行動をする
反芻思考に陥ると、考えないようにするのは困難です。考えないようにするのではなく、他のことを考えたり、全く別の行動をとったりして注意をそらしましょう。歌を歌う、テレビや映画を見る、友達に電話をする、ゲームをするなど別の行動に集中して意識をそらすことがポイントです。
身体を動かす
適度な運動は、脳内のセロトニンやドーパミンといった神経伝達物質の分泌を促進し、心の安定につながります。そのため、反芻思考に陥りがちな方は、ジョギングやウォーキングなどの有酸素運動を取り入れるとよいでしょう。たとえば、ジョギング、ウォーキング、筋トレ、球技などを40~60分程度行うのが効果的です。
場所を変える
ぐるぐると考えを張りめぐらせている場所から、別の場所に移動するのもおすすめです。普段から、自分のお気に入りの場所を探しておくこともよいでしょう。必ずしも外出が必要なわけではありません。外出が難しい場合は、別の部屋に移動するという方法もおすすめです。
自然を感じられる場所でリラックスする
スタンフォード大学によると、都会と自然の環境で90分間散歩した場合は都市部に比べ、自然環境での散歩の方が反芻思考の回数が減少したとの発表があります。反芻思考が起こりやすい状況や時間に合わせ、緑豊かな公園をゆっくり散歩するのもよいでしょう。
解決方法を意識する
問題をいつまでも悩むのではなく、具体的かつ実現可能な解決策を意識してみましょう。自分に何ができただろう、どのような行動を取っていればよかったのだろうと考えてみます。
ただし、いつまでも考えるのは禁物です。反芻思考に気づいたら、悩む時間を事前に決めて、解決策をいくつか出します。「反省を次に生かすことにして、もう終わり」と自分に言い聞かせましょう。
ストップの呪文を唱える
あらかじめ、自分で反芻思考を止める「呪文」を決めておき、反芻思考に陥っていると気づいたときに「ストップ」「大丈夫」「待て」などの呪文を唱えます。周りに人がいるときは、頭のなかで唱えるだけでもよいでしょう。はじめは効果がないように感じたとしても、繰り返しているうちに効果を発揮します。
反芻思考の注意点
反芻思考自体は、精神疾患ではありません。ただし、反芻思考が続く状態を放置し続けると精神疾患になるケースもあり、注意が必要です。すでに精神疾患を患っている場合は、自分で解決できない場合もあります。反芻思考の対処法をいろいろ試してみたものの改善されない場合は、心療内科・精神科などの受診がおすすめです。
反芻思考で精神科・心療内科を受診する目安
反芻思考が続く場合は、精神科・心療内科を受診しましょう。基本的には以下のように、日常生活に支障が出たときが受診の目安です。ただし、症状がなくても現時点で「つらい」「きつい」と感じている場合は受診した方がよいでしょう。企業の場合は、以下のような状態が続く社員に受診を促すことをおすすめします。
- 眠れていない
- 眠っても目が覚めてしまう
- 食欲がわかない
- 何をするのにも面倒だと感じる
- 気持ちが落ち込んだまま改善しない
- 集中力がない
まとめ
反芻思考とは、過去の失敗やネガティブな出来事を何度も繰り返し考えてしまい、そこから抜け出せない状態のことです。社員の反芻思考は個人の問題だけでなく、企業全体の生産性や成長に影響を与える可能性があります。組織を活性化させるためにも、社員のメンタルヘルスに配慮した働きやすい環境づくりに取り組みましょう。
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