人事の未来を、ともに考える~|HR Future Insight|Vol.03

HR Future Insight第3号をお届けします。
第3号では、日本型雇用の根幹をなしてきた終身雇用・年功序列が静かに終わりを告げつつある今、その先に広がる新しい経営の形、「タレントエコシステム経営」を考察します。
人口減少とAIの進化が重なるこの転換期において、企業に求められるのは、人を「囲い込む」発想から、人が「流れ、成長できる場を作る」発想への根本的なシフトです。「人材流動化」とは何か、なぜ今それが競争力の源泉となるのか。先進企業の実践例と2050年の展望を交えながら探っていきます。
▼ 今月のテーマ
タレントエコシステム経営の時代
――人材流動化を前提とした価値創造へ
日本企業を長年支えてきた終身雇用・年功序列・メンバーシップ型雇用は、少子高齢化とAIの急速な進化によって、静かにその前提を失いつつあります。一方で、この変化を単なる危機としてではなく、「新たな成長機会」と捉える企業も現れ始めています。そのキーワードが「人材流動化」です。
■AIが加速する業務変革と人材移転
日本の生産年齢人口は1995年をピークに減少を続けており、2050年には5,500万人規模にまで縮小すると予測されています。建設・介護・物流・ITなどでは既に深刻な人手不足が常態化し、人材不足を原因とする倒産も増加傾向にあります。
もはや「人が足りない」という状況は一時的な問題ではなく、日本社会の構造的課題となっています。
一方、この危機的状況において期待されるのはAIによる業務変革です。既に定型業務や単純な知的作業は急速に自動化され始めており、工場や倉庫においては、これまでロボットには困難とされてきた作業も、AIとロボットの連携によって実現可能になりつつあります。
高齢化の急速な進展により、持続可能性が危惧される一次産業においても、AIとロボットによる業務変革が不可欠でしょう。
つまり企業には、AIに代替可能な事務作業に従事していた本社・バックオフィスのホワイトカラーを現場のオペレーションや新規事業へ移転させること、さらには日本全体の産業構造の中で人材が不足している領域への積極的な人材移転が求められているのです。
また社員一人ひとりのキャリアビジョンや自己実現が多様化していく中で、AIによる一律的な評価から脱却し、個人の可能性と組織適合性をきめ細かく最適化していくことが求められています。
同時に、人間が担うべき仕事の本質的役割の見直しも、ワークスタイルの多様化と並行して加速していくでしょう。その結果、キャリア転換や複数のキャリアを同時に追求する人々の増加も見込まれます。
実際、雇用のあり方も大きく変わり始めており、副業・兼業を認める企業は6割を超え、ジョブ型雇用やギグワーク市場も拡大しています。フリーランス人口は1,300万人を超え、「会社に所属すること」よりも「どのプロジェクトで価値を発揮するか」が重視される時代へ向かっています。
■人的資本の流動化と可視化
―― 新たな経営モデルへ
このような状況において企業は、「固定的に抱えた社員を使って価値創出する経営」から、「あるべき未来社会に向けたパーパス実現のための必要な才能を柔軟につなぐ経営」へと変化していくことが求められるでしょう。まさに固定的な人的資本ではなく、流動性の高い人的資本経営を前提とした経営といえます。
そこで重要なのは、「人的資本データ」の可視化と、人材ポートフォリオをいかに組み替えていくかという視点です。政府はjob tagやマイジョブ・カードなどを通じて、個人のスキルやキャリア情報をデジタル管理する基盤の整備を進めています。加えて、人的資本開示の義務化により、企業は従業員の能力開発やエンゲージメントを投資家に説明することが求められるようになっています。人材はもはや「コスト」ではなく、「価値創造の資本」として扱われる時代が到来したのです。
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■先進企業の実践と2050年の展望
先進企業では、既に人材流動化を前提とした取り組みが始まっています。ソニーは上司の承認なしで応募できる社内公募制度を50年以上前から運用しており、NECでは「社内転職」が日常化しています。パナソニックやMUFGではグループ横断の公募制度が整備され、LINEヤフーでは組織統合後の融合を促進すべく積極的な人材交流が推進されています。もはや「人を囲い込む」ことが競争力の源泉ではなく、「人が流れ、成長できる場を作る」ことが競争力として求められつつあります。
2050年には、個人のスキル・信用データがポータブル化し、AIが最適な仕事やプロジェクトをリアルタイムにマッチングする社会が到来するかもしれません。そこでは、「退職」という概念すら曖昧になるでしょう。人は会社を辞めたり大学を卒業するのではなく、複数のコミュニティや仕事を横断しながら、生涯にわたって学び続け、価値を発揮し続ける存在へと変容していくでしょう。
これからの企業経営に求められるのは、ありたい未来に向けたパーパスとビジョンを明確に描き、その実現に向け社内外の才能を有機的に結びつけ、流動化を前提に価値創造を行う「タレントエコシステム経営」です。人材流動化とは、部署や企業が人を失うことではありません。むしろ、組織と個人の可能性を最大化し、日本社会全体を再活性化するための新たな成長戦略に他なりません。