人事の未来を、ともに考える~|HR Future Insight|Vol.02


人事の未来を、ともに考える~|HR Future Insight|Vol.02

HR Future Insight第2号をお届けします。
2026年、日本の雇用と採用をめぐる風景は、静かに、しかし確実に変わり始めています。
少子化が人材市場の需給構造を揺るがし、生成AIが若手の仕事と育成のあり方を書き換えつつある今、従来の「新卒一括採用モデル」は再定義を迫られています。
第2号では、この構造変化の先に何が起こるのかを見据えながら、企業・大学・個人の関係性がどう変わるのかを考察します。

▼ 今月のテーマ

【藤元健太郎の視点】「新卒一括採用」は静かに終わる

今年も春が訪れました。新年度を迎えるたび、駅のホームや都心のオフィス街には、判で押したようなリクルートスーツ姿の大卒新入社員たちが溢れ返ります。
日本社会の春の風物詩ともいえるこの景色も、思いのほか早く過去のものになるかもしれません。
文部科学省によると、少子化の進行により、2040年には大学生の人数が現在の7割程度にまで縮小すると予測されています。
しかし、問題は人数の減少にとどまりません。「採用」という行為そのものの意味が、根底から問い直される時代が迫っているのです。

【大学進学者数の将来推計】

(画像)文部科学省資料を元にHR未来共創研究所作成

■人材が企業を選ぶ時代へ

これまでの日本の雇用市場は、企業が学生を選別するという構造を自明の前提として設計されてきました。しかし少子化が進むにつれ、その力学は完全に逆転しつつあります。
私が毎年ゲスト講師を務める地方大学の教員は、「最近の学生は就職に困らないから、就活の時期でもちゃんと授業に出席するようになりましたよ」と語ります。
エントリーシートを100社以上に送り続けるような就職活動の光景は、すでに遠い過去の記憶になりつつあります。高望みさえしなければ、どこかには就職できる時代が到来しつつある現在、学生が企業を見極める目も確実に変わり始めています。
企業側からすれば、これからは「選ぶ側」ではなく、「選ばれる側」として自らを変革しなければならない時代に入ったということでしょう。「将来の可能性」という曖昧な言葉で期待を煽るだけの採用メッセージは、もはや通用しません。
企業は明確なミッション、具体的なジョブディスクリプション、そして競争力のある報酬条件――これらを正面から提示しない限り、優秀な人材は振り向かないでしょう。
採用戦略の軸も、新卒中心から即戦力となる中途人材の獲得へと移行せざるを得なくなります。日本独自の慣行として長く機能してきた「新卒一括採用」は、すでに制度疲労を起こし始めているのです。

■AIが奪う「若手の仕事」

少子化と並行して、もう一つの構造変化が雇用市場を揺さぶっています。AIの急速な普及です。
とりわけホワイトカラー領域において、これまで新卒や若手社員が担ってきた業務――データの集計・整理、議事録の作成、定型的な報告書の作成、情報収集と初期分析――はAIが着実に代替しつつあります。新人が「雑用を通じて仕事を覚える」という、日本企業に根づいた暗黙の学習経路が失われていくとすれば、新卒をホワイトカラー職として採用することの意義そのものが問われるようになります。
そうなった場合に新卒に期待される役割の中心は、低コストのAIロボットが普及するまでの過渡期において、店舗や工場などにおける現場オペレーションかもしれません。
人の手と判断力が不可欠な現場業務は、相対的にAIによる代替が難しいからです。これに対して、企画・戦略立案・高度なクライアントワークといった上位のホワイトカラー業務は、コンサルティングファームなどで実務経験を積んだ中途採用者が担う比率が高まっていくでしょう。
そして、この構造変化の先に、社会全体が向き合わなければならない問いが浮かび上がります。
「若手人材の育成コストを誰が負担するのか」――即戦力志向の企業が増えれば、社会全体の人的資本を育てる機能は空洞化します。減少する新卒とAIの進化が若手の育成機会を奪い、長期的には社会全体の損失へとつながりかねません。

■大学の役割変容と「学び直し」の時代

少子化とAIの普及は、教育システムそのものにも根本的な変容を迫っています。大学がこれまで通り、18歳の学部生を4年間かけて育てるというモデルだけでは経営を維持することが難しくなるでしょう。
むしろ、社会人全体を対象にした継続的な学習支援——リスキリング、アップスキリング、専門知識の更新——を中核に据えた機関へと脱皮していくことが求められます。
近年、高専が改めて注目を集めていることも、その予兆の一つかもしれません。高校卒業後に一旦社会に出て働き、自分が本当に学びたいこと、身につけるべきスキルを見極めてから大学に入り直す――こうした回り道を意図的に選ぶ若者も、これからは増えてくるのではないでしょうか。
かつて「金の卵」と呼ばれた高卒就職者が社会の重要な担い手だった時代を振り返れば、学歴ルートの多様化は、回帰であると同時に進化でもあります。なお、大卒新卒者数が高卒新卒者数を上回ったのは、わずか30年前の1997年頃のことであることを思い出してください。

■「点」の採用から「線」の関係性へ

人材ポートフォリオ戦略も、根本から問い直されます。「新卒一括採用」という「点」の採用によって組織文化を醸成し、終身雇用と出世モデルをモチベーションとする従来の雇用構造から、企業と個人が長期にわたって関係を築き続ける「線」の雇用モデルの構築へと、基本設計そのものがシフトしていくでしょう。
正社員という雇用形態に縛られない働き方が広がるにつれ、プロジェクト単位での参画、副業・兼業、フリーランス契約など、個人と企業との関わり方は一層多様化していきます。
かつては単なる退職者ネットワークに過ぎなかった「アルムナイ」は、一度でも企業と接点を持った全ての人々との継続的なコミュニティネットワークへと進化し、採用・協業・情報交換の場として機能するようになるでしょう。
リクルートスーツの群れが駅のホームから消えていく日は、単なる風景の変化ではありません。それは、日本社会の雇用・教育・働き方という根幹が問い直されていくプロセスの、静かな始まりを告げる光景なのかもしれません。