降格人事は違法になる可能性あり!不当な懲戒処分・人事権行使9選と実施手順5ステップ


降格人事は違法になる可能性あり!不当な懲戒処分・人事権行使9選と実施手順5ステップ

降格人事のトラブルは会社に損害を与える可能性があるため「訴えられたくない」という企業は多いのではないでしょうか。そこで本記事では、法に触れないためのルールや実施方法を解説するので、訴訟を回避したい方はぜひ参考にしてみてください。

こんにちは。人事・経営に役立つメディア「タレントマネジメントラボ」を運営する「タレントパレット」事業部編集チームです。

「降格人事を行いたいが、訴えられたらどうしよう」「違法にならない方法はあるのかな」とお悩みではないでしょうか。


降格人事の実行には決まりがあり、条件を満たしていない場合は処分が無効になります。また、降格人事は社員の自尊心を傷つけ、大きなストレスを与えて追い込む場合があるため、慎重な判断が必要です。会社の処分に納得できない社員は、訴訟を起こすケースもあります。


そこで本記事では、降格人事が違法になるポイントを解説します。降格人事の種類から違法にならないための実施手順まで詳しく解説するので、トラブルを避けたい方はぜひ参考にしてみてください。


降格人事は「懲戒処分」と「人事権行使」の2種類


降格人事とは、社員の職位や役職の地位を低くすることです。以下の2つの分類があります。


  • 懲戒処分
  • 人事権行使


社員を降格させる際に、どちらに該当するかによって対応が異なるため、詳しく見ていきましょう。


懲戒処分による降格


懲戒処分による降格は「社員が規則違反をしたとき」や「会社に大きな不利益を与えたとき」の罰則として実行されます具体的に懲戒処分に当てはまる内容は以下のとおりです。


  • 社内規則の違反をした
  • ハラスメント行為をした
  • 法に触れる行為をした
  • 遅刻や無断欠勤を重ねた
  • 会社にとって大きな損害を出した


懲戒処分の降格は、企業が懲戒権を行使します。懲戒権とは、規則違反に対して罰を与える権利です。懲戒処分による降格は、基本的なルールが厳しく定められているため、決まりに当てはまらない場合は無効化されます。


人事権行使による降格


人事権行使による降格は、適切な人材配置のために能力やスキルを考慮して役職を下げることです。また、人事上の配置変更によって役職を下げることもあります。人事権とは、企業が社員の配置や採用などを決定する権利です。


人事権行使による降格は以下の2種類があります。


  • 解任:対象社員の役職を解いて下位の地位に下げる
  • 降級:社員の給与等級や職能資格を下げる


解任は、社内の地位を下げる処分のため、必ずしも減給が行われるわけではありません。一方で、降級は減給につながりやすいです。社員の職務遂行能力によって等級を下げるため、給与に影響します。人事権行使による降格は会社に委ねられているため、懲戒処分の降格のように厳しい決まりはありません。


降格人事の能力不足について詳しく知りたい方は、別記事「降格人事能力不足」をあわせてご確認ください。


懲戒処分による降格が違法になる5つのケース


懲戒処分による降格は、労働契約法15条によって「懲戒権の濫用」と判断された場合に無効になります。具体的に無効と判断されるケースは、以下の5つです。


  • 規則違反の証拠がない
  • 就業規則に記載されている条件に当てはまらない
  • 処分が重すぎる
  • 一つの違反について二回以上処分する
  • 弁明の機会を与えていない


懲戒処分による降格が違法になる条件を確認して、適切に対応できるようになっておきましょう。


規則違反の証拠がない


規則違反の証拠がない場合は、懲戒処分が無効になる可能性があります。裁判所は違反の証拠がないと、懲戒処分による降格を認めません。規則違反に対する懲戒処分に納得できなかった社員が訴訟を起こした場合、企業は裁判所に根拠を求められます。社員の規則違反があったときは、記録や証拠を残しておくことが重要です。


就業規則に記載されている条件に当てはまらない


前提として、懲戒処分による降格内容は、就業規則に明記されている必要があります。社員の行動が就業規則のどの部分に当てはまっているかを明確にする必要があるためです。懲戒処分を行う前には、就業規則の「懲戒」の項目を確認しましょう。「処分内容が降格の条件に該当しているか」がポイントです。就業規則に記載の条件に当てはまらなければ、懲戒処分による降格は認められません。


処分が重すぎる


懲戒処分による降格は、違反の内容に対して重すぎない必要があります。違反行為の程度に対して懲戒処分による降格が重すぎる場合は、裁判所に無効と判断される可能性があります。処分が重いかどうかの判断基準は、以下の表を参考にしてみてください。

段階

種類

該当例

1

戒告・譴責※

・1日無断欠席した

・業務のミスによって、はじめて懲戒処分する

2

減給

・戒告や譴責で厳重注意をしても改善されない

3

出勤停止

・暴力行為を行った

・重要な業務命令を拒否した

4

降格

・部下に対するセクハラやパワハラをした

・管理職が重要度の高い社内ルールに違反した

5

解雇

・14日以上の無断欠席をした

・横領や着服が判明した

・強制わいせつにあたる重度のセクハラをした

※譴責とは、社員が規則違反を行ったときに始末書を提出させ、改善を求めて将来を戒めること。

※戒告とは、譴責とほぼ同じだが、始末書の提出を求めない。


過度に重い処分にならないよう、段階を意識する必要があります。


一つの違反について二回以上処分する


一つの違反行為に対して、懲戒処分を二回以上行うと違法になります。二重処罰禁止の原則があるためです。例えば、社員が正当な理由なく1日無断欠席を3回したとします。3回目の無断欠席の違反に懲戒処分として「減給」を行った場合、同時に「戒告」はできません。一つの違反には、一つの懲戒処分が適用されるというルールがあるので、注意しておきましょう。


弁明の機会を与えていない


懲戒処分を決める前に、違反した社員が弁明する機会を与える必要があります。訴訟になった場合、社員が「弁明する機会も与えられずに降格処分された」と訴えれば、降格処分が不当とされる可能性があります。また、違反した社員の言い分によっては、処分の内容が変わる可能性もあるでしょう。早急に処分が必要な場合でも、社員に弁明する機会を与えることは必須です。


社員の弁明の内容を記録に残して、誤認識を未然に防ぎたいという企業は、ぜひタレントパレットの1on1ミーティングをご利用ください。記録の管理が簡単で、必要なときに情報を確認できます。万が一のときに企業側が不利になるのは避けたいという方は、ぜひお問い合わせください。

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違法になる人事権行使による降格4選


人事権行使による降格は、基本として会社に裁量権があります。しかし、労働契約法3条4項によって制限されているため、以下の4つに当てはまる降格は違法になる可能性があります。


  • 退職に追い込むための降格
  • 有給休暇の消化などを理由とする降格
  • 2階級以上の大幅な降格
  • 妊娠や出産と育児休業をきっかけとした降格


人事権行使による降格で違法になるケースを押さえて、社員に訴えられるような状況を未然に防ぎましょう。


退職に追い込むための降格


社員を退職させるために実行する降格人事は違法です。退職させることが目的の「嫌がらせの降格」と認識される状況はさまざまですが、具体的には以下の例が挙げられます。


  • 降格後に社員のスキルやキャリアに不適合な作業をさせる
  • 降格する前や直後に退職を勧める発言をする
  • 必要のない転勤命令をする


転勤命令は、人材の最適な配置のために行われるもので、目的が明確でない場合は違法となる可能性があります。対策は、社員の意見に耳を傾けたり、降格の理由を明確に伝えて納得してもらったりすることです。社員とコミュニケーションをしっかり取り、退職を強要されたと感じさせないように対応する必要があります。


降格人事退職について詳しく知りたい方は、別記事「降格人事退職」をあわせてご確認ください。


有給休暇の消化などを理由とする降格


社員の権利として利用できる「有給休暇の消化」を理由にした降格も違法です。いくら社員が有給消化しても、降格の理由にはなりません。過去には、早い段階ですべての有給を消化した社員が、上司に正社員から準社員への降格を言いわたされた事例があります。権利である有給消化を理由にした降格は、裁判所に違法と判断され、認められませんでした。


対策は、社員がいつ有給休暇をとっても問題のない環境を構築することです。人員不足や繁忙期でも、有給休暇の取得を理由に処分することはできません。現場の状況を観察したり、アンケートをとったりして働いてもらう環境を整えましょう。


2階級以上の大幅な降格


2階級以上の大幅な降格については、違法になる事例が増加しています。社員に大きな落ち度がない場合の降格は、特に違法になりやすいです。平成9年11月18日の東京地裁判決では、二段階降格(婦長から平看護婦)の処分が違法となりました。業務でのミスを理由に不当な処分を受けたとして、病院が訴えられた事例です。


降格は、段階的に行うことが基本です。社員のメンタルや収入に大きな影響を与えるため、慎重に判断する必要があります。対策は、2段階以上の降格を基本的には行わないと決めておくことです。大きな落ち度が社員にある場合で、2段階以上の降格がやむを得ないケースは、弁護士に相談すると良いでしょう。


妊娠・出産・育児休業をきっかけとした降格


以下の取得を理由とする降格も、違法と判断されます。


  • 妊娠
  • 出産
  • 育児休業


厚生労働省では、妊娠や出産から1年以内に降格などがあった場合は、例外を除いて違法になると案内しています。また、育児休業の取得を理由にした降格も認められません。本人の同意があっても、妊娠や出産などが理由の降格は違法になるため注意しましょう。


過去には、広島中央保健生活協同組合事件と呼ばれる、病院勤務の女性が訴訟を起こした事例があります。女性は、妊娠発覚後に身体の負担を軽減するために、配置転換を希望しました。希望は叶ったものの、配置転換時の降格は不当として病院を訴えたところ、違法と判決されました。


対処法は、会社が妊娠や出産、育児休業を取得した社員に対して理解を示し、業務のフォローをすることです。例えば、育児休業中の社員の仕事をメンバーでやりくりできるか検討したり、人材を登用したりすることが大切です。


違法にならない降格人事の実施手順5ステップ


降格人事が違法にならないように実施するには、以下の5ステップを確認しておきましょう。


  • 事実確認をした上で証拠を集める
  • 対象となる社員へ指導や注意をする
  • 弁明する機会を与える
  • 処分を決定する
  • 社員に書面で通知する


降格人事を行う際のトラブル発生を未然に防ぐために、ここでしっかり確認しておきましょう。


事実確認をした上で証拠を集める


証拠をそろえて事実を確認した上で、処分を検討します。証拠が用意できない場合は、降格処分が不当なものになります。特に厳しく正当性が問われるのは、懲戒処分による降格を行うときです。また、人事権行使による降格を行うときも、規則違反をした社員の周囲の人間から話を聞いて、証拠を集めておく必要があります。


対象となる社員へ指導や注意をする


降格人事は、段階的に行うことが重要なため、罰する前には該当社員に指導や注意を行いましょう。指導や注意がないままに処分すると、改善する意欲があった社員が会社の人事評価に不満を抱く可能性が出てきます。対象となる社員の「改善する努力」も評価項目の一つとして判断材料にできるため、指導や注意は降格前に行う必要があります。


弁明する機会を与える


対象社員には、弁明の機会を与えてください。懲戒処分の降格では、弁明の機会を与えていない場合、正当な手続きがなされていないと判断される可能性があります。一方で、人事権行使による降格の場合は、弁明の機会を与えたかどうかは重視されません。


しかし、能力不足が理由の降格であれば、現場の状況を確認するために、社員の言い分を聞いてみても良いでしょう。能力が発揮できない理由が、本人以外にある場合があります。「なぜ問題が起こったか」を明確にして、同じようなトラブル再発を未然に防ぐためにも、当事者の話を聞くことは重要です。弁明の機会を与えて、社員も会社も納得できる降格を行いましょう。


処分を決定する


該当社員の降格人事を決定する際は「懲戒処分」と「人事権行使」どちらの降格に当てはまるのか確認しましょう。どちらに当てはまるかによって、必要となる対応が異なります。また、減給するかどうかなどの待遇を判断します。就業規則に実行する予定の罰則が明記されているかも確認しておくことが必要です。


社員に書面で通知する


該当社員に反省や改善の取り組みが見られたかなどを総合的に判断し、降格人事が決定したら、社員に書面で通知します。書面は「懲戒処分」と「人事権行使」のどちらの降格かによって文面が違ってきます。懲戒処分で降格させる場合は「懲戒処分通知書」です。人事権行使で降格させる場合は「辞令」と記載します。辞令では「懲戒」という言葉を使わないように気をつけましょう。


降格人事違法のまとめ


降格人事には「懲戒処分」と「人事権行使」の2種類があります。懲戒処分による降格が違法にならないためには、厳格なルールを守る必要があります。一方で、人事権行使による降格は、企業に人事権が与えられており、懲戒処分よりも自由度が高いです。


しかし、どちらも社員が処分に納得できない場合に、訴訟されるリスクがあります。訴えられないためには、一方的な権利の行使ではなく、処分に対して社員が納得できる説明をすることが重要です


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