異動とは?目的や種類、従業員の育成につながる人事の進め方を解説


異動とは?目的や種類、従業員の育成につながる人事の進め方を解説

「異動」とは、多くの意味で「人事異動」の意味で使われています。人事異動にはさまざまなメリットがありますが、そのメリットを活かすためには確かな根拠と適切な方法で行わなければなりません。この記事では、人事異動を行う目的や注意点、進め方のポイントをご紹介します。

こんにちは。人事・経営に役立つメディア「タレントマネジメントラボ」を運営する「タレントパレット」事業部編集チームです。

人事異動にはさまざまなメリットがありますが、そのメリットを活かすためには確かな根拠と適切な方法で行わなければなりません。この記事では、人事異動を行う目的や注意点、進め方のポイントをご紹介します。

異動とは?

異動の意味は辞書では下記のように記述されています。
 1.職場での地位、勤務などが変わること。また、転・退任などの人事の動き。「総務課へ—する」
 2.物事に、前の状態と違った動きが起こること。
  a.「昨日と何も—がないというのかね」〈啄木・病院の窓〉
 3.保険契約で、保険期間の中途で契約内容について変更が生じたとき、保険会社に通知して契約条件を変更すること。また、現行のものと違う内容の保険契約に移ること。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

主な意味としては「人事異動」での意味として使われているため、次の文章では「人事異動」の種類や目的について深掘りしていきます。

人事異動の概要と目的を知りたい方はこちら

人事異動の種類

人事異動には、さまざまな種類があります。まずは、人事異動の分類とその目的について解説します。

配置転換

配置転換とは、主に従業員の転勤や昇進、転籍や出向といった人事異動を指します。転勤は、勤務地が変更になる人事異動です。昇進は、課長から部長になるように社内での職位が上がることで、転勤や昇進は社内での立場・役割の変化にあたります。

転籍は雇用契約先が変更になるため、給与や労働条件も転籍先の会社制度が適用され、元の会社に戻ってくるケースはほとんどありません。出向は、現在の会社に在籍したまま関連企業や子会社などの別法人で勤務することで、一定期間を経て元の会社に戻るのが一般的です。

社内公募制度

社内公募制度は、条件を通知した上で企業が必要とするポストや職種を募り、人事異動を決定する制度です。例えば新プロジェクトを立ち上げる時や、増員を必要とする部署の募集を行う時などに社内公募制度が実施されます。

社内公募制度では基本的に上司の許可や承認は不要で、従業員本人が直接人事部へ異動希望を申し出る形が一般的です。

社内FA(フリーエージェント)制度

社内フリーエージェント制度とは、従業員本人が希望する部署に経歴・能力・実績・資格などをアピールし、自由に異動や転籍ができる制度です。

社内フリーエージェント制度はキャリアパスを実現し、人材の流動および活性化が促されます。また、将来のキャリアアップを見据えて異動を希望するため、離職率の低下や定着率のアップが期待できる点も大きなメリットです。

社内公募制度や社内フリーエージェント制度は従業員の希望を反映した人事異動で、「インターナルモビリティ」とも呼ばれます。

人事異動の目的

ここでは、人事異動が必要な理由と、異動によって期待できる効果について解説します。

企業戦略の実現

人事異動は、組織の拡大・縮小・統廃合などによって人員の補充や強化を実現します。人員の不足は、自己都合による退職や定年退職、産休や育休など、さまざまな理由で起こり得ます。

このような場合、新たに人材を採用するとなると採用コストがかかりますが、人事異動であればコストを抑えることが可能です。

人材育成

人事異動には、人材育成を促進させるという一面もあります。複数の部署で経験を積むことで従業員の視野が広がり、多角的な見方が養われるでしょう。異動によって優れた人材が育てば他部署も刺激され、組織全体の活性化にもつながります。

不正行為の防止

人事異動は、不正行為防止の役割も担っています。同じ部署に長く在籍すると仕事が属人的(仕事が人に依存すること)になり、第三者との関係が深まるため、不正行為が発生しやすくなります。例えば資金や商品の横流し、粉飾決算、水増し発注によるキックバックなどは、代表的な不正行為と言えるでしょう。

定期的な人事異動は、特定の仕事について個人の便宜や権限が効かないようにし、公正性を保つ効果があります。

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内示や辞令の意味



異動とよく似た言葉に、「内示」や「辞令」があります。ここでは、それぞれの意味を確認しておきましょう。

内示とは

内示には、「内々に示す」「非公式に通知する」といった意味があります。人事異動で使われる「内示」は、社内で公表・発表する前に、当事者である従業員に人事異動の内容を通知することです。直属の上司や人事担当者から本人にのみ伝えられるもので、正式発表前のステップとして、内示を行う企業は少なくありません。

辞令や発令

「辞令」とは公に開示される公式情報のことで、「発令」は辞令を発する行為そのものを指します。人事異動に関する公式文書やその内容は辞令と呼ばれるため、発令とは意味が異なります。「人事異動に関する辞令」や「人事異動の発令」といった使い方が一般的です。

異動辞令に関する詳細は、以下の記事で詳しく取り上げています。
「異動辞令」については、こちらの記事をご確認ください。

内示・辞令・発令の関係性

一般的に人事異動は、

1.異動の検討
2.異動の決定
3.異動の内示
4.辞令の発令
5.異動

の順番で行われますが、内示が行われないケースもあります。情報が入り乱れたり、事実ではない話が広まったりするのを防ぐためには、内示の内容や伝え方に留意しなければなりません。

人事異動のメリット

人事異動には、多くのメリットがあります。ここでは、人事異動がもたらすメリットとその活かし方について解説します。

各従業員のキャリアアップ

人事異動は、従業員にとってさまざまな部署でスキルを発揮できるチャンスです。異動前の部署で培ったスキルやノウハウを、異動後の部署でも発揮することによって、さらにスキルの活かし方や応用力が広がることが期待できます。それによって従業員個人の評価が高まり、キャリアアップへとつながりやすくなります。

異動対象者をどのように評価しており、どのようなスキルに注目しているのか、異動後はどのような働きに期待しているのか、といったことを伝えておきましょう。従業員は会社側の意図を汲み取り、理想に近い働きをしてくれる可能性が高まります。

組織の活性化

人事異動は各従業員のスキルアップはもちろん、新しい人材を受け入れた部署にとっても良い刺激になります。新たなスキルやアイデアによって、今まで解決できなかった問題に活路を見出したり、業務の効率化を計ったりと、良い化学反応が起こるでしょう。

また、新たに必要とされる人材が判明したり、他の部署が課題をクリアするヒントになったりすることで、組織の活性化も期待できます。

育成制度の改善

従業員を育成することは大切ですが、期待どおりに育ってくれるとは限りません。人事異動は新しいスキルの活用法やアイデアを生み出すため、従業員の育成にも役立ちます。

例えば新しいスキルを持つ人材が、それまで誰も思いつかなかった方法で業績が悪化した部署を改善させるかもしれません。育成制度にスキル教育を組み込むことで、従業員が業績アップにつながるスキルを身に付けやすくなるため、多くの課題をクリアできるでしょう。

適材適所の実現

人事異動は、適材適所の実現にも寄与します。適材適所は人材と業務のマッチングと言えますが、スキルだけでは判断できません。個性や性格、人間性、上司との相性といった人的要素を考慮するだけでなく、さまざまな角度で職務遂行能力を計る必要もあります。

データに基づいた人事異動を行うことによって、それまであまり発揮されなかった能力が、新しい部署で重宝されるケースもあります。また、必要だと思われていなかったスキルが、思わぬ業績アップにつながることもあるでしょう。

既存のデータから導き出される適材適所の実現とともに、新たな適材適所の可能性を探る上でも、人事異動は大きな意味を持ちます。

採用コストの抑制と業績向上の両立

適切な人事異動は、採用コストを抑制すると同時に、業績向上の実現にもつながるでしょう。

部署ごとに欲しい人材を採用するとなると、採用コストがかかります。欲しい人材が少ない採用コストで手に入ればよいのですが、なかなか人材が集まらずに採用期間が長期化すれば、採用コストが膨らんでしまいます。

人事異動で欲しい人材・欲しいスキルを賄うことができれば、採用コストを抑えられます。また、新しい部署に異動になるとはいえ、同じ会社内であれば仕事を覚えやすいため、短期間での業績アップが狙えるでしょう。

人事異動のデメリット

人事異動には、注意したいデメリットもあります。ここでは、それぞれのデメリットの理由とその対処法をチェックしておきましょう。

専門性の低下

人事異動では新しい部署に人材が移るため、優秀な人材が抜ける部署が出てきます。中長期的には必要な人事であっても、人材が抜けた部署では戦力ダウンを免れません。

特に、業務に必要な専門性が高い部署であれば、抜けた穴をどのように埋めるかが課題になるでしょう。戦力がどの程度ダウンし、どのように補うかについても、十分なシミュレーションを重ねて人事異動を行う必要があります。

また、現場の人間しか予測できない影響があるかもしれません。従業員が異動することで起こる変化を予測するためには、現場へのヒアリングも不可欠です。

従業員のモチベーションダウン

人事異動は異動対象者だけでなく、対象者が抜けた部署、新たに所属する部署の従業員のモチベーションにも影響を与えます。従業員のモチベーションの変化を正確に予測することはできません。人間同士の相性や仕事への取り組み方、市場の変化やキャリアアップの示し方など、さまざまな要因が絡んでくるからです。

例えば人事異動で配属先が変わった場合に、「自分の能力が評価された」と感じる従業員もいれば、「能力不足だとみなされた」と感じる従業員もいます。また、職場のムードメーカーだった人材が異動することで、職場全体のモチベーションが低下するケースもあるでしょう。

人事異動のメリットを活かすためには、モチベーションの低下を招く可能性とその要因について分析し、必要な対策を講じなければなりません。

引き継ぎに時間がかかる

人事異動は、単に働く場所が変わるだけでなく、それまでの仕事を引き継ぐ時間も必要です。引き継ぎをうまく行えるかどうかは、人事異動のデメリットを最小限に抑えられるかどうかを大きく左右します。

業務の引き継ぎ期間は部署や業務によって異なりますが、1~3ヵ月程度は必要と言われています。辞令交付の1~3ヵ月前に内示を出すとすると、すぐに引き継ぎを始めなければならないでしょう。また、引き継ぎ期間は生産性が低下することがあるため、会社にとっては人事異動に伴うデメリットと言えます。

適切な引き継ぎを行うためにも、人事異動は計画的に行いましょう。

不適切な人材の判明

人事異動を行ったからといって、必ずしも従業員が望む結果を出すとは限りません。人材のデータを分析し、シミュレーションを重ねた上で異動を決定したとしても、それが間違いだった場合は大きなデメリットとなります。

異動先の部署が求めるスキルを有しており、経験も豊富な従業員がいた場合、戦力になることを期待するでしょう。しかし、思わぬ相性の悪さが判明し、期待していた結果が出ないケースもあるようです。
人事異動をシミュレートする際は、悪い結果になった場合にどのようにフォローするか、何に取り組むかまで計画しておきましょう。

適切な人事異動のポイント



人事異動を適切に行うためには、どのようなポイントに着目すればよいのでしょうか。ここでは、3つのポイントについて解説します。

人事異動に関するさまざまな対応の詳細は、以下の記事でも詳しく解説しています。

「異動ストレス」については、こちらの記事をご確認ください。
「異動拒否」については、こちらの記事をご確認ください。
「異動退職」については、こちらの記事をご確認ください。

生産性のバランスを考慮する

人材の育成や新しいアイデアの創出は人事異動のメリットですが、部署ごとの専門性が低下するおそれもあります。そのため、生産性のバランスを考慮して異動を計画することが大切です。

頻繁な人事異動や大規模の配置転換は生産性の低下だけでなく、従業員のモチベーションの低下も招きます。人事異動を決定する際は、それが本当に必要かどうかをよく検討しましょう。

法律違反に注意する

会社の都合ばかり考えて人事異動を行うと、違法性のある人事異動になるかもしれません。人事異動で注意したい法律として、「労働契約法」「男女雇用機会均等法」「育児・介護休業法」などが挙げられます。

「労働基準法」では3条で均等待遇を定めているため、国籍や信条などを理由とした差別的な人事異動は違法です。また、「男女雇用機会均等法」では6条で性別を理由とする差別の禁止を定めており、昇給や降格、雇用形態の変更などで、性別を理由とした差別的扱いが禁じられています。

加えて、同9条では婚姻、妊娠、出産などを理由とする不当な人事異動も禁止しているため、会社の利益だけを見て人事異動を行わないようにしましょう。

さらに「育児・介護休業法」26条では、転勤などを従業員に命令する場合は、家族の介護や養育状況についても配慮しなければならない旨が記載されています。具体的には「従業員自身の意向を尊重する」「育児・介護に関して代替手段があるかを確認する」などが、厚生労働省の指針となっています。

配置転換や転勤命令の妥当性については、それぞれの状況で慎重な判断が求められます。異動に関する裁判結果や事例などを参照しながら、強引な異動命令を避けることで、最終的には人事異動が会社のメリットになるでしょう。

データに基づいて検討を進める

勘や従業員の印象だけで人事異動を進めると、メリットよりもデメリットのほうが大きくなってしまいます。人材の見える化・DX化などができるツールを利用し、データに基づいた人材配置を心がけてください。

データ分析に基づく緻密なシミュレーションを何パターンか行うと、人事異動の理由をはっきり説明しやすくなります。明確な根拠を伴った異動であれば、従業員のモチベーションを維持できるでしょう。

人事異動の進め方

最後に、人事異動の進め方について解説します。

Step.1 各組織の実態調査・ヒアリング

異動を検討する前に、各部署・職種の現状を調べます。現場へのヒアリングを実施することで、各部署に必要な人材やスキルが明らかになるでしょう。

Step.2 必要なスキルを洗い出し

集めた情報をもとに、各部署・職種別に必要とされるスキルを洗い出し、リストアップします。専門的な能力だけでなく、総合的な職務遂行能力も重要なスキルです。どのスキルがどのような影響を及ぼすかも、よく検討する必要があります。

Step.3 候補者のリストアップ

必要とされるスキルを持つ人材をリストアップし、異動候補者を決定します。異動はスキルの移動にもなるため、人材が抜ける部署への影響もシミュレーションしておきましょう。モチベーションや専門性の低下が考えられるなら、防止策が必要です。

Step.4 内定・辞令・発令

異動候補者が決定したら、直属の上司に通知(内示)してもらい、異動の目的や時期などを面談で打診してもらいます。必要に応じて、再調整やキャリア面談なども実施しましょう。

Step.5 異動後のフォロー

異動後は環境が大きく変わるため、異動した従業員はストレスを抱えやすいと言えます。現場に馴染みやすいようにフォロー役を任命したり、ヒアリングの機会を作ったりして、人事異動のデメリットを最小限に抑えましょう。

まとめ

人事異動は経営計画の推進や人材の育成に必要ですが、生産性の低下や従業員のストレス増加といった注意点もあります。人事異動はデータに基づいてよく検討し、異動の目的を対象者にはっきり説明できるようにしておくことも大切です。

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