裁量労働制とは?専門業務型と企画業務型の違いや導入のメリット・デメリットを解説


裁量労働制とは?専門業務型と企画業務型の違いや導入のメリット・デメリットを解説

裁量労働制とは、契約で定めた時間を実際の労働時間とみなす制度のことです。人事担当者の方のなかには、裁量労働制について詳しく知らないという人もいるでしょう。この記事では、裁量労働制の概要や他の制度との違い、導入した場合のメリット・デメリットなどを解説します。ぜひ参考にしてください。

裁量労働制とは

裁量労働制とは、どのような制度を意味するのか、以下で詳しく解説します。
 

裁量労働制とはどのような制度か

裁量労働制とは、社員に労働時間の裁量が委ねられている労働時間制度のことです。あらかじめ8時間労働と契約で定められている場合、実際の労働時間が7時間であっても実働時間は8時間で処理されます。実際の労働時間にかかわらず、企業が事前に定めた、みなし労働時間を実働時間とみなすことから、みなし労働制とも呼ばれています。

裁量労働制と他の制度との違い

裁量労働制以外に、フレックスタイム制や変形労働時間制などの他の労働制度との違いについて、以下で解説します。
 

フレックスタイム制との相違点

フレックスタイム制とは、会社が定めた就業時間に仕事をしていれば、始業・終業の時刻を自分で決められる制度です。裁量労働制では、実際の労働時間が、事前に決められた時間に満たない場合でも所定の時間で働いたとみなされます。しかし、フレックスタイム制の場合は、所定労働時間は働かなければならないことが裁量労働制と異なる点です。

高度プロフェッショナル制度との相違点

高度プロフェッショナル制度は、年収が1,075万円以上で高度の専門知識をもつ社員を対象に、労働基準法の適用を廃止する制度です。労働基準法では深夜や休日に働くと割増賃金が生じますが、高度プロフェッショナル制度が適用される場合、割増賃金は発生しません。裁量労働制との違いは、対象となる社員の業種・職種の範囲が狭い点です。

事業場外みなし労働時間制との相違点

事業場外みなし労働時間制は、上司の指揮監督が及ばない事業場以外の場所で働くために、労働時間の算定がむずかしいと判断される業務を対象にした制度です。労働基準法が適用され、時間外労働をはじめ、深夜・休日の労働に割増賃金が発生します。裁量労働制は対象の業種が定められていますが、事業場外みなし労働時間制は職種の制限がありません。
 

変形労働時間制との相違点

変形労働時間制は、一定の期間のみ法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。例えば、繁忙期のみ所定労働時間を長くし、閑散期の所定労働時間を短くするなどの所定労働時間の調整ができます。時間外手当は、「法定労働時間の総枠」を超過した時間分のみ発生します。裁量労働制との違いは、業種・職種の範囲が限定されていない点です。
 

固定残業代制度との相違点

固定残業代制度は、実際に残業をした時間にかかわらず、事前に決められた残業時間を働いたとする制度です。みなし残業時間を超過した場合は、残業代が発生します。裁量労働制との違いは、みなし労働時間の範囲です。裁量労働制は働いたとみなされる部分が所定労働時間ですが、固定残業代制度は残業時間を対象としています。
 

裁量労働制の種類と対象の業種

裁量労働制には、専門業務型と企画業務型の2種類があります。それぞれの特徴と対象になる業種を以下で解説します。
 

専門業務型裁量労働制

専門業務型は、厚生労働省令で規定されている専門性の高い業種を対象にした裁量労働制です。対象となる主な業種は、次のとおりです。

・新しい商品・技術の研究開発
・デザイナー(ファッション・グラフィックなど)
・弁護士
・建築士
・税理士
・証券アナリスト業務 など

上記を含む19業種以外は、専門業務型裁量労働制に適用されません。

企画業務型裁量労働制

企画業務型は、労働基準法で規定されている企業において、重要な役割を担っている業務を対象とする裁量労働制です。対象となる業務は次のとおりです。

・経営計画に携わる業務
・組織の編成にかかわる業務
・企画、立案、調査・分析を行う業務
・財務計画に携わる業務
・社員教育、研修計画を策定する業務など

一般的に、ホワイトカラーと呼ばれる事務系の職種が対象となります。

裁量労働制における労働時間やその他の扱いについて

裁量労働制では、労働時間やその他の扱いがどのようになっているのか以下で解説します。
 

労働時間

裁量労働制では、次にあげる時間が社員の裁量に任されています。

・出勤・退勤時間
・始業・終業時間
・就業時間など

みなし労働時間を8時間と定めた場合、実際に働いたのが6時間であっても8時間で給与計算が行われます。実際の労働時間が法定労働時間を超過した場合は、割増賃金が加算される仕組みとなっています。

その他

裁量労働制を導入した場合、36協定が適用されます。36協定とは、労働基準法第36条に定められている1日8時間、週40時間の法定労働時間を超える労働をさせる場合に、労働者の代表と結ぶ協定のことです。休日出勤した社員には休日手当、深夜労働が発生した場合は割増賃金を支払わなければなりません。
 

裁量労働制で手当が発生する3つのケース

裁量労働制でも、残業手当や深夜手当、休日手当が発生する場合があります。それぞれのケースを以下で解説します。
 

1.残業手当の発生

残業手当は、みなし労働時間が法定労働時間の8時間を超えた場合、週40時間以下であっても残業手当が発生します。ただし、みなし労働時間が8時間以内の場合は、8時間を超えて働いても残業手当は発生しません。
 

2.深夜手当の発生

深夜手当は、22時~翌日5時の時間帯に働いた社員がいる場合、労働基準法に従い、時間外割増賃金と深夜割増手当が発生します。裁量労働制を導入しても、深夜割増賃金は適用されます。
 

3.休日手当の発生

休日手当は、出勤した日が法定休日か所定休日かによって支払う金額が異なります。週1日、または4週で4日設ける必要がある法定休日の場合、1時間あたりの基礎賃金を1.35倍した割増賃金を支払います。会社が自由に決められる所定休日の場合は、休日労働の割増賃金は発生しません。ただし、法定労働時間を超えるときは、1.25倍の割増賃金が発生するケースがあります。
 

裁量労働制を導入した場合の効果・メリット

裁量労働制を導入した場合のメリットを企業側と社員側に分けて解説します。
 

企業側

裁量労働制を導入すると、みなし労働時間の給与を固定給として処理できるため、労務管理の負担を減らせます。また、残業手当や休日手当、深夜手当が発生するケースを除くと、残業代が発生しないため、人件費の予測が立てやすくなることもメリットの1つです。
 

社員側

実際の労働時間がみなし労働時間に満たない場合でも、社員の裁量によって勤務時間を短縮できます。早く仕事が終われば、自分の自由時間になります。仕事の進め方も自由で、社員は自分のペースに合わせて働くことも可能です。
 

裁量労働制を導入した場合の問題点・デメリット

裁量労働制を導入した場合のデメリットを企業側と社員側に分けて解説します。
 

企業側

裁量労働制を導入する場合、労働者と事業者のそれぞれの代表で構成した労使委員会の設置や、運営ルールを定めるなどの手間がかかります。みなし労働時間の設定や業務範囲はもちろん、対象の社員の健康・福祉を確保する内容などの決議が必要です。
 

社員側

裁量労働制は、原則として残業代が発生しないため、業務効率や生産性の向上を図らないことで、長時間労働が常態化する可能性があります。裁量労働制を拡大解釈し、裁量のない社員に制度を適用するケースもあるため、悪用されないための対策を講じておく必要があるでしょう。
 

裁量労働制の導入手順

裁量労働制を導入する手順を、専門業務型と企画業務型の2種類に分けて解説します。
 

専門業務型の場合

まず、対象業務や1日のみなし労働時間、協定の有効期間などを含む7つの項目が定められた労使協定を締結します。協定を結ぶ際に使用するのは、厚生労働省のホームページで公開されている様式第13号です。必要事項の記載後に、事業所を管轄する労働基準監督署長宛てに提出しましょう。
 

企画業務型の場合

まず社内に、労働者と事業者のそれぞれの代表を労使委員に任命し、労使委員会を設置します。労使委員会では、対象となる業務や労働者の範囲、みなし労働時間などの運営ルールを決議しましょう。決議で定められた内容は、管轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。ただし、対象となる労働者から個別に同意を得なければなりません。
 

裁量労働制における課題と対策

裁量労働制には、残業や休日出勤が多くなりやすいといった課題があります。以下では、それぞれの課題と対策を解説します。

裁量労働制が対象外となる業種もある

裁量労働制の対象となる労働者は法律で定められた業種のみです。対象外の業務を適用させたい場合は、事業部署を細分化するのも1つの方法です。ただし、残業代の抑制を目的に、架空の部署を新設する、不正な労使協定を結ぶなどの悪用をしないように注意しましょう。

残業や休日出勤が多くなりやすい

裁量労働制を導入した場合、みなし労働時間と業務に必要とされる労働時間に差が出る可能性があります。対策として、実際の労働時間とみなし労働時間を比較した上で、適切な時間が設定されているか判断しましょう。また、労使間で時間管理を徹底することも重要です。

裁量労働制に合わせた評価がしづらい

既存の人事評価制度が裁量労働制に対応していない場合、公正な評価ができなくなる可能性があります。裁量労働制の対象となる社員の成果や業績が適切に評価されるように、評価制度の見直しを行いましょう。

管理者による労働時間の管理が疎かになる

裁量労働制を導入しても、社員の労働管理は不可欠です。労働管理が疎かにならないように対策を講じておきましょう。例えば、裁量労働制に適用される法定労働時間や36協定に関する正しい知識を管理者に学ばせる機会を設けることも1つの方法です。

制度が適切に運用されていない

前述したとおり、裁量労働制は企業や管理者の都合によって拡大解釈でき、悪用される場合があります。制度を適切に運用するために、社内で裁量労働制の目的や運用ルールを周知し、企業が継続的に監督する体制を整備する必要があります。
 

まとめ

裁量労働制は、あらかじめ決められた労働時間を実際の労働時間とみなす制度です。労務管理の負担の軽減や、人件費の算出がしやすくなるなどのメリットはあるものの、長時間労働の常態化、制度の悪用などのデメリットもあるため、適切な労務管理が欠かせません。効率的に管理するには、労務管理や公正な人事評価に対応できるシステムを活用すると良いでしょう。

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