多面評価を導入するメリット・デメリット|手順や運用時のポイント・注意点まで解説


多面評価を導入するメリット・デメリット|手順や運用時のポイント・注意点まで解説

多面評価は、上司以外に同僚や部下などの意見も取り入れられる評価手法です。実際にどのように運営するのか知りたいという人もいるでしょう。この記事では、多面評価の概要や企業での導入が進められている背景、運用の流れ・ポイントなどを解説します。多面評価の理解を深めたいという企業の担当者の方は、ぜひ参考にしてください。

多面評価とは

多面評価とは、上司を含む複数人の評価者によって1人の対象者を評価する手法です。上司以外のあらゆる視点を取り入れて評価を行うことから、360度評価とも呼ばれています。たとえば、上司以外に同僚や部下などが対象者を評価します。多面評価は、社員の評価方法としてではなく、能力開発のためにアメリカで生まれました。

多面評価が導入される背景

なぜ多面評価が注目されるようになってきたのでしょうか。企業で多面評価が導入されるようになった背景について、以下で解説します。
 

社員に気づきを与える人材育成の必要性が高まっている

企業にとって重要課題である人材育成では、社員の自律性を高めることが重要視されています。多面評価は複数の視点から評価するため、社員に気付きや納得感を与える際に効果的な手法です。
 

従来の人事評価では客観的な評価がしづらい

組織のフラット化や人員削減などの要因により、上司は現場の仕事を抱えながら社員の管理を行わなければならず、負担が増しているため、部下の能力を的確に評価するのが難しくなっています。多面評価なら社員の日常行動を把握できるので、客観的な評価をするのに有効な手段です。
 

多面評価を実施する主な目的

多面評価の主な目的として、社員の成長を促す、エンゲージメントを高めることがあげられます。それぞれについて以下で解説します。
 

社員の日常行動を可視化して成長を促す

多面評価の目的は、社員に自己評価と他者評価のギャップを認識させて、自己変革を促すことです。同僚や部下から見た社員の日常行動を可視化できるため、上司の目が届かない部分も評価に反映させられます。社員を評価者にすることで、将来のマネジメント層の育成につながります。
 

公正な評価を行い社員のエンゲージメントを高める

多面評価は上司による評価エラーを未然に防ぐことができ、公正な評価を行えます。評価された社員は評価結果への納得感や、会社への信頼感を得やすくなります。結果的に、社員のエンゲージメントの向上も期待できるでしょう。
 

多面評価を導入するメリット

多面評価を導入した場合、どのようなメリットが得られるのか、以下で解説します。
 

客観的な評価により社員の納得度を高められる

多面評価は、上司1人の主観で評価が決まる心配がなく、異なる立場の評価を取り入れられるので客観性を確保しながら運用できます。社員は自己評価と他者評価のギャップを知ることで、自分では気付けなかった課題に対して主体的に向き合えるようになります。
 

社員の行動方針を浸透させられる

一般社員を評価者にすることで自社の評価基準を周知できます。評価を通じて評価基準への理解が深まり、行動方針を意識した行動を促すことができるでしょう。また、評価者を経験する社員が増えるため、次世代の管理職の育成につながります。

多面評価を導入するデメリット

多面評価を導入すると、メリットだけでなくデメリットも発生します。主なデメリットを以下で解説します。
 

導入・運用に手間がかかる

多面評価は、評価者の選定・依頼や実施方法の決定、多面データの集計、最終評価などの工程が必要なため手間がかかります。タレントマネジメントシステムを導入すれば、工数を削減できます。ただし、社員の納得感を高めるにはフィードバックの時間を確保しましょう。

本音で評価しない社員が出る可能性もある

多面評価は社員同士で評価するため、職場内の人間関係の悪化を恐れて本音で評価しない可能性があります。また、親しい関係の社員に対する評価が甘くなったり、社員間で取引や談合が起きたりすることもデメリットにあげられます。
 

多面評価の運用の流れ

多面評価を運用する流れ・手順について3つのステップにまとめました。さっそく確認しておきましょう。
 

1.導入する目的・範囲を明確にする

まずは、人材育成なのか、人事評価なのか、多面評価を実施する目的を明確にしましょう。次に、多面評価を実施する範囲を全社員とするのか、管理職のみを対象とするのかを決めます。対象者が決まったら、上司や同僚、部下などの異なる立場の評価者を決定します。評価者は2人以上とし、多くても10人以下に収めるようにしましょう。
 

2.運用方法や評価項目を決める

多面評価の運用方法と具体的な評価項目を決定します。多面評価データの集計は、紙の評価シートに記載してもらう方法と、オンラインで回答してもらう方法があります。デメリットでも取り上げたように、評価者が人間関係の悪化を恐れて本音で評価できなくなるケースもあるため、評価者は匿名にするといった対策も検討しておきましょう。
 

3.社内に周知して評価を実施する

社員に多面評価への理解を深めてもらうために、実施する目的・期間・運用方法・評価対象などを丁寧に説明する必要があります。評価者には、安心して評価できるように、匿名性が担保されている評価制度であることを伝えておきましょう。評価後は、評価内容に基づいて上司から対象者にフィードバックを行います。
 

多面評価を効果的に運用する際に大切なポイント

多面評価による効果を高めるには、次にあげるポイントを意識して運用しましょう。
 

運用時のルールをしっかり決めておく

評価基準や運用時のルールが定まっていないと、導入がスムーズであっても運用するときに混乱を招く恐れがあります。たとえば、評価者の主観が強く反映され、公正な評価ができなくなるケースがあげられます。
 

評価者を対象にした研修を実施する

評価者が主観ではなく、適切な評価ができるように、事前に研修を行いましょう。研修では、多面評価の目的や評価基準などへの理解を深めさせる内容を検討します。また、公正な評価をするための注意点なども伝えておくことが大切です。
 

フィードバック・フォローを丁寧に行う

評価結果のフィードバックやその後のフォローは丁寧に行います。事前に各部署のリーダーや直属の上司と相談し、どのようにフォローしていくのか計画を立てておきます。さらに、社員の誤解を招かないように、丁寧なフィードバックを心がけるように上司に伝えておきましょう。

多面評価を運用する際の注意点

多面評価を運用するうえで注意すべきことがあります。以下では、運用時の注意点を解説します。
 

評価の目的を評価者・対象者に認識させる

評価する側と評価される側に対し、多面評価を実施する目的を理解させ、同じ認識を持たせるようにしましょう。同じ認識のもとで多面評価を実施すれば、評価者は適切な評価が行えるようになり、対象者は前向きな気持ちで評価を受け止められるようになるでしょう。
 

評価結果と報酬を直接結びつけない

評価結果を給与・待遇に反映させると、悪意ある評価をする人が出てくる恐れがあります。主観的な評価を防ぐためにも、報酬の決定は多面評価と別の評価方法を導入することをおすすめします。
 

多面評価における評価項目の種類

多面評価の評価項目の種類について、以下でいくつか例をあげながら解説します。
 

課題の把握

主な項目は、次のとおりです。
・現状把握力:自社・部署の現状を把握する力
・問題分析力:自分や顧客の問題を分析する力
・企画力:アイデアを生み出す力
課題の把握は、社員の課題を発見する能力を評価するために必要な項目です。

課題解決の遂行

課題解決の遂行に該当する能力は以下のとおりです。
・判断力:的確な行動を判断する力
・計画力:目標達成につながる計画を立てる力
・責任感:諦めずにやり抜く力
自ら課題の解決策を実行する能力を評価するための項目です。

人材の活用

主な評価項目は次のとおりです。
・人材育成力:部下の成長を促す力
・共感力:相手の視点に立って考えられる力
・包容力:相手の気持ちに寄り添ったサポートができる力
管理職やリーダーは、上記のような人材を上手に活用する能力が求められます。

コミュニケーション

コミュニケーションの評価に該当する能力は次のとおりです。
・傾聴力:相手の話をしっかり聞くことができる力
・意思疎通力:相手が理解しやすい伝え方ができる力
・折衝力:話し合って妥協点を見出せる力
周囲とコミュニケーションを取れる能力があるかを評価するための項目です。

多面評価の評価項目を作成する際のコツ

自社に合った多面評価の評価項目を作成するためのコツを以下で解説します。
 

評価基準を設定する

多面評価の評価項目を作成する際は、やみくもに「〇〇力」や「△△力」と決めるのではなく、目的を踏まえたうえで、評価項目のカテゴリーを設定することが大切なポイントです。たとえば、課題把握や業務遂行などがあげられます。質問数が多すぎると評価者の負担になるため、1人あたり15分以内を目安に回答できる数を設定しましょう。一般的に、30問程度が好ましいとされています。
 

評価項目は一般社員と管理職に分けて作成する

全社員を対象に多面評価を実施する場合は、一般社員と管理職の評価項目は分けて作成しましょう。一般社員と管理職の評価すべき内容は異なるため、同じ評価項目を使用すると適切な評価が難しくなります。評価項目を作成する際は、それぞれに期待する役割や課題に合わせて設定するようにしましょう。
 

回答は5段階にする

評価者の回答は、以下の5段階に分けて評価するのが一般的です。
・非常にあてはまる
・あてはまる
・どちらともいえない
・あまりあてはまらない
・全くあてはまらないなど
5段階に分けることで、評価者が回答しやすくなります。ただし、「どちらともいえない」ばかり選択される事態を避けたい場合は、それを除く4段階評価を導入するとよいでしょう。
 

多面評価が適している企業

多面評価が向いているのは、社内のコミュニケーションを活性化させたい企業です。社員同士が評価し合う多面評価では、対象者を理解していなければ適切な評価は行えません。相手を理解するために、自ら積極的にコミュニケーションを取ろうとする意識が芽生えます。また、管理職のマネジメント能力の向上も期待できるため、マネージャー層以上の能力を伸ばしたい企業に適しています。

多面評価の運用に成功した企業の事例を紹介

ここでは、多面評価を導入して成果を上げた企業の事例の詳細を紹介します。
 

多面評価を導入して社員の自己成長につなげた企業の事例

ある企業では、評価結果を人材育成に活かすために多面評価を導入し、経営層を含めた全社員を対象に実施しました。上司は評価結果をもとに部下の目標設定のフォロー・アドバイスを行うことで、社員の満足度や納得度が高まり、前向きな受け止めができるようになりました。
 

多面評価の導入により熱意ある人材の成長を促した企業の事例

ある企業では、社員の能力開発を促すことを目的に、マネージャーに対し記名式の多面評価を導入しています。記名式を選択したことで、誰からのフィードバックなのかが明確に伝わるようになりました。また、マネージャー間で話す機会が増え、改善のサイクルが早まりました。
 

まとめ

多面評価は、客観的な評価によって社員の納得度が高まる、行動方針が浸透するといったメリットがある反面、導入・運用に手間がかかるというデメリットもあります。効果的に多面評価を導入するなら、タレントマネジメントシステムの利用を検討してみましょう。