大企業の6割が「人事データの一元管理」を推進中


大企業の6割が「人事データの一元管理」を推進中

株式会社アイ・キューが運営するメディア『日本の人事部』が発行した『人事白書2018』。このなかには、いま話題のHRテクノロジーを、企業がどこまで活用できているか、その実態がわかる統計データが多く掲載されています。今回は、そのなかから「人事データを一元的に管理しているか」という調査を取り上げてみましょう。そこからは、「少人数で一元管理しやすいはずの中小・ベンチャー企業では人事データが分散していて、大人数で一元管理が大変なはずの大企業のほうが進んでいる」ということが明らかになりました。

「一元管理している」「一元管理せず」が半々

『人事白書2018』では、HRテクノロジーについて調査しており、人事部門・人事相当部門に所属する、314社の331人が回答しています。そのなかで「人事データをひとつのシステムで管理しているかどうか」について、「当てはまる」「どちらかといえば当てはまる」「どちらかといえば当てはまらない」「当てはまらない」「わからない」の5つの選択肢のなかから回答してもらっています。
━【調査概要】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
調査対象:『日本の人事部』正会員
調査期間:2018年4月2日~4月23日
調査方法:Webサイト『日本の人事部』にて回答受付
属性 :人事部門・人事相当部門に所属
回答数 :331人(314社)
調査内容:HRテクノロジーの活用と今後の予定
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[設問]貴社のHRテクノロジーについての意識や体制についてそれぞれ当てはまるものをお選びください。「人事データを一元的に管理している(ひとつのシステムで管理している)」
(1)当てはまる
(2)どちらかといえば当てはまる
(3)どちらかといえば当てはまらない
(4)当てはまらない
(5)わからない
回答全体では、「当てはまる」と「どちらかといえば当てはまる」の合計が47.7%となる一方で、「どちらかといえば当てはまらない」と「当てはまらない」の合計が48.0%と拮抗しています。人事データの一元管理については、「やっている会社」と「やっていない会社」とで半々にわかれている、ということです。
「やっていない会社」がどういう状況にあるのかといえば、人事データが「点在」してしまっています。この「点」には、2つの意味があります。まず、空間上に「点」在している、という意味。社員を採用したときのエントリーシートや履歴書、半期ごとの評価のときの上長との面談ログ、そして給与計算に必要な情報。それぞれのデータは別のところに格納されています。履歴書は紙で人事部門のロッカーの中、面談ログは経営陣のパソコンにワード文書で、給与計算情報はエクセルで人事スタッフのパソコンに、といった具合です。
記録があるならば、まだ「よくやっている会社」といえるかもしれません。なかには、「人材の情報は現場マネジャーのアタマの中にしかない」という企業もあるからです。
また、時間上にも「点」在してしまっています。人事データを活用するとき、必要なのは時系列で蓄積された情報です。特定の人材について、「採用時のデータ」「育成・研修のデータ」「誰が上司として指導し、どんなキャリアパスを経たか」「いつ、どんな理由で退職したか」といった、自社とのかかわりの時系列のすべてのデータがまとまっている必要があります。
一元管理ができていなければ、データの活用に大きな制約がかかるのは明らかです。HRテクノロジーを十二分に活用するうえで、人事データの一元管理は前提条件といえるでしょう。それができている会社が、半数程度だ、ということが浮き彫りになったわけです。

従業員1,000人を超えると一元化は過半数に

では、回答を企業規模別に分析してみましょう。「『当てはまる』と『どちらかといえば当てはまる』の合計」 vs. 「『どちらかといえば当てはまらない』と『当てはまらない』の合計」の数値をひろいあげてみました。
●従業員数1人~100人
36.0% vs. 55.0%
●従業員数101人~500人
48.0% vs. 51.0%
●従業員数501人~1,000人
48.7% vs. 51.3%
●従業員数1,001人~5,000人
62.1% vs. 34.4%
●従業員数5,001人~
51.1% vs. 42.3%
従業員数1,000人までの企業では「一元管理をやっていない」が過半数。1,000人を超えると、「やっている」が過半数になる。そんな構図が見えてきますね。「1,000人超から5,000人まで」の企業のほうが、「5,000人超」の企業よりも「やっている」の回答割合が多くなる、企業規模と比例しない逆転現象が発生しています。これは、従業員数が5,000人を超えるとグループ会社の数が増えるといった、一元化しにくい要因が増えてくるためかもしれません。
国内企業全体では、「一元管理をやっている企業」と「一元管理をやっていない企業」とに半々にわかれているといっても、詳しくみれば「一元管理に積極的な大企業」と「一元管理に消極的な中小・ベンチャー企業」にわかれてしまっている現状がみてとれます。
大企業はデータ量がより多く、組織構成も複雑で、業務が細分化されています。点在している人事データを一元化するのは、相当に困難な側面があります。それでも実行している企業のほうが多いわけです。
その理由としては、一元管理したほうが「コスト低減になる」とか、「個人情報保護がより強固になる」といったことがあるでしょう。しかし、より大きな理由としては、「埋もれている人材を発掘し、より活躍できるようにしたい」というニーズがあると考えられます。
少人数の企業であれば、人材の属性を経営陣や人事部門が十分に把握しているケースが多いでしょう。しかし大企業ではそうはいきません。どこにどんな人材がいて、どんな潜在能力をもっているのか。データが点在していると、仮に別の部署や新規プロジェクトに適合する人材が社内のどこかにいたとしても、誰にもわからないわけです。
企業間の人材獲得競争が激化し、優秀な人材を新規採用することがますます困難になるなか、大企業は既存の人材の能力を最大限に発揮させるため、「人事データの一元管理」に乗り出したといえそうです。

中小・ベンチャー企業は早期に一元化を

一方の中小・ベンチャー企業。まだまだ一元管理をやっていない企業が半数以上を占めています。データ量が多くなく、業務細分化も進んでいないでしょうから、経営トップが「一元管理しよう」と号令をかけるなら、大企業よりは困難が少ないといえます。
しかし、経営者が全社員の顔と名前と属性を把握できる規模では、そもそもデータ化をしようという動機形成がなされにくいでしょう。「履歴書はロッカーに、給与計算情報はパソコンの中に」と点在していても、人事スタッフがコントロールできる範囲内。一元管理するメリットは小さいといえます。このため、「多くの企業が一元管理に消極的」という調査結果になっているのでしょう。中小・ベンチャー企業の経営課題として、優先順位が低いのも無理はありません。
でも、「時間的な点在」についてはどうでしょうか。同じ人材について、採用時から退職までの時系列を追ったデータを一元的に管理することは、経営的に大きな意味があります。「自社で活躍している人材」は採用時のエントリーシートにどんなことを記入し、毎期の評価時の上長面談ではどんな発言をし、どんな研修を受けているのか。それと比較して、「すぐに辞めてしまった人材」はどんなデータになっているのか。そうしたことがわかれば、人材採用も育成も配置もすべて、「より活躍してくれる確率の高い」手が打てるのです。
こうした時系列でまとめたデータを収集するのは、早く始めれば早く始めるほどよいのは明らかです。データ蓄積量が多ければ多いほど分析の精度は高くなるので、早くスタートさせ、データ蓄積量を増やすべきだからです。少数精鋭のベンチャー企業では、ひとりの人材が大活躍してくれるだけで、事業の推進力が大きく違ってきます。人材の活躍の確率を高めることは、ベンチャー経営者の最重要の経営課題であるはず。いますぐ、人事データの一元管理に踏み出すべきでしょう。