人材育成の概要を解説
「人材育成」とは、企業が収益を増やして経営目標を達成できるよう、社員に必要なスキルを身につけることです。業績を最大化させるために必要なスキル・能力を企業側が主導して社員へ伝え、育てていきます。
人材育成と似た言葉に「人材開発」と「人材教育」がありますが、意味が少し異なります。人材開発は社員が個人の目標達成に向けて自らスキルを身につけていくことで、必ずしも企業の目標と一致するわけではありません。また、人材教育はスキルアップだけにとどまらず幅広い範囲で社員の教育をしていくことを意味し、能力やスキルだけではなく心構えなどメンタル的な育成も含まれています。
人材育成には時間と費用がかかりますが、経営の効率化や業績向上のためにはとても重要なポイントです。
人材育成を行うべき理由
人手不足への対応
現在、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少によって多くの企業が人手不足の課題を抱えています。人手不足の課題を解消するため、少ない人数でも業績を伸ばせるように人材育成を進めることが大切です。人材育成によって、社員が最大限のパフォーマンスができるよう一人ひとりの能力・スキルを向上させることが求められます。
ビジネスマインドやスキルの形成
企業で活躍をするには、各企業の理念を理解することはもちろんのこと、組織人としての心構えや一般的なビジネスマナー、コミュニケーションスキルなど基本的なスキルを身につけることが重要です。専門的な知識やスキルを習得させようとしても、基本的なところができていなければ育成の効果は期待できません。そのため、まずは基本的なスキルを習得させてから、企業の目標達成にむけて力になる人材を育成していきましょう。
日本の企業が抱える人材育成の5つの課題
求められる能力の変化
従来の人材育成では、新入社員など対象となる社員を集め、一度に研修を行う「集合研修」が一般的な手法でした。ところが、社員一人ひとりの価値観が多様化する現代では、このような旧来の方法では効果的な人材育成を行うことが難しくなってきています。新型コロナウイルスの感染拡大によって世の中が一変したように、今後も私たちを取り巻く環境は大きく変化し続けていくことが予想できます。その中にあって求められるのは、変化にも対応できる柔軟性と応用力、変化を前提にスキルアップを続けることができる専門性です。このような能力を育てるためには、人材育成の方法そのものを見直す必要があります。
教育制度の不備
企業によっては、社内の教育制度そのものに不備を抱えているケースがあります。その場合は、社員の人材育成を行う前に、企業側の教育制度を整えなくてはいけません。
また、担当者の人材育成に関するスキルや知識の不足が課題となっている企業も多いです。業務で良い成績を出すスキルと育成をするスキルは全くの別物なので、必要に応じて教える側の能力を高めることが大切です。教育担当者を育成するためのマニュアルを整備したり研修を実施したりするのも良いでしょう。
リソース不足
人材育成において、コストや時間などのリソース不足に悩んでいる企業はたくさんあります。人材育成は費用対効果が分かりにくいため、景気や業績が悪化するとコストが削られやすい傾向があります。また、日常的に業務が忙しいと、人材育成に時間をかけることができません。たとえ人材育成に対して前向きであっても、担当者が通常業務に追われてしまい、人材育成が後回しになってしまうという企業があるのも実情です。
実務に沿わない研修内容
実際に人材育成を行っていても、その内容が実務に沿っていないケースがあります。実務に沿わない場当たり的な内容の研修を行っていると、実務に活かせず人材育成の効果が限定的になってしまいます。人材育成に取り組むときは、社員の役職や階層に合った研修内容にして、明確な目標を持つことが大切です。そのため、より人材育成の効果を高めるには、設定した目標や企業理念を社内全体へ浸透させることも重要なポイントとなります。
社員自体の意欲
人材育成に取り組むにあたって、社員自身の意欲の低さも課題として挙げられます。社員の意欲が低いと、その分効果が低くなってしまう可能性があります。社員の意欲を高めるため、人材育成の重要性やその目的を伝えたり、実際に結果が出ている社員に話をしてもらうことも効果的です。
また、年功序列で評価される、スキルアップができないといった状況が続いていると、社員の意欲は高まりません。社内の評価制度を整えることも、社員の意欲向上の大切なポイントです。
人材育成の課題を解決する6つのポイント
人事評価制度の見直し
人材育成を効果的に行うためには、社員一人ひとりが抱えている課題を明確にして、それぞれのレベルに応じた教育を行なわなければいけません。そこでカギとなるのが、「人事評価制度」です。人事評価によって個人の業績や業務に対する姿勢などを正しく評価することで、そのデータを人材育成に活用していくことができます。現在の人事評価制度がそのようなデータを導き出す内容になっていない場合には、人事評価制度そのものの見直しが必要です。
人事評価制度を見直す際に、併せて人材育成に関する目標の設定をすることをおすすめします。社内で一律の目標を設定するのではなく、年代や部署、職種などによって細かく目標を設定すると、より人材育成の効果が得られやすくなります。
社内の人材・能力の可視化
人材育成が思うように進まない場合には、社内にどのような人材がいて、どういったスキルがあるのか現状について見える化することも大切です。誰がどのような仕事をどれだけ抱えていて、どのくらい成果を上げているのか、新入社員に限らずミドル層についても同様にデータを収集していきましょう。その上で、どのような課題があるのか、また年次や役職ごとにどのようなスキルを求めるのかを明確にし、それに応じた人材教育を行っていきましょう。
人材育成にかける時間と予算の確保
人材育成の課題を解決するには、人材育成にかける時間と予算の確保が必要です。普段の業務が忙しく、いつか手が空いたらと考えていてはなかなか人材育成を進めることはできません。少ない時間でも効率よく人材育成が進められるよう、マニュアルを作成したりタスクの管理ツールを導入したりしてみましょう。
また、人材育成は効果が目に見えにくいため、予算の確保が難しいケースが多くあります。予算の確保がしやすくなるよう、人材育成をサポートする体制を社内全体でとっていくことが大切です。
社員の主体的なスキルアップの支援
人材育成をうまく進めるためには、社員の主体的なスキルアップの支援が大切です。社員が主体的にスキルアップできるよう、上司や担当者など育成者側の教育や意識づけも必要になります。例えば、育成者は社員と日頃からコミュニケーションをとるように心がけ、信頼関係を構築しましょう。また、社員の人格を否定するような言葉や言い方は、意欲を削ぐ原因となるため絶対に使用しないようにしてください。人材育成をうまく進めるため、社員が自分から率先してスキルアップができるような環境づくりを心がけてください。
人材育成の効果測定の実施
人材育成を行ったあとは、定期的に効果測定を実施し、結果に応じて軌道修正を行いましょう。人材育成を行っても、社員が望んでいるキャリアプランとかけ離れていたり、人材育成担当者との相性が悪かったりすると、スキルアップにならないだけではなく、最悪の場合退職につながる可能性があります。定期的な効果測定を実施して、育成担当者との面談やフィードバックを行い適宜修正・改善していきましょう。
タレントマネジメントシステムの導入
会社の規模や人材育成に携わる人員によっては、人材に関する情報をデータ化して一元的に管理できるタレントマネジメントシステムを導入するというのも、効果的な選択肢のひとつでしょう。社員一人ひとりの特性や能力などを細かく分析し理解することで、より適切な人材育成を提供することができます。
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人材育成課題を解決する4つの具体的手法
OJT
OJT(On the Job Training)とは、実際に仕事をしながら職務に必要なスキル・知識を習得させる育成手法です。新人や新しく配属された社員などを教育するときの代表的な手法で、理解度や抱いた感情などを定期的に把握しつつ、その場で指導を行うため、状況にあわせて育成スピードの調整ができます。
また、基本的に先輩社員がマンツーマンで教育を行うので、分からないことがあればすぐに聞けるというメリットがあります。一方で、先輩社員は通常の業務を行いながら指導を行うため、負担が大きいことがデメリットとなります。
Off-JT
Off-JT(Off the Job Training)は、職場から離れた場所で受ける研修やセミナーなどの集合研修を指します。OJTは実務的な知識・スキルを習得することを目的としていますが、Off-JTは汎用性の高い一般化された知識・スキルの習得が主な目的です。例えば、コンプライアンス研修やマネジメント研修、ビジネスマナー研修などがOff-JTに当てはまります。
社外で研修が行われるため、業務から離れてしっかりと理解を深められるでしょう。しかし、業務にすぐに活かせられる即効性はなく、外部の施設を借りたり講師を招へいする場合はコストがかかってしまうというデメリットがあります。
e-ラーニング
e-ラーニングとは、パソコンやスマートフォンなどを利用してオンライン上で学習ができるシステムです。インターネット環境があればアクセスできるので、場所や時間を問わず必要な知識の学習ができるというメリットがあります。OJTやOff-JTを行いないつつ、補完する目的でe-ラーニングを利用すると効率よく知識が身につくでしょう。
また、人材育成を行う時間や人手が足りないという根本的な課題の解決にもつながります。e-ラーニングにはさまざまな種類や機能があるので、学習状況を取りまとめる機能がついていれば、企業側も進捗状況を把握しやすくなるでしょう。ただし、システムの導入にはコストがかかるため、導入時にはいろいろな種類のe-ラーニングを比較・検討することをおすすめします。
メンター制度
メンター制度とは、上司よりも近い立場にある先輩社員(メンター)が新入社員や若手社員などをサポートする制度です。年齢や立場が近い相手に、気軽に相談しやすい環境を作ることで、精神的なサポートが可能です。
メンター制度は若手社員の早期離職防止・定着率向上や、部門・部署間のコミュニケ―ションの活発化が期待できます。また、メンター側のお手本としての責任感が高まるというメリットがある一方で、メンターの負担が増えるというデメリットもあります。また、メンターと後輩社員の相性が悪いと、期待している効果が得られない可能性があるので、注意が必要です。
【成長過程別】人材育成課題の解決策
若年層
新入社員や入社3年目くらいまでの若手社員は、意識改革を中心に人材育成を進めましょう。経験が少ない社員は、理想と現実の差に戸惑い、不安感や焦燥感を覚えることも珍しくありません。また、新入社員のなかには社会人になっても学生気分が抜けない人がいます。そこで、人材育成によってマインドを社会人へと切り換えることが大切です。責任感を持って業務に取り組めるよう意識改革を促しつつ、コミュニケーションやメンタルケアの場を提供しましょう。結果として、若年層社員の定着率向上につながります。
実際には、多くの企業が若年層への人材育成を実施していますが、なかなか時間の確保ができないことが課題となっています。必要に応じて新人研修やOJTの内容を見直し、少ない時間でも効率よく人材育成ができるように強化していきましょう。
若年層の人材育成をするときには、定期的に対面で話をする機会を設け、日常会話も含めて自由に話ができる雰囲気を作ることが重要です。その際には世代によって価値観が異なるので、自分たちの価値観を押し付けないよう注意しましょう。また、失敗を恐れない人材に育てるために、プラスの言動をした社員にはしっかりと評価をすることが大切です。
中堅層
中堅層の人材育成では、すでに業務に必要な知識やスキルは身につけているため、キャリアアップやモチベーションの維持のために教育を行うことが重要となります。中堅社員は、若年層の社員と比べて担当する業務が増える傾向にあります。さらに若年層を指導する立場にもなるため、キャパオーバーになってしまう社員も少なくありません。新人の指導を部下に任せるなどして周囲が一部業務を代理したり、新人への育成の際にeラーニングを活用したりして、負担を軽減させましょう。
企業によっては、新人研修と昇進時に実施する管理職研修に力を入れており、中堅層への人材育成がおろそかになっているケースがあります。中堅層のモチベーションを維持するために定期的な面談を実施したり、スキルアップのために社外教育の費用を負担する制度などを取り入れたりしていくことをおすすめします。
管理職層
管理職層の社員は、普段教育対象者の立場になる機会が少ないため、自分から積極的に学ぶ姿勢を持つことが大切です。管理職といっても新任と中級・上級の管理職では、必要なスキルや優先事項が異なります。
管理職層の社員全員が、リーダーシップや知識・スキルが足りているとは限りません。また、自分自身の体験を基にした指導になってしまうため、人材育成スキルに差が出やすくなります。そこで、社員それぞれの経験値をもとに、コーチングやマネジメントなどの研修の機会を設けましょう。管理職として積極的に学ぶ姿勢は、部下の学習意欲向上にもつながります。
人材育成課題のまとめ
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