【イベントレポート】AI時代の人材開発・人材育成とは―ATD26に見る世界の潮流と、日本企業の次の一手―


【イベントレポート】AI時代の人材開発・人材育成とは―ATD26に見る世界の潮流と、日本企業の次の一手―

2026年7月31日開催イベント「AI時代の人材開発・人材育成とは―ATD26に見る世界の潮流と、日本企業の次の一手―」開催報告

2026年7月31日に、未来の人事と企業を創造するためのシンクタンク「HR未来共創研究所」による主催イベント「AI時代の人材開発・人材育成とは―ATD26に見る世界の潮流と、日本企業の次の一手―」が開催された。

本セミナーは、世界最大級の人材開発カンファレンスである「ATD26」に参加された2名の登壇者をお招きし、AI時代における人材開発・人材育成の新たな方向性を考えることを目的としている。
※ATD26(Association for Talent Development 2026年大会)…ロサンゼルスで開催された、世界最大規模の人材育成・組織開発に関する国際カンファレンス。ATDは、組織における人材育成(研修、能力開発、タレントマネジメント)の分野において、世界最大規模を誇る会員制の非営利組織。

ゲスト講師には、株式会社ニトリホールディングスの人事責任者を経て現在は人事変革のストラテジストとして活躍するトイトイ合同会社の永島 寛之 氏と、人事実務者の視点として株式会社マイナビの上澤田 真吾 氏をお招きし、講演とパネルディスカッションを通して、世界の潮流を日本企業の人事現場にどう引き寄せるかのヒントを模索した。

AI時代のHRトレンドと人間ならではの価値


世界的なHRの潮流として、AIは導入段階から活用の質を問うフェーズへ移行している。

永島 寛之 氏(トイトイ合同会社 代表)による講演「世界は、AI時代の人材開発をどう設計し始めたか」では、いくつかの重要なシフトと課題が共有された。

・AI導入のジレンマ「AI FOMO」からの脱却
・スキルベース組織への移行と「マネージャーテック」
・人間ならではの「非認知能力」と意思決定力
・「非金銭報酬」の重要性とキャリアの自律性

AIの導入自体を目的化するのではなく、人間ならではの付加価値をどう創出するかへ思考を切り替える必要がある。職務を細分化するスキルベース組織への移行や、現場のマネージャーをテクノロジーで支える「マネージャーテック」の拡充が進む中、人間の意思決定力非認知能力、そして自ら学び直す力がより一層重要視される。また、成長実感などの非金銭報酬や、社員自らがキャリアを切り拓く自律性を促す環境づくりが急務となっている。

組織開発における心理的安全性とリーダー支援


続いて、上澤田 真吾 氏(株式会社マイナビ 人事企画本部 人事戦略統括部 統括部長)による講演「BANI時代の人と組織の再設計」では、現地カンファレンスでの最新トレンドや深い学び、そしてそれらを日本の人事・組織課題にどう適応させていくべきかについて、実務家ならではの視点で語っていただいた。

組織開発の側面では、心理的安全性の捉え直しが提示された。心理的安全性は目的ではなく、意見の衝突を恐れず高め合う「創造的摩擦」を生み出すための土台である。多様性を活かすには、関係性、対話の技術、専門性の掛け合わせが欠かせない。また、多大な役割を求められて孤立しがちなリーダー層の心理的安全性を確保するため、心身の健康や感情知能(EQ)の観点から組織的な支援を行う必要がある。人事部門には、完璧な制度を求めるのではなく、施策に伴う副作用を引き受ける覚悟を持った意思決定が求められる。

組織のフラット化とマネジメントの再定義


講演者お二人をパネリストとして迎えたパネルディスカッションでは、藤元 健太郎(HR未来共創研究所 所長/D4DR株式会社 代表)がモデレーターを務め、AIを活用して個人で稼ぐ「ソロプレナー」の台頭に伴い、大企業の中でもソロプレナー的に振る舞う個人と会社のパーパスを重ね合わせるエンゲージメントの重要性が語られた。

1. 「ソロプレナー」の台頭と「パーパス」の重要性

AIを活用し、1人で多様なミッションを完結させる「ソロプレナー(独立起業家)」的な人材が増加している。企業がこうした優秀な人材を惹きつけ、引き留めるための最大の鍵は「パーパス(志)」である。「個人が働く理由」と「会社が掲げるパーパス」の間に接点を見出すことこそが、最強のエンゲージメントを生み出す。

2. ピラミッド型組織の限界と新たな組織のあり方

従来のピラミッド型組織図は、「人間の処理能力の限界」を可視化したものに過ぎない。AIがその限界を突破すれば、階層や部門の壁はフラットに溶けていく。ただし、急激な構造変化ではなく、まずはプロジェクトベースの働き方への移行や、等級制度の廃止など、評価・報酬の仕組みから段階的に着手するアプローチが現実的である。

3. マネージャーに求められる"泥臭い"対話

業務の指示やタスク管理に終始するマネージャーは、「AIに聞いた方が早い」と部下に見限られる。今後のマネージャーに求められるのは、心理的安全性を担保し、1on1で対話を重ね、部下の情熱を引き出すといった、AIには代替できない「泥臭く人間らしいサポート」である。テクノロジーでタスク負担を減らし、対話や意味付けにこそ時間を使うべきである。

4. 自律を促す「メタ認知」と「越境体験」

自律した人材を育むためには、自身を客観視する「メタ認知力」が不可欠である。これを育むプロセスとして、以下のステップが有効となる。
・アセスメントツールなどによる自己理解
・対話を通じたインサイト(洞察)の獲得
・他部署や社外と関わる「越境体験(他流試合)」


外の世界を知ることや、「歴史」を学んで過去の文脈を知ることで、現在の自社や自身の立ち位置を高い視点から見つめ直すことができる。

テクノロジーの進化をテーマとしながらも、議論は終始「人間」の感情や動機に焦点を当てる結果となった。「個人のパーパスと会社のパーパスのすり合わせ」「感情的で泥臭いマネジメント」「メタ認知を高める越境体験」。これらは、これからの組織づくりにおいて避けては通れない重要なキーワードである。

AI時代だからこそ、人間らしい対話やメタ認知の向上、個人の情熱に寄り添うマネジメントの復権が、今後の企業の競争力を左右するのではないかという議論でディスカッションは締めくくられた。

AIの進化は単なる業務効率化を超えて、働く意味や組織のあり方そのものを問い直している。グローバルのトレンドをそのまま取り入れるのではなく、日本の組織風土や文脈に合わせて翻訳し適用する柔軟性が問われている。