ワークエンゲージメントの概要
まずはワークエンゲージメントの基本的な意味について、以下で解説します。
ワークエンゲージメントとは
ワークエンゲージメントとは、仕事に対する熱意、没頭、活力の3つの要素からなる言葉です。燃え尽き症候群(バーンアウト)の対象的な概念としてシャウフェリ教授によって定義され、「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態を指し、活力、熱意、没頭で特徴づけられる」という意味で使用されます。
社員のワークエンゲージメントを高めることで、組織の生産性やモチベーションアップ、メンタルヘルス状態の改善・向上などにつながります。ワークエンゲージメントは社員の仕事への意識を測る指標にもなるため、企業としては積極的に導入することで多くのメリットを得られます。
ワークエンゲージメントの注目される理由
ワークエンゲージメントは、生産性向上が重要視されてDX推進が啓発されるなかで、1つの手段として認識されています。リモートワークなどの新しい働き方が普及する現代において、エンゲージメント管理や生産性向上の課題に直面する企業は多く、その結果ワークエンゲージメントを意識するケースが増えているのです。
また、労働人口の減少や転職市場の活性化などによる人材の流動性の上昇によって、人手不足が深刻化していることも背景にあります。入社した人材を手放さずにいるためにも、ワークエンゲージメントの向上によって企業への定着率を高めることが求められています。
ワークエンゲージメントと似た指標・スコアとの違い
ワークエンゲージメントは、「eNPS」と呼ばれる指標と比較されるケースが多いです。eNPSとは、「Employee Net Promoter Score」を略した言葉で、自社を知人などの親しい人に「どの程度勧めることができるか」を計測する指標です。eNPSを活用することで、社員が自社にどの程度満足しているのかを、客観的に測定できます。
また、先ほども解説したように、ワークエンゲージメントは燃え尽き症候群(バーンアウト)の対極にある言葉として定義されています。バーンアウトとは、仕事に対する熱意、没頭、活力の各要素が著しく低下している状態を指す言葉です。ワークエンゲージメントが低下している状態にある社員は、バーンアウトに陥っていると判断できます。
ワークエンゲージメントを測定する方法・尺度について
ワークエンゲージメントは、「UWES(Utrecht Work Engagement Scales)」「MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)」「OLBI(Oldenburg Burnout Inventory)」といった方法で測定されます。
以下では、それぞれの測定方法の概要を解説します。
UWES(Utrecht Work Engagement Scales)
UWESとは、ワークエンゲージメントを直接測定する方法です。最も使用されている測定方法であり、活力、没頭、熱意から構成された17項目の質問を使って社員の現状を把握します。
MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)
MBI-GSとは、バーンアウトの度合いを測定してからワークエンゲージメントを調べる手法です。具体的にはシニシズム(冷笑的態度)について5項目、疲労感について5項目、職務効力感について6項目の質問に回答してもらい、その結果を測定してワークエンゲージメント明確にします。
直接ワークエンゲージメントをチェックするのではなく、対極のバーンアウトを基準にするのが特徴です。
OLBI(Oldenburg Burnout Inventory)
OLBIも、MBI-GSと同様にバーンアウトの測定結果を参考にワークエンゲージメントを把握する方法です。疲労感とシニシズム(冷笑的態度)の2つの尺度を「ポジティブ要素」と「ネガティブ要素」に分類して質問を構成し、社員がそれに回答することで測定します。
ワークエンゲージメントを高めるメリット
企業にとってワークエンゲージメントを高めることには、さまざまなメリットがあります。
コミットメント・パフォーマンスの向上
ワークエンゲージメントを高めることは、仕事への熱意やコミットメントの向上につながります。結果的に仕事の生産性が高まり、社員もその能力を評価されやすくなる点がメリットです。企業は生産性向上によって利益を獲得でき、社員は仕事にやりがいを見出してモチベーションを高められる。相互にメリットを生み出せる点が、ワークエンゲージメントの特徴です。
また、ワークエンゲージメントを高める施策の実行は、働きやすい環境づくりにも効果があります。社員の定着率向上にも期待できるため、離職率の高い職場では積極的な導入が望まれます。採用した人材が早期退職を繰り返すような場合には、解決策の1つとして機能する可能性があるでしょう。
メンタルヘルスの向上
ワークエンゲージメントの上昇は、社員のメンタルヘルス改善につながります。精神面や心理的な負担は体調に悪影響をおよぼし、ときには休職・退職の原因になることもあります。メンタルヘルスの改善がなされることで、結果的に生産性向上や会社への帰属意識を芽生えさせることになるでしょう。
うつなどで職場復帰できない社員が増加している、メンタルケアの重要性を認知させたいといった企業にも効果が見込めます。
ワークエンゲージメントを向上する方法とは
ワークエンゲージメントを向上させるには、以下の方法が参考になります。
自己効力感を高めることが重要
自己効力感とは、「自分ならできるという課題に対する前向きな姿勢や考え方」のことです。スキルアップにつながる施策やコーチングを定期的に受けることで、自己効力感が上昇してワークエンゲージメントの向上につながります。
また、自己効力感の向上においては、社内での健全なコミュニケーションや人事評価制度への信頼なども重要視されます。コミュニケーションが適切に行われている職場では、自然と仕事に前向きな姿勢で取り組める環境が構築されます。社員同士で協力し合うことも可能なため、業務効率化を進められる点もメリットです。
人事評価制度への信頼感も、自己効力感に影響します。自分の成果や業務プロセスが正しく評価される環境でなければ、自己効力感の向上は難しくなります。社員を正しく評価することは、仕事にやりがいをもたらす結果にもなるため、改めて人事評価制度を見直すのもおすすめです。
ストレス要素を減らす
仕事におけるネガティブな要素を減らし、ストレスを軽減することでワークエンゲージメントを向上させる方法もあります。無駄な残業や非効率な作業方法などをできるだけ取り除くことで、ストレスが減少してその分仕事へのやる気を見出せるでしょう。
一方で、仕事のストレスをゼロにすることは難しく、どうしても社員に精神的・肉体的な負担をかけることは避けられません。ストレスありきで仕事を前向きに捉える方法を確立し、社員のモチベーションを維持する施策を導入するのがポイントです。
まとめ
ワークエンゲージメントは、社員の生産性向上や仕事のへのモチベーションアップにつながる重要な要素です。ワークエンゲージメントを構成する熱意、没頭、活力の3要素について正しく把握し、向上させる方法を理解することで、社員1人ひとりの企業への貢献度を高める結果につなげられるでしょう。